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【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

開業1年で売上100億円を突破した新進気鋭のスタートアップ、NOT A HOTEL。急成長の理由、大切しているポリシー、そしてUXへのこだわり……。元CXO(現上級執行役員 Overseas Sales)の井上雅意さんに語っていたきました。

その企業名の通り、「ホテルのようでホテルでない」全く新しい居住空間を提供するNOT A HOTEL。自宅(別荘)とホテルをアプリで切り替えられる「あたらしい暮らし」を提供するコンセプトが斬新で、開業1年で売上100億円を突破。急成長を遂げている。

著名建築家による建物やそのコンセプトに注目が集まりがちだが、急成長の裏にはテクノロジーを活用した顧客体験の価値向上への追求がある。

同社のテック基盤の開発を執行役員Chief Experience Officer(CXO) としてリードしてきた井上雅意さん(現:上級執行役員 Overseas Sales)に、NOT A HOTELを支えるテクノロジーについて詳しくお伺いしました。

メルカリCXOから現職に。NOT A HOTELを選んだ理由

──井上さんは、モトローラやサムスン、ヤフー、メルカリなどの大手テック企業に勤めた後、わずか数人しか社員がいなかったNOT A HOTELに移籍しました。これまでのキャリアをみると、かなり異色の決断ですよね。

井上:前職のメルカリを退社しようと決めた時、たまたまリモートで1on1していた当時の上司が新幹線に乗っていて。どこに行くのか訊ねると「NOT A HOTELという会社の土地を見に行く」と。そこで、その上司から「会社辞めるんだったら、濵渦さん(濵渦 伸次 NOT A HOTEL代表取締役CEO)に一度会ってみる?」と声をかけてもらったんです。

その後、濵渦さんに会ったとき「那須に土地を買ってホテルを作るから、週末に見に来ない?」と誘われて。行ってみたら、東京ドーム16個分くらいの牧場にホテルを2個、作ると。

「こんな大きい土地にたった2つだけ?」と驚きました。濵渦さんの発想は本当に型破りで良い意味でぶっ飛んでいる。この人となら、これまでにない価値を作ることができそうだと思って、即決。帰りの電車で決めました。

井上 雅意(Guy Inoue)
NOT A  HOTEL株式会社 上級執行役員 Overseas Sales
井上 雅意(Guy Inoue)
NOT A  HOTEL株式会社 上級執行役員 Overseas Sales

 慶應義塾大学卒。ヤフー株式会社にてサービスのスマートフォンアプリ化に従事。2018年より株式会社メルカリのCXOとしてデザインを統括。2020年10月、NOT A HOTELに参画。執行役員CXOを経て、2024年5月、Overseas Sales領域の上級執行役員に就任。

──井上さんが新天地を選ぶにあたって大切にしていることは何ですか。

「何か」を生み出しそれを多くの人が使ってくれることに、仕事の醍醐味を感じます。新たな価値を見つけてプロダクトとしてカタチにし、それを広める。そのインパクトが大きい場所に魅力を感じます。

濵渦さんは、創業時から現在まで「新しい選択肢を作りたい」という考えを貫いています。衣食住の中で、着る物や食べ物はたくさんの選択肢があるけれど、住まいは相対的にみて、一度決めると選択肢が限られますよね。賃貸だったとしても契約期間があって、コストを考えるとすぐに移り住むことは難しい。

NOT A HOTELは「今日はビーチ。明日は山。明後日は都会」というように、住む場所を自由に選択することを目指しています。これは今までにない価値観ですし、それを実際に作っていけるのは非常に面白いです。

最高のユーザー体験のために妥協なし。ないなら自分たちで作る

──井上さんが参画した2020年当時は、数人の社員だったと聞いています。創業期、どのように今の礎を築いたのでしょうか。

僕が入った時は5人でしたね。人数が少ないこともさることながら、その当時のメンバーは不動産のこともホテルのことも全く知らない素人ばかり(笑)。基礎的な知識もないからもう大変でした。

