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他社と差別化するための商品開発プロセスのDX

昨今小売業では他社との差別化や利益率向上を目指してSPAやPBが盛んです。しかし、各社が取り組みを進める中で単にPBを出しただけでは差別化が難しくなってきています。そこで、「顧客の声を捉えて継続的に商品を改善し続ける」、「MDと他部署が連携して、改善点をパッケージ/店頭ディスプレイ/マーケティングなどで訴求する」などが必要となってきています。このBlogでは実際に上記に取り組んでいるAbercrombie & Fitch、大手アパレル業A社の事例をご紹介しながら、商品開発プロセスのDXをご紹介します。

昨今小売業では他社との差別化や利益率向上を目指してSPAやPBが盛んです。しかし、各社が取り組みを進める中で単にPBを出しただけでは差別化が難しくなってきています。そこで、「顧客の声を捉えて継続的に商品を改善し続ける」、「MDと他部署が連携して、改善点をパッケージ/店頭ディスプレイ/マーケティングなどで訴求する」などが必要となってきています。このBlogでは実際に上記に取り組んでいるAbercrombie & Fitch、大手アパレル業A社の事例をご紹介しながら、商品開発プロセスのDXをご紹介します。

本ブログでは、商品開発プロセスのデジタルトランスフォーメーション(DX)について、解説していきたい。

前提として、本稿で示す「プライベートブランド(PB)」とは、小売業社が企画・開発を行い、製造を外注させる商品のことである。また「SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売り)」とは、企画から製造、販売までを行うビジネスモデル、および自社工場や製造委託する工場と業務提携あるいは資本提携して、自社ブランド商品として全量買い取りを行い販売するビジネスモデルを指す。

小売業における商品開発の現状

小売業各社がPB・SPAを拡大している要因は、さまざまなメリットを享受できるからである。一つは、利益率が高いこと。ナショナルブランド(NB)に比べると宣伝広告費が不要なため、大きい利益を得ることができる。その他にも、NBメーカーでは難しい、消費者の声を取り入れて商品企画に反映させることが容易な点や、他の小売店にはない独自商品の打ち出しで、来店の動機付けができるなどのメリットが挙げられる。

こうした背景により、小売業ではPA・SPA化が盛んとなっている。例えば「ユニクロ」や「無印良品」を筆頭に、SPA化する企業が増加。また従来、仕入れ販売100%だった品揃え型企業でも、PBに力を入れる動きも出ている。

食品に対しては消費者のNBへの信頼が厚いため、ドラッグストアやスーパーマーケットでのPB化は、やや遅れを取っている傾向がある。「マツモトキヨシ」や「イオン」「ヤオコー」を例に取っても、PB比率は10%程度にとどまっている。

しかしPB比率の低かった企業も、同質化を避けるために年々PB比率を上げてきている(図表①)。

図表① PB商品の市場規模(出典:農林水産省, 2013)

例えば「ココカラファイン」におけるPB売上比率は、2011年3月期で8.5%だったのに対し、15年3月期では10.4%まで伸長しているといった例もある。

PB強化に当たっては、各社さまざまなブランドを打ち出している。図表②では、主な小売企業のPBブランドのポジショニングを示した。横軸を価格の高低、縦軸をターゲット層でプロットしている。

図表②:各小売り企業のPBブランドのポジショニングマップ ※PBブランド名(企業)

このマップを見て分かるように、PBブランドが乱立しているが故に、差別化がより難しくなっている。特にマス向けPBは激戦状態にある。もはや「PBがある」というだけでは来店動機になり得ないのが現状だ。

ではPBで差別化を図るために、どう対処すればいいか。価格とターゲット別に、五つの方向性を紹介していこう(図表③:他社との差別化に向けた五つの方向性)。

図表②:各小売り企業のPBブランドのポジショニングマップ ※PBブランド名(企業)

まず「マス向けの低価格PB」では、①圧倒的な安さを追求することが求められる。これはスケールメリットや自動生産など、生産体制の見直しで対応できる。「マス向けの高価格PB」は、②品質・機能を追求。そのためには独自の原材料や素材、生産技術を極める必要がある。この①と②に関しては、「ユニクロ」のようにSPA化して生産技術を高めたり、「セブン-イレブン」のようにNBメーカーや原材料メーカーと連携して、革新的な原材料や生産技術を生み出すといった方法が挙げられる。

価格を限らない「マス向けPB」では、③継続的に改善し続け、顧客に寄り添った商品開発が求められる。一方の「特定セグメント向けPB」は、ローカルやオーガニックといった④特定のセグメントにフォーカスした商品の開発が必要だ。

そしてPBを強化する根底には、単に商品を改善するだけに留まらず、⑤パッケージ、デザイン、店頭ディスプレーなどを工夫し、訴求ポイントを明確化することが重要となる。

以上の五つの方向性の中から、デジタル活用の余地が大きい③と⑤についてのあるべき姿を紹介していく。

商品の改善プロセスとその課題

商品開発(PB・SPA)のプロセスは、商品企画・開発→販売計画・生産・物流→店舗・EC運営→マーケティング・販売→アフターサービスといった流れに沿って進められる。

そして、これら各プロセスに沿って、販売動向の分析→改善ニーズの収集→改善方針の意思決定→商品開発・サンプル生産→各種アセット作成(VMD・マーケティング・EC素材)が行われる。

