新潟県妙高市

現在はまだデータ収集の段階ですが、サイト訪問者の分析を行うことで、これまでわからなかったことが把握できるようになりました。この知見をもとにした戦略の立案も始まっています”

観光商工課 参事(DMO担当) 早津 之彦 氏
 

課題はグリーンシーズンの誘客、そのための戦略が必要に

東京から約160分の場所に位置し、スキーと温泉の高原リゾート地として知られている妙高市。2015年には「妙高戸隠連山国立公園」エリアが誕生し、同年に開業した北陸新幹線との相乗効果によって、近年はインバウンド観光客が増加している。また2017年12月には、アジア最高のプレミアムマウンテンリゾート「ロッテアライリゾート」の開業も控えており、これも大きな注目を集めている。

「冬季はオーストラリアからのスキー客が増えており、長期滞在するケースも多くなっています」と語るのは、妙高市 観光商工課 参事の早津 之彦 氏。この地域のスキー場は上質なパウダースノーを存分に楽しむことができ、圧雪されていない急斜面を楽しむ上級スキーヤーも少なくないという。その一方で、夏を中心としたグリーンシーズンは、観光客を十分に呼び込むことができていなかったと指摘する。「観光によって地域全体の経済を活性化させるには、観光客をオールシーズン呼び込むための戦略が必要です」。

その取り組みの一環として、2015年11月に官公庁が創設した「日本版DMO(Destination Management Organization:観光地経営の舵取り役として戦略策定と実施のための調整機能を備えた法人)候補法人登録制度」に応募。2016年2月には妙高観光推進協議会がDMOとして登録され、同年4月に「妙高版DMO」として正式に発足する。

妙高市はこれと並行して、Salesforceを活用した「観光CRM」を構築するための取り組みもスタート。グリーンシーズンに観光客を呼び込むための戦略立案に必要な課題解決を、着実に進めているのである。

 

データ収集と情報発信改善のためSalesforceを導入

それでは具体的にどのような課題があったのか。早津氏は「日本版DMOに応募する以前から、大きく2つの課題があることを意識していました」と振り返る。

1つは観光客に関するデータが十分ではなかったこと。現在の観光客がグリーンシーズンに何を求めているのか、把握しきれていなかったのである。また実際に喜ばれるプランやサービスを提供するためには、観光客の趣味嗜好や属性情報も収集する必要もあったという。

もう1つは情報発信が十分ではなかったことだ。「すでに観光協会や市のホームページがあり、Facebookやスマホアプリでも情報発信を行っていましたが、実際にアンケートを取ってみると、グリーンシーズンの妙高市にどのような観光資源があるのか、知らない人がほとんどでした。地域の魅力をきちんと理解していただくには、情報発信の方法も工夫する必要がありました」。

そのための手段として妙高市はCRMの構築に着目。2016年5月にPardotとSales Cloudの採用を決定する。

「PardotならWeb上での行動履歴を取ることができ、そのデータをシームレスにSales Cloudに蓄積できます。また行動履歴から趣味嗜好を把握し、それぞれに合わせた内容のダイレクトメールを発信することも可能です。これなら戦略立案のためのデータ収集と、妙高市の魅力を知っていただくための情報発信を、同時に実現できると考えました」。

「妙高ノート」をスタートし、半年で3,000人以上の会員を獲得

Salesforceの導入決定後まず着手したのが、「妙高ノート」の立ち上げだった。これは、妙高市の最新ニュースや旅行・観光に役立つ情報を、テーマ別に発信するキュレーションサイト。テーマとしては「自然」「温泉」「食べる」「泊まる」「おみやげ」「イベント」「クーポン」「お知らせ」の8種類が用意されている。ここに会員登録すると、妙高での旅行体験等を投稿することも可能。妙高版DMOが制作したコンテンツに加え、このような投稿コンテンツも多数発信されている。

「妙高ノート」の構築は2016年8月から始まり、2017年1月に仮オープン、同年2月に本格的な運用が始まっている。その後約半年間で登録会員数は3000人を突破。ここで集められた訪問者の属性情報や行動履歴は、すべてSales Cloudに蓄積され、Pardotによるシナリオ分析が行われている。

また2017年5月からはメール配信もスタート。メール閲覧時間やクリックされたリンクを分析し、配信方法を調整することで、開封率4割を達成している。

「現在はまだデータ収集の段階ですが、サイト訪問者の分析を行うことで、これまでわからなかったことが把握できるようになりました」と早津氏。またこの知見をもとにした戦略の立案も始まっているという。

データから得られた「気づき」で観光客目線での施策を立案

新たに得られた知見の1つが、妙高に来るスキーヤーの多くが中級以上の腕前を持ち、自然のままの山を滑る「バックカントリー」へのニーズが高いということだ。またファミリー客が多いこともわかったという。「バックカントリーへのニーズが高いのであれば、これを安全に楽しめるようにした専用ゲレンデを作ればいいのではないか、というアイディアが出ています。またファミリー客に向けてグランピング(グラマラス×キャンピングの造語:気軽かつ贅沢に楽しむキャンプのこと)を提供するのはどうかという、新たな観光開発に向けた提案も行っています」。

これに加え、妙高市に来る観光客には、高収入の方の割合が高いことも判明した。「この事実は、これまでノーマークであり、旅館やホテルは安売り合戦に走りがちでした。しかし高収入のお客様に喜んでいただくには、安売りをするよりも高品質なサービスを提供するべきです。最近ではこのようなことも、妙高版DMOから自信を持って事業者に提案できるようになり、これを受けてグレードを上げる事業者も増えてきました。このような具体的な戦略に結びつく新たな気づきを、Salesforceはもたらしてくれたのです」。

観光施策を立案する上での考え方やアプローチも、大きく変わりつつある。以前は自治体である市の目線から推測によって施策を立案していたが、最近ではデータにもとづいた来訪客目線での施策が増えているのだ。日本版DMOに応募した際の「地域再生計画」も、「妙高ノート」で集められた訪問者の声を参考にしながら、全面的に見直す作業を進めているという。

今後は観光地での行動も追跡し、効果の高い施策を選別

グリーンシーズンに観光客を集めるための、具体的な施策の実施も始まっている。その1つが、香港や台湾からの観光客をターゲットにした「農家民泊」だ。これは農家の家に泊まり、田舎暮らしを体験するというツアー。香港や台湾では「日本の田舎」の人気が高まっており、妙高版DMOもその情報を積極的に発信しているのである。「観光戦略を成功させるには、特定の国にターゲットを合わせることが重要です。妙高市では、スキーシーズンはオーストラリア、グリーンシーズンは香港・台湾にターゲットを絞っていく計画です。そのため『妙高ノート』も、日本語・英語・台湾語で情報を発信しています」。

今後の課題は、「妙高ノート」を軸に進めている施策が実際の誘客に効果があったのかを、定量的に評価できるようにすることだ。現在は「妙高ノート」訪問者の行動を分析するにとどまっているが、今後は電子クーポンの発行などによって、観光地の中で観光客が実際にどこを訪問し、どのような行動をとっているのかまで、分析できるようにする計画だという。

「観光客の実際の行動を追跡し、Web上の情報と合わせて分析することで、施策内容の検証が可能になります」と早津氏。これを繰り返すことにより顧客目線で施策を選別し、平成27年度に約36,000人だったインバウンドを、2020年には65,000人にしたいと語る。「Salesforceで構築された観光CRMは、今後さらに重要な役割を果すことになるはずです」。

※ 本事例は2017年11月時点の情報です
 
 

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