ただ、逆に言うと常識にとらわれることなく、理想だけを追い求めることができたと今振り返ると感じます。とにかく妥協しないことを大切にしていました。

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

──素人ばかりなのに、土地の取得から建物の建築企画、管理など全て自社で完結するとはすごいですね。「全てを自社で企画・開発する」というのは最初から決めていたのでしょうか。

そういうわけでもなく、良いツールやソリューションがあれば使いたいと思っていました。ただ、NOT A HOTELでは「これを実現したい」という理想が明確にあり、毎回、それに向けて調査して、仕様を突き詰めていくと、自分たちの要求を叶えているものは世の中にはなく、それなら自分たちで作ろう、と。

当時は周囲から「できるわけない」とか「なぜ全部自社でやるの?」と頻繁に言われました。

建物の土地を探して、その土地に対して、誰とどんな建物を作るかを決めて、その中に入る仕組みを作って、運営の仕方も作る……。 今のスタッフ数200人でも大変なのに、当時数人だからもう大変。

中でも、スマートホームのシステムやオーナーとのタッチポイントになるアプリ、UI /UXはテクノロジーを駆使すれば、スタートアップでも自分たちだけでいけるという自信はありました。「最高のユーザー体験を作るために、スケールできるシステムを作ろう」と。

ホテル業界の仕組みは、世の中ではほぼ決まっています。たとえば予約システムでは、OTA(Online Travel Agent)と言われる「Booking.com」のようなエージェントがいて、それを管理するPMS(プロパティマネジメントシステム / 予約管理システム)があって、さらに、その間にはチャネルマネージャーというものが数多くのOTAサイトを相手にした宿泊の在庫管理の仕組みを提供している。

普通に考えると、そうしたツールをベースに運営を組んでいったほうがいいとなるのですが、僕らはそうではなく全部自分たちでゼロから作りました。

なぜならば、NOT A HOTELが作ろうとしている体験は、世の中にある既存の仕組みでは実現できないから。既存のツールも、基本機能だけなら使えるけれど、トータルの体験を作り上げたいとなった時に、おそらく対応できないだろうと感じたからです。

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL

そこにあった考え方は、最初からゼロイチでブッキングの仕組みから作って、運営に関するデータも同じシステムで管理することで「本当の意味でのDX体験」を構築する。とにかく全てが一元化されて見えるようにするという思想です。

最初のグランドデザインとして、一通りオペレーションが回せるものをリリースできたのが、今から2年か1年半くらい前。そこから、どんどん仕組み化、自動化を進めて改善していくフェーズに入っています。

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

スマートホームにもこだわり。どの施設でも同じ体験を

──累計契約高が200億円を超え(2024年5月時点)、井上さんたちが描く世界は実現してきていますか。

思っていた通りに進んでいるものとそうでないものがあります。中でも、スマートホームは課題がありつつも、ある程度うまくいっています。

家の中の全ての機器をスマートフォンで管理するとなると、ちょっと大変な印象がありますよね。スマートホームを実現するための機器は、Philipsの「hue」やNatureの「Nature Remo」など無数に存在する。

それを寄せ集めて組むと、メーカーが違うのでかなりの手間がかかる。手間だけでなく、メンテナンスも各メーカーに依存する面があって、何か問題が発生したとしてもどうにもできない。結果、お客様に迷惑をかけてしまいます。それに、利用データもNOT A HOTELには残りません。

だから、NOT A HOTELは自分たちで全部やることを決めたんです。もともと家自体もゼロから作っていますしね。

ホーム・ビルオートメーションの国際標準「KNX」を使い、各機器をネットワーク化しています。実際やっていることは単純なんですよね。エアコンなどの家電・機器をコントロールする機器がありそれをネットワークにつなげる。そうすると、一台のデバイスからすべての電子機器をネットワーク越しで操作できるようになります。

