Skip to Content

第五回:時間当たりの生産性を高める、付加価値の高い仕事に注力を

第五回:時間当たりの生産性を高める、付加価値の高い仕事に注力を

ネットイヤー石黒社長が提唱する、スマートエンタープライズ。営業活動のログを分析し経営者が判断できる、社員が同じデータ分析を見て率先して判断・行動できる会社とは。

第五回:時間当たりの生産性を高める、付加価値の高い仕事に注力を

未来は選択できる

私は、現在、内閣府の「選択する未来」という委員会の委員を務めています。この委員会は経済財政諮問会議の下の専門調査会として設置されたもので、 経済財政諮問会議で取り組む戦略的課題について、その裏付けとなる中長期・マクロ的視点からの分析、考え方を提示する役割を担っています。目指す未来は 2060年、世界経済や人口など日本を取り巻く環境の大きな変化を鑑みながら、世界経済に占める日本の役割を縮小させることなく、政策努力や人々の意思に よって「未来を選択する」ことが可能だというスタンスで、今までにない既成概念を超えた議論がなされています。

なんだか大げさな、と思われるかもしれませんが、この「選択する未来」は、今回の、「生産性を高める」という企業の改善と大きな関わりがあるので す。というのも「選択する未来」の委員会で最も問題視している課題のひとつが少子化です。専門家の調査の一つに、2060年の日本の人口は8,700万人 になるというものがあります。人口1億2,000万人が8,700万人になる日本の風景を想像できるでしょうか?もっとも、問題となるのは人口というより も、生産年齢人口です。先ごろ、総務省が32年ぶりに8,000万人を割ったと発表しましたが、これが2060年に5,000万人を切るという調査もあり ます。これによれば、この労働力人口を増やすための方策を最大限にとったとしても、つまり、女性がスウェーデン並みに働き、高齢者が現在よりも5年長く働 いたとしても、労働力人口が6,000万人にいたることはないということです。

さあ、賢明な読者の方は、もうお気づきかもしれません。少子化が問題ではなく、生産年齢人口が問題でもなく、つまり、一国が生み出す価値が減ること が問題なのだから、生産性を高めればいいわけです。単純化した公式では以下のようになります。人口を増やす努力をする一方で、それ以上に、一人当たりの生 産性を高くする努力が求められているのです。

一国の生み出す価値 = 生産年齢人口 × 一人当たりの生産性

企業においても同じです。

企業の生み出す価値 = 従業員数 × 一人当たりの生産性

日本の労働生産性は、主要先進7カ国では 1994年から18年連続で最下位。

2011年の日本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、73,374ドル(784万円/購買力平価換算)で、OECD加盟34カ国中第19位です。主要先進7カ国では1994年から18年連続で最下位という不名誉な地位に甘んじています。

OECD 加盟諸国の労働生産性
(図1)OECDデータベースをもとに日本生産性本部作成

日本企業の生産性は高いのではないかと思っていらっしゃる方も多いのではと思います。確かに、企業内で生産性が高い部門はあります。例えば、製造業 の現場の生産性は、「カイゼン」として世界中から高い評価を受けています。大量生産時代の製造業のQA活動(Quality Assurance 品質保証/信頼性保証)は、日本企業の成長のけん引役でした。しかし、一方で、サービス業やホワイトカラーの生産性は際立って低いのです。統計を見るまで もなく私たちの周りには、生産性の低さを示す事象がたくさんあります。残業の蔓延、年功序列という人事制度下では、働かなくても給与は同じだったし、みん ながオフィスに来て働くことを求められていました。残業が定例化しているから女性は労働市場に復帰しにくい、それゆえ男性社会化する企業では多様性が担保 されずイノベーションが起こりにくい。それを、5時に帰れて余暇も楽しめるゆえに仕事中は集中できる制度づくり、成果主義を徹底し頑張ったものが報われる 会社に、いつでもどこでも働けるから価値を創造しやすい環境、女性を会社に戻してイノベーションの起こる社会を、営業も企画部門も経理も財務も総務も人事 も、すべてのホワイトカラーが時間当たりの生産性を高めるべく努力をしたら、がらっと変わった競争力のある会社になると思うのです。生産性が低い、という ことは、それだけ伸びしろがあるということです。未来は十分選択できそうなのです。

スマートエンタープライズとは?

