成長する組織づくりの基礎と従業員のエンゲージを高めるための実践法

 
2023.6.8

組織の強さは企業によって異なります。たとえ人数が少なくても、組織として強固な企業もあれば、人数は多くてもすぐに瓦解してしまうような企業もあります。

ここでは、従業員のエンゲージメントを高め、組織力の高い企業を作るためにはどうすればいいのか解説します。

組織とは?

企業や自治会、PTAなど、複数の人が集まって作られている集団は、すべて「組織」であるといえます。

組織は、複数の人が共通の目的を持って集まることで形成されます。組織はそれぞれの目的のために、個々人ではなく全体で活動を行い、全体での目標達成を目指します。

これは、数千人の従業員を抱える大企業であっても、数人しか従業員のいない企業であっても同じです。ところが、企業の規模が大きくなればなるほど、「組織を構成する人員である従業員がそれぞれ別々の方向を向いている」ことが起こりやすくなります。

組織を構成する人員が同じ方向を向かずに、それぞれ自分の思う方向へ進んでしまうと、組織としての力は弱まっていきます。企業の場合は、従業員の満足度の低下を招いたり、早期離職を引き起こしたりする原因にもなってしまいます。

組織を作ること自体は簡単です。しかし、組織を維持し成長していくためには、どれだけ規模が大きくなっても、組織の人員がきちんと同じ方向を向ける組織づくりをしていく必要があるのです。

従業員のエンゲージメントを高めることが企業成長につながる

企業がより大きな結果を残せるようにするためには、いったいどうすればいいのでしょうか。

「結果を出せない従業員を批判し、結果を出した従業員をほめる」という方法をとる企業もあるかと思います。しかし、このようなやり方では、組織力を高めていくことはできません。企業が長期的に成長していくためには、結果ありきで行動するのではなく、まずは従業員との関係性を高め、従業員が自発的に動ける組織を作っていく必要があるのです。

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している理論に、「組織の成功循環モデル」というものがあります。ダニエル・キム教授は、組織は4つのポイントをどのように循環させるかによって、組織の成功が決まるとしています。

この4つのうち、「結果」を基に企業が動いた場合、企業の都合で結果を求められた従業員と企業のあいだに対立が起こります(関係の質の低下)。すると、従業員はやりがいを感じなくなり、仕事はつまらないものだと思い始めます(思考の質の低下)。そして、最終的に受け身で行動するようになり、自発的な行動ができなくなっていきます(行動の質の低下)。そうなれば、さらに結果が出せなくなっていってしまいます(結果の質の低下)。 これが、「バッドサイクル」と呼ばれるものです。

「グッドサイクル」は、従業員と企業がお互いを尊重し合い、対話を持つことから始まります(関係の質の向上)。自発的に考えることを求められた従業員は、新たな気づきを得たり、仕事にやりがいを感じたりします(思考の質の向上)。結果、意欲的に仕事に取り組んだり、新しいチャレンジをしたりするようになり(行動の質の向上)、高い成果が得られます(結果の質の向上)。この循環が成功すれば、さらに企業と従業員の関係性は強まっていくでしょう。

高い成果ばかりを追い求めていても、なかなか結果はついてきません。まず、従業員と組織のエンゲージメントを高めていくことで、自然と結果を出せる組織を作っていくことができるのです。

強固な組織づくりをするための具体的な施策

従業員のエンゲージメントが低下していると感じたら、自社に足りないものが何なのかを考えてみましょう。強固な組織づくりをしていくための具体的な施策についてご紹介します。

今していることの意義を従業員に認識させる

自分がしている仕事が、企業活動にどのように役立つのかを従業員に認識させることで、モチベーションを高め、「自分の仕事が企業のためになっている」という意識を持たせることができます。反対に、なぜその仕事をしているのかという意義が理解できないまま目先の仕事だけをこなしているようでは、エンゲージメントを高めることはできません。

組織の文化を作る

国や地域の文化は、そこに暮らす人々の価値観や判断に大きく作用します。文化の中には「悪しき文化」として、好ましくないものも定着する可能性があります。 組織においても同様です。ですから、企業として、組織として、悪しき文化が生まれないように、文化の根幹となる「企業理念」を明確に設定する必要があるのです。そして、経営者以下、すべての従業員がこの企業理念を理解し、実現のために力を尽くす環境を整えることが重要となります。それでこそ、組織が一丸となって同じ理想を抱き、同じ方向を向き、同じ目的地を目指すことができるのです。