NOT A HOTELにはどの物件にも同じタブレット端末を用意していて、それで照明やオーディオ、お風呂などをすべて操作します。

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

NOT A HOTELは購入した物件だけでなく、他のオーナー物件も利用できる相互利用ができます。ただ、ほかのオーナーの家に入ってスイッチがどこかいちいち探すのは、体験としてよくない。

煩わしさを取り去って、「どこのNOT A HOTELに行っても、全てが同じ操作」という体験を提供できると、「自宅感」が出てくるので、そこを実現したかった。これは上手くいった点です。

そして、結果として顧客管理、運営管理、予約管理、そしてビルマネジメントを含めて、全てのデータを私たちが見えるので、何かあった時にも、全て対応できる。誰の力も借りず、自分たちで全部コントロールできることは、イコール、ユーザーのエクスペリエンス向上にもつながります。

もちろん、やめたことや失敗したこともいっぱいあって。例えばそこにあるガラスの冷蔵庫。建築のメンバーが「イケてる冷蔵庫がない」ということで、冷蔵庫自体も自分たちで作っています。作るところまでは上手くいったので、さらに「ドリンクを取り出した瞬間に決済できたら最高」と思って、RFIDを入れたりして試みたのですが、水滴で認識精度が上がらず、商用レベルにはならなかったので、やめました(苦笑)。

サイロ化しない組織の強み

──システムの開発はどういった人員・体制で進めていますか。

最初の頃は「社員10名で上場しよう」と盛り上がっていて、創業当時は内部のメンバー3-4人に対して、業務委託が多い時は30人くらいで開発していました。

ただ、そうすると、どうしてもコミットメントとスピードの部分が難しくて。そこで昨年から一気に社員の採用を進める方向に切り替えて、現在はだいたい30人が社員で業務委託が10人。ようやく安定的にソフトウェアが作れる体制になりました。

──社員200名のうち30名がエンジニアとなると、ソフトウェアスタートアップのような規模です。NOT A HOTELは、建築のデザインが注目されることが多いですが、立派なテック企業でもありますね。

そうですね。実際、NOT A HOTELを動かすソフトウェアには、かなりの投資をしています。僕たちは、事業を進めていく上で、色々な人たちの話を聞いて、戦略やサービス内容を、日々ものすごく細かく軌道修正しています。

そうなると、業務委託のスタッフに仕様を決めて依頼する方法では済まなくて、エンジニアがプロダクトマネージャー的に動くことが求められてきます。そのため、社内でいつも情報をエンジニアと共有して、戦略やサービスを細かく把握して、お互いキャッチアップしながら作っていく体制が必要なんです。

──組織も100人を超えてくると、サイロ化してきませんか。

いや、サイロ化しないのが、僕らの強みでもあります。通常のホテルなどですと、ビルマネジメント、現地スタッフ、ソフトウェア、それぞれ別々の部門に分かれて管理していますよね。でもNOT A HOTELは、データが全て揃っていてつながっているので、連携がとりやすいんです。ちなみにコミュニケーション・共有手段はSlackを使っています。

例えば、建物で何か問題が検知されると、必要なメンバー宛てにSlackの通知が飛んで、現地スタッフや建築部のライフサイクルマネジメントという部署のメンバーなどがSlack上に瞬時に集まって、一気に対応します。サイロ化が起きにくい体制、仕組みになってるんです。

Slack AI とは。「3つのAI 」で働き方はもっと楽になる。

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

──顧客のエクスペリエンスを高いレベルで作り上げるために、組織設計や人事にも気を配っているのですね。

実は、NOT A HOTELには「ミドルマネージメントに疲れた人たち」が多く集まっていて(笑)。チームマネジメントはもういいから、純粋にプロダクトを作りたいというメンバーの想いが強いです。

そのため創業の頃からずっと話しているのは「絶対に、社員を評価しない」と。評価は、どれだけやっても完璧でないので不幸も出てくるし、時間をものすごく使うし、うちの会社では無駄だね、と。

