Leading Through Change  - いま、私たちができること。- 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機を乗り越えるために、企業は何をすればよいでしょうか?ベストセラー本『キャズム』の著者で、マーケティングコンサルタントやイノベーションエキスパートとしても尊敬を集めるジェフリー・ムーア氏からの提言を3回に分けてご紹介します。第1回となる今回は、企業のビジョンと価値について取り上げます。同氏は、熱心な顧客のために企業として何ができるかを考えるよう提言しています。さらに、組織の意思統一を図る管理ツールとしてSalesforceの意思統一をはかるためのツールV2MOMを紹介し、従業員を共通のビジョンに向かわせる方法と、その際の課題、指標について語ってくれました。

ここからは、ムーア氏のインタビューのなかから一部を抜粋してご紹介します。なお、内容をわかりやすくお伝えするため、一部編集してお届けします。

 

挑戦する姿勢が大切

私たちは今、1月に作成した年間V2MOM計画を見直して、何がどうなったかを確認しているところです。V2MOMの最初にあるのはビジョン、そして価値です。つまり、何を達成したいか、そしてその過程で何を証明したいかです。パンデミックのなかでも組織が存在する理由は変わらないため、ビジョンと価値はそのまま継続すべきです。しかし、それ以外の部分、つまり方法、障害、基準については、一からの見直しが必要です。

組織、従業員、顧客、パートナー、そしてエコシステム全体にとって何が重要かを考え、自身のミッションを再定義し、新たな挑戦をします。ビジョンや価値、ミッションが明確であれば、挑戦のハードルも下がるでしょう。ビジョンと価値を中心に置くことが重要です。ミスをしても、それに誠実に向き合えばいいのです。

 

従来のものを超えた新しいソリューションが必要

今回の危機でイノベーションが加速しましたが、それは人々が以前より明確なビジョンを持つようになったからでも、熱心になったからでもありません。普段は静観している実利主義者たちが、危機に見舞われているからにすぎません。いろいろなことの状況が悪化しているため、綻びたプロセスをなんとか修復する方法が求められています。あなたの会社のテクノロジーがその綻びをふさぐものであれば、人びとはそのソリューションに飛びつき、この状況下でもどんどん導入が進むでしょう。これは、彼らが新しもの好きだからではありません。従来のソリューションではどうにもならず、助けを必要としているからです。

ここで重要になるのが「ホールプロダクト」の考え方です。ホールプロダクトとは、ある問題に焦点を当て、それが解決されるまでサポートすることです。製品を出荷したら終わりではありません。組織全体として、顧客やユースケースを小さなグループに分け、それぞれの優先順位を見直し、問題解決まで伴走する必要があります。

危機においては、成功への道筋が
変わることがある [写真: Flickr/i_udai]

 

データは存在しない

平常時なら、新しいテクノロジーを受け入れるかどうかの明確な決定権は「アーリーマジョリティ(前期追随者)」が握っています。彼らに共通するのは「他の人が使っているなら自分も使う」という考え。こうした考えは、現状を消極的に肯定し、大きな変化に対して消極的に反発する感情を生みます。しかし、有事になれば、そんなことは言っていられなくなります。今はあらゆる場所で新しい取り組みがされています。革新的なサービスを紹介するなら今です。新しいサービスが現状の問題をどう解決するかを説明できれば、導入率は急速に上がるでしょう。失った機会をとりもどすために、とにかく何かをしなければなりません。「データもないし、今の機械学習アルゴリズムは最新ではないし、しばらく身を潜めて様子を見たら……」という声が上がるかもしれませんが、ただ時間を無駄にするだけです。有事の際に、役に立つ過去のデータなどありません。それではいつまでも挑戦できません。勇気をもって、やるべきことに取り組みましょう。

 

飲食業界と小売業界

飲食業界や小売業界においては、それぞれの業界が抱える問題は非常に似通っているので、話は比較的簡単です。どちらの業界も、あらゆる手を尽くして被害を止める必要があります。飲食業界では大量の一時解雇が行われていますが、こうも考えているはずです。「今のサプライチェーンを活かせないか。仕入れ元にも販路が必要だし、うちの料理を気に入ってくれるお客様もいるし……。そうだ。レストランからキッチンカーに業態を変えて、配達にも対応しよう」。画期的なアイデアとまでは言えなくても、新しい挑戦であることは間違いありません。

このとき、過去のあり方を一から見直す気持ちが必要です。「これからはキッチンカービジネスを始めます。これが新しい業態です」のような考え方では足りません。「みんなが素晴らしい時間を過ごして特別な食事を楽しめる場所を作るのが、コミュニティにおける私たちの役割です」という発想が必要です。

小売業界の場合はどうでしょうか。状況は似ていますが、飲食業界と違うのは、オンライン購入の便利さが知られつつあることです。そのため、以前とまったく同じ日常に戻ることはないと考えられます。これまで普通だった習慣が、完全に淘汰されたわけではないにせよ、部分的には捨てられつつあるからです。小売企業は、eコマースを取り入れた「新しい日常」を生み出す必要があり、何らかの形でオンライン店舗を運営することになるでしょう。これが、単純に以前の状態への復帰をめざす飲食業界とは大きく異なる点だと言えます。

レストラン業界は「以前と同じ日常」に戻る可能性が
他業界よりも高い [写真: Flickr/Shocking Wonder]

 

問題がない者はそのままに

レストラン業界の場合は、ただ以前の状態に戻るだけです。この業界では、これまで特に目立ったイノベーションはありませんでした。ただし、サプライチェーンでイノベーションが起きる可能性はあると思います。サプライチェーンのつながりを強化するには?サプライチェーンの動きを活発にするには?サプライチェーンをどのように捉えるか?考えるポイントはいくつかありますが、私なら、新しいことは始めません。どこがうまくいっていたかを把握するにとどめます。

一方、小売業界はもともと厳しい状況にありました。理由はAmazonです。ただ、Amazonはすでにあった脅威を増幅したにすぎません。私の考えでは、小売業界の各社は、自分たちのビジョンと価値に立ち戻ろうとする動きを強めるでしょう。そもそも実店舗が必要なのか?という問題があります。

30年前は、消費財ブランドとWalmartなどの大型スーパーはそれぞれ明確に独立した存在で、独自にビジネスを展開していました。しかし今では、Apple Storeのように、製品の流通と製造を同じブランドが行うなど、流通と製造を緊密に連携させているケースが多く見られます。こうしたイノベーションは今後も続くと考えられます。

現在の状況を乗り越えるのに役立つさまざまなコンテンツ、ツール、ヒントについてはこちらのページでも紹介していますので、ぜひご活用ください。

 

[本ブログ一番上で使用している画像: Flickr/Vestman]