

コロナ禍の移動制限を受け、JR西日本の鉄道事業は大きな打撃を受けました。収支の構造改革が求められる中、同社は今後リモートワーク移行や少子化の影響などにより、「旅客輸送需要は以前の9割程度の回復にとどまる」と判断。この難局に対処するために、顧客一人ひとりを理解し、ニーズにこたえ、掘り起こす活動にグループ一体となって取り組むことを決めました。中心になる施策は、グループ共通のIDである「WESTER ID」、それに紐づくポイント制度である「WESTERポイント」。顧客に会員登録してもらい、そこで得られた情報から顧客ニーズを掘り起こします。つまり、同社はマスマーケティングから1to1マーケティングへと舵を切ることになったのです。現在900万を数えるWESTER会員に対して、同社はSalesforceを基盤に優れた体験を提供を目指しています。
商品やサービスを開発し、マスに対して販促施策を実施することで成果を出してきたJR西日本でしたが、同様のやり方を続けていても社会の変化に対応できないと考えました。そこで、顧客のグループ商品・サービス利用状況を把握し、その行動からより深く顧客を理解し、より良い体験(これを「WESTER体験」と呼んでいます)を提供する1to1の仕組みへと移行。多様なサービスを展開していきます。
ライフデザイン事業の成長が企業の発展につながる
「移動しなくていい」という選択肢が増えつつある現在、ライフデザイン事業を伸ばしていく必要があります。「WESTER ID」「WESTERポイント」によって、そうした顧客を取り込み、生活サービスの延長として移動の楽しさを訴求するなどグループ全体のシナジーを高めたい考えです。タビマエ/タビナカ/タビアト施策をさらに積極化し、地域のパートナーとの協力体制も強化していきます。
顧客行動パターンによるターゲティング
積極的なプロモーションを行う対象として、例えば、「定期券保有者はロイヤルカスタマーになる」という仮説のもと、定期券の沿線におけるプロモーションを試行しました。定期券保有者/非保有者に同様のプロモーションを行ったところ、保有者の対象商品購入率が非保有者より高いという結果を得ることができ、仮説の正しさを証明することができました。
離脱リスクの高まるメール配信数の閾値
「メール配信を増やせば増やすほど、離脱されてしまう」と言われており、「1日に1通が限界だろう」と考える人も多いようです。しかしJR西日本では、閾値はより高いのではないかと考えています。同社は現在1日1通で運用していますが離脱率は低く、開封/クリック率は安定しています。ポイントの魅力が高く、閾値はかなり高いレベルにあるのかもしれず、積極的な配信をめざす方向です。
少しずつ成功体験を積み重ねる
これまでマスマーケティングだけを実施してきたため、グループ内に1to1マーケティングのノウハウはありませんでした。そのため、Marketing CloudをはじめとするSalesforce製品は、段階を踏んで利用する機能を増やしてきました。稼働後1年以上が過ぎ、プロジェクトメンバーも現場も扱い慣れてきたため、今後はEinsteinの活用などにも取り組みたい考えです。
新たな決済サービス「Wesmo!」でさらなる顧客理解を
第二種資金移動業への登録完了を前提に、新たな決済サービス「Wesmo!」(ウェスモ!)を、2025年春を目指してサービス開始することを発表しました。ポイントサービスやネット予約システムと連携して消費者の利便性を高めるとともに、加盟企業間の送金手数料を無料にし、店舗の利用を促進することなど、様々な工夫を取り入れています。
※ 本事例は2024年8月時点の情報です
我々のビジネスの拡張に応じて柔軟に対応、顧客接点全体を最適化できるところが、Salesforceの導入を決めた大きなポイントです。
小山 秀一氏デジタルソリューション本部 システムマネジメント部 担当部長 WESTERモール推進室長, 西日本旅客鉄道株式会社