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巨大かつ複雑な税務行政がレガシーから脱却する方策

政府のDX推進という大きな流れを受けて、税務行政のDXは加速する方向の中、巨大かつ複雑な税務行政がレガシーから脱却する方法を考察します。

政府のDX推進という大きな流れを受けて、税務行政のDXは加速する方向の中、巨大かつ複雑な税務行政がレガシーから脱却する方法を考察します。

「税」は、ほぼすべての納税者が高い関心を持っているトピックです。ただ、多くの人は納税額や節税の方法、税金の使われ方への関心はあるでしょうが、税務行政に興味を持っている人は少ないかもしれません。実は、政府のDX推進という大きな流れを受けて、税務行政のDXは加速する方向にあります。国民の多くは、国のデジタル化が大きく遅れていると感じていて、民間企業が実施しているレベルのデジタルサービスを国からも受けたいと考えています。納税プロセスについても、それは同様です。私たちにとって便利になるかもしれない税務行政のDXと、Salesforceがこの分野にどうかかわっていけるかについて考察してみます。

税務行政のDXという方向性

2021年6月、国税庁は税務行政のDXについて、その方向性を『税務行政の将来像2.0』として発表しました。この資料は、私たちにとって便利になる未来を展望してくれています。税手続きはデジタル化され、税務署に行くことなくすべてのプロセスが完了します。自身の情報はオンラインで確認でき、適切なタイミングで情報を受け取れます。もちろん、行政内部もデジタルで効率化します。AIやボットの活用で効率化し、租税回避や不正にもデータを活用して対処します。

さて、ここで気になるのは、こうした展望が絵空事なのか、それとも実現可能なのかどうかでしょうか。上記資料を読み解くと、いくつかのポイントが見えてきます。申告内容の自動チェック、AI・データ分析の活用、照会などのオンライン化、税務署に行かずに手続きを完了、関係機関との連携、といったポイントです。以下、それぞれについてSalesforceを適用すればどうなるのかについて、見ていきましょう。 

  • 申告内容の自動チェック
    マイナンバーや法人番号をキーに、申告内容と税務当局の保有するデータをマッチングし、整合性を確認することをめざします。ただ、完全にAIがやってくれるというわけではなく、スクリーニングに利用するイメージでしょう。SalesforceのAI技術を適用すれば、現在でも十分にこのニーズに対応できます。ただし、より高度かつ高精度なチェックを実施したい場合、「税務当局の保有するデータ」の質が重要になってくることは言うまでもありません。入力時に納税者にミスをさせないプロセスも、Experience Cloudなどを活用することで基本機能の範囲で実現できます。 
  • AI・データ分析の活用
    申告漏れの可能性の高い納税者の洗い出しや、滞納者の状況に応じた対応など、徴税プロセスの効率化および高度化をめざします。これは、Salesforceの得意な分野です。Tableauを使えばビジュアルにあらゆる情報を可視化できますし、そこからドリルダウンして同様の傾向にある納税者を一覧できます。AIによるスクリーニングももちろん可能です。CRMでデータを統合することで、個々の納税者データを履歴と共に管理できるため、AIを使って滞納リスクの高い群を把握するなど、さまざまな角度からデータを活用することができます。 
  • 照会などのオンライン化
    書面で行われてきた業務や対面が必須の業務をオンラインで完結することをめざします。具体的には、金融機関への預貯金照会と税務調査における必要資料の提出をオンライン化します。このシーンでは、SalesforceのMarketing CloudやService Cloud、Experience Cloudが役に立ちそうです。プッシュ型で納税者に自動的に情報を通知し、セルフサービスで資料を登録してもらうなどの仕組みなら、ほぼ基本機能で対応可能です。金融機関との情報連携はSalesforceが必須になる部分ではなさそうですが、統合的な情報ポータルの機能としてそれを備えておきたい場合、Salesforce内で連携プロセスを完結させることが可能です。 
  • 税務署へ行かずに手続きを完了
    申告・申請などをより簡便にすることをめざします。これは、プロセスをすべてクラウド化することで実現します。納税者が利用するマイページを用意し、そこですべての手続きを完結してもらうことができます。対応すべき項目が増えても極めて柔軟に項目やプロセスを追加できます。この柔軟性は、一度作ったら変更にあたってコストと時間が必要になるシステムにはないSalesforceの大きなメリットです。セキュリティを高める二要素認証など、機能を拡充することも容易です。 
  • 関係機関との連携
    他省庁や地方税当局、関係民間団体との連携・協調を図ります。外部との連携をデジタル化するにあたって、相手側がどれだけデジタル化されているかが問われることになります。その点、Salesforceをプラットフォームとして採用していれば、相手と歩調を合わせた改善が可能です。APIを実装するにあたってそれほど期間とコストを要することはなく、相手のシステムとのAPIを順次追加し、できるところから、できる範囲で、デジタルな情報連携を進めていくことができるでしょう。

「Salesforceなら、想定以上のこともできるかもしれない」

以上、『税務行政の将来像2.0』に示された未来像は、Salesforceを使えば今すぐにでも、ほぼ基本機能のみで、かなりの部分が実現できそうです。もちろん、詳細な仕様を突き詰めていけば、開発やAppExchangeアプリの活用などが必要になってくる部分も出てくるかもしれませんが、「大筋はSalesforceならいける!」と考えていただいてよさそうです。むしろ、「Salesforceなら、想定以上のこともできるかもしれない」と期待していただけるかもしれません。

