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コロナ禍を通じたファイナンシャルアドバイザーの役割の変遷とDX

コロナ禍を通じたファイナンシャルアドバイザーの役割の変遷とDX

新型コロナウィルスの感染拡大は、富裕層顧客の行動にどのような影響を与えたのか、また顧客の変化に伴いフィナンシャルアドバイザー(FA)にはどのような対応が求められるのか、本ブログではコロナ禍を通じたFAの役割の変遷とDXについてご紹介します。

コロナ禍を契機に、ビジネスの世界では激変といってよいさまざまな変化が起きていますが、金融業も、その例外でありません。その変化を担う役割の一つが、新たなテクノロジーの利用促進です。金融庁も、その「行政方針」(2020年8月)で、「デジタライゼーションを取り入れた先進的でより良いサービスの開発・提供により、利用者に大きな利便性がもたらされ得る。くわえて、金融機関を含む事業者にとっても新たな収益機会が生まれ、それが更に利用者利便の高い新たな金融サービスの創出につながるという好循環が生まれること」に期待を表明しています。 また、新型コロナウィルスの感染拡大は人々のライフスタイルを大きく変化させましたが、消費者の投資における関心や行動にも様々な変化をもたらしました。新型コロナウィルス感染拡大による株式市場の乱高下、将来不安により、投資のアドバイスを求める顧客からの相談が急増しています。これまで対面チャネルをメインにしてきた日本のウェルネスマネジメントにおいても、面談やオンライン面談予約に、デジタルチャネルの利用が顕著に増加しています。 日本総研によれば、欧米金融機関のウェルスマネジメント部門の預り資産残高は、本年1~3月期は株価下落に伴う時価評価の低下を主因に大幅に減少しました。この期間の顧客のポートフォリオも、相当毀損していたことが想像されます。ただ、残高ベースの手数料収入こそ、大幅減収となったものの、低金利環境下で富裕層の資産運用ニーズは底堅く、加えて、コロナ禍による将来への不安や不確実性の高まりから、新規資金流入は高水準で推移しています。 デジタルネイティブ世代である顧客層が増加するなか、コロナ禍により伝統的な対面でのコミュニケーションが困難になったことを受け、欧米の金融機関はオンライン面談等のデジタルツールの導入を加速させています。一方、店舗事務などの間接業務は、ペーパーレス化や事務集中など、オペレーションを効率化することで、店舗の行員・社員の一部を資産運用の相談員に配置転換するなど、人材のシフトが起きていています。

顧客のデジタルコミュニケーションへの期待

ウェルスマネジメントの領域ではコロナ以前から顧客のデジタルコミュニケーションに対する期待が高く、アドバイザーによるコミュニケーション手段に満足していないという傾向が見られていました。ある調査では、ウェルスマネジメント会社が提供するモバイルアプリケーションの満足度は30%という結果が出ています。また、別の調査では、アドバイザーがクライアントとのコンタクトにデジタルチャネルを利用することが、投資の増加と密接に相関している、という結果も出ています。メールやテキスト、オンライン、ビデオなどのデジタルコミュニケーションを頻繁に使用するアドバイザーの方が、そうでないアドバイザーと比べて、クライアントからの預り資産が50%程度まで高くなる傾向もあるということです。 グローバルの金融機関ではかねてから富裕層の顧客向けのサービスにおいて、Salesforce を活用して非対面チャネルを充実させ、顧客の選好や都合に合わせて対面でのサービスと非対面でのサービスを選択させたり、顧客のセグメントによって対面/非対面のチャネルミックスを使い分けています。

コロナ禍での富裕層の関心の変化とアドバイザーの役割の変遷

では新型コロナウィルスの感染拡大は、生活者としての富裕層顧客の行動にどのような影響を与えたのでしょうか。顧客はコロナ禍を体験することで、これまで以上に自分の健康を気遣うようになり、自分の財産、金融資産やそのほかの金銭問題を整理することの緊急性を感じるようになっています。健康とウェルスマネジメントの関係性が高まることは、アドバイザーにとっては、顧客との関係性を深める絶好の機会になっていると言えます。これを顧客視点から見ると、自分の人生に寄りそって一緒に人生のゴールに向けたライフプランを立て、そのプランに基づく資産運用の相談意向がますます高まっており、これまで以上にゴールベースアプローチの導入が進んでいます。加えて、欧米のウェルスマネジメントの顧客は、ライフプランをベースに、そのゴールを達成するために適切な投資行動の継続的で分かりやすいコーチングを求めるようになってきており、ゴールベースアプローチが、さらにコーチングアプローチへと発展してきています。 背景にあるのは、顧客がアドバイザーと一緒に立てたプランが、コロナというブラックスワンの登場で見直しを余儀なくされている今の環境です。株価の急落と乱高下、景気見通しの不透明感、さらには顧客自身の事業の将来や自身の健康への不安、こういう動揺する顧客に寄り添うコーチングがファイナンシャルアドバイザーのサービスにおいて今までにない大きなウェイトを占めるようになってきています。このような「ファイナンシャルライフコーチ」の役割をできるだけ多くの顧客に提供するためのテクノロジーが重要な役割を果たすようになってきているわけです。 コーチングアプローチとは、一言で言えば、厳しい現実に直面した顧客が安全と感じる雰囲気を用意し、場合によりいったん喜怒哀楽を自由に表現させたあと、顧客を冷静な対処法に導くことです。顧客の能力に合わせてアイデアを出し合いながら、プランを組み替えたり、選択肢を示して、顧客の選択を手助けします。顧客との連帯感を高めながら、顧客にフラストレーションや不確実性を、あらかじめ受け入れてもらいます。