では、どのような理念を掲げるか。それは、企業によってさまざまでしょう。自分たちが何を大切にしたいのか、何を目指すのか、顧客や社会にどんな価値を提供するのか。こうしたい、こうありたいと願う組織としての理想を十分に噛み砕き、平易な言葉で表現することです。ちなみに、セールスフォース・ドットコムでは、「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「平等」を「大切な4つの価値」と位置づけ、活動の原動力としています。

企業理念にもとづいた人材育成や経営方針を打ち立てる

組織全体の結びつきを強めるためには、企業理念を社内で共有するとともに、実際にそれに沿った人材育成や経営方針を行っていく必要があります。企業側が、積極的に企業理念を叶えるためのアクションを起こしていかなければ、従業員も「企業理念を実現するために行動しよう」とは思えません。

企業理念は、企業が行動をする際の指針になるものです。おろそかにすることなく、常に意識した経営を行っていかなければいけません。そのためにも、企業理念は、企業にとって本当に意義のあるものに設定する必要があるのです。

組織の構造を作る

従業員のエンゲージメントの向上を考える場合、組織構造にも目を向ける必要があります。 組織の構造とは、たとえるなら、チームで行うスポーツのフォーメーションのようなもの。サッカー、ラグビー、バレーボールといったスポーツでは、フォーメーションが非常に重要です。足の速い者、パワーに優れた者、守備力が高い者など、それぞれの特性が最大に発揮されるポジションに選手を配置していきます。

企業の組織構造も同じです。個々の従業員の特性や能力を理解した配置を行えば、従業員は自分の能力を存分に発揮でき、満足のいく結果を出すことができるでしょう。しかし、適切でないポジションに置いてしまうと、従業員は実力を発揮できず、結果としてエンゲージメントの低下を招いてしまいます。 これは、単なる人材配置のミスである場合もあれば、組織構造そのものに問題があるケースもあります。もしそうなら、組織の構造を検討し直し、構造改革に踏み切ることも必要かもしれません。

企業の組織構造はさまざまですが、おもなものには「職能別組織」「事業部制組織」「チーム制組織」の3つがあります。この構造によって職務内容や命令系統、権限の範囲が変わってきますから、自社に合った組織構造を選ぶことが大切です。

  • 職能別組織

職能別組織とは、仕入れ、営業、物流など、業務内容ごとに部署をまとめ、経営陣が統括する組織です。それぞれの業務に専念できますから、業務効率とともに専門性も向上します。ただ、ほかの職能部門との連携がとりにくく、急速なニーズの変化などに対応しにくいという、フットワークの鈍さが表れがちです。

  • 事業部制組織

事業部制組織では、事業内容ごとに事業部を作り、その中に各職能の担当部門を置く形をとります。意思決定が早く、責任の所在が明確になりますから、変化が早い業界などではメリットがあるでしょう。事業部ごとの独自性や独立性を保つには良い構造ですが、事業部の垣根を越えて協働することが難しくなります。

  • チーム制組織

チーム制組織では、プロジェクトごとに必要な人材を集めてチームを編成していきます。職能別組織、事業部制組織と併用する場合もあります。フットワークが軽く、市場の急激な変化にも対応しやすい上、イノベーションを生み出すにも適した組織構造です。反面、命令系統が見えにくいというデメリットもあります。

適切なマネジメントができるマネージャーを育成する

上司のスキルが低いと、部下の気持ちを企業に向けることが難しくなっていきます。部下の評価やマネジメントを行う上司は、部下が「この人の言うことは信頼できる」と感じる人材でなければいけません。

営業成績が優れた人間が、必ずしも高いマネジメント能力を発揮できるかというと、そうとは限りません。適切なマネジメントができるよう、企業が育成していく必要があります。