では、納税者の側から見るとどうでしょう。Salesforceは、単に組織内部を最適化するソリューションではありません。CRMにおける顧客は、税務行政にとって納税者。Salesforceなら、納税者を大切なお客様と位置づけ、より良いデジタル環境を提供することができます。SalesforceのCustomer 360を税務行政に適用することで、納税者には大きく以下のようなメリットがあります。 

  • だれもが直感的に利用できるユーザーインタフェース
    PCからでもモバイルからでも、デバイスに最適化したユーザーインタフェースを通して、個人の基本情報や履歴に手軽にアクセスできます。コミュニティによる情報交換やQ&Aなどの機能を活用することも可能です。 
  • 高度な本人証明と徹底した情報漏えい防止
    アクセス通知やアクセスログ確認はいつでもどこからでも可能。多要素認証にも対応します。もちろん、データはすべて暗号化できるため、安心です。 
  • データの再利用が可能
    データは名寄せして管理でき、Salesforce内外のシステムとMulesoftを通して柔軟なデータ連携を実現します。この仕組みにより、個人にひも付く情報はすべてマイページから活用でき、過去に入力した内容を次の申請の際に再利用することなどで、何度も同じ内容を入力する必要はなくなります。 
  • 正しい情報を提示
    入力内容は、すべてAIがスクリーニングします。よく間違えられる部分などをガイドする機能もあり、AIがオンラインでの情報入力を的確にサポートしてくれます。また、Pardotが、最適なタイミングで正確な情報を通知してくれるため、ついうっかりのミスや、期日の超過を防ぐこともできそうです。

徴税業務にSalesforceを適用してみると

このように、Salesforceを使うことを前提とすれば、税務行政の理想の将来像を充たすことはできそうです。その入り口として、個別具体的な問題を解決するのであれば、徴税業務などが良いかもしれません。現在、徴収難易度が高いと見られる「整理が完了できていない滞納」は約3600億円に上ります。この金額を少しでも減らすことができれば、大きなメリットが出てくるでしょう。

徴税業務を公平かつ効率的に実行するフローとシステム構成

上図が、Salesforceによる徴税業務の枠組みイメージになります。CRM機能を活用し、納税者の基本情報、債権情報、滞納事案、折衝履歴などの情報を一元化。AI・分析機能により、ケースの優先順位付けや最適なコンタクト方法の選定を行います。また、類似案件の一覧など、業務を楽にする仕組みも提供。管理職向けに、進捗状況のレポートが可能になり、コンタクトセンターでは通話内容の分析や回答候補の提示まで行うことができます。地図データやSNSとの連携などで、職場内のコミュニケーションを加速し、ナレッジの共有も図ります。

Salesforceを導入した政府機関は、平均で収入を27%増加させています。そして、2020年度の滞納総額が8800億円、整理済み額が5184億円であることは公表されています。導入による徴収効果が27%増加したと考えた場合、5,184億円×1.27=6,584億円になることが期待できます。差額は1400億円。この数字は、東京都豊島区の税収と同規模です。極めて高いROIを期待できるのではないでしょうか。

将来、データが蓄積されてくれば、税務署管轄地域ごとの滞納者率をヒートマップなどで可視化し、滞納理由別回収方法の最適解をAIが提案したり、効果の高い回収方法をAIが提案したりするなど、その活用範囲は大きく広がります。また、全納税者を対象とする大きな仕組みが動き出せば、AIによる滞納予測も可能になるかもしれません。

Salesforceはすでに政府機関に活用され、大きな成果をあげはじめています

こうして見てきたように、Salesforceをいますぐ徴税業務に適用すれば、大きな成果を得ることが期待できます。また、Salesforceは税務業務の未来の姿を実現することができるソリューションであることもおわかりいただけたはずです。他方、「海外のソリューションを利用するのはいかがなものか」という意見も出てきてしまうでしょう。ただ、Salesforceは日本市場を重視して多くの投資と雇用もしています。日本のデジタル化を支援する企業として地に足をつけて活動しています。最後に、いくつかの事例を提示します。日本の政府機関が、Salesforceのソリューションを活用して業務を効率化しているリアルな事例です。個々の詳細な内容について知りたい方は、ぜひお問い合わせください。

  • 人材を適材適所で生かすためのシステム
    職員データベース機能、任用管理、勤怠管理をシステム化し、業務の効率化と職員のタレントマネジメントを実現しました。
  • 国会答弁作成プロセスを効率化するためのシステム
    質疑通告から問取レク、答弁作成、レク、当日対応という一連の流れをデジタル化/オンライン化し、答弁作成の負荷と時間を大きく減らすことができました。
写真:上田 歩央
Fumio Ueda インダストリーズ トランスフォーメーション事業本部 執行役員 公共公益事業開発室 室長

コンサルティング企業において公共、公益、通信メディアのお客様のDXプロジェクトを支援。セールスフォース・ドットコムへ入社後は公共系のお客様のDX構想からシステム導入アドバイスを担当。また、東北大学 特任教授として人工知能、サイバーセキュリティの一般教養としての教材開発を実施しています。

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