
本ブログは米国で発表された「Three Coaching Mistakes New Sales Leaders Make」をもとに再編集したものです。著者のBilly Martinは、Salesforceのイネーブルメント(人材開発部門)のSenior Directorです。
生まれながらの優秀なマネージャーなど存在しません。時間をかけてコーチングスキルを開発し、経験を積むことで、優れたマネージャーになるのです。新人マネージャーはミスをするものであり、そのミスもまた新たなスキルを学ぶプロセスの一部です。そして私たちもまた、彼らの経験から学ぶことができます。私のチームでは、新人営業リーダー向けに継続的な育成プログラムを実施していますが、その中で数千人の営業担当者と数百人のファーストラインマネージャーを対象に調査を実施し、なりたての営業リーダーに必要とされるスキルとは何かをたずねてみました。
ここでは、コーチングの定義や歴史について解説しつつ、その調査データから明らかになった、新人を直接指導するマネージャーがやりがちな間違い、上位3つをご紹介します。
ビジネスにおけるコーチングは、部下や後輩との双方向の関わりを通じ、問題解決や目標を達成するための支援を行うことを意味しています。
従来は営業リーダーが営業担当者に詳細な指示を与え、営業担当者がそれを忠実に遂行するという指示命令型のマネジメント手法が積極的に行われてきました。しかしながら、このマネジメント手法は結果を重視するあまり「失敗しない」ことばかりに注意を向けられ、営業担当者が自主的に考えて行動する機会を奪ってしまう恐れがあります。
一方、コーチングを取り入れた「コーチング型マネジメント」では、営業担当者が自分で問題を解決することを重視します。営業リーダーは営業担当者が自ら考えて行動するための支援を行い、結果だけではなくその過程も評価の対象とします。そのため、営業担当者が自主的に思考して行動するようになり、組織の力を高めることができるのです。
コーチングの起源は1950年代にまでさかのぼります。当時のハーバード大学教授であるマイルズ・メイス氏が自著の中でコーチングについて言及したのがその始まりで、言葉の語源は「馬車」だといわれています。大切な人をその人が望む場所まで送り届ける役割を持つ馬車から派生して、「人の目標達成を支援する」という意味を持つようになりました。
ティーチングは発信の主体が指導する側にあり、「指導される側に対して指導する側が持っている答えを与える」という行為を指します。一方のコーチングは、発信の主体が指導される側にあり、「指導する側が指導される側に働きかけることで答えを引き出す」という行為です。
ティーチングは指導者が明確な答えを持っていますが、コーチングは指導者自身も明確な答えを持っているわけではありません。あくまでも、指導される側の中に眠っている答えを引き出すための手法であるといえます。
コーチングを行う際は、相手に対して必要以上に介入しすぎても、放任しすぎても適切な効果は得られません。期待どおりの結果を得るためには、注意すべき点がいくつかあります。
過去2年間の調査で最も重視されてきた管理スキルは、コーチングです。 営業担当者は営業リーダーに対して、顧客との現実的なシナリオにもとづいて準備するために必要な支援をしてくれるよう望んでいます。逆に営業担当者が望んでいないこと、それは成約に向けて商談をまとめようとするタイミングでマネージャーがハンドルを握ってしまうことです。「商談の成約をサポートする」ことと、顧客との面談やプレゼンを積極的にリードすることは、別のものなのです。
自分自身に問いかけてみましょう。 リーダーとして、あらゆる商談に"実際に立ち会う"(つまりハンドルを握る)必要があるだろうか? チームをがむしゃらに引っ張って成功に導いた過去の営業実績を思い出して、"スーパー営業担当者"になろうとしていないか?部下の商談を成約に導くことは、リーダーの役割ではありません。それは部下の仕事を自分がやっているだけです。チームのために安全な設定で顧客との商談をシミュレーションしたシナリオを用意し、成果をあげているほかのチームメンバーのやり方を営業担当者が見習えるようにします。一定の距離を置いたサポートを心がけましょう。
運転の教習と同じです。教官は、危険が迫った場合のみハンドルを操作します。縁石をこすったり、バンパーが少しへこんだりしたとしても、それも習得プロセスの一部なのです。チームメンバーに失敗の余地を与えることで、その失敗から成功の秘訣を学ぶことができます。