ホワイトカラーの生産性を改善するためには、あまりに様々な「突っ込みどころ」があるゆえに、それが事を複雑にしています。具体的な事例を挙げるに しても、人事制度から事務の効率化まで様々です。物事をすすめるには、事象をわかりやすく単純化する必要があるので、ここでまず「IT」と、その中でも昨 今の技術の発達で利用価値が高まった「データ」に絞って、会社が目指す姿を示したいと思います。それを「スマートエンタープライズ」と名づけましょう。ス マートエンタープライズとは以下を実現する生産性と効率性の高い会社です。

  1. 活動が自動で正確にデータ化される会社
  2. データに基づいて経営判断できる会社
  3. 経営情報は社員にフィードバックされ、社員が会社の方針に則って自律的に考え、判断・行動できる会社

つまり、ホワイトカラーの生産性を計ることができるように、活動をデータ化し、活動ログが後でとれる、つまり、分析できるようにしておくこと、その分析を元に、経営者が判断できること、社員が同じデータ分析を見て、率先して判断・行動できる会社です。

ところが、日本企業のIT利用の多くは、この動きと反対の動きをしていて、高いハードルをつくっています。例えば、使うべきITを使っていません。 システムといえば、オンプレミスが多く、クラウドベースで多くのアプリケーションが開発されているにも関わらず、それを利用していません。昨今の技術開発 は動きが早く、開発には専門性が求められています。自社内では、UIを優れたものにできるほどの専門性もありません。iPhoneアプリは、ほとんどが消 費者向けですが、よい事例でしょう。専門性が高い、使いやすいアプリケーションがサードパーティーにより開発され、エンドユーザーはこれらを使いこなして 生産性を上げています。企業向けにもこれがあてはまるはずで、優れた業務サービスが開発されているのに、利用度は少ないのが現状です。

使いにくいITシステムを社員に利用させている結果、社員はこれらを十分使いこなせず利用度も低い、さらに、使いにくいゆえに誤ったデータ入力がさ れがちです。これでは、後に分析など不可能ですね。そしてアプリケーションの数も増え、それを後に分析するとなるとデータの補完コストがかかるのですが、 自社でやりくりするには保管コストが高いことになります。

それゆえに、クラウドベースのスマートエンタープライズが求められます。以下のような利点があります:

  • 1) 使い易いITサービスを安価に利用できる
    • 誰もが普段利用するWebベースの使い易い業務システム
    • ハードウェアが不要、かつ自社での難しいシステム管理がほぼ不要のため、サービスコストの削減が可能
  • 2) 使い易いITサービスが業務データの正確な入力を促進
    • 仕事が楽になる業務サービスにより社員の業務サービス利用度が向上
    • データの入力も正確になり、管理者による分析結果の価値が向上
  • 3) 自社では難しい大量のデータ保管管理も可能に
    • 様々な業務データを大量・長期間・安価に保管できる
    • 些末な業務データが新しい経営管理の切り口になる

さあ、ありがちなITが雇用を奪うのではという懸念など捨て、簡単な仕事をITにまかせ、もっと付加価値の高い業務に私たちは移行しようではありませんか?今すぐできそうなことがたくさんあります。いくつかの事例をあげてみましょう。簡単にできるものから・・・。

経費精算に何時間かけているのですか?

<現状>

経費精算は面倒ですよね?ほとんどの会社で毎月末に見受けられる光景は、営業マンが先月のスケジュールを見て、駅探やGoogleマップを参照し、交通費精算のためにデータ入力をしているというものです。ざっと一人当たり30分から1時間くらいかけているでしょうか?

<解決策>

顧客データベースに取引先の住所が入っているはずです。もちろん、事業所ごとにアップデートしてあることが前提です。 交通費データベースを作ります。〇〇に行くためには、最短でもしくは最安でいくら、というものです。それとスケジュールを連動させます。ワンクリックで交 通費精算は終わるはずです。サードパーティーの使いやすい業務サービスがローンチされるのも時間の問題でしょう。

営業が個人の知見だけで行動していませんか?

<現状>

営業部長は、営業のそれぞれとしっかり話す機会がない。そんな時間もない。また、営業チーム全体で知識を共有していないので、どうしても営業行動が個人の知見に偏ってしまう。

<解決策>

スケジューラーと社内SNSを連動させます。営業のスケジュールを他の人に「見える化」するのです。営業部長はAさんが営業に行く前にアドバイスができます。営業の結果を聞いて判断もできます。また同僚も同じく、Aさんに有益な情報を提供できます。

B2Bの企業で営業の時間の使い方が間違っていないか?

