「サステナビリティに関してはもはや議論の段階ではない。企業は明確な時期と目標をコミットメントしていかなければならない」――。セールスフォース・ドットコム日本法人代表取締役会長兼社長である小出伸一が、Salesforce World Tour Tokyo 2019の1日目最後のセッションで力を込めた一言です。

今回のイベントでは、サステナビリティをテーマにしたセッションも複数開催されました。なぜSalesforceでは、サステナビリティに力を入れているのでしょうか。それは特別なことではなく、「ビジネスの本分は世界をより良い場所にすること」と考え、実践しているからです。このレポートでは、持続可能な社会に向けての先進的な事例や有識者とのディスカッションを中心にご紹介します。

 

学ぶ姿勢の重要性

 

イベント初日、多くの来場者を集めたスペシャルセッション「サステナビリティ:持続可能な成長と社会変革への挑戦」は、日本法人会長の小出がスペシャルゲストを迎えて二部構成のパネルディスカッションを行いました。

最初のパネルディスカッションでは、実業界で先陣を切って歩む株式会社西武ホールディングス代表取締役社長の後藤高志氏と、ロサンゼルスに拠点を置きボランティア活動なども勢力的に行うアーティストのYOSHIKI氏が登壇し、グローバルな視点でのサステナビリティについて語られました。

78の事業会社から構成される西武グループでは、西武鉄道、プリンスホテルと公共性の高い事業が中枢にあるため、サステナブルなビジネス展開には早期から着手されています。代表取締役社長の後藤氏は、2006年に策定した同社のグループビジョンを紹介した上で、「地域・社会の発展、環境の保全に貢献し、安全で快適なサービスを提供」することをグループ理念として謳い、企業経営の基本としていることを紹介しました。

 

(写真:株式会社西武ホールディングス 代表取締役社長 後藤 高志氏)

 

日頃マーク・ベニオフとも親交が厚く、実業家の顔も持つYOSHIKI氏には、世界の動きをどのように感じているか、率直な意見が求められました。

その中で、YOSHIKI氏が強調したのは「学ぶことの重要性」でした。YOSHIKI氏は、国連のサステナビリティチームと意見を交わすほど、持続可能な社会実現に強い関心と行動力を持っている中、それでも日々の学びが重要と語りました。

 

(写真:YOSHIKI 氏)

 

「衣食住すべてこれまでの在り方を考え直す必要があります。牛を1頭育てるのにどれだけ広大な土地が必要なのか?僕もかつては何台も車を持っていましたが、現在は、テスラの電気自動車の他は手放しました。ですが電気自動車だから環境へ悪影響がないというわけではありません。製造する過程でどれだけの影響がおきるのか。一つの側面だけでは捉えられないので、本当に常に学んでいかなければならないと痛感しています。」

YOSHIKI氏は、この前日も台風被害にあった千葉でがれき撤去のボランティアに参加しています。時に著名人のボランティア活動は、売名行為と揶揄されることもあるそうですが「行動を起こすことでインスパイアされる人がいるかもしれない。ハリウッドではチャリティパーティが当たり前に開催されます。日本でも根付かせていきたい。」と語りました。

 

アピールの重要性

 

続く2つ目のパネルセッションでは、フリーアナウンサー望月理恵氏をモデレータに迎え、株式会社西武ホールディングス代表取締役社長の後藤高志氏、日本ガストロノミー学会 代表の山田早輝子氏、そしてセールスフォース・ドットコム日本法人代表の小出が意見を交わし、企業がどのように、サステナビリティを経営に取り入れているのか、特に「環境への対応」、「ダイバーシティ」への取り組みが語られました。

 

西武ホールディングス 後藤氏は、「温室効果ガス削減」「廃棄物削減」「水資源の確保」「森林や生物保護」など、西武グループで行なっている環境への取り組みやプロジェクトを紹介。

