デジタルテクノロジーが目覚ましい進化を遂げる今、さまざまな分野で「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が推進されています。教育の現場も例外ではありません。日本の教育現場は長くデジタル化が遅れていると指摘されてきましたが、コロナ以降、オンライン授業が広まったこともあり、少しずつ変革の波が押し寄せています。

この記事では、教育現場におけるDXを解説します。

 

教育現場でのデジタルトランスフォーメーション(DX)

文部科学省は教育現場のDX推進に強い意気込みを見せています。

デジタルテクノロジーの普及が「新時代の学びを支える」ものであると非常に期待されているのです。

 

日本はデジタル教育後進国?

2019年、経済協力開発機構(OECD)は、さまざまなスキルに関する各国の現状と課題、提言をまとめた報告書「スキルアウトルック」を公表しました。

報告書には、「授業で頻繁にICTを活用する教師の割合」が掲載されています。同書によると、イギリス(イングランド)・韓国・フランスなどのOECD諸国における割合が20~30%であるのに比べ、日本は10%未満に留まっており、デジタル教育の普及に遅れが生じていることが見て取れます。

 

今後は日本もデジタル化の方向へ

もちろん、いつまでもデジタル教育後進国の立場でいるわけにはいきません。文部科学省は、学校と保護者の連絡手段をデジタル化しました。また、ハンコのやり取りを見直す方針を、全国の教育委員会などに通知。さらに、ICT教育実現の取り組みである「GIGAスクール構想」の実現年度を前倒しするなど、国主導で教育分野のDX推進に力を入れています。

参照元:文部科学省「文部科学省におけるデジタル化推進プラン

 

ICTの環境整備

DXの推進にはICTの環境整備が欠かせませんが、現時点での日本の教育現場におけるICT環境整備は、諸外国に比べて大きく遅れているといえます。

教育現場のDXを進めるためには、ICTがいつでも身近にある学習道具として、児童一人につき1台の情報端末を整備することが必要です。それを支える高速ネットワークやデジタル教材の開発なども急務といえるでしょう。

 

教育現場ごとのデジタルトランスフォーメーション(DX)

では、国は教育現場のDXをどのように推進する考えなのでしょうか。令和2年に文部科学省が発表した方針をもとに、「初等中等教育関係」「高等教育関係」それぞれの教育現場ごとのDXを見ていきます。

 

初等中等教育関係

初等中等教育におけるDXでまず求められるのは、すべての土台となる学校ICT環境の整備と、それにともなうGIGAスクール構想の加速化です。土台を整えたら、先端技術を用いて教育ビッグデータを収集・蓄積し、分析することで、児童一人ひとりに合わせた個別最適な学びを実現します。

 

高等教育関係

初等中等教育に比べ、より高レベルで多様な教育をおこなう高等教育現場では、デジタル技術で社会を牽引する力を持った人材の育成が必要です。文部科学省が掲げる「AI戦略2019」では、2025年度を目標年度として、下記の2点の能力を学生が身につけることを目標として掲げています。

 

・文理を問わずすべての大学・高専の卒業生(年間約50万人)が初級レベルのAI能力を習得すること

・そのうち半数の大学・高専の卒業生(年間約25万人)をAIを用いて課題解決ができる「AI人材」として育成すること

 

この実現に向け、文部科学省では、東京大学や京都大学など6校を拠点大学に、その他の多くの大学が連携してデジタル時代の人材を育成する全国的な枠組みを構築しています。

参照元:文部科学省「教育のデジタル化に関する主な取組について

 

教育でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の課題

このように、国と教育機関が推し進めている教育現場のDXですが、実現にはいくつか課題があります。特に大きなものは以下の2点です。

 

インフラの整備

インフラの整備は、教育現場側と保護者・生徒側の双方に解決が求められる課題です。

教育現場のDXを推進するためには、主に以下のインフラが必要です。

 

・パソコン(タブレット)

・電子教科書

・電子黒板

・インターネット環境

 

このうち、パソコン(タブレット)とインターネット環境は、保護者・生徒側でも準備する必要があります。一般家庭への普及率は以前に比べて格段に向上していますが、「児童が主体となって使える教材としてのインフラ」が求められていることに注意しましょう。セキュリティーや閲覧制限に問題のあるパソコンを家族と共有するような使い方は避けるべきです。

 

指導側の知識不足

指導側、つまり教員のICT活用指導力です。国も重視している指標であり、文部科学省では「教員のICT活用指導力チェックリスト」をもとに毎年調査をおこなっています。

調査によると、平成19年以降、「教育研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」「授業中にICTを活用して指導する能力」など、ほとんどの項目でICT教育関連の能力の上昇が見られますが、「児童・生徒のICT活用を指導する能力」はなかなか向上しておらず、能力を持つと自ら答えた教員は全体の67.2%に留まっています。

また、オンライン授業の必要性が高まっている昨今では、対面だけでなくオンラインでの指導力も欠かせないスキルとなってきました。用いる機器も環境も異なるオンライン授業では、対面授業の教材をそのまま転用するわけにはいかず、指導方法にもオンライン授業ならではの工夫が必要です。

これらの課題を解決すべく、文部科学省では「校内研修リーダー」の養成を目指しています。校内研修リーダーは、教育委員会・教育センターなどでおこなわれるリーダー養成研修でICT活用への知見を蓄え、勤務校に伝達する役割が求められます。

 

教育現場で活用されるデジタルトランスフォーメーション(DX)の事例

教育現場におけるDXにはさまざまな課題が残されていますが、部分的に導入が始まっている事例もあります。ここでは、具体的な事例を3つご紹介します。

 

AIドリル

東京都千代田区立麹町中学校では、2018年より数学のAI型ドリル教材「Qubena」を導入しています。生徒の回答から理解度を判断して次の出題を自動選択してくれるもので、使えば使うほど個別最適化が進み、児童一人ひとりの進度に応じた学習が可能です。

 

遠隔教育

熊本県高森町の一部の小中学校では、テレビ会議システムを活用した遠隔教育を導入しています。これにより、児童や生徒は、外国語の授業でネイティブの発音指導を受けたり、遠隔教育のコンテンツを持った専門機関から外部講師を招いて最新かつ専門的な知識・技能に触れる機会を得られたりするようになりました。

その他、海外の学校との交流学習や社会教育施設のバーチャル見学、病気療養児に対する学習指導などにも遠隔教育を取り入れ、学習の幅の拡大および学習機会の確保を目指しています。

 

児童生徒ボード

大阪市では、児童生徒ごとに基本情報・生活情報・学習情報を集約した「児童生徒ボード」を作成・共有しています。これにより、児童生徒の状況を多面的に確認でき、よりきめ細やかな個別指導が可能になりました。また児童生徒ボードを共有することで学校内における問題を早期発見し、その後の迅速な対応につなげることも期待されています。

 

教育でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の展望

教育現場でDXが進むと、教育の質や幅が大幅に向上し、一人ひとりの能力に応じた専門技術を学ぶ機会が増えると予測されます。また、アナログ作業で発生していた余分な負荷を取り除くことで教員の負担を減らし、さらなる教育の質の向上につなげることも期待できます。

教育現場のDXが実現すれば、「誰もが」「どこにいても」「同じように」質の高い教育を受けられるようになるはずです。そうして育った若い人材が世に羽ばたき、日本のあらゆる分野におけるデジタル化を牽引してくれる日がくるでしょう。

教育現場におけるDXについては、以下の記事でも解説しています。あわせてご覧ください。

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