「Becoming Retail」最新号となるこの記事では、Gap Inc.のデジタル/テクノロジー最高責任者に話を聞き、この有名ブランドがいかにして卓越した顧客体験を提供しているかを探りました。

顧客中心主義 (英語)は長年にわたり多くのブランドが最優先課題としてきたものですが、2020年になって新たな緊急課題が発生しました。新型コロナウイルスの蔓延により、顧客への対応や関係構築の新しい方法を見つけなければならなくなったのです。この課題にGap Inc.がどう対処したかをご紹介します。  

まずは、これまでの経緯を説明しましょう。昨年、小売店は新型コロナウイルスへの対応として、デジタル変革のロードマップを数年から数週間に短縮しました。これほどのスピードアップは前例がありません。小売店は、個人用防護具(PPE) (英語)からカーブサイド・ピックアップ、コンタクトレスの決済や配送まで、顧客が必要としている商品やサービスを提供しようとすばやい決断を下すなど、積極的に動きました。 

私たちは、「Becoming Retail」シリーズの一環として、主要小売店がこの危機にどのように対処したかを徹底調査しました。新型コロナウイルスの影響で投資状況がどのように変化したかを尋ねたところ、76%がテクノロジーへの投資をある程度、または大幅に加速させたと答え、47%が人材への投資をある程度、または大幅に加速させたと答えています。 

 

"オンラインで購入して店舗で受け取る、あるいはカーブサイド・ピックアップを利用するという体験を快適なものにするには、店舗スタッフのプロセスやイノベーションと同様に、その機能をサポートするテクノロジーが必要だということです。"

GAP INC.のデジタル/テクノロジー最高責任者、JOHN STRAIN氏

 

典型的な例を挙げてみましょう。Gap Inc.は、高品質な非医療用マスクの提供、顧客の暮らしを楽にするための機能を導入・拡張にすばやく舵を切りました。Gap Inc.のデジタル/テクノロジー最高責任者、John Strain氏にインタビューしたところ、彼は顧客中心主義を可能にするのはテクノロジーである一方で、中核にあるのは人であるとした上で、次のように述べました。  

「その最たる例が、オンラインで購入して店舗で受け取る(BOPIS)、あるいはカーブサイド・ピックアップを利用するという体験です。そこではプロセスやイノベーションを支えるテクノロジーと同じくらい、それを扱う店舗スタッフが重要な役割を担っています」。 

Strain氏は、Gap Inc.の戦略、店舗、管理、テクノロジーの全チームが全ブランドにわたり協力して、その機能を拡張・向上していると言います。特に2020年に発生した新型コロナウイルスの危機に直面した際、その重要性が一層高まりました。11月、姉妹ブランドのOld NavyとAthletaは、11月に店舗内サービスハブを展開しました (英語)。Old NavyではConvenience Spotを、AthletaではAt Your Serviceを設置し、急いでいる顧客がレジで並ばずにすばやく購入できるようにしたのです。 

Gapはさらに一歩進んで、「ドアベル」機能を導入し、カーブサイド・ピックアップに来た顧客が店舗に電話しなくても店舗スタッフに到着を知らせることができるようにしました。すべては買い物客に利便性、スピード、安全を提供するということにフォーカスしたものです。 

目的主導の組織であるGap Inc.とそのブランドファミリーは、パンデミックの中、助けを必要とする社員や顧客、さらには他の会社を支援すべく機敏に方向転換し、その製造能力を活かして顧客のために数百万枚の非医療用マスクを作りました。

「密接なサプライチェーン関係と機敏なオペレーションを活かして、民間企業、公営企業の両方に再利用可能な高品質の非医療用布マスクを提供するためのソリューションをすばやく構築しました」とStrain氏は言います。 

 

"2020年4月以来、Gapは顧客向けおよびB2Bビジネスを通して、2億2,500万ドル相当のマスクを販売しました。"

 

すぐに他の企業からも、安全な職場復帰を進めるため社員に同じマスクを支給したいという声が届きました。この商品を提供するために、Gap Inc.ではSalesforceのCommerce CloudであるB2Bコマース向けQuick Startを使用し、Capgemini 社(英語)と協力して、5週間未満でマスク向けのカスタムストアを実装し、稼働を開始しました。この連携で、購入注文を管理し、プログラムに関する情報を企業に配信しています。  

2020年4月以来、Gapは顧客向けおよびB2Bビジネスを通して、2億2,500万ドル相当のマスクを販売しました。同社のブランドポートフォリオに100万を超える驚くべき数の新規顧客を獲得することができたのは、まさにマスクのおかげでした。 

 

業績好調の小売店はデジタルを活用してカスタマーエンゲージメントを強化

「Becoming Retail」が調査したところ、投資が適切だっただけでなく、緻密な実行内容がデジタル変革の成功に貢献したことが判明しました。他社が失敗している中で成功を収めている組織は、どのようなことをしているのでしょうか? 

