AIエージェントシステムの台頭:ボットからAIエージェントへの進化
Jayesh Govindarajan
Jayesh Govindarajan
生成AIが登場した当初は、レシピの作成や旅行の計画など、単純なことに利用されることがほとんどでした。しかし、人々がAIの能力に慣れるにつれて、メールの作成、会議メモの要約、ドキュメントの作成など、一般的な業務関連タスクを処理する可能性にも関心が高まりました。
今では、どの企業もAI企業になりたいと考えています。実際、経営者が感じているAI導入の切迫感は過去6か月間で7倍に増加し、今ではインフレ率や経済全体よりも最大の懸念事項となっています。さらに、ビジネスリーダーの77%(英語)は、早期にAIを導入しなければAI革命に取り残されるのではないかと心配しています。
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「今では、どの企業もAI企業になりたいと考えています」– Jayesh Govindarajan(Salesforce AIプラットフォーム担当EVP)
彼らの懸念はもっともです。AIをまだ導入していない企業は、競合他社に大きく劣勢に立たされるリスクがあります。チャットボットからCopilot、さらには自律型AIエージェントや「AIエージェントシステム」へと進化する中、そのような状況に陥る時期は意外に早くやってくるかもしれません。
大規模言語モデル(LLM)や生成AIの登場で企業や消費者のAIに対する関心が強まるずっと前から、私たちの多くは知らず知らずのうちに初歩的なAIチャットボットに接していました。ボットは私たちの周りのいたるところにあり、一般的なFAQへの回答や買い物客の履歴に基づく製品の推奨など、事前定義されたシンプルなタスクを処理していました。企業は、より優れた顧客体験をより効率的かつ費用対効果の高い方法で提供するために、このようなボットを積極的に利用してきました。たとえば、Salesforce Einstein Bots(英語)は3,000人以上の顧客に利用されており、月間約6,500万件のセッションを処理しています。
ヒースロー空港では、Einsteinチャットボットを導入して24時間体制のサポートを開始した結果、月間の対応件数が4,000件に達し、通話サービスの件数が27%減りました。2023年5月の導入以来、ライブチャットの利用が450%増加し、AIエージェントの時間が有効に活用され、効率が向上しています。Einsteinチャットボットの導入により、今ではコールセンターにおける1件あたりの対応時間が以前よりも約40秒から60秒短縮されています。
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しかし、多くのボットは特定のスクリプトに限定されており、自然言語や推論の能力がないため、機械的に感じられることがあります。それだけでなく、企業データや顧客に関するメタデータを使用していないボットは、ちょっとしたニュアンスや文脈を捉えたり、パーソナライズしたりすることができません。
しかしそうした状況は、Copilotが登場したことで変わり始めました。生成AIや自然言語処理(NLP)が加わり、ビジネスの用途ではCRMを活用して日常の業務を簡素化し、動的な、固定的でない提案内容を業務フローの中で提示するようになったからです。たとえば、SalesforceのEinstein Copilotを使用すると、企業はData Cloud(Agentforce上に構築)を通じて独自のデータとメタデータを使用して、強力な顧客インサイトと推奨事項を作成すると同時に、Einstein Trust Layerを使用してプライバシーとデータガバナンスを維持できます。有用な回答を生成するための適切な企業データが不足している他のAIアシスタントや副操縦士とは異なり、Einstein Copilotは、顧客が自分のプライベートで信頼できるデータを使用して回答を生成できるようにするエンタープライズクラスの副操縦士です。
世界中の個人、企業、政府向けに高性能航空機の設計、製造、保守を手がける大手ジェット機メーカーのBombardier社では、Einstein Copilotを使用して、商談の前に見込み顧客に関する必要な情報と最適なエンゲージメント方法についての推奨事項をまとめた情報を営業担当者に提示しています。営業チームはEinstein Copilotに商談や、やり取りの音声メモを書き起こさせることで時間を節約し、新しい見込み顧客の発掘や既存顧客のサポートに費やせるようになりました。
「営業チームはEinstein Copilotに商談や、やり取りの音声メモを書き起こさせることで時間を節約し、新しい見込み顧客の発掘や既存顧客のサポートに費やせるようになりました」– Jayesh Govindarajan 氏 (Salesforce AI プラットフォーム担当 EVP)
とはいえ、Copilotは完全に自律しているわけではありません。ただし、ビジネスの用途では、会議のスケジュール調整、CRMレコードの更新、メールの作成、予備調査の実施といった作業で非常に役立ちます。広い意味では、ユーザーの代わりに複雑なアクションを調整する能力があるとも言えますが、こうしたスキルは事前に設定が必要で、最高のパフォーマンスを発揮するにはある程度の介入が求められます。Copilotは非常に賢く、単純な作業では力を発揮するものの、指導や監督が必要なインターンや新入社員に近い存在といえるでしょう。
そのために必要なのがAIエージェントシステムです。AIエージェントシステムはデジタルアシスタントと異なり、デジタル世界における信頼できる同僚と考えることができます。