そもそもOKRやチームの目標管理などの手法にも良し悪しがあって、チーム毎に色々と細分化していくと、その個別の目標のためには皆すごく頑張るけれど、それ以外のことを「これはうちのチームに関係ないから」と、やらなくなってしまう。

僕たちの会社の目標は、NOT A HOTELをどれだけ売ったかという、その売上と利益だけで、それを達成したらボーナスが出るし、しなかったら出ない。全社で1個の目標を持って、それをみんなで達成する。社員のグレードというのは一応ありますが、それは執行役員を含めた経営陣の話し合いで決めています。

【急成長スタートアップの舞台裏】NOT A HOTEL、ラクジュアリーな顧客体験の裏にテクノロジーあり

Chief Experience Officer/CXOという役割

──一般的な企業では、大きくなればなるほど組織はサイロ化し、そして縦割りになる。そこを顧客起点で一気通貫に「どのような体験が良いのか?」という視点で組織を動かしていくポジションとして、Chief Experience Officerの重要さを感じます。

メルカリとNOT A HOTELでCXOを歴任してきた井上さんから見て、「CXOとはこういうナレッジやスキルを持つもの」というCXO像はありますか?

CXOは、会社によって役割が違ってくるので、一概に定義するのは難しいですね。

NOT A HOTELの場合では、僕らはブランドを作っているという前提がまずとても大きいです。

ブランドとは何で作られるのかというと、あらゆる「振る舞い」で作られる。何かちょっとした甘えだったり、やりきれてないところがあったりすると、ブランドは壊れてしまう。

ブランドを作るために「とにかく徹底的に全部こだわり抜いて作るんだ」という強い思想が前提にあると — 冷蔵庫はどんなものにするべきか、カトラリーの並び方はどうするのか、スマートフォンで使うアプリはどうなるのか、そして実際に現地に行った時の体験はどうだろうか、そうしたことにこだわって一貫して作りきることを大事にするようになる。

その中でCXOとは、スキルセット以前にそうした組織全体での「前提」がないと成り立たないですね。逆に、そうではない組織にCXOは必要ではないと思っています。

NOT A HOTELのケースとして、CXOはある一側面だけ見ていてもなかなかできない役割でした。まず1番に、ビジネスをどう伸ばすか、顧客にどう売れるか、を起点に、売るための仕掛けを作っていく。

ただ実際の物件で「何これ?」となったら、顧客が買った価値を感じない上に口コミが広がって圧倒的にダメになってしまうので、マイナスを絶対的になくしつつ、グルグルと回していき、その中に「すごく感動的に楽に使えた」という体験を作っていく。そのためには、顧客とのビジネスに関わる細かなIT体験や、実際の宿泊の管理の裏側の仕組みなど、全部を横断して見ていくスキルが求められてくると思います。

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日本の強みを海外でも

──ラグジュアリーな不動産の分散所有というセグメントで、NOT A HOTELはすでに日本ナンバーワンですが、海外の市場をどう意識していらっしゃいますか?

NOT A HOTELの海外での知名度は、現状はゼロで、海外でも日本と同様のブランドをどう作っていくか、というのは今年のチャレンジです。最初のステップとして、日本のNOT A HOTELの物件を、海外の顧客に売るところからスタートしようと思っています。

別荘や不動産を分散所有するビジネスを展開するプレーヤーは、いち早くユニコーンになったPacaso(パカーソ)が有名で、8分の1の所有で別荘を買えるビジネスで伸びていて、僕たちも意識はしています。Pacasoが上手く行ったことによって、似たようなモデルのプレーヤーが米国、ヨーロッパ、ブラジルなどに出てきています。

海外の方はよく、日本には本当の意味でのいいホテルがない、と言うのですが、そうしたグローバルな目線からも、NOT A HOTELは、「こんなところに暮らしてみたい」という、他にはない日本の特別なロケーションを活かしていきたいですね。

取材・執筆:池上雄太、撮影:遥南 碧、編集:木村剛士

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