Salesforceを活用している日立製作所では、営業データの可視化・分析を目的にTableauの導入を始めています。
当初は全部門で共通のダッシュボードを検討していましたが、部門ごとの異なるニーズに細かく対応することが難しい状況でした。そこで「Tableau Creatorトレーニングプログラム」を活用し、エンドユーザー部門でダッシュボードをカスタマイズしてBIをフレキシブルに活用できるDX人財の育成に取り組みました。プログラムの内容と受講者の完走を支えたポイントを紹介します。
ダッシュボード作成をユーザー部門へ拡大
顧客中心主義を掲げる日立製作所では、国内外のさまざまなグループ企業とSalesforceを活用し、経営のスピードアップや業務効率の向上、成長に向けたグローバル経営基盤の構築を進めています。
近年ではSalesforceの活用ナレッジをグループ内で共有・展開するグローバルCoE(Center of Excellence)である「SMiLE」を組織し、約4万2000人のエンドユーザーを束ね、Salesforceにもとづくプロセスの変革に取り組んできました。
これまで、BIツールを活用したダッシュボードは主にIT部門がユーザー要件を取りまとめて開発し、サービスを提供するスタイルが主流でしたが、サービスのリリースまでに時間が掛かり、時々刻々と変化するユーザーニーズへのタイムリーな対応ができていませんでした。また、ユーザーが可視化・分析したい内容は部門によって異なるためダッシュボードを部門ごとにカスタマイズしたいというニーズが高まっていましたが、これらのニーズにも対応できていませんでした。
そこで今回このプロジェクトではSalesforceにも協力を得て、一部セルフBIの考え方を取り入れ、営業データを自分自身で可視化・分析できるサービスを開発・導入し、併せてユーザーもセルフBIに必要なスキルを身に着けていただくためのトレーニングプログラムを実施することにしました。
今回中心となって「Tableau Creatorトレーニングブログラム」を実施したSFAエバンジェリストである日立製作所 営業企画統括本部の中前 勲氏は、トレーニング導入の背景を次のように説明します。
「Sales Cloudのデータを中心にTableauでデータをフレキシブルに分析できるものの、ビジネスの変化に柔軟に対応し業務に最適化した分析をするには、エンドユーザー側でダッシュボードをカスタマイズできる人財を増やす必要があると考え、トレーニングの実施に踏み切ったのです」
中前氏やSMiLEチームを中心に、SalesforceのCSG(カスタマーサクセスグループ)と連携する形で3か月間の「Tableau Creatorトレーニングプログラム」を導入。まずは、企画部門を中心に、エンドユーザーのTableau活用スキルアップをめざしました。
多くの参加者が示したTableau Creatorへの強い意欲
トレーニングは、日立製作所から業務担当6名とIT担当3名のサポーターが事務局メンバーとして運営を担い、Salesforceから4名が支援する体制で行われました。トレーニング期間は約3か月間で、参加者やチームごとにダッシュボードの完成をめざす内容です。
具体的なプログラムは、データ活用の基礎から学び、実際の業務データを活用したリアルなダッシュボード構築の構想、そして、Tableauエンジニア(Tableau Doctor)の個別支援による制作、発表会というメニューを用意しました。
自由度の高いダッシュボードをカスタマイズするには、Tableau Creatorのライセンスが必要です。日立製作所では当初、各部門に1〜2名程度のTableau Creatorユーザーを育成することを見込んでいましたが、いざプログラムを開始すると参加者のほとんどが「自分もTableau Creatorを活用したい」と要望しました。
結果、プログラムに参加した24名全員がTableau Creatorユーザーとしてのトレーニングを受け、9つのチームで15本以上のダッシュボードを作成しています。まだまだ「Tableauはユーザー部門で簡単に扱えるものではない」という先入観が社内にありました。ですが、これだけ積極的に参加者がTableau Creatorユーザーをめざした背景としては、それまでの中前氏の地道な取り組みがありました。
