新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、社会・経済に世界規模で及ぼした影響は計り知れません。私たちの暮らしやビジネスは、「ニューノーマル」と呼ばれる新しい日常へと強制的に変革されつつあります。ニューノーマル時代に生活者の意識や行動はどう変わるのでしょうか。そしてマーケティングはどう変わるべきなのでしょうか。今回は、株式会社電通が実施している様々な調査をもとに、COVID-19インサイトからのビジネスのヒントをご紹介します。

著者は、株式会社電通 ​第1統合ソリューション局 ソリューション ディレクター​ 大島聡氏です。

 

ⅰ. ニューノーマル時代の生活者

電通が独自に実施しているインサイトトラッキングの例として次の3つを紹介します。生活者へのヒアリングを通じてCOVID-19緊急事態宣言前後の意識の変化を追い、日米で意識の比較を行うとともに、COVID-19影響下におけるコミュニケーション施策の事例を収集。これらの調査に基づき、「ニューノーマルによって生活者に起こる4つの変化」を考察します。

◎ ディープインサイト調査:
生活価値観の変化を様々な角度から捉えて深掘りする国内の定点調査

◎ 生活意識ナビゲーター:
定点調査結果の日米比較が可能、時事トピックスとの関係性も把握

◎ ASC News+:
施策プランニングのヒントを得るための海外を中心とした事例集

 

①意識の変化:Self-disciplined 「自主性・自律性」の獲得

仕事や学習・遊びの場がオンラインに移行したことで、時間的・空間的に自由度が高くなり、自分のペースやタイミングで自らの行動を選択できるようになります。行動選択の主導権が生活者側に大きく傾く中で、生活者自身の「自主性・自律性」が問われるようになり、社会全体で意識改革が進みます。ただし、その自主性・自律性獲得の過程には、様々な葛藤やストレスがあり、その中でセルフマネジメントを始めとした様々なニーズが生まれてくるでしょう。

  • ワークライフミックス:仕事とプライベートの時間的空間的境界が曖昧になり、セルフマネジメントが重要に
  • Educationから Learning へ:学習は生徒側に主導権がシフトし、「教え方」ではなく「学び方」が焦点に
  • 脱“フレイル・サイクル”:通勤・通学などの無意識的な運動習慣を失った人々に自発的な運動機会創出が重要に

 

②行動の変化:Real- time & Real-space 「実時間」 「実空間」への執着

生活にまつわる幅広い領域でオンラインへの移行が進み、他人と同じ「空間」を共有する機会が著しく減少する中で、他人と「実時間」を共有する“共時性”の高い体験へのニーズが強まり、デジタルネイティブであるティーンを震源地として新たな体験が次々と生まれてきます。また、居住空間などの、オンラインで代替できない「実空間」に対する関心も高まり、生活環境の充実志向が加速。物理的制約のある“自宅”という「実空間」を舞台としたソリューションが加速度的に広がります。

  • ただつながるだけではない、“共時性”の強いやりとりがあるコンテンツに夢中になります
  • 自宅内での時間を充実させる、あるいは時間を生み出してくれるアイテムへの需要増
  • おうち時間に非日常をもたらす“イベント”としての食事の広がり
  • 他人と空間の共有が減る中で、仲間との時間をつなぐインターフェースとして役割を高めるでしょう

 

③目的の変化:Selfish & Altruistic 「利己+利他」の増幅

他者とのソーシャルディスタンシングや不特定多数の集団行動の消滅といった環境変化や、オンライン化によって生じた“つながりのオンデマンド化”によって、今まで以上に自我が強くなります。また、コロナ禍による生産者や事業者の苦境を目の当たりにしたことで、自身の購買が他者の生活を支えていることを強く認識。それによって、自分の気持ちにより正直に行動するようになると同時に、他者への影響・貢献をも意識して自らの行動を選択するようになります。これは、モノやサービスの選び方だけでなく企業への向き合い方が大きく変わることを意味します。

  • 消費行動では自分に本当に必要な機能を重視する傾向が強まると同時に、フードロスやエシカルなども考慮
  • 会社や所属にとらわれない、個々人の信頼関係やつながりに重きを置いた仕事意識
  • 購買が投票になることを自覚し、自身のだけではない利他的なベネフィットをも加味して製品・サービスを選択

 

④関係性の変化:Close to me, Direct to me, Flat to me 「自分との近さ」という基準

個としての意識の高まりや、防衛意識からくる見知らぬものへの警戒心の強まりによって、生活者は自分により近しく感じられるモノ・サービスを選ぶようになります。地元や近所といった“物理的距離”だけでなく、身内や知り合いなどの“心理的距離”の近い存在を重視した消費スタイルが拡大する。生活者とフラットな関係性を構築できるかどうかがモノ・サービスにとっての1つの関門となり、食品などの「トレーサビリティ」は、安全性だけでなく“心理的に近しく感じさせる”という意味でも重要な役割を担います。

  • 近くの飲食店やデリバリー利用が増加、自分の属するSNS やコミュニティへの応援消費も増加
  • エンタメの送り手と受け手のつながりが強固になり、送り手は受け手にとっての“自分より半歩先をいく存在”になる
  • 生活者は“本質”や“自分にとっての意味”に着目、より自分に合った快適なサービスを選択する

