ファイブフォース(5フォース)分析とは?方法と有効な活用法

 
 

カルデラ 久美子

株式会社セールスフォース・ジャパン マーケティング本部
デマンドジェネレーショングループ統括 シニアディレクター

 

投稿日:2023.5.12
ファイブフォース(5フォース)分析とは、競合各社や業界全体の状況と収益構造を明らかにし、その中で自社の利益の上げやすさを分析するフレームワークです。新規参入や新製品開発、新ブランドの立ち上げ時などに、収益性を検証するのに役立ちます。
ここでは、ファイブフォース分析の方法と、有効な活用法について解説します。

脅威を明らかにし、収益性を高める糸口をつかむファイブフォース分析

完全な独占状態にある業界は別として、ほとんどの企業は競争原理のまっただ中で事業を展開しています。そして競争の中では、大小さまざまな要素が壁となって、自社の存在をおびやかし続けています。
どのような壁があるのかを知るために使われるのがファイブフォース分析です。この方法は、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーター氏が提唱したものです。

ファイブフォース分析の目的

5フォース分析の「フォース」とは「脅威」、つまり競争要因を指します。
自社がさらされている脅威を5つに分類し、それぞれを分析することで、業界の収益構造を明らかにするとともに、自社の競争優位性を探ることを目的とします。

ファイブフォース分析が役立つ場面

ファイブフォース分析が役立つ場面は、まず現状の環境分析が必要なときがあります。
業績の向上や組織の発展は企業にとって不可欠な課題です。しかし、さまざまな施策を打ちつつも、なかなかうまくいかない…。実際には、そうしたことの連続かもしれません。
その理由は数多く考えられますが、ひとつには自社が置かれた業界の動向や周囲の脅威を読み誤っていることが挙げられます。そうした場合、このファイブフォース分析が役に立つでしょう。

また、これまで未経験だった業界への新規参入や新製品開発にあたっての収益性の検討にも役立ちます。
市場の成熟化や消費者の価値観の多様化などによって、多くの業界で競争が激化し、製品やサービスのライフサイクルが短くなっています。
そのような中へ新規参入するには、業界の収益構造を知らなくてはなりません。また、新製品を投入したり新ブランドを立ち上げたりするには、収益性を検討する必要があります。こうした場合にも、ファイブフォース分析が活用できます。

ファイブフォースの「5つの脅威」とは?

ここからは、ファイブフォース分析の対象となる、5つの脅威について解説します。

<ファイブフォース分析の対象>

  • 業界内での競争
  • 業界への新規参入者
  • 代替品の存在
  • 買い手(顧客)の交渉力
  • 売り手(サプライヤー)の交渉力

上記は、いずれも自社をとりまく外部からの脅威であり、収益に直結する要素であることが共通項です。
収益性を測るファイブフォース分析では、「競争が激しければ収益性は落ち、競争が限定的なら収益性は上がる」という、極めて当然ともいえる理論が前提にあります。

ですから、5つの脅威の分析にあたっては、収益性を上下させる要因となる点を掘り下げ、「新規参入で収益性が見込めるのか」「どこをどうすれば十分な収益性を確保できるか」という結論に達することが大切です。それを、さらに具体的な戦略へと落とし込んでいくのです。
では、5つの脅威についてひとつずつ説明していきましょう。

 
 
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1 業界内での競争

業界内での競争は、競合他社との直接的な競争を表します。
どんな業界であっても、競合があれば収益性が下がるのは当然のことです。企業としては、独自性の高い製品やサービスを生み出し、他社との差別化を図りますが、特許などで守られたケースは別として、ユニークな製品を作り出すのは簡単ではありません。競合社が増えれば増えるほど、競争は激しくなります。
また、業界そのものの規模が小さい、あるいは低成長状態であれば、製品やサービスの供給側が飽和状態になってしまい、ますます競争が激化して収益性が落ちてしまいます。
ですから、ここで分析すべきは、自社も含めた競合各社の数と各社の知名度やブランド力、資金力です。さらに、業界全体の規模や成長率も分析対象となります。

2 業界への新規参入者

新規参入がしやすいかどうかは、業界によって大きく異なります。異業種からの参入のハードルが低ければ、今後も多くの参入者が現れて価格競争が起こり、その度に収益性が下がっていくことになります。反対に、参入のハードルが高ければ、一定以上の収益性を確保できる魅力的な業界と見ることができます。
業界への新規参入者での分析ポイントは、まず市場の規模、そして参入者の技術レベルやブランド力で、それが自社の活動にどれほどの影響を与えるかを見極めることです。

3 代替品の存在

代替品の存在とは、自社の製品・サービスに代わる価値を持つものについてですが、同業他社の競合製品とは異なります。書籍や雑誌に対する電子書籍、家庭用ゲーム機に対するスマホゲームアプリのように、業界の外からやって来る代替品の脅威を指します。
ここでは、代替品と自社製品との質的な違いやコストの差のほか、代替品へ乗り換える際の手間やコストなどを分析します。自社の物よりも低価格で高品質な代替品が現れれば、それは自社だけでなく業界全体の収益をおびやかす大きな脅威となります。

4 買い手(顧客)の交渉力

買い手の交渉力とは、消費者や顧客といった買い手と、自社とのあいだにある力関係を指します。競合が多く価格競争が激しくなれば「買い手市場」となり、自社の収益性は落ちていきます。
ここでは、市場規模や競合他社の状況とともに、自社製品の値下げ幅も含めた価格設定などがポイントになります。売り手と買い手の力関係は適切か、無理な値引き競争に陥っていないかなどをチェックします

