本ブログは、米国で発表された「Getting Started with AI and Chatbots: What’s Top of Mind for Your Customers?」を日本語に翻訳したものです。著者のGreg Bennettは、SalesforceでカスタマーサービスにおけるEinstein(SalesforceのAI機能)のユーザーエクスペリエンスのリサーチを担当しています。

 

AI(人工知能)が日常生活の隅々にまで入り込んでいることは、誰もが経験していることでしょう。SNSは写真から顔を認識し、ウェブサイトを開けば、以前に買った商品にもとづいて新商品が提案されたりもします。顧客の立場ではお気に入りのブランドからこうしたメリットをすばやく、しかも頻繁に得られることを期待します。一方で企業側は、こうした期待に大規模に応えることに苦戦しています。そんな企業にとってAIは、顧客がより速く問題を解決し、サポートを得られるように支援する強い味方です。そこで役立つのが チャットボット です。

顧客が抱えているさまざまな課題の中には、担当者と直接話し合うのが最適なものもあります。でもそれは「パスワードのリセット」のようなものではありません。担当者の時間は貴重なので、たとえば「フライトの際に特別な食事を予約したい」といった複雑な要望に応えるために使われるべきです。単純な仕事は、チャットボットに任せてしまいましょう。

顧客には、どんな場合に自動化された方法で問題をすばやく解決したいか、はっきりした考えがあります。企業側は、デジタルチャネルでアクセスしてくる顧客が何を望んでいるのかを的確に把握し、優先順位の高いものから対応していく必要があります。こうした顧客が望んでいるもののことを私たちは顧客の 「インテント(意図)」 と呼んでいますが、このインテントは、小売業界と保険業界では大きく異なるようです。

この点について私たちは調査を行いました。 顧客をサポートするチャットボットは、業界別に見るとどのようなインテントを優先すべきなのでしょうか?

 

インテント調査における質問と回答の例

 

簡単な調査を行い、消費者に以下の点について聞きました。

  1. 一番最近チャットで問題を問い合わせたのはいつか

  2. どのような業界に問い合わせたか

  3. 解決したい問題すなわち「インテント(意図・目的)」は何だったか

  4. 同じ業界について、ほかに3つまでのインテントを任意で記入

回答者は業界名を自分で記入してもよいし、小売、銀行、消費財、保険、旅行とホスピタリティの中から選択することもできます。最新の状況を把握するため、昨年にチャットを利用していない回答については集計から除外しました。また調査は米国内の4つの地域で均等になるように実施しました。

 

米国の地域別の抽出


大量に得られたデータから見えたのは、米国の一部の消費者が行ったチャットで、いくつかのインテントが複数の業界に共通して上位を占めていることでした。この分析は、優秀な Year Up(米国の就労支援NPO)のインターンであるLong Giang氏と共同で行っています。(Year Upのインターンに関するブログはこちら(英語))

データを2つに分けてスパムを排除し、両者がまったく同じ形で分類しました。こうした調査に詳しい人であれば、評定者間信頼性テスト*1 を適用することで、私とLong氏の評価のブレを修正したと言えばその意味をご理解いただけると思います。これは簡単に言うと、あらゆる回答を動詞を基準にしたインテント(たとえば「商品の詳細」ではなく「商品の詳細について確認する」という風に)に分類したことを意味します。なぜならインテントには、単なる事例やトピックだけでなく、ユーザーが取りたいと思っている行動が示されるからです。

全回答をインテント別に分類した後、優秀な調査アシスタントであるMustafa Nasr氏が再度確認して分析の精度を上げ、以下の業界内でバケット化してまとめました。

  • 小売(191件)

  • 消費財(130件)

  • ケーブルテレビとISP(110件)

  • 銀行(58件)

  • 保険(20件)

興味深いのは、ケーブルテレビとISPは選択肢として用意した業界には含まれておらず、データの中から自然に浮かび上がってきたという点です。このことが意味するのは、チャットボットにはこの業界のサービス業務に大きな影響を与え、拡大するソリューションとなり得る潜在能力があるということです。残念ながら、旅行とホスピタリティ業界に関しては情報が足りず、洞察の手がかりは得られませんでした。

結果について詳しくご説明する前に、もう1つだけ細かな点を付け加えさせてください。この調査・分析の結果は、上記の各業界における顧客の上位のインテントに関する方向性を示唆するものだということです。米国の消費者について一般化するにはデータの量が十分ではありませんが、各業界の企業が Einsteinボット 用のインテントの優先順位を考える際にある程度具体的な方向を示す、定性的な洞察になっています。それでは、業界別に結果を見ていきましょう。

 

業界インフォグラフィックで見るEinsteinボットのインテント

(ビジュアルデザインはGeorge Hu)


小売業界における上位のインテント

 

小売

上位3つのインテント:

  1. 商品仕様やサービスの詳細について確認する(34)

