霧島酒造株式会社

伝統を当たり前と捉えず、
改革により成長する文化が、
新システムの定着化を後押し。

市場トップの焼酎メーカー、霧島酒造がSalesforceの全社活用でDXに着手。 Data Cloudの採用で消費者情報の分析に取り組む基盤を整える。

霧島酒造株式会社(以下、霧島酒造)は、2022年4月にDX推進本部を新設し、製販プロセス変革の「あじわいDX」、顧客体験向上の「くつろぎDX」、従業員体験向上の「ひとづくりDX」の3つの領域でDXに取り組むことを発表しました。くつろぎDXの中心に据えたのがSalesforce。B2BおよびB2C顧客の体験を向上させ、同時に社内の業務改革を図る取り組みをスタートさせました。
 
 

1. 「黒霧島」の立ち上げが、伝統と革新を融合する文化を育んだ

霧島酒造は、宮崎県都城市に本社と工場を構える酒造会社です。高いシェアを誇る「黒霧島」をはじめ、白麹を使った伝統ある「白霧島」、紫芋の紫優(ムラサキマサリ)を使った「赤霧島」に加え、世界の希少素材を焼酎に浸漬した健麗酒や長期熟成のプレミアム製品などをラインアップ。焼酎を事業の中心とする酒造メーカーの中で売上高ナンバーワンの座を10年以上維持しています。

1916年創業の同社にとって、一気に全国的な知名度を獲得したのは黒霧島の大ヒットでした。黒麹を使い、1998年に発売したこの新商品は、白麹を使うことを当然のように受け入れてきた九州の焼酎メーカーとして革新的なチャレンジになりました。

代表取締役 専務 江夏 拓三氏は、「白麹を発見して培養に成功した河内源一郎さんという方がいらして、鹿児島を中心に白麹を広めたことから、九州の焼酎造りは白麹という伝統が出来上がったのです」と話します。「私は製造部門の経験が長く、白麹を使った焼酎造りについて深く学んできました。しかし、個人的には黒麹の焼酎の方が爽やかでおいしいなと感じていました(笑)」。

江夏氏は、自社で黒麹を使った焼酎造りをしたいという思いを胸に、沖縄の泡盛メーカーや種子島の小さな酒蔵などを訪ね歩き、焼酎造りに使う「霧島裂罅水(キリシマレッカスイ)」とさつまいも「黄金千貫(コガネセンガン)」に合う黒麹を探し求めるようになりました。理想の黒麹に出会ったのは、家族旅行の最中でした。家族が海水浴を楽しむ中、ひとりで訪れた酒蔵の玄関先で試飲した焼酎の味にピンと来るものがあったのです。

社内で提案し、役員会で否決されることを数度重ね、ようやく決裁が下りました。その後の躍進は、広く知られているとおりです。日本全国の居酒屋に黒霧島のボトルが並び、コンビニエンスストアでも買えるほど、だれもが手に取りやすい商品になりました。

江夏氏は、「黒霧島を売り出す前は、年間売上80億円ほどの規模で、焼酎メーカーでは8位くらい。いまは首位で、黒霧島は累計で数千億円以上を売り上げました」と話します。その後も革新の手は止めず、赤霧島、茜霧島、虎斑霧島と次々と新商品を開発。企業として大きく成長し、若い社員も増えました。

「革新することで、伝統が生きるのです。同様のことはDXについても言えます。以前からIT投資には積極的で、現場が必要と言えばOKを出してきました。その結果、煩雑なITになってしまい、欲しいデータが見えません。業務が回るから良いとするだけでは停滞を招きます。北海道から沖縄まで、全社の情報を把握し、分析できるようにする仕組みとして、DXを加速させることが必要でした」(江夏氏)

 
 

2. DXの核心はデータの一元化

霧島酒造の商流は主に2種類。卸店や小売店を通してスーパーやコンビニエンスストアなどの量販店の店頭に並べてもらうものと、飲食店に届けるものです。同社の営業部門のミッションは、この商流を盤石なものとするために、卸店や小売店と密に連携すること。営業担当者は、主な量販店を回るルートセールス活動に加えて、卸店や小売店のニーズを吸い上げ、販促企画を提案するなどの活動が中心になります。

営業現場で重視されるのは、情報共有です。担当者の報告は必ず上長のレビューを経ることになり、現場判断が難しい提案要求があれば、支店長会議を経て役員会で決裁されます。取締役 営業本部 本部長 中村 泰治氏は、「優れた営業担当者は、顧客に寄り添うことはもちろん、本社の意思を理解してきちんと報告できる人材でもあります」と話します。

社内への情報共有や決裁を仰ぐため、営業担当者は日々の活動記録の情報を管理する日報ツールや稟議に使う営業連絡書などを作成する必要があります。以前から、日報ツールはデジタル化しており、個人の活動記録はデータとして取れていましたが、Excelを使った業務も多く、販促企画の承認申請は別のツールを使用。そのために情報が分断され、横展開もしづらい状況にありました。また、日報がベースになっていたため、せっかくの情報も担当者軸のデータ構造になっており、顧客軸の情報管理が困難という課題を抱えていました。

