
Leading Through Change - いま、私たちができること。-
新型コロナウイルスの影響を受け、多くの企業が事業継続のために軌道修正とイノベーションを余儀なくされています。たとえばAmazon社では、オンサイトのテストラボを立ち上げ、急増する注文に対応できるようスタッフの強化を図っています(詳しくはこちら(英語))。農業機械メーカーのJohn Deere社は、倉庫チームのために新たな安全対策を策定しています。(詳しくはこちら(英語))。また、複数のワイナリーがオンラインテイスティングを実施(英語)し、こちらの記事(英語)のスパイスメーカーのように、まったく新しいターゲット市場を見つけるために事業内容を大きく転換した企業も数多くあります。
大企業でも、独立系の小規模小売店でも、この困難な状況を乗り越えるためのイノベーションが必要になっています。今回のブログでは、ベストセラー本『キャズム』の著者で、マーケティングコンサルタントやイノベーションエキスパートとしても尊敬を集めるジェフリー・ムーア氏が提唱する3つのイノベーションモデルを紹介します。
ここからは、ムーア氏のインタビューのなかから一部を抜粋してご紹介します。なお、今回のブログ記事に合わせて内容を編集してご紹介しています。
すぐにイノベーションの効果が得られる方法が3つあります。1つは「差別化」です。まったく新しい何かを生み出し、その素晴らしさを喧伝して、購買意欲をかき立て、取引を促進します。これは、iPhoneがNokia社のスマートフォンに対して行った戦略です。そう簡単にできる方法ではありませんが、実践したときの効果は絶大です。多くの場合、特に一定の地位を確立している企業の場合は、差別化ではなく、他社との違いを「中和」するイノベーションが適しています。この2つ目の方法は、自社の製品やサービスと、他社のイノベーションとの差を縮める戦略でもあります。
私の著書、『ゾーンマネジメント〜破壊的変化の中で生き残る策と手順』では、その実例として、Microsoft社のクラウドコンピューティングサービスであるAzureを取り上げています。最初にクラウドコンピューティングを活用して差別化を行ったのはAmazon社でした(2006年にElastic Compute Cloudのサービスを開始)。しかし、Microsoft社は信じられない速さでその差を中和しました。Microsoft社が短期間で復活を果たし、Azureの導入件数を伸ばしたことで、Amazon社とMicrosoft社の2社で市場を独占する状況が生まれました。中和において重要なのは、ある程度速いスピードで物事を進めることです。何かをゼロから作り出す必要はありません。ただ模倣して、同じ土俵に上がればいいのです。これこそ、Google社がAndroidで成功し、Nokia社がSymbianで失敗したことです。
残る1つは「最適化」です。現時点で画期的な代替策がなくとも、コストを抑え、できる限り安い費用で同じことを実現するやり方のイノベーションです。
ベンチャーキャピタルの支援を受けているスタートアップ企業は、他社との差別化に力を入れる必要があります。今は差別化を図るのに絶好のタイミングです。それに対して、一定の地位を確立しているSalesforce、Cisco社、Accentureなどの企業は、今は中和に力を入れ、後れを挽回するタイミングだと考えているはずです。また、多くの中小企業がそうであるように、今大きな苦境にある場合には、損失を食い止める手立てを講じるだけでも、最適化のイノベーションになります。
ここまで3つの原則をご紹介してきましたが、重要なのは今すぐ取りかかることです。この3つはどれも有用ですが、難しい場合は1つだけでも大きな効果があります。
企業の計画はそれぞれ異なる [画像: Flickr/Kurtis Garbutt]
危機から回復するための道筋には、さまざまな形があります。短期間で復活を遂げるV字回復、長い時間がかかるU字回復、一見すると不況のように見えるL字回復などです。さらに、Y字回復と呼ばれるパターンもあります。このパターンは2つの部分から成り、そのうち1つの部分はデジタルに対応し、その強みを生かすことで急激な回復を遂げます。
ここで重要なのは、企業のリーダーとして、自社の業界に当てはまる回復パターンを見極めることです。そのパターンにもとづいて暫定計画を立て、今すぐその計画に取り掛かりましょう。ただし、読みが間違っている可能性も常に頭に入れておく必要があります。いつでも軌道修正できる柔軟性を持つようにします。有事のときにはスピード感が非常に大切です。
計画どおりに進まなくなったことで、今年のパフォーマンス目標に大きな遅れが出ています。こんな時は小さな利益をできるだけ多くかき集めて、少しでも遅れを取り戻そうと考えがちです。しかし、そうしたやり方は優先順位を間違えています。
