SaaSとは?PaaSとIaaSの違いやメリット、デメリットを解説
クラウドサービスが普及するとともに、「SaaS(サース)」という言葉を耳にすることが増えてきました。SaaSは、クラウド時代ならではのサービス形態のひとつです。
ここでは、SaaSの基礎知識のほか、特徴やメリットなどについて紹介します。
SaaSはクラウドサービスとして提供されるソフトウェア
SaaSは「Software as a Service」の略語で、直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」のこと。クラウドサービスとして提供されるソフトウェアのことを指します。
かつては、ソフトウェアは1台1台のPCにインストールしなければ使うことができませんでした。しかし、それでは個々に違うマシン環境のために、不具合が起こる場合があります。また、何十台ものPCにインストールするとなると、コストは大きくなり管理もたいへんです。
2000年代に入って高速な通信環境が整ってくると、ベンダー側に置いたソフトウェアをユーザーがブラウザ経由で利用するという形態が広まってきました。このタイプのサービスは、光回線の普及とともに一般化していき、進化を重ねてSaaSという形に発展したのです。
例を挙げれば、Googleが提供するGmailやGoogle ドキュメントなどの一連のアプリケーションのほか、Salesforceをはじめとする多くのビジネスサービスが、SaaSの形で提供されています。
SaaSはASPの進化型
SaaSと似たものとして、ASPというものがあります。形態としてはかなり古く、ASPという言葉が定着したのは1990年代以降のことです。「インターネット経由、ブラウザ上でアプリケーションを利用する」というスタイルは、SaaSとまったく同様です。
ただし、これらは厳密には同じものではなく、ASPは「シングルテナント」といって個々のユーザーに専用の環境を提供するしくみであり、SaaSは「マルチテナント」といって複数のユーザーでソフトウェアを共有するというものです。
ユーザーから見ると、SaaSとの違いはほとんどないといっていいでしょう。
PaaSは「プラットフォーム」を提供
SaaSと同じクラウドサービスの形態のひとつに、「PaaS(パース)」というものがあります
PaaSは「Platform as a Service」の略、つまりプラットフォームを提供するクラウドサービスを指し、アプリケーションが動作するための実行環境をすべて整えた環境をサービスとして提供するものです。 すでに環境が整っていますから、利用者はプログラム開発に注力でき、開発の時間とコストを抑えることができます。反面、すでに基本OSをはじめ、ハードウェアのスペックも固定されていますから、開発の自由度は下がってしまいます。
たとえば、Google App Engineがこのタイプです。
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IaaSは「インフラ」を提供
PaaSよりもさらにシンプルなのが「IaaS(Infrastructure as a Service)」です。「イアース」と読むのが一般的ですが、「アイアース」と読まれることもあります。SaaSがソフトウェア、PaaSがプラットフォームを提供していたように、IaaSはインフラを提供するサービスです。
IaaSでは、アプリケーションの実行環境の基盤となるサーバーやストレージ、ファイアウォールなどのインフラを、ネット上で提供します。ハードウェアのスペックや基本OSは自由に選ぶことができますから、SaaSやPaaSと比べて格段に自由度が高く、思いどおりのシステムを構築することができます。
その代わり、作業するにはソフト・ハード両面にわたる知識が必要で、ネットワークやセキュリティについても自分で構成する必要があります。建材だけを用意してもらい、自分の手で家を建てるようなものに近いかもしれません。
Amazon EC2などがIaaSとして提供されています。
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SaaSの6つのメリット
SaaSは従来のインストール型ソフトウェアと比較して、下記のようなメリットを備えています。
<6つのメリット>
- インストール不要ですぐ使える
- 使った分だけ支払えば良い
- 利用規模と期間を問わない
- クラウド保存で安全性が高く、アクセスが自由
- 常に最新版を使える
- 保守管理の手間とコストが不要
インストール不要ですぐ使える
SaaSは、インターネットにアクセスすれば、すぐにサービスを使い始めることができます。ブラウザで動作するソフトウェアの場合、個々のPCへのインストールが不要ですから、事前の手間がかかりません。一度に多くのマシンでサービスを利用する場合も、ユーザーが自分のマシンでサービスにログインすれば、それで利用を開始できます。
機種依存性が低く、PCの環境によって不具合が起こることが少ないのもメリットです。
使った分だけ支払えば良い
SaaSは、ほとんどの場合サブスクリプション型の料金体系をとっています。これは、「使った分だけ利用料を支払う」という従量課金制で、利用するアカウント数分の月額使用料が月間コストとなります。
インストール型のソフトウェアは概して高価です。1、2台ならともかく、10台以上のPCにインストールするとなると、軽々しく購入の判断ができません。使い始めてすぐに欠点が露呈し、「うちでは使いものにならない」ということになるかもしれないのです。
しかし、サブスクリプション型であれば、初期コストが安いため導入しやすく、使ってみてダメとなれば、利用を止めることで、それ以降の料金は発生しません。ベンダーにとっては、長く使ってもらえばもらうほど、安定した利益がもたらされます。
このようにSaaSは、ユーザーにもベンダーにもメリットの多い形態なのです。