自社に合った評価制度を構築する

評価制度は、従業員のモチベーションに大きく関係します。自社にとって最適な評価制度がどのようなものなのかを検討しましょう。

納得度の高い評価制度を構築することができなければ、従業員は企業を信頼することができなくなってしまい、不満が募る結果になってしまいます。

評価制度を可視化させる

評価制度は、必ず可視化される必要があります。そうしなければ、「何をすればどのくらいの評価を得られるのか」を従業員が理解できず、意欲が下がってしまうからです。

特に、売上などのわかりやすい指標のない人事や総務、カスタマーサポートといった部署では、評価制度が曖昧になってしまいがちです。しかし、こうした部署の従業員に対しても、どうすれば評価が上がってどうすれば下がるのかを定義し、周知するようにしてください。 誰もが評価制度を理解・納得することで、評価に対する信頼性が生まれるとともに、仕事の意義も感じやすくなります。

リアルな従業員の声を聞き、経営に反映していく

自社の従業員が今何を考え、課題に思っているか、わかるでしょうか?従業員が同じ方向を向くという意味でも、従業員の声を聞くことは大切です。

現場の声を聞くことなく経営方針を定めていると、どんどん企業と従業員の溝が深まっていきます。従業員の声を聞き、経営に反映させていくことがエンゲージメントの強化につながります。

従業員の自発的なモチベーションを高める

「組織の結びつきを強固にし、同じ方向を向けるようにする」ことは、決して「従業員を企業の言いなりにする」ことではありません。従業員自身が自分で考えて実行するスキルを高めていかなければ、強い組織を作ることは難しくなります。

従業員ひとりひとりが組織を構成している一員であるという意識を持ち、意欲的に活動していくことが結果につながっていきます。

組織づくりに欠かせない人材育成

最後に、組織づくりに欠かせない人材育成を行うために意識しておきたいポイントを、まとめてご紹介します。

組織の人事システムを作る

どのような人材を採用してどこに配置するか。従業員の業績に対して、何を基準に評価するか。こうした人事システムを、「達成したい目標に合わせて作り上げること」は、組織づくりの重要なポイントです。

新規顧客を増やしたいならマーケティング部門の人員強化が必要でしょうし、製品の質を高めるなら開発部門に注力すべきでしょう。そして、得られた成果を公平に評価し、賞与などに反映することが大切です。

企業の目標に沿って行動し、生み出した成果に対して正しく評価されることで、従業員のあいだでさらに先を目指そうとする空気が生まれ、ひとりひとりがみずから成長していく土壌が作られます。

人材育成の目的とスキルマップを共有する

従業員に、人材育成の意義を理解させることができなければ、意欲を持って学習に取り組むことはできません。

スキルマップを共有して成長の道筋を可視化するとともに、何のためにそのスキルが必要なのかを理解させることで、人材育成の効果を高めることができます。

みずから考えさせる制度を作る

従業員自身に目標設定をさせることや、課題を見つけさせることも大切です。「やらされている」という意識を払拭し、当事者意識を持たせることができます。

成長へのモチベーションを高めるようにする

従業員の希望に合った配置転換、自己啓発に対する補助制度、自分よりも上のランクの研修への希望参加制度の導入など、従業員が自分から成長したい気持ちを持てるようにする制度を導入していきましょう。

評価制度を明確にする

従業員の成長に対する評価の基準が曖昧では、モチベーションは上がりません。どのように評価されるのか明確な基準を作ることで、評価者による評価のぶれも防ぐことができます。

従業員の負担を軽減する

従業員に研修やセミナーを受けさせることは、従業員に対して時間的な負担を強いることでもあります。また、自己啓発には費用もかかってしまいます。

このような従業員の負担をできるだけ軽減することで、従業員からの反感を防ぎ、無理のない育成を行えるようになります。

管理職に対しては管理に対する評価を行う

評価が必要なのは、一般の職員だけではありません。部下を持つ上司であっても、評価が必要です。 管理職に対しては、どの程度適切な管理が行えているかという観点で評価を行い、成長を実感できるようにしなければいけません。

組織づくりのためには、従業員と企業の関係性の構築が必須

強固な組織を作るためには、従業員のモチベーションを高く維持して、自発的に成果を上げていける環境を構築することが大切です。それと同時に、従業員が同じ方向を向けるように働きかけることも必要です。

従業員の意欲が低い組織が、組織力を高めることはできません。従業員がバラバラに動いていってしまうと、組織のまとまりがなくなってしまうからです。経営理念を意識して、結束力の強い企業を目指していきましょう。

 

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