大きな痛手を受けたときには、パフォーマンス目標をひとまず脇に置き、復活するためのパワーを取り戻すことを考えましょう。パワーの指標はパフォーマンスの指標とは大きく異なります。そのためには、どこで顧客からの支援を受けられるか?どこで新しいエコシステムを構築したり、既存のエコシステムを強化したりできるか?どうやって土俵に立ち戻るか?といったことを考える必要があります。パフォーマンスの埋め合わせをするのではなく、パワーを取り戻すことを目標にして、優先事項を見直しましょう。それが何よりも大切です。
リアクション型の対応は、パフォーマンス第一の考え方に戻ったときに問題になります。目標となるパフォーマンスは、昨年から今年にかけての流れを基盤としたものですが、すでにその基盤がなくなっています。そのため、こう考えましょう。「今までになくパワーが低下しているので、基盤の再構築が必要だ。最初の原則に立ち戻り、顧客やエコシステムに奉仕しよう」。そうすれば、自然にパワーを取り戻すことができるでしょう。
ロイヤリティの高い顧客は一緒にボートを
漕いでくれるだろう [画像: Flickr/Chris Waits]
まず最初にすべきなのは、損失を食い止めることです。状況がある程度安定してきたら、こう考えるようにします。「今できる最善の成果を目指そう。しばらくは大きな成果が期待できないとわかっている。今の状況が今年いっぱい、悪くすれば来年以降も続くとして、どのような建設的な取り組みができるだろうか」。この問いかけに対する私の答えは、小規模なグループのなかで、より重要な存在になることです。
これはアメリカの大統領予備選挙で勝つことに似ています。ニューハンプシャー州の予備選挙で投票する代議員はそれほど多くありません。しかし、ここで勝って地域の支持を得れば、今後の予備選挙に向けて評価を高めることができます。この戦略の背後にあるのは、限られたエネルギーを分散させるべきではないとする考え方です。的を絞ることが大切です。企業の目標は、市場で大きなシェアを獲得することです。市場シェアに関しては、「企業に価値をもたらす程度に大きく、実際に勝ち取れる程度の小ささを目指す必要がある」というルールがあります。つまり、特定の地域に特化した戦略を立て、顧客基盤を構成する一部のセグメントに注目する必要があります。新規顧客を獲得することよりも、既存の顧客に目を向け、関係を強化することを考えてください。
このやり方で結果を出した、一番わかりやすい例がApple社です。1997年にスティーブ・ジョブズ氏がApple社に復帰したときのことを覚えているでしょうか。当時、Apple社は市場シェアが2~3%しかない、ただのパソコンメーカーでした。それでも、信じられないほど忠実で熱狂的なファンが存在し、出版デザインやプレゼン資料を作成するマーケティング担当者など、いわゆるグラフィックアーティストたちが、Apple社を強く支持していました。ジョブズ氏は、このたった3%のファンを基盤にして会社を再建しました。これは非常に効果のあるやり方です。ファンを同じボートに乗せ、一緒に漕いでもらうことが非常に重要になります。
企業は新しい日常を受け入れ、ともに作り上げていく必要があります。ビジョン、価値観、ミッションが明確に定まっていれば、それほど難しい課題ではありません。こうした価値観が中心にあれば、ミスをしても、それを前向きに捉えることができます。顧客とパートナーもそれを理解し、軌道修正に力を貸してくれるはずです。
それとは逆に、恐怖にかられて利己的な振る舞いに走る人もいます。家賃の支払い猶予を一切認めない家主などがそうです。間違った方向に進んでしまっていて、賢明な判断とは言えないでしょう。
安全を確保し、賢く行動しましょう。今は誰もが精神的に消耗しています。私からの最後のアドバイスは、「体調が悪い日は仕事を休み、出社を控えよう」です。実際のところ、出社した方が状況は悪くなります。自分を大事にしてください。1日か2日休み、それから復帰すればよいのです。
今回のブログは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機を乗り越えるための企業のあり方についてジェフリー・ムーア氏に聞いた3回シリーズの最終回です。第1回の「今こそ企業のビジョンと価値を大切に」と第2回の「ビデオ通話は2020年以降も社会に大きな変化をもたらす」も併せてお読みください。
現在の状況を乗り越えるのに役立つさまざまなコンテンツ、ツール、ヒントをWork.comで紹介していますので、ぜひご利用ください。
[サムネイル画像: Flickr/Rawpixel LTD]