今回の調査でわかった2つ目の重要な事実は、「自分の生産性を高めるためにリーダーにしてほしいことを1つ挙げるとすれば何ですか?」という質問に関係しています。回答は突破口を開くためのハイレベルなコーチングと、業務タスクを細かく管理するマイクロメントマネジメントとの違いに集中しました。
営業担当者との1対1の面談時に、同じ質問をしてみましょう。「今週、あなたの生産性を高めるために、マネージャーとして私にしてほしいことを1つ挙げるとすれば何ですか?」これは非常に効果的な質問です。この回答から、リーダーとして部下のために取り除いてやれる障害を見つけ出すことができます。先を見越して突破口を開くための"よりハイレベル"なコーチングスキルに重点を置き、重要な質問をするように心がけましょう。業務に関する気さくな会話は別の機会や、1対1の面談の後の方で行うようにします。
たいていの場合、営業担当者は個人的なコーチングを望んでいますが、 質問するのは良いことです。
営業リーダーに関する最近の調査(英語)で、チームに与えるコーチングコメントの種類に注目し、ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックの割合を調べました。その結果、82%ものコメントがネガティブなものだとわかりました。建設的なフィードバックは歓迎されますが、こうしたネガティブな見方はチームのやる気に悪影響を及ぼしかねません。
3つの重要な"チェックイン/フィードバック"の質問と、私たちが水差しの例と呼んでいるものについて考えてみましょう。これは私たちがリーダーシップトレーニングで行う一つです。営業リーダーが満杯になった水差しを持っているとします。リーダーは水差しが空になるまで営業担当者のコップに水を注ぎながら、フィードバックを切れ目なく伝えていきます。コップから水があふれたら、営業担当者にフィードバックを与えすぎていることになります。次に、このプロセスを逆にして、先に営業担当者が自分のコップの水をリーダーの水差しに注ぎます。水差しに余裕があれば、リーダーは自分の水を追加します。この例は、営業担当者が先にコップを空にする(話す)ことができるようにして、その後でフィードバックを与えるプロセスを表しています。
建設的なフィードバックに移る前に、次の3つの簡単な質問をすることから常に始めましょう。
今、うまくいっていることは何か?
行き詰まっているのはどこか?
前に進むために、何のやり方をどう変えればいいと考えているか?
先に営業担当者に答えてもらうことで"コップを空に"し、その後で自分が同じ質問への答えを示します。こうすることで、建設的な批判をポジティブなフィードバックで挟むことができます。自分の意見を述べる前に、営業担当者が自分の考えを言えるようにしましょう。そうすれば、批判のことばを口にする前に、親身になってくれる聞き手としての役割が営業担当者に印象付けられ、生き生きとした関係が生まれます。
では、実際にコーチングを成功させるには、どういったことが必要になるのでしょうか。3つの項目に分けて説明します。
コーチングでは、相手との信頼関係が非常に重要です。双方が確かな信頼関係を築けていなければ、相手も助言を聞き入れる態勢をとることが難しくなってしまうでしょう。
また、一方的に指導するのではなく、あくまでも営業リーダーと営業担当者が協同して行うことが大切です。双方向のコミュニケーションを重視してこそ、対等な立場で接することができます。
最初から正解を教えてしまうのではなく、適切なタイミングでヒントを与えて、成功へとつながる行動を引き出す手助けをすることが大切です。営業担当者が自分で目標を達成することを意識してコーチングを行うことが、自ら考えて行動する力を養うことにつながります。
表面的な対話を重ねるのではなく、一歩踏み込んだ対話を試みると良いでしょう。営業リーダーは常に営業担当者をよく観察し、営業担当者がどのような状況に置かれているかをよく見極めることで、過不足のない最適なコーチングを行うことができます。
コーチングは営業リーダーの最優先事項であり、営業担当者が常にリーダーに期待する資質と言えます。コーチングは管理スタイルの不可欠な要素として考えましょう。コーチングプロセスの完全な透明性を確保しつつ、営業担当者が求めるものに応えるためのスキルを重点的に開発しましょう。何を求めているのかは、問いかければ答えてくれるはずです!
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