「26年振りの新型車両となった『Laview(ラビュー)』は、モーター効率や車体を軽くし大幅なエネルギー削減を実現するほか、プリンスホテルでは、廃棄ロス削減に尽力。ビュッフェ会場で取りすぎ防止の啓発ポップを提示するほか、取りすぎを防止する小分けプレートなどに変更しました」と語りました。その結果、廃棄ロスが減少。ごみを乾燥させることで全体の16%、肥料化による再生利用率が全体の21%など削減実績をあげています。

一方、日本ガストロノミー学会 山田氏は、「100年前にも遡る創立当初の役割“食を通じた外交”から、現在では“サステナブルガストロノミー(持続可能な食)の次世代教育”を強力に推し進めている」ことを紹介。その上で「教育というけれど、次世代の方が環境やサステナブルな社会に対する関心は高く行動力もある。逆に子どもたちを通して大人も一緒に学んで行くことが大切。意識改革が先か地球が耐えられなくなるのが先か…。」と明かしてくれました

 

(写真:日本ガストロノミー学会 代表 山田 早輝子氏)

 

その後、3社の間で話題に上ったのは日本で求められすぎる「あ、うんの呼吸」の弊害でした。後藤社長は、2000年代前半に自身が経営改革を断行した際に、暗黙の了解がはびこる企業文化を打破して立て直したことに言及。当時は「ダイバーシティ」の言葉はなかったものの、多様性の重要性を強調しました。山田氏も「ダイバーシティに欠ける単一民族ならではの同じ常識をシェアする「あうんの呼吸」はそれぞれが違う律をしょっているアメリカ、ヨーロッパ等の多民族国家では通用せず、自分の意思をきちんと発しなければ伝わらないという考えが常識。言わなくてもわかってくれると思ったは通用しない。実は日本製品は壊れにくいし、排気量減らす技術も高いしサステナブルな国。自分たちがして来たこと、している事も日本人である前に地球人の一員としてきちんと世界にも伝えるべき。出る杭は打たれるダイバーシティに対する許容範囲の狭さは日本の良さを国際社会で発信する足かせになっているのではと危惧する」と語りました。

 

慈善活動ではなく、事業戦略としてのCR

 

2日目最後のセッション「「SDGs×企業×イノベーションのフォーミュラとは?」では、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに、セールスフォース・ドットコム取締役副社長の古森茂幹がモデレータとなり、既に実績をあげている3社の取り組みを紹介するとともに、SDGs研究の専門家を迎え、パネルディスカッションを行いました。

 

 

最初に事例をご紹介したのは、住宅設備メ―カーLIXILの長島洋子氏。「社会貢献活動は、CSRではなくCRと位置づけ、慈善活動ではなくビジネスと捉えている」という同社では、衛生課題への取り組みとして、開発途上国向けに安全な簡易トイレシステム「SATO」を開発しています。

「衛生的で安全なトイレが使えない方々は全世界で20億人、その内、屋外排泄を強いられる人々は7億人にのぼると言われています。安全なトイレがないことによる問題は影響範囲が広く、感染症の流布はもちろん、子どもや女性は人目を避け遠くに出かける道中で暴行のリスクにさらされるといった問題にも波及します。」

と語る長島氏は、SATOの製造、販売、設置を現地企業や住民が担うことで雇用促進にも寄与していること、2018年からはユニセフと革新的なパートナーシップを結んでいることを紹介しました。

 


株式会社LIXIL コーポレートレスポンシビリティ部 マネージャー 長島 洋子氏

 

続いて、三井住友銀行 成長産業クラスター 部長代理 清水倫氏が、「投資家向け」「資金調達」の2つの観点からサステナブルファイナンスを展開する同社の取り組みを紹介しました。投資家向けには、事業のCO2排出削減・社会貢献効果などの非財務情報を見える化し、外部評価機関が評価する「SDGsグリーン/サステナビリティローン」を、中小企業を対象とした資金調達には、自治体と連携し、SDGsを意識した経営体制の構築を図る制度融資「東京都政策特別融資『SDGs経営計画策定支援』を構築したことを紹介。「気候変動への取り組みは行動せずして未来を語れない状況。今後銀行もサステナブルバンクでなければ資金を預けてもらえない、生き残っていけない」と語りました。

