Salesforceで現場の“今”を可視化し、加盟店の継続的支援を可能とする「店舗カルテ360View」を確立
レガシーシステム・ベンダーロックインから脱却し、
本部と現場をつなぐ情報プラットフォームを構築。
加盟店と顧客に関する膨大な情報を可視化・共有化し、
各種業務改善を推進
そうした状況を打破するため、同社は2015年にSalesforceを導入し、本部と現場をつなぐ情報プラットフォームを構築。加盟店と顧客に関する膨大な情報を可視化・共有化し、さまざまな業務改善を推し進めていきました。現場の“今”を可視化し、加盟店に対する継続的かつきめ細かな支援を可能とした「店舗カルテ360View」。それをいかにして実現し、どのような成果を上げているのか、同社のSalesforce活用事例を紹介します。
1. 創業以来の経営方針「変化対応」を実践する上でレガシーシステムが足かせに
株式会社セブン-イレブン・ジャパンが、1973年の創業から一貫して「変化対応」という経営方針を第一に掲げてきたことは、ビジネス界で広く知られています。社会や市場の変化を的確にとらえ、顧客視点に立って迅速に次の一手を打つ。その考え方は、単身・共働き世帯の増加やネット販売の拡大、中小小売店の減少など、小売業界を取り巻く社会環境の激変に見舞われながらも、同社が半世紀にわたって成長を続けられた主要因のひとつとなりました。そしてそれは、国内の加盟店数が2万1,000店を突破した今も、コンビニエンスストア最大手の“DNA”として受け継がれています。
ただ、同社執行役員システム本部長の西村出氏は、コロナ禍によってかつてない「変化対応」が求められていると指摘し、その上でDXの重要性についてこう語ります。
「コロナ禍によるニューノーマルにおいて、お客様のニーズや店舗の使われ方は非常に多様化し、ご来店の際にお客様の欲しいものが常にある状態を保つことがますます難しくなっています。また、社内に目を向けると、人件費の高騰や業務の複雑化が課題となっています。私たちシステム本部は、そうした過去に経験のない変化に対応するべく、加盟店の皆様にお使いいただいている店舗システムの改善といった店舗業務のDX化に取り組むとともに、未だにアナログな部分の多い弊社自身の業務のデジタル化、省力化をITの連携活用によって推し進めています」(西村氏)
そうした取り組みの一環として、同社がSalesforceを導入したのは2015年のことです。もともと同社は、1980年代という非常に早い段階からシステム投資を積極的に行ってきました。しかし、その裏返しともいえる負の側面として、同社はシステムに起因するさまざまな課題を抱えることになったそうです。
「システムが過去の技術で構築されたレガシーなものとなり、ブラックボックス化していました。また、特定のベンダーへの依存度が非常に高い、いわゆるベンダーロックインの状態でした。そのため、システムのスクラッチ開発や改修、保守運用に多大なコストと時間がかかり、突発的な開発が必要になっても、ベンダーのリソース次第ですぐに実行できない。ビジネス側でなにか新しいことをしようとしても、システムが足かせとなって結局諦めざるを得ない、ということもありました」(西村氏)
同社のフランチャイズビジネスにおいては、加盟店と顧客に関する膨大な情報があり、それぞれを管理する組織と業務があります。しかし、それらの多くがアナログな状態で、情報の可視化や共有、活用はなかなか進みませんでした。そうした状況を打破するため、同社はSalesforceの導入を決断したのです。
2. 本部と現場をつなぐ情報共有基盤を構築し、迅速・効率的に各種業務を改善
クラウドのシステムを導入し、オンプレミスでの開発・保守運用やベンダーロックインから脱却することは、システム本部にとって大きな挑戦だった、と西村氏は振り返ります。約9,000名の従業員を擁する大企業において、使い慣れたシステムを大きく変えるというリスクを取り、安全安心を担保しながら成果を出す責任を自ら負うことになるからです。
それでもSalesforceの導入に踏み切ったのは、柔軟性・拡張性に優れ、さまざまなシステムと連携させてデータを利活用できることはもちろん、コミュニケーションに重きを置いたプラットフォームだと感じたことが大きかったそうです。
「当時チャットやデータドリブンという言葉はまだ一般的ではありませんでしたが、これからはITを通じたコミュニケーションが重要になると考えていて、私たちの課題もまさにそこ、本部と現場(店舗)の情報共有とデータ利活用にありました。そして、それを解決できるソリューションはSalesforceが当時最適であると思ったのです」(西村氏)