5 売り手(サプライヤー)の交渉力

売り手の交渉力とは、売り手(サプライヤー)と自社との力関係を示します。メーカーであれば原材料のサプライヤー、販社であれば卸しを行う企業との関係から収益性を測る部分です。これは、自社と消費者との関係と同じで、同質・同価格の物を扱う売り手が多ければ自社の力は高まりますが、逆になれば売り手が力を持ちます。
市場規模のほか、売り手の数や力関係、供給元を乗り換える際のコストなどがポイントになります。

ファイブフォース分析をどう活かすか

これまで解説したように、5つの脅威について分析するのがこの手法の特徴です。しかし、個別の分析だけでなく、図の横軸・縦軸に沿って分析することで、「業界内での収益の上げやすさ」を検証したり、さらにその業界内で「自社がどれほどの利益を手にできるか」をチェックしたりという分析も可能です。それぞれについても解説します。

売り手と買い手の分析から業界の収益性を探る

図の横軸となる、自社の売り手と買い手それぞれとの力関係を検証することで、業界内の「利益の上げやすさ」を見ることができます。

市場に競合社が多く、また類似の製品やサービスが多ければ「買い手の交渉力」が強まります。つまり、買い手市場であって、買い手が自由に製品やサービスを選択できる状況であり、価格競争などで収益性が下がります。
また、自社に原料や製品を供給する売り手(サプライヤー)が少ない場合は「売り手の交渉力」が強まり、売り手市場となります。そのため、供給を受ける側に選択の余地がなくなり、値下げ交渉がうまくできず、やはり収益性が悪くなります。反対に、それぞれが逆方向に働けば収益性は上がります。
多くの場合、売り手と買い手それぞれの交渉力のバランスによって収益性の高低が設定され、それが「利益を上げやすい業界かどうか」という評価を決めることになります。

新規参入者や代替品から自社の利益の取り分を探る

図の縦軸を検証すると、業界の収益性の中での「自社の取り分」をどれくらい確保できるかをチェックすることができます。

参入障壁が低い業界では、競合他社が撤退したとしても他業種から新たな参入者が登場する可能性が高いです。競合が入れ替わり登場する可能性がありますから、常に激しい競争にさらされることになります。これでは、業界の収益構造が良好でも、自社の取り分が小さくなってしまいがちです。その上、自社製品に代わる代替品の脅威が大きいとなれば、自社の利益の取り分はさらに小さくなることが懸念されます。反対に、参入障壁が高く代替品の脅威が小さければ、安定した利益を見込むことができるでしょう。
この「縦軸の検証」でも、実際には新規参入者・競合・代替品それぞれの状況を読み取り、各要素のバランスによって「十分な利益を見込めるかどうか」を検討することになります。

自社が収益を上げやすい戦略へ結びつける

ご紹介した横軸と縦軸の検証によって、業界全体の収益性とその構造を知り、その中で自社の利益を確保しやすいかどうかを分析すれば、競合も含めた業界内での自社の強みを知ることができ、そこから「収益性の低下を防ぐためにどうするか」「競争の中でどのような優位性を確保するか」という発想につなげることができます。さらに、戦略の立案を行えば、脅威に対して実効性の高い施策をプランニングすることもできるはずです。
ファイブフォース分析に限らず、こうした分析法はあくまでも手段であって、その目的は具体的なマーケティング戦略や施策立案を行い、売上や利益の向上を実現することです。分析結果を活かした戦略を立て、実効性を期待できる施策に活かしてこそ、分析の威力が発揮されるということは認識しておきましょう。

SWOT分析との併用

ファイブフォース分析は、自社をとりまく5つの脅威を分析によって明らかにするものです。そのため、企業の社内外に存在するプラスとマイナスを分析する「SWOT分析」の前段階として利用することもできます。
ファイブフォース分析で得られる収益性のプラスマイナスを反映させれば、より詳細なSWOT分析が可能になり、精度の高いマーケティング戦略へと落とし込むことができるでしょう。
マーケティング分野には数多くの分析法がありますが、万能の分析法はありません。ですから、目的によって複数の手法を使い分け、さまざまな視点から分析することで、結果の精度を高めていくことが大切なのです。

脅威を恐れずに分析し、冷静な対策へ落とし込もう

業界の競争環境や収益構造を分析するこの手法は、新商品の開発や新事業への参入だけでなく、現状の自社のポジションを把握し、改善を図る場合にも有用です。脅威を必要以上に恐れるのではなく、その本質を知った上で冷静な対策へと結びつけることができるからです。「がんばってはいるが、思うような展開にならない」というのは、ビジネスではよくある場面です。そのようなときにもファイブフォース分析を活用してみてはいかがでしょうか。

 

監修者

 
 

カルデラ 久美子

株式会社セールスフォース・ジャパン マーケティング本部
デマンドジェネレーショングループ統括 シニアディレクター

経歴:

BtoB領域におけるマーケティング戦略立案・実行を主とし、製造、半導体、IT、化学などさまざまな業種の大手外資系企業のマネジメントに従事した後、2017年Salesforce入社。大手から中小企業、業種別アプローチなどあらゆるキャンペーンモデル生成と販売パイプラインの醸成をミッションとしたセグメントキャンペーン、コーポレートイベント、デジタルマーケティング、マーケティングオペレーション&アナリティクスチームを牽引。

Salesforceのベストプラクティス“The Model”を体現し、営業、マーケティング面での組織体系化による顧客発掘のKPIを担う責任者。

 

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