 


三井住友銀行 成長産業クラスター 部長代理 清水 倫氏

 

献身的な看護活動や公衆衛生の発展に貢献したとされるナイチンゲールの直筆サイン「hhc(ヒューマンヘルスケア)」をロゴにデザインしている大手製薬会社エーザイでは、貧困地域で蔓延する「リンパ系フィラリア症」の制圧に向けて治療薬であるDEC錠の安定供給に注力しています。

同社、ポリシー・アドボカシー&サステナビリティ部部長の徳永文氏は、世界的に不足していたDEC錠をインド工場にて高品質かつ安定的に生産し、世界保健機関(WHO)を通して、現在までに28カ国に19億錠を無償提供していることを紹介。同社では、単に薬を提供するだけでなく、現地政府と協力のもと、社員が疾病の啓発活動や地域のインフラ整備に参加するなど、包括的に医薬品アクセスに取り組んでいます。

「短期スパンでみれば赤字ですが、長期視点では病気で働けなかった人が働き収入を得ることで、将来的には医薬品の市場が新たに立ち上がる。長期的なビジネス戦略として捉えています」と、姿勢を明示しました。

 

エーザイ株式会社 ポリシー・アドボカシー&サステナビリティ部 部長 徳永 文氏

 

 

サステナビリティを“はかる”時代に

 

こうした企業の事例を受けて、パネリストの一人慶應義塾大学大学院の佐久間信哉特任教授は、「三井住友さんが言われたように、これからは金融機関ですら投資の世界にSDGsを持ち込まなければ生き残れない」と語り、同大学が主催するxSDGsコンソーシアムなどで産学の連携により様々なステークホルダーが共創できる社会を呼びかけました。

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授 佐久間 信哉氏

 

また、日本におけるSDGsの第一人者慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授は、毎年国連総会に合わせて開催される「SDGs週間(グローバル・ゴールズ・ウィーク)」でニューヨークから帰国したその足で登壇。「フェーズがアクションに強く変わってきている」とその印象を語りました。

さらに蟹江教授は、「テクノロジーをどのように活用していくか、という点は世界も進んでいないという印象があります。これからは消費者がサステナブルをどのように評価するのか、『はかる』という指標が重要になります。テクノロジーの活用を描くことも必要ですし、常にアップデートしていくことが重要。その点では日本の方が進んでいるような気がします。」と語り、今後もっと大きくアピールしていくべき、と提言しました。

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授 蟹江 憲史氏

 

 

テクノロジーで持続可能な社会をサポート

 

今回ご紹介した2つのセッションでは、日本法人代表の小出と副社長の古森がそれぞれモデレータを務めましたが、Salesforceの取り組みとして語った内容には、大きく2つの柱がありました。

1つは、2022年までにすべてのエネルギーを100%再生可能エネルギーに置き換えるというコミットメントです。「テクノロジーカンパニーというのは、データセンターを持つなどCO2を多く排出しているが、このコミットメントに向けて全社で取り組んでおり、現在すでに再生可能エネルギー55%を達成しています」と古森は現状の達成率を紹介しながら、今後の目標達成を強調しました。

またもう1つの取り組みが「Salesforce Sustainability Cloud」の提供です。これは、カーボンニュートラルな取り組みを見える化するもの。ユーザーは、再生エネルギーの利用やエネルギーの総消費量、二酸化炭素排出量といった重要業績評価指標(KPI)を経時的に追跡できるようになります。現在はベータ版を提供していますが、日本法人代表の小出は「Salesforceが取り組んできたCO2削減のノウハウをお客様に提供することで、CO2の数値管理を支援することができる」と新製品の有用性を訴えました。

啓発活動や学習機会の提供といった観点でも、Salesforceでは力を入れています。オンラインで利用できる無料の学習体験ツール「Trailhead」では、サステナビリティSDGs について学べるコースも提供しています。

持続可能な社会に向けて、今企業が問われているのは「どう行動するか」なのです。