「以前に産業・流通部門にいた際、データ可視化の課題をTableauで解決できた経験がありました。そこで、現職になってからもエンドユーザーの方々のニーズをヒアリングし、目の前でサンプルのダッシュボードを作成してデモを見せたのです。課題解決が可能なことを実感してもらったことが大きかったようです」(中前氏)。
中前氏はSalesforceが提供する無料学習プラットフォーム「Trailhead」で最上位のランクである「All Star Ranger」を持ち、自ら道を切り拓くTrailblazerでもあります。今回のトレーニング参加者には、中前氏を見て「自身もこうなりたい」とその背中を追いかける方も少なくありません。
効果的なプログラムにするための工夫点とは
参加者が実践的な知識と技術を身に付けプログラムを完走してもらうために、同社ではさまざまな工夫を凝らしました。その1つが「Tableau Doctor」と手厚いサポートです。
「Tableau Doctorの存在は重要でした。当初は1枠20分にしていた相談の対応時間を、途中から30分に拡大していただきました。また、今回は実務で活用するダッシュボードを作成するため、当社独自のデータの持ち方をTableau Doctorに理解していただく必要もありました。その点は、事前に参加者と事務局側ですり合わせして、Tableau Doctorにサポートいただく範囲の棲み分けをハンドリングしています」(中前氏)
もちろん、参加者が日常業務を優先し自分の都合に合わせた日程で受講ができるようにするといった、プログラム全体での配慮も欠かしません。
こうした事務局側の苦労もありましたが、実務で使えるダッシュボード作成に取り組んだことは、実践的な技術や知識の積み上げに大きく貢献したといいます。
成果発表会で示された成功事例
その成果の集大成となったのが、2024年8月1日に開催した成果発表会です。ここではトレーニングに参加した9チームがそれぞれの取り組みを紹介しました。
一例を紹介しますと、グリーンエナジー営業部門でのフロントDXを推進しているグループでは、Salesforceを中心としたITツールの導入および利用定着化を促進しており、そのKPI管理を行うダッシュボードを発表しました。
Salesforceの利用定着率に関しては、Salesforceデータのスナップショット集計データベースからChatter投稿やフィード投稿のデータなどを抜き出す形で投稿率を算出。また、最近導入された名刺管理ツールの月次の登録情報を見える化したダッシュボードを作成しました。日本地図や円グラフなどビジュアライズにこだわったのはもちろん、グラフをクリックすると部門や個人単位で詳細データを確認できるように工夫されています。
このダッシュボードにより、全体の利用定着状況を俯瞰してモニタリングしつつ、利用が進んでいない部門や人に対して新たな対策を施すことで、利用率アップを図っております。
発表会では、さらに各チームがそれぞれSales Cloud、基幹システム、個別管理データ(Excelベース)など、さまざまなデータを統合・可視化するダッシュボードを発表。その中で、トレーニングへの参加度に基づいて個人賞5名と、参加者の投票によるチーム賞を選出しました。
また報告会の最後には、同社のグローバルCoE「SMiLE」の活動を推進する堀口 和男氏が、トレーニングの成果を持続させる取り組みとして、Tableauユーザーコミュニティの立ち上げを提案しました。
このコミュニティでは、Tableau活用ノウハウの共有をはじめ情報交換、定期的なミーティングなどを企画する予定です。堀口氏はコミュニティへの参加を呼びかけるとともに、さらなるTableauの活用を訴求しました。
発表会後には交流会も開催し、コミュニティに先駆け、部署の垣根を越えた情報交換の場となりました。
グローバルCoE活動「SMiLE」を軸に
グループ横断で顧客情報を一元化へ
今後、トレーニングプログラム参加者は、コミュニティ活動などを通じて、クリエイターからさらにエバンジェリストとなり、AI(人工知能)などの新技術の活用や既存システムとのデータ連携で、Tableauの価値をますます高めていく予定です。
後編では、このプログラムへの参加やSalesforceが提供する認定資格取得、無料学習プラットフォーム「Trailhead」をフル活用し、自身のスキルを着実に向上させながら、同時にTableauの社内普及に奮闘する担当者に話を伺いました。
▶ 後編へ続く
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