近年、働き方改革は企業にとって喫緊の課題となっており、政府もさまざまな取り組みや支援を行っています。一方、働き方改革に着手したいと考えてはいるものの、実際にはどのような取り組みを行うべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

今回は、働き方改革によって何が変わるのか、政府がかかげる目的や具体的な取り組み、また、働き方改革の今後について解説します。
 

「働き方改革」が目指すもの

長時間労働や過剰な残業によって引き起こされる事件やトラブルが、ニュースで取り上げられるのを目にしたことがあるでしょう。強制的に、あるいは仕事が終わらないために自らの判断で残業を繰り返し、結果的に心身に支障をきたしてしまうケースは、これまで幾度も日本における働き方の課題として問題視されてきました。

一方、少子高齢化による「働く世代」の減少は、現代の日本にとって非常に大きな問題です。内閣府が発表した「平成30年版高齢社会白書」によれば、日本の高齢化率は世界で最も高く、2015年時点で26.6%。国際的に見ても著しく高く、世界2位のスウェーデンとは7.0%もの差があります。この傾向は、働き盛りの世代に「仕事と介護の両立」という難しい課題を背負わせることになり、ただでさえ減少が問題視されている労働力をさらに奪ってしまう一因ともなっています。

そんな状況を踏まえ、国会では2018年6月にいわゆる「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月より施行されました。政府は、働き方改革が目指すものとして「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」をかかげ、企業の働き方改革推進のためにさまざまな取り組みを実施しています。
 

実現に向けた具体的な取り組み

では、その具体的な取り組みについて、いくつか見ていきましょう。
 

・長時間労働の是正

働き方改革関連法の一つとして2019年4月に施行された改正労働基準法では、時間外労働の上限規制が導入されました。従来の36(サブロク)協定による残業時間の上限(1ヶ月45時間、年間360時間)に変更はないものの、行政指導のみで法律上の上限がなかった点を見直し、法律で残業時間の上限を定めました。法改正後の特別条項による残業は「1ヶ月100時間未満、複数月平均80時間、年720時間」を上限とし、これを超える残業ができないよう法律に明記されました。

同時に勤務間インターバルの実施が努力義務となり、終業時間から次の始業時間まで一定の休息時間を設定することが求められています。この制度は2020年までに導入率10%を達成することを目標としています。この勤務間インターバル制度などによって職場環境を整備・改善しよ
うとする企業に対しては、政府によってさまざまな助成金が用意されています。

・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

正社員と非正規社員の待遇格差を是正するために、政府は「同一労働同一賃金」の方針をかかげています。

日本の非正規社員の給与は正社員と比較して約60%程度。賃金格差は歴然としており、今後労働力の減少が確実視されている中、労働者全体の約40%を占める非正規雇用者の待遇改善は急務といえます。「同一労働同一賃金」は、従業員一人ひとりの待遇格差を解消し、自分の生活スタイルに応じた働き方が選択できることを目標としています。

・柔軟な働き方がしやすい環境整備

現代は生活スタイルが多様化しており、社員がおかれている背景や立場もさまざまです。そのため、朝オフィスに出社し夕方まで働いて帰宅するという従来の定量的な働き方にこだわることなく、時間や場所を問わずに柔軟な働き方を可能とする環境整備に取り組む企業が増えています。

たとえば、コアタイム以外の出社時間を社員が自らの判断で調整できるフレックス制度を採用すること、週休3日制を導入することなど、新たな働き方が企業の施策により次々と生み出されています。

中小企業庁が発表している資料によれば、2060年には日本の生産年齢人口(15~64歳)は4,800万人となり、2015年の7,700万人に対して約60%の水準にまで低下することが予測されています。今後加速度的に減少していくであろう労働力を確保するためにも、社会に参加しやすい環境づくりは一層重要になっていくのです。

・ダイバーシティの推進

ダイバーシティとは、国籍、性別、年齢などを問わず、多様な人材を積極的に受け入れ活用しようとする考え方です。幅広い背景の人材を受け入れることで、斬新なアイディアの創出や優秀な人材の確保、多様化する社会のニーズに対応していく目的があります。経済産業省では2018年に「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を公表しており、企業の経営戦略としてのダイバーシティ経営を推進する施策を行っています。

・賃金引き上げ、労働生産性向上

厚生労働省は2017年に策定した「働き方改革実行計画」に基づき、年率3%程度を目処として最低賃金を引き上げていく方針を定めています。最終的には全国加重平均で1,000円に達することを目標としており、これを達成するために、中小企業や小規模事業者に対して労働生産性を向上するための支援を行っています。

具体的な支援の内容としては、事業内最低賃金を引き上げた事業者に対して助成金を支給する、働き方改革支援センターを立ち上げて業務改善に関する相談支援を行うなどの取り組みが挙げられます。

・再就職支援、人材育成

年齢を問わない転職や再就職が推奨されており、再就職支援や人材育成のための施策も広く行われています。中途採用や早期雇い入れを行った事業者に対する助成金の支給や、就職に向けた職業訓練などの人材育成を充実させる試みによって、職を求める人への早期就職支援や、高い技能を有した人材を育成することを目的としています。

・ハラスメント防止対策

長く働ける社会を実現するためにはハラスメント対策も重要です。政府は深刻化するハラスメント対策の指針として「職場におけるハラスメント対策マニュアル」を発表しており、企業に防止策を講じるよう促しています。2020年6月には、法的にパワーハラスメントを抑止するパワハラ防止法(労働施策総合推進法)が施行されました。
 

働き方改革がもたらす変化とは

働き方改革によって、個人のワークスタイルには大きな変化がもたらされています。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の選択肢が生まれることで、誰もが自分にとって最適な働き方を選択できる社会が実現し、労働に対する満足度を向上させることができるようになります。

また、仕事に起因する心身の病気やケガを防ぎ、人生100年時代に向けて長く安心して働ける環境を構築することにもつながります。
 

働き方改革の課題

働き方改革の取り組みにおいては、企業と社員の双方がいくつかの課題を抱えています。企業にとっては、残業時間に上限が設定されることにより、必要な利益を確保できるだけの仕事をスケジュールどおりに進められなくなる恐れがあります。また、同一労働同一賃金によって非正規雇用の人件費が増大し、経営面での負担が非常に大きくなることも考えられます。

一方、社員にとっては、労働時間の減少による収入の減少が予想されるでしょう。また、残業時間を抑制するために家に仕事を持ち帰るなど、会社の記録に残らない労働を助長してしまう危険性がある点にも注意すべきです。
 

今後はテレワークや個人の労働生産の向上がカギになる?

近年はテレワークなどの新しい働き方が少しずつ定着し、子育てや介護で自宅を離れることができないなど何らかの事情を抱えている人たちでも、社会の一員として誇りをもって働くことができる環境が広がりつつあります。企業にとっても貴重な人材を継続的に確保することが可能となり、双方にとってメリットが大きい流れが生まれつつあります。

今は、やみくもに長時間労働することを評価するのではなく、いかに効率良く質の高い仕事をするかが重視される時代です。企業は働き方改革によってさまざまな観点から自社の環境改善を行い、社員の労働生産性を高める努力をすることが大切です。個人が持つ能力を最大限に発揮できる環境を作ることが、ゆくゆくは企業にとっての利益につながります。

また社員は、企業が用意した環境を生かして自己研さんを積み、仕事をする上で自分がどういった価値を生み出すかを考えて、積極的に「仕事の質の向上」に努めることが大切です。

企業が環境を整え、社員が最大限の能力を発揮することで、結果的に双方のエンゲージメントが高まり、大きな利益を生み出すことにつながるのです。