アドバイザーの役割の変化にともなう必要なテクノロジーの変化

ウェルスマネジメントは、これまで、「取引ベースからリレーションシップベースへ」と変化を遂げてきました。そして、Salesforce Financial Services Cloud(FSC)はその変化をテクノロジーとして手助けしてきました。さらにコロナ禍後、ますます強まっている顧客の声として、次のものが挙げられます。

  • スピード感の重視 – 「すぐにやって」
  • 全体感に立つ助言 – 「投資リターン以外にも知りたいことがある」
  • データ重視 – 「数字で示して」

これに応えるため、ファイナンシャルアドバイザーに求められるのは、次のものです。

  • 専門性 – 顧客を深く知ったうえで行う金融の専門家ならではの助言
  • 誠意 – 顧客の気分やプレッシャーにも配慮した支援
  • 即答力 – 質問や要望に即答できるような事前準備

この結果、コロナ禍後のファイナンシャルアドバイザーの役割の重点は、投資助言の提供から、顧客を啓発して金融や人生についての顧客の決断の背中を押してあげるコーチングへとシフトしているわけです。顧客の自主性を尊重しながら、ここぞというとき、人間味のある専門性を発揮できれば、申し分ありません。 「ファイナンシャルライフコーチ」というビジネスモデルを提供するために、ファイナンシャルアドバイザーは、AIや、マーケティングキャンペーンに対する反応、非対面から得られるインサイトなどを駆使できるCRMで情報武装する必要があります。かれらが「より情報武装したファイナンシャルアドバイザー」と呼ばれるゆえんです。

米国金融機関の事例

米国の某大手銀行グループのウェルスマネジメント会社(以下A社)はSalesforce を活用していらっしゃいます。A社のファイナンシャルアドバイザーは、Salesforceのテクノロジーを装備し、ファイナンシャルライフコーチとしての役割を、多くの顧客に提供しています。 A社では、Salesforce の金融機関向けCRM、Financial Services Cloud(FSC)を採用して、顧客に関わる包括的な情報、顧客360度ビューの情報を把握し日々の業務をおこなえるようにしました。このために、様々なデータベースに散在していた顧客に関わる情報をFSC に統合しました。また、このFSCと連携しAIが組み込まれている分析機能である、Tableau CRMを用いて、FSC の情報をさらに実用的なインサイトに変えて、アドバイザーがより深く顧客を理解し、必要なタイミングで即座にアクションを取ることを可能にしています。 顧客の要求は、彼らの金融資産が現在どのような状態にあるかを理解することから、業界についてのかなりあいまいな質問までさまざまです。しかしながら、以下の理由から、ファイナンシャルアドバイザーがこれらの要求を満たすことはますます困難になっていました。1.顧客はこれまでよりもはるかに迅速に回答を期待していること、2.A社には、そのデータが存在する可能性のあるシステムが少なくとも26 存在していたこと。 そのような中、A社は、アドバイザー、オペレーション、バックオフィス、コンプライアンス/リスク全体にわたって、すべての部門が信頼できる唯一の情報源となるプラットフォームとしてFSC を採用しました。A社は、FSCを単なるCRMではなく、ビジネスプラットフォームとして採用したのです。 現在A社では、FSC やTableau CRM はファイナンシャルアドバイザーだけでなく、彼らにサポートを提供するサービス部門、バックオフィス部門でも利用されていて、さまざまな部門間の相乗効果を高め、一体となって顧客にサービスを提供しています。 Tableau CRMは、上記のように、FSC の情報を実用的なインサイトに変えて、アドバイザーが必要な情報に、いつでもアクセスできるようにしています。さらに重要な点は、そのダッシュボードはアドバイザーがおこなうべきアクションをアラートとして表示し、アドバイザーがそのダッシュボードから直ちに行動を起こせるようになっていることです。たとえば、優先すべき顧客へのコンタクトが2週間遅れているというアラートをもとに、そのダッシュボードから直接タスクを追加したり、顧客との面談をスケジュールするなどができます。また、Tableau CRM では、顧客プロファイルの一部として誕生日、記念日なども把握でき、直近の顧客のライフイベントはアラート表示され、アドバイザーはダッシュボード上から直接顧客へメールを送ったり、キャンペーンを顧客に割り当てるなどのアクションを取ることができます。アドバイザーにとって一番避けたいことは顧客を失望させることです。このため、A社では、Tableau CRM に注目し、アドバイザーの取るべき行動と実際のギャップを埋めることで、顧客へ最高のクオリティのサービスを提供しています。 アドバイザーに提供されている顧客のインサイトには以下のようなものがあります。これらは、Tableau CRM やFSC 上で顧客プロファイルの一部として参照できるようになっています。

