WILLER MARKETING株式会社

パーソナライズされた問合せ対応にEinstein ボットを導入、 回答チャネルの多様化で解決率上昇へ

Service Cloudで一元管理された顧客情報を活用しEinsteinボットで問合せに回答、 「複数提示型」で解決率が向上し、有人対応率が大幅に減少

「ユーザーファースト」を掲げ、マーケティングの発想で便利・快適を追求した移動手段を提案し続けているWILLER MARKETING株式会社(WILLERグループ)。ここでは顧客の問合せを迅速に解決する手段として、パーソナライズされた回答が可能なEinstein ボットが導入されています。その基盤となっているのが、Service Cloudです。

当初はフリーワードの質問にAIが直接回答する「一問一答型」で運用を開始しましたが、その後に質問に対して選択肢を提示する「複数提示型」へと移行。これによって解決率が一気に上昇し、チャットによる問合せがほぼチャットボットで完結するようになりました。その結果、有人対応率は大幅に低下しており、オペレーターのチャット対応時間が大幅に短縮。限られた人員での電話対応迅速化も実現しています。

 
 

1. パーソナライズされた問合せ対応のためEinstein ボットを導入

2005年に「株式会社西日本ツアーズ」として設立され、2006年にWILLER TRAVEL、2017年にWILLERへと社名変更してきたWILLERグループ。2023年には事業会社を分割し、トラベル事業とマーケティング事業をWILLER MARKETING株式会社(以下、WILLER)に集約しています。同社の最大の特徴は、旅行などのために人々が移動する手段に、マーケティングを積極的に取り入れ、革新的なサービスを次々に生み出していることです。その代表とも言えるのが、寝顔を隠せる「カノピー(フード)」が全席に取り入れられた、ピンクのバスを運行する高速バス「WILLER EXPRESS」の「 RELAX(リラックス)」シートです。この他にも、ユーザーニーズに合わせた複数の高速バスのオリジナルシートを運行する他、京都丹後鉄道の運行や旅行商品の提供など、便利・快適を追求した移動手段をさまざまな形で提案し続けています。

「WILLERというと一般的には高速バスのイメージが強いと思いますが、その実態はIT/マーケティングの会社です」と語るのは、WILLER カスタマーサービスグループでマネージャーを務める藤光 昭洋 氏。最先端のテクノロジーを活用しながら、サービス改善のサイクルを回し続けているのだと言います。「お客様の満足度を高めるために重要な役割を果たしているのがカスタマーセンターですが、2017年にService Cloudを導入し、お客様や予約の情報を一元管理しています」。

ここで注目したいのが、この一元管理された顧客情報を活用したEinstein ボットが、2018年に導入されたことです。その理由について藤光氏は次のように説明します。

「WILLERグループ全体の方針として『ユーザーファースト』を掲げていますが、電話による問合せ対応は10時~18時に限定されてしまうため、他の手段で問合せ対応を手厚くする必要がありました。そのために以前からFAQをホームページに掲載する、予約確認をしたいお客様を『マイページ』に誘導する、といったことを行っていましたが、これらだけではパーソナライズされた『One-to-One』の対応は困難です。そこでEinstein ボットを活用した、自然言語によるチャット機能を提供しようと考えました」。

また、主力サービスである高速バスはZ世代の女性の利用者が多いことも、Einstein ボット導入の大きな理由になったとも指摘します。この世代はLINEなどのテキストチャットに慣れている一方で、電話やメールをあまり使わない世代でもあるからです。

さらに藤光氏は「すでにService Cloud上にお客様の膨大な情報が蓄積されていたことも、Einstein ボットの導入に踏み切れた大きな理由です」と付け加えます。「Service Cloudで情報を蓄積していなければ、チャットボットの導入は難しかったはずです」。

 
 

2. 「一問一答型」から「複数提示型」への移行で解決率が大幅に向上

WILLERがまず実現したのは、顧客がフリーワード(自然言語)で質問を入力すると、その質問に対してAIが「一問一答型」で回答するチャットボットでした。またAIが答えを提示した後、「解決しましたか?」という質問をAIが行い、それに対して「はい/いいえ」で顧客が答える仕組みも組み込まれています。