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利用規模と期間を問わない
コストのメリットと関連して、少数のアカウントあるいは短期間の利用が可能というのもSaaSの利点です。
「大規模なイベントやキャンペーンに対応するため、数か月間だけ利用する」「いくつかにしぼった導入候補の中から1つを選ぶため、しばらく使ってみる」「部門全体で導入して混乱が起こると困るので、まずは数人規模で始めてみる」。このような使い方がSaaSでは可能です。
「試しに使ってみたい」という場合には、デモ版を利用してもいいのですが、デモ版では機能が制限されていたり、試用期間が短かったりということもあります。じっくり使い込んで確かめたいのなら、実際にアカウントを取得したほうが良い場合もあるでしょう。
クラウド保存で安全性が高く、アクセスが自由
インターネットには常にさまざまな脅威があり、セキュリティの確保はあらゆる企業にとって重要課題です。データの消失は経済的損害に直結しますし、個人情報の流出は企業生命にも関わる大きな問題となります。
その点、SaaSは、災害やサイバー攻撃などの脅威に対する安全性は高いといえます。サービスを提供するベンダーとしては、1人でも多くのユーザーに少しでも長く使ってもらいたいのですから、そのための環境維持、中でもセキュリティについては大きなコストをかけて万全を期しています。
また、同様の理由で使い勝手の良さも追求しており、多くのソフトウェアは、PCはもちろんモバイルデバイスでも自由にアクセスでき、快適に使えるように設計されています。
常に最新版を使える
ブラウザで使えるソフトウェアの場合、アップデートやバーションアップの手間をかけることなく、常に最新版が使えることもメリットです。
SaaSでは、小さなバグの修正や仕様変更、さらに新機能の追加やユーザーインターフェースの改善など、常にブラッシュアップされ続けています。しかし、ソフトウェアそのものはベンダー側にあり、ユーザーはそれをブラウザ経由で利用するという形をとっていますから、ユーザーは何も意識することなく、常に最新版にアップデートされたものを使うことができるのです。
ソフトウェアのアップデートはきちんと管理しないとユーザー任せになってしまい、いつの間にか社内のソフトウェアのバージョンがすべて違うということになりやすいものです。しかしSaaSならば、そうしたことは起こりません。
保守管理の手間とコストが不要
社内のPCにインストールしたソフトウェアの保守管理。年間で考えると、かなりのコストがそこに投下されています。専門知識を持ったスタッフが手を動かすのですから当然ですが、SaaSであれば、保守管理の手間もコストも不要になります。
ランニングにかかるコストは目立たないものですが、意外と重い負荷となります。それが軽減されることは大きなメリットです。
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SaaSの3つのデメリット
SaaSの特徴とそのメリットについてお話ししてきましたが、SaaSには欠点はないのでしょうか。SaaSのデメリットを踏まえた上で、導入・利用することが大切です。
<3つのデメリット>
- セキュリティ対策は絶対ではない
- ベンダー主導のソフトウェアの改変により、使い勝手が悪くなる可能性がある
- 長く使えば使うほど別のソフトウェアへの乗り換えが大変になる
セキュリティ対策は絶対ではない
SaaSは、いずれも大きなコストを投下して万全のセキュリティを施し、二重三重の体制で万一に備えています。個々の企業が用意できるレベルを遥かに超えたセキュアな環境を実現しているといえるでしょう。しかし、それは絶対のものではありません。
また、ベンダーが万全の環境を用意していたとしても、ユーザーの不用意な操作やミスによって、重要なデータが流出してしまうケースもありえます。
そうした可能性があるかどうか、あるとしたらどんな策を講じれば良いか。運用ルールで対策を用意しておくようにしましょう。
ベンダー主導のソフトウェアの改変により、使い勝手が悪くなる可能性がある
SaaSは、アップデートをベンダーが行ってくれるため、ユーザーの手間がかかりません。このメリットが、場合によってはデメリットとなります。ベンダーが機能の追加や改変を繰り返した結果、アプリケーションそのものがユーザーの求めていたものとは違う形になってしまうというケースです。
そこまで極端な変化でなくても、インターフェースや構造の改変によって、使い勝手が悪くなってしまったということは起こりうることです。
このような場合、自分だけ旧バージョンを使うということもできませんから、新たな環境に慣れるしかありません。
長く使えば使うほど別のソフトウェアへの乗り換えが大変になる
ソフトウェアを長く使い続けているうちに、ユーザーはベンダーに「囲い込まれた」状態になります。これ自体は悪いことではありませんが、前項で触れたような悪しき改変が繰り返されるような場合には、別のソフトウェアへの乗り換えを考えるしかなくなるでしょう。
また、それとは別に、ベンダーが開発やサポートを停止してしまったり、倒産してしまったりという事態もありえます。このような場合にも、ほかのソフトウェアへの乗り換えしか道はありません。
しかしその場合、クラウド上に蓄積してきたデータを問題なく抜き出し、ほかのソフトウェアにインポートできるかどうかは不明確です。もしこれができないと、ユーザーは長年にわたって積み上げてきた宝の山を、そっくり失うことになります。
こうしたことは滅多に起こるものではないでしょう。しかし、その可能性はゼロではなく、SaaSが持つリスクのひとつといえます。
SaaSは今後も普及が見込まれる
SaaSは多くのメリットを持ち、ユーザーとベンダー双方のニーズがマッチした形態といえます。今後もさまざまな場面で普及が進み、定着していくことでしょう。
しかし、デメリットもありますから、導入の際にはプラスとマイナスを見比べて、その上で判断するようにしてください。