同社は、システム刷新の検討開始から1年弱、西村氏によれば「順調にかなり短期間で」新システムの構築を完了しました。スモールスタートとして最初に着手したのは、「お客様相談室」の業務改善。以前よりアナログな状態が問題視されていた、本部と現場をつなぐ各種業務の中で、特にシステム化の要望が強かった領域でした。
Salesforce導入前、コールセンターに寄せられる顧客からの電話やメールによる問い合わせは、ExcelやWordのデータとして蓄積されているものの、構造化した管理はなされていない状態でした。それがSalesforceで一元管理されるようになったことで、本部と店舗でリアルタイムに情報を共有し、速やかに改善につなげられるようになったのです。
「Salesforce活用の試金石となる最初の取り組みですし、大事なお客様の声を活かせるかどうかという意味でも、ここでしっかり成果を出さなくては、という緊張感とプレッシャーがありました。苦労もありましたが、幸い、担当部門から『データ共有の速度や業務の生産性が上がった』という声が上がるなど非常に評判がよく、本当に嬉しかったですね。結果として、『それならうちの部門でもSalesforceを使ってみようか』という形で、活用する領域がだんだん広がっていったのです」(西村氏)
3. 現場の“今”を可視化する「店舗カルテ360View」で加盟店の継続的支援が可能に
同社は「お客様相談室」における成果を踏まえ、加盟店と顧客に関する各種情報の可視化・共有化を次々に推し進めていきました。商品・品質の管理情報や店舗経営のカウンセリング情報、店舗契約・オーナーとのやり取りの記録、店舗従業員の研修受講履歴など、従来個別に管理されていた情報を一つひとつSalesforceに入力するように切り替え、一元化していきました。
その結果として誕生したのが、「店舗カルテ360View」と呼ばれるものです。店番号を入力するだけで店舗に関するあらゆる情報を把握できるこのプラットフォームを使うことで、経営者・営業部門・管理部門・システム部門は、一体となって加盟店を継続的に支援することができます。
たとえば、同社の約3,000名の現場の担当者は、1人当たり7~8店舗を日々巡回して品揃えなどの実務面から経営面までを支援し、レポートにまとめています。従来、その報告作業はExcel等で行われ、非常に手間がかかるだけでなく、即時の情報共有と施策展開が困難でした。それがSalesforceで入力・管理されるようになったことで、本部側がすぐに情報を把握し、同社の持つ他の情報と連携させながら、必要な手を迅速に打てるようになったのです。
「お客様やオーナー様の声を聞く業務、建物の貸主様の情報や契約関係を管理する業務、全国にある店舗で勤務する従業員の方に対する研修支援など、非常に多くの人員とコストをかけて個別にまわしていた業務が、Salesforce上に統合され、大幅に効率化されました。そして、それ以上に重要な成果は、店舗の“今”が可視化され、加盟店様のビジネスをよりきめ細かく支援できるようになったことです」(西村氏)
西村氏は、そうした成果を数値で示すのは難しいとしながらも、本社従業員約9,000名と加盟店約2万1,000店の膨大なデータを扱えるデータセンターと、それを運用する人員が不要になっただけでも、相当なコスト削減になっているはずだ、と指摘します。
「ハード・ソフト面のコスト削減、業務効率化、さらには新たなデータ利活用による付加価値を考えれば、Salesforceの成果は計り知れません。弊社においてDXを進めるうえで、セールスフォースの活用が重要な選択肢となっています。」(西村氏)
同社は今後の展開として、現場の担当者の個人のノート・Word等にまとめられた現場でしか得られない情報や、各人の頭の中にある仕事の仕方や判断など、社内に眠っているナレッジ・ノウハウをSalesforceに蓄積し、AIを使ってビジネス領域で活用する、などの構想を練っているそうです。
「DXをさらに進めるためには、データの利活用をもっともっと高度化していかなければなりません。既存のデータと、新たに可視化・構造化したデータをかけ合わせることで、加盟店様と弊社の業務の質の向上に貢献したい。それを実現する重要なプラットフォームとして、Salesforceを活用していきたいと考えています」(西村氏)