企業の規模を問わず、コロナ禍の影響によって世界中で「新たな働き方」を余儀なくされている。しかし、すぐさまリモートワークなどを導入した大企業と、デジタル化がなかなか進まない中小企業では「コロナ格差」が生まれる可能性が高い。

今まで常識だと思われていたことが覆り、前提条件が変化した今、ビジネスパーソンが押さえておきたいコロナ禍によって生まれる変化とは何か。また、日本企業の99.7%を占める中小企業はどのように変わっていくべきなのか。

経済界屈指のビジョナリスト、山口周氏にスモールカンパニーがwithコロナ時代を生き抜くためのヒントを聞いた。

 

働き方は「No Normal」な時代へ

 

──コロナ禍で働き方は大きく変わりました。山口さんは、これからの働き方はどう変わるとお考えでしょうか。

 

世界中で今までの働き方に関する常識はオールリセットされました。私が感じる「変化」は大きく9つあると考えているので、まずはそれらをお話ししたいと思います。

“山口周が考えるコロナ禍がもたらす「9つの変化」”

 

リモートワークが急速に進み、物理空間で行われていた仕事が仮想空間にシフトしました。

リモートワークを歓迎する声は多く、かつての状態に完全に戻るとは考えにくいので、今後の会社選びの重要な要素に「週に何日出社する会社なのか」が加わると思います。

働き手が働く場所を主体的に選べる社会では、毎日出社を求める企業は採用マーケットで不利な立場になるでしょう。

 

 

仕事の場が仮想空間に移ると、仕事に求められる能力も変わってきます。

特にマネジャーの場合、いつでもその場で部下とのコミュニケーションが取れていたのが、仮想空間ではスケジュール管理や個人の能力の見極めなどが、極めて難しくなるはずです。

 

 

仮想空間でもスケジュールをコントロールでき、メンバーに仕事を任せられるマネジャーなら部下のパフォーマンスは上がりますが、逆の場合は組織が崩壊します。

また、モチベーションが高い人はいつでも仮想空間に戻って仕事ができるからパフォーマンスは向上しますが、モチベーションが低い人は簡単にサボるようになります。

監視できない仮想空間では、モチベーションマネジメントもポイントになるでしょう。

 


 

仮想空間では、日本人が得意としていた「空気を読んで忖度する意思決定」が少なくなります。

今までは、「上手に忖度する調整さん」が出世していたかもしれませんが、これから求められるのは、本当に意味のある意見を出せて、正しい意見は何なのかを判断できる能力。

これが評価を左右することになるので、出世する人のタイプが変わってくるかもしれません。

 

 

今まではオフィスに通勤できる場所に住むのが当たり前でした。

それが、週に数日の出社が当たり前になると、地価が高い都市部にわざわざ住む必要がなくなり、会社から新幹線や飛行機で1〜2時間の場所に住むことが可能になるでしょう。

「これが当たり前」という働き方はなくなり、自分がどういう生き方をしたいかに沿った仕事や会社を選べるようになるので、自分に適さない会社を選ぶ人はいなくなるはずです。

 

 

現在、ホワイトカラーの企業はほとんどが都市部に存在しますが、働き手のライフスタイルに合わせて、どんな働かせ方をしたいかを考える必要があります。

「社員は家族だ」と考える会社は、週5日物理的に会うことが大切な価値観でしょうし、週1日や2週間に1日の出社でいい会社は、社員それぞれの生き方を大切にする価値観だと思います。

そういった、会社の哲学を前面に出すことが求められるようになります。

 

 

「今の会社で働き続けたい理由」のトップは、「人が好き、職場の同僚が好き」といった人間関係に関する答えでした。

でも仮想空間では人との物理的接触がないため、仕事そのものの魅力や、会社が成し遂げようとしていることへの共感が仕事選びの要素に変わります。

昨今、ミレニアル世代を中心に、ミッション・ビジョンやカルチャーを重視して仕事を選ぶトレンドはありますが、一気にそれらの要素の重要性が高まるはず。

ランチや飲み会で社員のモチベーションやエンゲージメントを高めていた会社は、いかにして社員が夢中になれる仕事を作れるかが課題になります。

 

 

会社の研修やコーチング以外にも、若手は上司の立ち話や電話での会話から日々学習をしていました。でも仮想空間ではそれがほとんどなくなるため、学習機会が大幅に減ります。

