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マーケティングのみならず、ビジネスにおけるさまざまな分野においてAIを活用していこうという動きが活発な昨今ですが、実際にどういった分野にAIを導入するのが最適なのかを見極めるのはまだまだ難しいのが実情です。研究者や企業の担当者など、実際にAIを活用している先駆者の方々のお話から、今後のAI活用の姿について考えていきましょう。

サービス・エンカウンター2.0時代のテクノロジーの役割

名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科で顧客マネジメントやマーケティング戦略を研究する山岡
隆志教授は、マーケティングにおけるAIの役割、人の役割、そしてその役割分担について、俯瞰的に分析します。

近年、顧客との関係性を重視し、よりパーソナライズされたサービスを提供することでエンゲージメントを最大化するダイナミック・パーソナライズ・マーケティングが重要視されています。その際、企業が顧客1人ひとりとのカスタマー・エンゲージメントをどう作っていくかが大きな課題です。従来のリレーションシップ・マーケティングでは企業と顧客の関係性を重要視したのに対して、カスタマー・エンゲージメントの考え方ではC2Cの関わりが非常に大きくなっています。そのため企業は、C2Cのコミュニケーションを活性化する必要があり、AIの世界においても、C2Cの重要性が高まってくると考えられています。

一方で、カスタマーと企業との「接点」であるサービス・エンカウンターは、テクノロジーの役割が大きくなるにつれ、その接点が幅広くなっています。現在では購買前→購買→購買後というように、「点」ではなく「フロー」として顧客経験を把握する「サービス・エンカウンター2.0」に進化し、その中身をも大きく変化しています。

サービス・エンカウンター2.0では、企業の従業員は「ブランディング」や「差別化」の役割から「イノベーター」やテクノロジーと人との「コーディネーター」としての役割になり、過去よりもサービスの上で果たす影響の度合いは小さくなっています。顧客は単なる「購買者」「利用者」から、商品やサービスの「体験者」「共創者」「イノベーター」として役割が大きくなっています。さらにテクノロジーは「効率化」「サービス品質向上」という役割から、「従業員の支援や代替」「ネットワーク化」を担うようになっていると分析されています。

このように、テクノロジーと人間の役割関係が変化している中、企業のバックエンドとフロントエンドでも、どのように役割分担していくかを考える必要があります。また、カスタマーと企業との役割関係も変化していて、そこにおいても役割分担を考えていく必要があります。マーケティング理論として、サービス・エンカウンターや顧客経験、価値共創、カスタマー・エンゲージメントといった考え方に基づいて、こういった「役割」の変化を理解しながら、AIと人のベストバランスを考えていくことが、AI活用を成功させるポイントとなるでしょう。

人の感性をデジタル化したAIがマーケティングや売上に貢献する

AIとマーケティングの関係を具体的に実現している企業があります。その1つがSENSY株式会社。人間の感性を学習するAI「SENSY」をマーケティングに活用しています。

元々「感性工学」という学問は存在していました。なぜ人がそういう感情を持ったのかということを化学的手法で解析、活用していく学問です。
同社はその感性工学を発展させ、人間の頭の中にある「感性」「感情」という情報を、AIを使ってデジタル化。そのデジタル化された感性をクラウド上に置き、マーケティングやマーチャンダイジング、商品企画、経営戦略といったビジネスにおけるさまざまな分野で活用しようと取り組んでいます。

同社は感性工学の中でも、ビジネスに活用しやすい「美味しい」「かわいい」といった感情や、特にマーケティングに近い「買いたい」「このお店に行きたい」といった欲求の理由をAIを活用して解析しています。データのソースはネット上で行われる年間1.5兆円分もの購買データで、テキストや会話データ、画像データといったもの。これらをディープラーニングで解析し、たとえば「情報の発信者が “かわいい”と言っている定義は、この画像のどのような特長と因果関係があるのか?」といったことを推測しています。そこから、3500万人の感性をデジタル化して「パーソナルAI」化しています。