「AIによる最後の質問は、チャットボットによる解決率を計測するために行っています」と言うのは、WILLER カスタマーサービスグループでスーパーバイザーを務める森 修平 氏。この質問に顧客が「はい」と答えた割合を、解決率にしているのだと説明します。「しかし一問一答型では解決率がなかなか向上しませんでした。チャットボット導入当初に30%程度だった解決率は、パーソナライズを進めていくことで36%まで向上しましたが、これが限界だったのです」。

この問題を解決するため、WILLERは回答の方法を大きく変更することにします。質問入力後に関連しそうな選択肢を提示し、そこから該当するものを選んでもらった上で回答を行うという、「複数提示型」へと移行していったのです。

「これによって解決率は急速に向上していきました。36%だった解決率が、現在では50%になっています。また解決率の他に、フリーワードに対して最初の選択肢を示すことができた割合を示す『回答率』、チャットが最後まで行われて『解決しましたか?』にまで到達した割合を示す『正答率』も計測していますが、回答率は99%、正答率も8割弱になっています」(森氏)。

これらのKPIをシステム側の視点から見れば、回答率は顧客が入力したフリーワードでの質問をAIが解釈できた割合であり、正答率はその質問をAIが理解した上でService Cloudから適切な情報を選択できた割合だと言えます。これらが十分に高いことは、解決率向上の重要な要素です。しかし、解決率は常に、正答率よりも低くなります。「解決した」と感じるか否かは、質問者の主観や質問の仕方にも影響されるからです。

「たとえば、台風が多い時期には運休確認の質問が多くなりますが、この場合はお客様が求める答えが明確なので、解決率はかなり高くなります。その一方で、商品内容に関する問合せは、顧客がどのような情報を求めているのかが曖昧なことが多く、解決率も低くなりがちです」(森氏)。

チャットボットで解決に至らなかった場合(「解決できましたか?」に対して「いいえ」が選択された場合)には、有人チャット対応か電話対応の選択肢が示され、オペレーターによる対応へと進みます。この時点でカスタマーセンターのオペレーターには、Service Cloudの画面上にこれまでのやり取りが表示され、AIからシームレスに引き継がれるようになっています。

 
 
 
 
チャットボットの「解決率」
 
 

3. 有人対応率は1/3近くにまで低下、電話対応の迅速化という効果も

チャットボットの解決率向上は、有人対応の割合を減少させる、という効果をもたらしています。たとえば、「有人対応数」を「サイト閲覧数」で割った「問合せ発生率」は、2017年には0.62%でしたが、一問一答型のチャットボットを導入した2018年には0.5%になり、選択型へと切り替えた後の2022年には0.23%にまで減少しています。つまり有人対応率は、1/3近くにまで低下しました。

「カスタマーセンターに対するお客様からの問合せは、すでに3割以上がチャットになっており、そのほとんどはチャットボットだけで完結しています」と藤光氏。ここで興味深いのは、チャット利用率よりも有人対応率の低下率の方が大きいことです。チャットボットの存在は、顧客の自己解決を支援する上でも、重要な役割を担っていると言えそうです。

有人対応率が低下した結果、電話による問合せへの応答率にも変化が現れています。カスタマーセンターの人員を大幅に増員したわけではないにも関わらず、2017年に65%だった応答率は、2023年には95~96%にまで上昇しています。つまりチャットボットの活用は、電話対応の迅速化という効果ももたらしています。

もちろんチャットボットでのやり取りは、Service Cloudにも蓄積されています。WILLERでは「ユーザーファースト」を実現するため、以前から頻繁に顧客アンケートを実施していますが、チャットボットのやり取りも「顧客の声(VOC)」として活用されていると言います。

2023年10月には、「PHONE APPLI LINER」も導入し、LINE経由の顧客窓口も開設。ここからAIチャットボットに誘導する仕組みも構築しています。もちろんService Cloudとも連携しており、ここからオペレーターに繋いだ場合には、LINEでのやり取りを全てService Cloudの画面で確認できるようになっています。

「今後もService Cloudで一元管理しているお客様情報をしっかりと活用すると共に、AI活用の幅を広げていきたい」と藤光氏。また他にも新しいテクノロジーが利用可能になれば、積極的に活用していきたいと語ります。「自動化できることは徹底的に自動化し、お客様の疑問を早期解決する方法を追求する。限られた人員でお客様満足度を高めていくには、これが重要だと考えています」。

 
 
 
 
※ 本事例は2023年10月時点の情報です
 

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