 

  • 組織内の全員にデジタル変革の必要性を理解させる

  • どんな顧客が、何を必要としているかを把握する 

  • リスクをいとわず試す文化を築き、促進する 

  • 特にCEOをはじめ、経営陣から賛同を得る 

 

これがまさにGap Inc.が行ったことであり、Strain氏はデジタル変革のことを、「統合された技術的機能を活用して、実店舗とデジタルで強化されたオムニチャネルでより優れた顧客体験を提供するための方法」と表現しています。 

Gap Inc.ではさらに、チームが持つ知識やインサイトを別の形で活用して、顧客体験を向上させるチャンスを探っています。AthletaとINTERMIXの両ブランドとのパイロットテストは、人主導のデジタル変革の好例です。「1対1のオンラインスタイリングセッションの試みにより、店舗スタッフは買い物客に対して一歩進んだパーソナライズ、サービス、利便性を提供できるようになりました」とStrain氏は説明しています。

「テクノロジーはオンラインクライアンテリングを可能にし、一定の制約を取り除く一方で、店舗スタッフに商品やブランド、お客様に関する知識を新たな形で活かすチャンスを与えてくれています」。

 

 

Strain氏によれば、オムニチャネル機能と拡張したオペレーションにより、Gapブランドの2020年第3四半期の売上は前年比で6%増を達成しています。また、BOPISおよびカーブサイド・ピックアップ注文の純売上高が前年比50%増を記録し、全ブランドでオンラインの純売上高が60%以上増加しています。 

「オンラインビジネスの強みを活かしつつ、お客様にお好きな方法でご購入いただけるよう先進のオムニプラットフォームを活用したことがこの成果に結びついたと考えています」とStrain氏は語ります。 

 

"主要小売店では、2023年にはオンラインセールスの33%がマーケットプレイス経由になると予測しています。"

BECOMING RETAILのリサーチ

 

主要小売店に対し、今後を見通して各種オンライン購入のボリュームについても予測をしてもらいました。主要小売店は、競争上の脅威と、ブランドおよびマーケットプレイス間の革新的な連携のチャンスを強調したうえで、2023年にはオンラインセールスの33%がマーケットプレイス経由になると予測しています。それに次いで、ほぼ同率2位となるのが小売店とブランドのWebサイトで、それぞれオンライン購入量の26%、25%を占めると見られています。ソーシャルメディアなどの新たなデジタルタッチポイントについては、2023年のオンライン購入の16%になると予測されています。 

 

Gapは顧客をブランドロイヤリスト(優良顧客)に変えるためにデータを活用 

多くのブランドは何らかのロイヤリティプログラム (英語)を実施しています。ポイントは、テクノロジーを使って顧客のデータとロイヤリティを活用し、顧客に特典を付与したり、やり取りをパーソナライズするということです。そこで今年Gap Inc.では、より多くの顧客を複数ブランド、複数チャネルにまたがるロイヤリストに変えるということを優先課題の1つに掲げたと、Strain氏は言います。 

2020年9月、Gap Inc.はメンバーシッププログラムを刷新し、買い物客がNavyist Rewards (英語)Gap Good Rewards (英語)Banana Republic Rewards (英語)Athleta Rewards (英語)を使ってファミリーブランド内で特典を獲得し、利用できるようにしました。 

Strain氏は次のように述べています。「ブランドごとにスタイルは異なりますが、お客様に取得・ご利用いただける特典はファミリーブランド内で共通です。4ブランドすべてに共通のメンバーシップということです。この仕組みが重要な理由は、お客様についてわれわれの理解が深まるにつれて、さらなるサポートやエンゲージメント、特典付与が可能になるからです」。 

このプログラムは順調なスタートを切り、最初の2か月で350万人以上の新規ロイヤリティメンバーを獲得しました(この数はさらに増え続けています)。プログラムへの加入顧客が増える中、同社ではそのデータを活用し、一度取引した顧客に複数ブランド、複数チャネルで長期的に利用してもらいたいと考えています。そのために、顧客のセグメント化を実施し、米国のアパレル市場全体で多くの潜在的ターゲットセグメントを抽出しました。 

さらに細分化するために、過去2年分の既存の顧客ファイルにデータサイエンスを適用し、より的確な顧客のターゲット化とサービスを目指してデモグラフィック、サイコグラフィック、ジオグラフィックを調べ、各ブランドに対し2~3のターゲットセグメントを選び出しました。  

Strain氏は次のように説明します。「当社では、このセグメントデータを継続的に活用して、好みのチャネル、ロイヤリティステータス、興味のある商品にもとづき、メールやオンサイトの体験をパーソナライズするなど、ターゲットに合わせたマーケティングでお客様に関連性の高いエンゲージメントを行っています。このセグメントは、製品ライフサイクルの活性化にも活かしています」。

より広範なパーソナライズがGap Inc.の重要課題であり、「2021年の顧客関連性の新たな形」であるとStrain氏は言います。 

実際、SalesforceはDigital 360でこの課題に重点的に取り組んでおり、マーケティング、コマース、デジタル体験の統合によりブランドが顧客との関係を深めることを支援しています。  

Strain氏に「小売業を一言で表すと?」と尋ねたところ、答えは「大胆さ」でした。 

そして次のように続けました。「全世界で事業を展開する小売店として、当社では、お客様に卓越した体験を提供するための機会をとらえることで、敢えてリスクを負ってチャレンジしてきましたが、その姿勢を持ち続けたいと思っています。先を行くためには、効果的にお客様の注意を引きつけ、利便性の高いパーソナライズされた体験を提供し続ける必要があります。時には、これまでの境界を押し広げ、チームを刺激して大胆に新しいものを作り出すことを意味します。常に、情熱を持って大胆なアイデアを試し、それを成功させるために時間をささげるのです」。 

 


 

 

Rob Garfはインダストリー戦略およびインサイトを担当するVice Presidentであり、Salesforceの小売業向けクライアントアドバイザリーボードの議長を務めています。プラクショナー(Lids、Marshalls、Hit or Miss)、業界アナリスト(AMR Research)、戦略コンサルタント(IBM)、ソフトウェアリーダー(Salesforce)としてグローバルな小売業における25年の経験を持ち、業界および小売業が直面する課題を熟知しています。Robのチームは現在、インダストリーリサーチを開発し、世界中のシニアエグゼクティブに統合エンゲージメント戦略に関するアドバイスを提供しています。業界イベントの講演も頻繁に行い、NRF(全米小売業協会)のDigital Councilのメンバーでもあります。

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