  • 健全性指標:顧客の状態、ゴールに対しての達成状況(目標どおり、期限超過など)、顧客に何が起こっているか理解するためのスナップショット
  • 顧客360度ビュー:ポートフォリオ資産、セグメント別の世帯情報、アカウントの種類(マージン口座、株式売買口座、退職金口座など)
  • 顧客のマイルストーン:誕生日、記念日、退職、ライフイベント(クライアントとの親密さを育む)
  • 将来予測されるお客様とのやりとり:今後のミーティング、未解決のタスク、今後の規制上必要なレビュー(例:規制上定められた定期的なポートフォリオレビュー)

また、A社では、データアグリゲーション、ボートフォリオ分析、ライフプランシミュレーションのパートナーソリューションも利用しています。FSCと連携するデータアグリゲーションのためのパートナーソリューションを用いることで、顧客が他社に保持する金融資産も顧客のポートフォリオの一部として、FSCやTableau CRM 上で把握できるようになっています。そこで把握された顧客ポートフォリオの全体像をもとに、アドバイザーはポートフォリオ分析や将来のライフプランシミュレーションをおこない、顧客へ必要なサービスを提供できるようになっています。この結果、さらに他社の預かり資産を含めた正確なA社のウォレットシェアも把握できるようになりました。 A社ではこのようにアドバイザーの情報武装をより進めることで、以下のような成果をあげていらっしゃいます。

  • アドバイザーの生産性向上により顧客エンゲージメントを深め、既存顧客からのクロスセル、新規顧客の獲得の向上
  • アドバイザーの離職率の低下と優秀なアドバイザーの採用(Salesforce をアドバイザー採用と維持のための戦略的なツールとして位置づけ)
  • Salesforce 導入前と比べて、契約率が48%向上

もう1社、事例を簡単にご紹介したいと思います。米国大手投資銀行グループのウェルスマネジメント会社は10年以上にわたり、SalesforceのCRMのユーザーで、テクノロジーの革新的な利用でも知られています(以下、B社)。B社は、M&Aを交えながら急成長してきた会社ですので、Salesforce を中心的なプラットフォームとすることで、50の店舗の500人の従業員と13,000人の顧客の情報の標準化を図ってきました。 Heroku上のアプリで、画面に表示される質問に顧客が答えていくことで、顧客のお金使いの傾向(倹約家か、金遣いが荒い方か、など)を分析し、顧客に自分自身を理解させます。さらに、Heroku上で構築された別のアプリでは、カード形式で用意されたさまざまなライフゴールから、顧客が自分に合うものを選んで優先順位を付けていくことで、顧客自らの人生のゴールの理解を助けます。カードゲームのような外観で、顧客の人生の優先順位を浮かび上がらせるのです。そして、アドバイザーは顧客が選んだゴールとその優先順位をもとに、ライフプラン作成を支援します。B社ではHeroku 上のこの2つのアプリを用いて、アドバイザーによる顧客へのコーチングの効果を高めています。これらの、Herokuで分析した顧客のお金に関する考え方・傾向の情報と、ライフプランは、Salesforce の顧客プロファイルの一部として格納され、アドバイザーによる顧客エンゲージメント強化を支援しています。 B社の目標は、アドバイザーを顧客の ファイナンシャルライフコーチに進化させること。顧客がライフプランにもとづいて投資の選択をするにあたり「真実を直視し、自身と金融商品を理解し、そして規律ある投資行動を取らせせること」で、顧客があとで後悔することがないようにすることです。B社は、従業員数を上回るSalesforceのライセンスをお持ちですが、85%というログイン率を見ても、いかにSalesforceがB社の業務に深く根付いているか、ご理解いただけると思います。 「ファイナンシャルライフコーチ」は、現在、最先端のファイナンシャルアドバイザー像といえ、今後、ますます成果を挙げていくことが期待されます。日本のウェルスマネジメント業も、全体として同じ方向に進んでいるようですが、まだやるべきことがたくさんあると思います。機会があれば、次回は、日本の課題に焦点を当ててご報告したいと思います。

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