すると、自ら学習できる人はいいのですが、格差を拡大させないためには会社が積極的に介入する必要が出てきます。

 

 

物理的に人と会って会話することで、精神のバランスを取っている人は相当数います。でもそれがなくなって仕事の場と住空間が渾然とすると、仕事から逃れるのが難しくなっていく。

孤独耐性が低いと仕事や職場の満足度も低下するため、ケアが必要になるでしょう。

これからの働き方にノーマルはなく、「No Normal」な時代が始まります。組織やリーダーシップ、マネジメントの“常識”はなくなるので、その前提で働き方や仕事のやりがいなどを改めて考える必要があるのです。

 

大企業の労働力をギグワーカーとして取りにいく

 

──こうした変化が起きる中で、企業はどのように戦っていけばいいと思いますか?

 

今後の経営を考えると、労働人口が減少するなか新たな働き方の実践が重要になるので、採用戦略の重要性はより高まると思います。

その側面で考えると、大企業は一部採用中止になった企業はありますが、オンライン選考など工夫を凝らしながら、引き続き人材獲得競争で戦っていくことになるでしょう。

 

 

一方で、中小企業はコロナ以前と同様の打ち出し方では採用マーケットで弱者のままです。

そこで必要になるのは、「若い頃からやりがいのある仕事を任される」「夢中になれる仕事がある」「通勤や就業形態の自由度が高い」といった大企業にはない魅力を作れるかどうか。

たとえば「下町ロケット」のように、小さな町工場だけど先進的で、若手がプロジェクトリーダーを任されるような会社は魅力的ですよね。

大企業では、自分のやりたい仕事を自分の裁量でやるには時間がかかるかもしれませんが、中小企業はやりやすいはず。こうした大企業では難しいことを「私たちの特徴」として発信すると良いでしょう。

また、ミッション・ビジョンが明確であることも重要です。今まで多くの中小企業ではミッション・ビジョンが語られないまま、待遇面や人の良さなどをアピールしてなんとか社員を獲得していたと思います。

でも、自分たちの会社は何を大事にしていて、何を成し遂げたいと思っているのかを明確に示し、「一緒にやりたい人、この指とまれ」の掛け声を発してみる。

その声に反応してくれた人は、ビジョンに共感しているから報酬が低くても幻滅しませんし、辞める選択肢を取りにくくなります。

ただ、ビジョンに共感した人は自立性を持って働きたがるので、マイクロマネジメントではなく、管理する側もされる側もリモートマネジメントが求められます。ここには何らかの仕組み、ツールが必要になるでしょうね。

 

──やりがいある仕事を提案できたら、採用マーケットで有利になる可能性がある。

 

そう思います。むしろ、コロナ禍でリモートワークが一気に浸透したので、これから兼業や副業が進むはず。その流れを生かすのも一つの手です。

その中で私が提案したいのが、大企業のギグワーカーとのコラボレーションです。

先日、ヤフーが「ギグワーカー」を募集して話題になりましたが、兼業や副業が一般的になると、労働マーケットにおける労働供給量が単純に倍になると考えられますよね。

 

 

ギャラップ社のエンゲージメントサーベイで、「大企業で働く9割以上が自分の仕事にやりがいを感じていない」という結果が出ているように、9割以上は仕事が面白くなくても、安定した収入が欲しいと考えて働いています。

となれば、中小企業はその「優秀だけど仕事が面白くなくて燃焼しきれていない大企業の労働力」をギグワーカーとして取りにいけるチャンスが到来したとも言えるのです。

これは、母数としてある程度の大企業が兼業・副業を認めてくれないと成り立ちませんが、大企業、中小企業どちらにもメリットがある仕掛けだと思います。

 

 

安定性を担保した人が求めるのは「不確実性」

 

──大企業の人が中小企業の副業に興味を持つでしょうか?