<現状>

営業日報という報告書はあるものの、誰がどこのお客様に時間を使っているかなどの、全体分析はできない。ゆえに個別な指示は出せても、会社全体で効率よく営業をするような指示は不可能。

<解決策>

営業スケジュールのログをとれる形にしておいて、それを顧客データベースと紐付け、月初に先月の営業の行動分析をしま す。もちろん、顧客データベースはそれぞれの顧客がどのステージにあるかというアップデートがされているのが前提です。すると、会社全体でどのステージの 顧客に時間を使っているか、つまり、リスト・リード・商談・顧客というそれぞれのステージに全体としてどれくらいの時間が使われているか、ということを 「見える化」するのです。例えば、リードがそれほどないのに、ほとんどの時間が商談に使われているケースでは、会社全体が刈り取りに時間を使いすぎてお り、次第にリードが枯渇状態になっていくことが予測できます。だとすれば、前もってもっとリード開拓に時間を使ったほうがよいという指示を出すことができ ます。

活動がデータ化される会社

全社の時間の使い方は?

<現状>

会社全体でどんな時間の使い方をしているかが全く集計できていない。営業、提案書作り、会議、などなど。よって、時間の使い方に関する指示など出せそうにない。

<解決策>

スケジューラーのログをとれる形にしておき、それを分析するだけで、全社の時間の使い方がわかります。会社全体で、社 内会議にあまりに多くの時間を使っていたとしたら、それは問題ですね。なぜ、会議に時間を使ってしまうのかを考えてみましょう。会議を効率よく行なうやり 方を全社で徹底しましょう。また、個人個人の時間の使い方を見てみると、それぞれの違いが見て取れるでしょう。その中で、目標をクリアしている人、してい ない人で時間の使い方が違うかもしれません。業績と時間の使い方を比較して、ベストプラクティスを共有すれば、全社業績が上がること間違いなしです。

スマホを活用!

<現状>

スケジューラーがPCでしかできない設定。

<解決策>

当たり前の話ですが、PCベースのアプリケーションをスマホでも操作できるようにしましょう。その際は、PCの操作性 とスマホの操作性は違うことを認識し、スマホで使いやすいようなソフトを選びましょう。通勤時や客先への訪問時に、社内でしていたことができるようになる だけで、時間は効率よく使えるはずです。

いつでもどこでも働ける会社

営業報告を数クリックで!

<現状>

一週間分の営業報告を金曜の夕方に作成している。報告をスケジューラーで見ながら、客先で何を話したかを思い出し、作成するのが常だ。記憶も曖昧になってきているし、営業報告を書くだけで数時間かかってしまう。

<解決策>

まず、提案書をデジタル化しましょう。iPadを持って営業です。提案書は常にサーバーからダウンロード。その記録も 残ります。提案書がデジタル化されれば、提案書全体でなく、個別な部分に指示を書き込むことができます。よりセールストークも標準化され、セールスポイン トも明確になります。その指示にON/OFF機能をつけておけば、訪問する際の電車の中でも提案書の指示を読んで、記憶が新しいまま客先で説明ができま す。また、お客様がおっしゃったことをメモ書きで提案書の個別の箇所に入れられるような設計にしてみたらどうでしょう?クラウドですから、客先でも部長や 企画部門とのコミュニケーションも即時にでき、お客様のご質問にその場でお答えすることができます。スケジューラーと顧客データベースを連動させ、さら に、ダウンロードした資料と連動させることにより、どのお客様を訪問して、どなたに会い、どの製品説明をしたか、また、お客様の反応を含め、数クリックで 営業報告が完成します。金曜の夕方を待つことなく、即座にアップデートできることもメリットですね。

いくつか事例を挙げましたが、ここに示したことは、まず、簡単にシステム化できることです。それもオンプレミスでなく、業務サービスとして現存する もの、また、近い将来できるに違いないものばかりです。ITは業務を奪う手段ではありません。付加価値が高い仕事をするために、ITにまかせられるもの は、思い切ってまかせてしまいたいものです。

Fujiyo Ishiguro ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業にて海外向けのマーケティング、スワロフスキージャパンにて新規事業担当のマネージャーを務めた後、シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、Yahoo、 NetscapeやPanasonic、Sonyなどを顧客とし日米間のアライアンスや技術移転等に従事。ネットイヤーグループのMBOに参画、2000年から現職。ネットイヤーグループは大企業を中心に、ビジネスの本質的な課題を解決するための総合的なデジタルマーケティングを支援し、独自のブランドを確立。従業員数は約300名、売上高40億。 2008年に東証マザーズ上場。経済産業省 産業構造審議会委員などの公職も務めている。

Fujiyo の他の記事
Astro

ビジネスに役立つコンテンツを定期的にお届けします