  2. 発送状況を確認する(25)

  3. 商品を返品する(23)

小売向けのチャットボットを構築する場合は、製品情報を複数のメッセージに分割してなるべく会話に近い形式にすることをお勧めします。製品やサービスに関する「会話のキャッチボール」になるように工夫しましょう。説明が多くなる場合もあるので、つい1つのメッセージにさまざまな情報を盛り込みたくなりますが、これは顧客に負担になります。情報の羅列はチャットには適していないので、複数の回答に内容を分割しましょう。

消費財業界における上位のインテント

 

消費財

上位3つのインテント:

  1. トラブルを診断する(28)*2

  2. 商品仕様やサービスの詳細について確認する(15)

  3. 発送状況を確認する(12)

消費財向けのチャットボットを構築する場合は、会話を質疑応答形式にすることに重点を置いてください。顧客のトラブルを診断するには、チャットボットが多くの質問をし、それに顧客が答えることによって問題を明らかにする必要があります。

 

ケーブルテレビとISP業界における上位のインテント

 

ケーブルテレビとISP

上位3つのインテント:

  1. 請求書や料金について苦情を言う(18)

  2. ネットワークの問題をトラブルシューティングする(16)*3

  3. トラブルを診断する(15)

請求書や料金の苦情に関する会話は質問と回答の繰り返しになり、トラブルの診断の場合と非常に似たものになります。ただし、ネットワークのトラブルシューティングに関しては、ネットワークのリセットが正常に行われたかどうかをチャットボットが確認する必要があります。リセットがどう行われたかをチャットボットが確認できるようなトリガー(Salesforceではこれを「プラットフォームイベント」と呼んでいます)を作成してください。こうすることで、チャットボットが顧客との会話をどの方向へ進めたらよいかがわかります。

 

銀行業界における上位のインテント

 

銀行

上位3つのインテント:

  1. 請求書や料金について苦情を言う(12)

  2. 自分の口座情報を確認する (7)

  3. 担当者への取次を求める(6)、心当たりのない請求について問い合わせる(6)

ただし、銀行業界での請求書や料金に関する苦情は、クレジットカード番号など慎重な扱いを要する顧客情報が関わるため、若干事情が異なるようです。一部の金融機関では、この種の問い合わせを処理するために、ウェブサイト(今の場合はチャットボット)の外部の安全な決済サービスを使用しています。この場合は、決済サービスのウィンドウへの情報の入力が完了したかどうかを判定するトリガー(プラットフォームイベント)が必要となります。それにより、チャットボットが会話を先に進めることができます。

 

保険業界における上位のインテント

 

保険

上位2つのインテント:

  1. 保険の見積もりを取る(5)、保険プラン・契約内容・支払金額・治療内容を変更する(5)

  2. 担当者への取次を求める(3)、商品仕様やサービスの詳細について確認する(3)

保険向けのチャットボットを作成する場合には、特に担当者への取次のガイダンスを行うための会話を入念に設計することをお勧めします。チャットボットは、顧客が担当者にたどり着く前に情報の収集と確認を行う手段として非常に有効です。ただし、現在チャットボットが応答しているのか担当者が話しているのかを顧客にはっきりと知らせる必要があります。チャットボットは担当者に取り次ぐ前に必要な情報を集めているのだということを、顧客に理解してもらうことが重要です。

 

初めてのチャットボットを作成する際にはハードルが高く感じられるかもしれませんが、ここでご紹介した調査も参考にして、始めてみてください。常に顧客中心を心がけて進めましょう。

デザインや製品について、Salesforceのユーザーエクスペリエンスチームにフィードバックいただける場合は Einsteinボットユーザー調査プログラムにご登録ください(英語)

 

 

*1 非構造化データをコード化するためにコンテンツ/談話分析的アプローチを使用して評定者間一致率70%を達成。

*2 チャットボットの作成時には、「トラブルを診断する」場合と「製品のトラブルを報告する」の違いにも注意が必要です。どちらも会話形式で対応しますが、それぞれ異なるアプローチが求められるからです。トラブルの診断を求めているユーザーはトラブルの原因がわかっていません(たとえば、"ノートパソコンが起動しない"など)。しかし、製品のトラブルを報告するユーザーは原因を把握しており、その解決方法を知りたいと考えています(たとえば、"PCに水をこぼしてしまった。どうすればよいか?"など)。「トラブルを診断する」場合の方が会話の自由度が大きく、チャットボットは製品の状態などについてユーザーから詳しく聞き出さなければなりません。また、自由回答の分析にはさらにAIを活用する必要も出てくるでしょう。一方、「製品のトラブルを報告する」場合は、特定の製品についてのよくあるトラブルにもとづいた選択肢で対応可能な場合があります。

*3「トラブルを診断する」の意味。(問題を特定して原因を突き止め、解消する方法を探ることです)