 

副業の内容次第では興味を持つと思いますよ。というのも、恵まれた人や富裕層ほど、不確実性やランダムさを好む傾向にあるんです。

たとえば、貴族は趣味としてハンティングやセーリング、ガーデニングなどを好みますよね。

ハンティングは動物がいるかわからないし、セーリングは波や風が読めないなど、不確実性とリスクがある。日本でも富裕層はヨットを持っているイメージがあるでしょう。

同じように、大企業で安定性を担保している人たちが求めているのは、不確実性です。

人は、安定した収入があって、この先のキャリアや人生が見通せてしまうと「この先の人生で何も起こらないのではないか」と不安や、退屈さを感じるようになるものです。

日本はあまりにも確実性が高いので、ゲームに不確実性を求める人が多いのですが、中小企業が「自分たちだけでは解決できないけれど、大企業の人たちと一緒に考えれば解決できるかもしれない提案」をしたら、大企業の安定を担保している人たちには魅力に映るはず。

しかも、転職ではなくギグワーカーなら、参加するハードルがぐんと下がります。

チャレンジングなプロジェクトが成功したら収益を山分けできるとなれば、「大企業の安定した仕事」と「中小企業のチャレンジングな仕事」を組み合わせる人が増えるかもしれません。

 

 

安定性を担保した人が求めるのは「不確実性」

 

──中小企業の経営状況を伝えて、さらに成長させていこうとアピールすることも、一つのオファーになるわけですね。

 

そうです。これまでは、できるだけ待遇を良くして安定性をうたって、プロパー社員の獲得に奔走してきたと思います。

でも、プロジェクトベースで手伝ってもらい成果を山分けする「ギグワーカー」の獲得に発想を転換すれば、今まで採用マーケットにいなかったような、大企業で仕事にやりがいを感じないけれど転職もできない人に出会える可能性が高い。

ただ、ここで重要なのは、当然ながら面白いテーマを設定しないと人が集まらないということ。

たとえば、Linuxの開発には世界中から約1万人の優秀な開発者が集まって、無報酬のギグワーカーとして関わっています。

なぜ無償で開発しているかというと、このOSができたらすごいとワクワクしながら不確実性を楽しんでいるからなんです。

 

──Linuxのように、人の心を動かすプロジェクトはどのように作ったらいいでしょうか。

 

面白いテーマを作るにはセンスが必要で、そのためには世の中を見渡すほかありません。

今の日本は、課題らしい課題がほぼ解決されているので、大事になるのは課題の発見力です。一見すると満たされているようで満たされていない課題を発見する力を養う必要があります。

また、お題の見せ方とインセンティブの与え方には工夫が必要で、ゲーミフィケーションの要素を入れると良いでしょう。特にインセンティブは“賞金稼ぎ”のような構造にすると面白いと思います。

とはいえ、企業の10年生存率が1割にも満たない日本で、規模は小さくても10年、20年と継続している中小企業に、面白いテーマがないとは思えません。

生き残っているのには理由があるはずだから、ぜひ追求してほしいですね。

 

 

中小企業のデジタル化は避けられない

 

──ギグワークは基本的にリモートの副業なので、中小企業がギグワーカーを増やそうと思ったら、今まではなかなか進まなかったデジタル化が一気に進みそうです。

 

中小企業がなぜリモートワークに切り替えることができなかったのか。

それは社内の業務が主にアナログであることも要因だと思いますが、デジタル化されてもリモートワークに適していない仕組みになっていることも大きいと思います。

ギグワーカーを増やすためには、リモートワークに適した仕組みにする必要があり、その前提で今後デジタル化を推進するのであれば、やはり「クラウド」の選択は外せないポイントです。

たとえば、クラウドの先駆けと言えるセールスフォース・ドットコムのソリューションのような仕組みを全社のプラットフォームとして導入すれば、従業員はPCやモバイルがあればどこでも仕事ができます。

さらに、リーダーやマネジメント層にとっては、いつでもどこにいても売り上げ状況や案件状況、お客様の最新情報、従業員のパフォーマンス、生産性を上げるための従業員エンゲージメントの仕組みなど、包括的にビジネスを推進する経営基盤として活用できるメリットがあります。

物理的に人が集まれない世の中では、テクノロジーの導入は避けられない課題です。

コロナを機に、中小企業のデジタル化が一気に進み、日本全体の底上げにつながればいいなと思っています。日本企業の99.7%は中小企業。中小企業が元気にならなければ、日本全体の底上げは難しいですから。

 

(制作:NewsPicks Brand Design 構成:田村朋美 取材・編集:木村剛士 写真:的野弘路 デザイン:月森恭助)