ⅱ. 変わる「マーケティング」

以上の考察から最も注目すべき点は、「個」の重要性がますます高まっていくことです。生活者は、自分自身と向き合い、自分自身にとっての意味を考え、自分自身が信頼する情報に価値を見出します。こうした変化の中で、マーケティングはどう変わるべきか、どこにビジネスチャンスがあるのかを3つの視点から考えます。

 

①多様な「個」に対応したマーケティング手法やサービス開発へ

まず、生活者の多様な「個」に対応できる手法を開発しなければなりません。COVID-19影響下において、生活者と企業の接点は、リアル(店頭・対面)からデジタル(EC・PCやアプリ)へと大きくシフトしました。実際に、2020年3月から5月にかけてECサイトへのアクセスが大幅に伸びており、ある大手家電量販店のECサイトでは4月のアクセスが前年比300%超を記録しました。

ここで注目すべきは、「多様な個の好み・需要」に応える形で、ECサイトにおける行動分析に基づく「One to Oneサポート」が加速したという事実です。企業が在宅勤務・リモートワーク導入を進める中で、「個」を尊重した働き方を模索していることにも注目すべきです。より柔軟な勤務制度への見直しやシェアオフィスの活用なども、社員に対する「One to Oneサポート」の一環と捉えることができます。

マーケティング手法も、「個」をセグメントして、多様な「個」に対応しなければならなくなります。ただし、「個」を重視したマーケティングは、COVID-19の有無に関わらず「D2C(Direct to Consumer)」の流れの中でトレンド化しつつあります。

たとえば、マスプロダクトを提供するメガブランドでは、ビジネス規模の拡大とともに「平均的なプロダクト」や「最大公約数を重視する戦略」を採らざるを得なくなっています。若い世代や尖った好みを持つ層にエッジの効いたプロダクトを提供できないジレンマを抱える中、「D2Cブランド」と呼ばれるプレイヤーの存在感が増しており、COVID-19影響下でこうした流れが加速することが予想されます。プロダクトも、マーケティング手法も、多様な「個」に寄り添ったアプローチへの変革が求められます。

 

②積極的なBrand Purposeの表明が必要不可欠

プロダクトとマーケティング手法が多様な「個」に対応(分散)していく中で、そのコアとなる部分で企業が何をしなければならないでしょうか。結論を言うなら、企業として「積極的なBrand Purposeの表明」が必要不可欠だと考えます。代表的な事例をご紹介します。

◎ Unilever/DOVE:
医療従事者への感謝と敬意を伝え、医療機関への自社製品の無償提供を表明

◎ Apple:
クリエイティビティは続いていく、不変の想像力で世界を楽しくすることを提案

◎ Ford:
生産ラインの変更を行ってまで、国民や医療従事者を支援していくことを表明

◎ NIKE:
COVID-19と同時に巻き起こっている社会問題に対して、いち早く、毅然とした企業姿勢を表明

これらは、企業によるBrand Purpose表明の手法として注目すべき事例だが、生活者や企業が「COVID-19などの社会問題に対して動かない企業に毅然とした姿勢で臨む」といった一面も明らかになっています。トランプ大統領のツイートを不適切と判断して削除したTwitterに対し、Facebookはこれを静観したため一部のクライアントの支持を失いました。

社会・生活者の企業に対する期待、それを評価する視点はより厳しさを増していることは明らかです。企業の存在意義、事業やブランドが提供する価値を再定義することが「With~After COVID 19」の出発点になると考えます。そして、企業は今こそBrand Purposeを積極的に表明していく必要があるのです。

 

③大きなビジネス(営業)チャンスとなるインダストリーはこれだ!

「ニューノーマルによって生活者に起こる4つの変化」で考察した通り、消費はデジタル化へ、投資は自分自身へ、家の中での暮らし重視へ、といった方向に向かっています。社会・生活者のインサイトを捉えたとき、多様な「個」に対応しなければならないという現実が、新しいマーケティング手法やサービスの開発を促しています。その実践には、積極的なブランドパーパスの表明が不可欠だ。そして、社会と消費者の流れから逆算してインダストリーの未来予想図を描きながら、ビジネスとマーケティングを考えていく必要があります。

生活者の価値観や行動変化を起点に考えたとき、チャンスがあるインダストリー/サービスには次のようなものがあります。

◎ 消費のデジタル化:
通信、EC、サブスクリプション、モバイルオーダー、キャッシュレス決済サービス

◎ 自己投資と自己管理:
教育、スキルシェアビジネス、ヘルスケア、健康食品・飲料

◎ イエナカの充実化:
リノベーション/リフォーム、ホームセンター、インテリア、家電、宅配/デリバリーサービス

まとめ:変わる「マーケティング」

◎ 多様な “個 に対応したマーケティング手法やサービス開発へ

◎ 積極的な Brand Purpose の表明が必要不可欠

◎ 社会と消費者の流れから逆算して、インダストリーの機会を見極める