AIが高度に発展した形態であり、人間の介入を必要とせずに高次の計画、推論、オーケストレーションを実行できます。事前定義されたルールに従う従来のソフトウェアプログラムとは異なり、自律型AIエージェントは生産性を向上させるだけでなく、新しいスキルと機能で従業員の能力を拡張することができ、あらゆるインタラクションにおける強固な顧客関係の構築、日常的なタスクの完全な自動化による収益の向上を実現します。また、人間の同僚や顧客に対して、人間のようにやり取りすることも可能です。
たとえば、Salesforceは営業チームの規模拡大とトレーニングを支援する2つの新しい完全自律型営業AIエージェントを最近発表しました(英語)。Agentforce上に構築されたAgentforce SDR Agentは、問い合わせしてきたリードに自然言語で自律的にやり取りを行い、質問への回答、反論への対応、商談のスケジュール調整をやってくれます。Agentforce Sales Coach Agentは、営業担当者と自律的にロールプレイを行い、顧客発掘やプレゼンテーション、交渉のシミュレーションでバイヤー役を務めます。
この発表は、Salesforceが7月にリリースした初の完全自律型AIエージェントAgentforce Service Agent(英語)に続くものです。このAIエージェントはカスタマーサービスにまつわる幅広い問題に対して、信頼性の高い24時間対応の顧客サポートを提供します。事前にシナリオをプログラムしておく必要はありません。同月にはWorkday社とのパートナーシップも発表しました。これにより、従業員向けサービス(社員研修、健康増進、キャリア開発など)を支援する新しいAIアシスタントを提供します。さらに、Salesforceは今後数か月以内に特定の職種向けに業務機能を自動化するAIエージェントをリリースする予定です。これらのAIエージェントの中にはすぐに使用できる状態で提供されるものや、企業の固有のニーズに合わせてカスタマイズ可能な形で提供されるものもあります。
初期のAIエージェントの多くは単独で動作していたため、他のタスクをする別のAIエージェントと連携することはありませんでした。しかし、この状況も間もなく変わるでしょう。営業担当者がサービス担当者やマーケティング担当者とやり取りしたり、人事リーダーが定期的に社内の弁護士や採用マネージャーに相談したりする必要があるのと同様に、いずれは自律型AIエージェントも別のエージェントと連携しなければならなくなるはずです。
もちろん、そうなると物事が錯綜してしまうこともあるでしょう。だからこそ、AgentforceのようなAIエージェントの統合プラットフォームを導入し、単独でもチームでも動作するカスタム自律型AIエージェントを構築、トレーニング、監督することが必要になるのです。現実世界における企業で必要とされることは、AIエージェントの世界でも同じように必要とされます。AIエージェントを監督・監視し、必要な時と場所ですばやく展開し、目標達成のためのタスクを与える一方でパフォーマンスを評価するために、このようなシステムが必要になります。
AIエージェントシステムについては、探求と理解が必要とされる点がたくさんあります。この分野のジャーニーは、自動運転の進化に似ています。自動運転では、当初、車線逸脱警告、自動駐車、緊急ブレーキなどの選択肢を運転手に提供することが大きな目標でした。しかし、テクノロジーが進歩するにつれて、今では交通量の多い繁華街で乗客を運ぶ無人タクシーを目にするようになりました。
重要なのは、自律型のものを活用することで、独立して機能するものや、連携して動作するものなど、さまざまな選択肢が生まれるという点です。チャットボット、Copilot、AIエージェントのいずれか1つに絞る必要はありません。それらがすべて一丸となってエンタープライズITの未来を形作ることになるのです。
「チャットボット、Copilot、AIエージェントのいずれか1つに絞る必要はありません。それらがすべて一丸となってエンタープライズITの未来を形作ることになるのです」– Jayesh Govindarajan、Salesforce AIプラットフォーム担当EVP
多くのビジネスリーダーは、完全自律型AIエージェントに対して懐疑的な見方をしています。というのも、AIへの信頼がまだ発展途上の段階にあるからです。古いデータを使うと間違いが発生し、それがその効率に影響を与える可能性があることを知っているからです。
しかし、公開されている情報に基づいてモデルを数年ごとにトレーニングするのではなく、一部のLLMが行っているように企業独自のデータを継続的に使用すれば、精度と関連性の問題を克服できます。また、Einstein Trust Layerのようなシステムを通じてAIの問い合わせを実行することで、個人を特定できる情報(PII)のマスキングや、AIエージェントが従うべき明確なパラメータやガードレールを定義するなどの機能を実行し、信頼性の問題も解決できます。
AIエージェントが自分の広範な能力を理解し、実行することは重要ですが、それ以上に、AIエージェントが自分の限界を認識し、人間の介入が必要なタイミングを理解することも同様に重要です。SalesforceのAIエージェントは、自分が知らないときはその状態を理解し、適切なガイドラインのもとで人間への引き継ぎを行うように訓練されています。
Salesforceでは、AIの導入プロセス全体でお客様と一緒に作業し、カスタマイズされたソリューションを提供しており、お客様が今日市場に出ているAIの広範な自律機能を導入する際に安心感と自信を持っていただけるよう心がけています。これまで、私たちはAIが「できること」に注目してきました。これからは、今後確実に訪れる変化に対して、準備を進めておくことが重要です。
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