この状況を刷新するために、同社はSales Cloudを導入。すべての情報を営業担当者間で共有・活用し、データに基づく営業活動を実現しようとしています。日報系/商談系/販促企画系を Sales Cloudに統合して顧客軸で見える化し、出来るだけExcel業務を廃止して顧客に関するデータを扱うすべての業務を Sales Cloud内で完結させることを目指します。

中村氏は、「Sales Cloudを使うにあたって、フォーマットも統一しました。きれいな活動記録や報告書を作ることに時間をかけるのではなく、内容を重視します。そして、スピーディにだれもが同レベルの文書をデータとしてまとめられるようになることを期待しました」と話します。「まだ定着化段階ですが、DX推進本部と各支店の旗振り役が連携しながら順調に慣れてきています。旗振り役はITの知識ではなく、社内評価が高くなんでも卒なくこなせる人を選びました。いまでは、私たちのように頭が古い上層部にも忌憚なく意見を言ってくるようになっていますよ(笑)」。

全国の旗振り役は、Chatterを通じて毎日のように意見交換をしています。Sales Cloudの使い勝手をより良くするための提案は順次反映され、運用ルールに従ってデータは蓄積されてきました。レポート/ダッシュボードによる可視化にも着手しました。稼働後約3か月の時点で社内アンケートを取ったところ、Sales Cloud導入後に、「営業活動の生産性が向上した」と感じた層は稼働当初の2%から14%へ増え、「顧客とのコミュニケーションや関係性が改善された」「業務が効率化した」と感じた層も増加するなど、旗振り役たちは手ごたえを得ています。


中村氏は、「これまでのツールを上回る優れたシステムをいち早く実現したいと考えています。システムは、何年たっても満足するものではなく、満足してはいけないものです。将来は、営業担当者の目標管理をSales Cloudに落とし込み、従業員体験を高める施策と連携するなど、さまざまな方向性を模索しながらプロジェクトを推進していきます」と話しています。

 
 

3. Data Cloudによる顧客情報統合でマーケティング改革に着手

霧島酒造のSalesforceとのかかわりは、2019年に遡ります。全国の消費者キャンペーン応募チャネルをLINEに絞り、このタイミングでMarketing Cloudを導入しました。LINEの顧客情報を蓄積できる一元化されたプラットフォームであり、顧客1人ひとりに合わせた情報発信が可能であることを最大の評価ポイントとして採用することになりました。

DX推進本部 係長 大久保 昌博氏は、「個人情報保護の観点から、それ以前のキャンペーンで集めたデータはすべて廃棄していました。Marketing Cloudがあれば、専用のサーバを保守することなく、セキュアにデータを保持し続けられるという点も魅力でした」と話します。

同社にとって直接の顧客は卸店や小売店です。これらの事業者は長年のパートナーであり、商流を変えることはありません。一方、人口減による国内事業の縮小が見えている中で、直接ファンとつながり、その体験をより良いものにする基盤の構築は懸案事項でした。

最近のトピックは、Data Cloudの導入です。Data Cloudにさまざまなシステムから顧客情報を名寄して集約することで、これまでキャンペーンの応募者を中心にデータを蓄積してきたMarketing Cloudによる管理対象は大幅に増加。

Marketing Cloudは、キャンペーン情報の蓄積からスタートして、同社のECサイトやレストラン併設の工場見学施設来訪者などの顧客情報も統合したB2C分野のデータ基盤としても活用することになりました。

2023年6月の父の日に向けて配信したEC販促メールは、統合した顧客情報を活用することにより、以前の2万通から7万通へと増加させることに成功しました。
また、Tableauを使ったデータ分析を試行している最中です。

現在は、Marketing CloudとData Cloudを組み合わせた顧客コミュニケーションとマーケティングシナリオを構想しています。特定商品を複数回購入してくれた顧客に対するアプローチなどを含め、現在50以上の施策について検討中。工場見学施設の来訪者のECへの誘導や購買傾向分析、LINE登録者に向けた記念日のレストラン予約誘導などの部門横断型のシナリオもあり、体制が整えば実施できそうなものから少しずつ前へ進めていきたい考えです。

大久保氏は、「現状を見ると、B2BのSales Cloudは定着化にもう少し時間がかかるかなという段階で、B2Cはデータ分析にようやく取り組めるようになったレベルです。それでも、DXに向けてトップも現場も本気で取り組んでいて、少しずつでも“良くなった”と言われる成果は出てきています。お客様に向き合う一体感を持った会社として成長できるよう、DX推進本部としても努力を重ねていきます」と話してくれました。

 
 
 
 
※ 本事例は2023年6月時点の情報です
 

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