パーソナルAIは、アパレル大手企業になどに提供されています。AIの分析を元にして製品の発注数や価格を調整して不良在庫の削減を実現し、売上の粗利改善に貢献されています。また、ハガキやカタログ送付によるDM、メールマーケティングにおいて完全にパーソナライズされたダイレクトマーケティングを実現している企業もあります。AIが顧客の購買意欲にタイミングを合わせてDMを打ち、その顧客が好む商品をピンポイントにおすすめすることで売上向上に貢献しているのです。

不動産の物件紹介とマーケティングに活用されるAI

株式会社LIFULLでは、不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」においてAIを活用した物件紹介を実現。サイト運営におけるフロントエンドサービスとマーケティングにAIを活用しています。

フロントエンドサービスではまず、物件の画像情報を機械学習モデルで認識・判別し、物件を紹介する不動産会社がサイトに情報をアップする手間を軽減することが可能となっています。また、スマホ用アプリを利用した場合、賃貸物件の閲覧閲覧を繰り返すにつれてアプリが学習して好みに合った物件を提案します。さらに、街の建物にスマホアプリのカメラをかざしてみると、同社のサイトで扱っている該当の建物の物件について検索、表示する「空き室情報AR機能」を提供しています。いずれにおいてもAIが活躍することで、サービスを利用するカスタマーに同社ならではのエクスペリエンスを提供しています。

マーケティング分野においては、広告費の最適化にAIが活用されています。どの媒体にどれほどの予算を投入すれば、3~6か月後の売上がどのように変化するかをシミュレートし、最適な広告展開を実行しています。さらに、Webサイトに登録された物件情報のアクセス状況をAIが学習し、価格や間取りによってどんな物件に人気があるかを判定。その物件を所有している不動産会社に分析レポートを提供し、需要の高い物件の提供を促します。

同社は今後、オムニチャネルにAIを組み合わせ、パターン化しにくい不動産業において今以上の業務効率化とマーケティング最適化を進めていくとしています。

AIの得手不得手とマーケティングで活用するポイントとは

AIを企業が活用する際に課題になるのが「運用を誰が行うのか」という点。
自社に専任の技術者を置くべきなのか、専門性のあるベンダーに依頼するべきなのか。
これに対してSENSYの渡辺氏は「現実的には多くの企業は外部の企業を利用してAIを活用していくことになると思うが、大事なことはAIがなぜこの答えを出したのかを理解することが、AIによる改善にとって重要。そのためには、社内の担当者のAIリテラシーを上げていくことも必要である」と答えています。
一方でLIFULLの菅野氏によると、自社にAIの専任部署があり、「AI部門の社員は、AIで売上を立てたいと思う中長期的な視野を持ちながらも、社内業務の効率化やサービスの品質向上に役立ちたいといった意志を持つようになる。他部署も巻き込んだAI企画はいくつもあり、内部に組織があることで “AIを特別視しない” というメリットもある」といいます。

「AIの得意なところ、不得意なところ」について、渡辺氏は「AIは人間が膨大な時間をかけて作業することを短時間で効率的に処理すると認知されている。それをそのまま使おうとすると、既存の業務をそのまま効率化しようという発想になる」と言います。実際、LIFULLでは「AIにコールセンターに寄せられたお客様のコメントを学習させてより効率的な対応が可能にしようと考えたことがあるが、お客様のご意見やお悩みが千差万別過ぎてパターン化できなかった、という苦い経験」があったということです。
「本当にAIを使いこなすためには、人間が実現したいことを制限なく考えたとき、本来実現不可能な付加価値をAIで生み出すことができるかを考えることが重要だ」と渡辺氏は話します。

AIには得手不得手があるということを認識しながら活用することも、マーケティングにおいてAIを使いこなすポイントの1つになりそうです。

※本記事は、2018年7月26日に開催された「Salesforce B2C CRM Conference」にて、「AIがもたらすマーケティングの実践的な進化とは?」をテーマにしたセッションをまとめたものです。
同セッションには、名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 教授 山岡 隆志氏、株式会社LIFULL LIFULL HOME'S事業本部 マーケティング戦略部 MAユニット長 菅野 勇太氏、SENSY株式会社 代表取締役CEO 渡辺 祐樹氏、そしてネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 石黒 不二代氏が登壇しました。