それらを、MD、マーケティング、VMD、生産といった各部署で情報収集や分析、意思決定などを行わなければならない。同時に、各部署間で連携して課題などを共有し、改善をスムーズに行う仕組みをつくれるかが鍵となる。

しかし、この改善プロセスには多くの課題がある(図表④)。例えば、販売動向分析の際、a.年代や地域など深掘りした分析ができていない。改善ニーズの収集時には、座談会や従業員などからの、偏った少数意見の収集で満足するなど、b.顧客の多種多様な声に基づく改善ができていない。商品開発・サンプル生産のプロセスでは、c.改善が決まった後の案件管理が煩雑で、各部署間の連携がうまくできず進捗状況が見えない。そしてd.改善後のPDCAが回っていないため、顧客の反応がよくなったかまで追えないなど、うやむやになっている課題は多く存在している。

図表④:商品の改善プロセスにおける課題

次からは、a~dの課題解決へ向けた、各小売業の取り組みを見ていこう。

a. 年代/地域などでの販売動向の深掘り

アパレル企業「Abercrombie & Fitch(アバクロンビー&フィッチ)」では、今何が売れていて、前年と比較してどの程度の上下があるかを1週間単位で見る「商品トレンド」、どの製品がどのエリアでいつ売れているか日次で見る「デイリートレンド」、そして対象シーズン(春夏・秋冬)の商品カテゴリごとの売上を見る「売上トレンド」を、それぞれグラフ化してひと目で分かりやすいように改善(図表⑤)。

これにより、どの製品が売れているかが分かるようになった他、入れ替えが必要な製品はどれかなど、地域別でも判断できるようになり、顧客をより理解することができるようになった。

図表⑤:Abercrombie & Fitch の事例(グラフは全て仮の数値)

b. 多種多様な顧客の声の収集・定量的分析

顧客接点のデジタル化により、店舗、EC、カスタマーセンター、SNSなど、VoC(Voice of Customer:顧客の声)の収集機会が増えている。

大手アパレルA社では、ECサイトの商品コメント欄を分析し、商品改善へとつなげる施策を取っている(図表⑥)。ECサイトは座談会や従業員アンケートに比べ、多種多様な消費者から、さまざまな製品に関しての意見が得られるメリットがある。さらに、国内だけでなく全世界の顧客の声も拾うことが可能だ。これらECサイトのコメントから、ポジティブ/ネガティブなコメントを分析し、商品の改善に活かしている。

さらにカスタマーセンターに寄せられた声を、ポジティブ/ネガティブに分け、傾向や増減などを定量的に分析。例えば定期分析により「置き配に関する問い合わせが急増している」という結果が分かれば対策を講じられたり、女性客からの「コーヒーが苦い」といった声に対し「ライトな味のコーヒーを開発」できたりと、品質改善や新たなチャンスの発見に活用している。

図表⑥:ECサイトの商品コメントの分析イメージ

こうした顧客の声は、カテゴリ別の割合から問い合わせ傾向の全体像を円グラフ化。また話題の変化や傾向の時系列推移や、ネガティブ意見のトップ10のグラフ化など、収集した顧客の声を分析することで、改善の意思決定に役立てている。

c. 複数部署を横断した改善プロセス管理

前出の大手アパレルA社はSPA型企業であり、全てPB商品をラインアップ。トレンド商品よりも、定番商品の継続的なアップデートを重視している。顧客の声を基に商品改善を常に行っているものの、その改善活動の進捗管理はExcelベースで行われていたため、各案件の進捗状況が見えない、全体を俯瞰した進捗状況が捉えられないといった課題があった。

そこで、改善活動の各案件のフェーズ管理を、Salesforceのクラウド上で実施。全体を俯瞰して、案件の遅延の有無をひと目で確認できるように改善した。また、各案件の担当者、直近タスク、活動履歴、担当者間のやり取りなどが管理されるため、担当者に聞かずとも詳細を把握できるようになった。

d. 顧客の声の推移に基づくPDCA

せっかく改善した商品が販売されても、PDCAを回さなければ本当の改善にはつながらない。"改善しっぱなし"にならないよう、顧客の不満が解消されたかを検証する必要がある。

大手アパレルA社では、顧客の声の出現推移から改善効果をチェック。改善した商品に関しての声があったかを見て、顧客の満足度は高まったか、さらなる改善が必要かなどを確認できるシステムを構築している。

企業の利益増やイメージアップを図るためにも、PB商品の開発には力を入れなければならない。大事なことは、顧客のニーズに寄り添った継続的な改善だ。そのためにできるDX化を、よく考える必要があるだろう。

Akira Ogawa インダストリートランスフォーメーション事業本部 小売消費財業界 シニアマネージャー リテール・ストラテジスト

2006年、東京工業大学大学院総合理工学研究科を卒業、17年HEC Parisにて経営学修士(MBA)を修了。06年㈱野村総合研究所に入社し、小売業・サービス業向けのシステム構築、システムコンサル、業務コンサルに従事する。 17年から㈱ファーストリテイリングにて生産・商品企画における全社DXを推進。19年に㈱セールスフォース・ドットコムに入社し、小売業の専門家として海外事例の調査、対外発表、ソリューション企画などをリード。

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