舞鶴市

市民6万5000人のワクチン2回接種を迅速にミスなく完了!
「舞鶴方式」を裏側で支えたService Cloud

接種者台帳・コールセンター支援・接種会場支援等の機能を実装、
接種者・職員双方にメリットのある実際の運用に即した新システムを
アジャイル開発と万全のサポートによりわずか1か月あまりで構築

2020年末〜2021年頭、コロナ禍で状況が刻々と変化し、先を見通せない中、ワクチン接種計画の推進を迫られた全国の自治体。その中で舞鶴市は、接種に関する国と市のシステムが複数存在し、連携性のない状況に危機感を覚え、新たなワクチン接種事務支援システムの構築を決断しました。稼働開始までのタイムリミットはわずか1か月あまり。きわめて厳しい状況でしたが、Salesforceを利用したアジャイル開発と、パートナー企業の万全のサポートにより、短期間で新システムの本格稼働までこぎつけることに成功。全ワクチン接種希望者への接種を予定通り完了することができました。全国的な注目を集めた独自のワクチン集団接種「舞鶴方式」の裏側で、Service Cloudがどのように活用されたのか、また職員のどのような尽力があったのかを紹介します。
 
 

1. タイムリミットまでわずか1か月あまり、立ちはだかるシステム上の大きな課題

京都府北部に位置し、リアス式海岸で形成される天然の良港を有する、人口約7万9000人の自然豊かな街、舞鶴市。安土桃山~江戸時代の武将・文化人として名高い細川藤孝(幽斎)ゆかりの田辺城跡、城下町として栄えた風情ある町並み、旧海軍施設の赤れんが倉庫群をはじめとする歴史遺産など、自然と歴史の魅力にあふれる都市です。

そんな平穏な街にも、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、大きな不安と混乱をもたらしました。日本においてワクチン接種が現実味を帯び始めた2020年末。ワクチンの開発・供給や感染拡大の状況が刻々と変化し、政府の方針が二転三転する中、舞鶴市は他の自治体と同様、限られた時間の中でワクチン接種計画を立て、一刻も早く接種を開始・完了するよう対応を迫られました。総務部デジタル推進課長の吉崎豊氏は、当時の切迫した状況をこう振り返ります。

「『65歳以上の高齢者から速やかにワクチンを2回接種させよ』という緊急指令に総員全力で取り組み、2021年1月18日にワクチン接種推進本部が立ち上がりました。考える余裕はほとんどありませんでしたが、本部機能が『総務』『医療』『施設』『会場』『輸送』に細分化されるにつれ、システムに求められる機能が徐々に具体化していきました」(吉崎氏)

ただ、そのシステムは大きな問題を抱えていました。当時の状況は、国側から、接種者を管理する「VRS」と、ワクチンを管理する「V-SYS」という2つのシステムが用意され、一方、市では、従来から予防接種用として健康管理システムを運用中でした。当然ながらこれらのシステムは、それぞれの視点から作られているため一貫性がなく、システム間連携についても、ファイルのインポート・エクスポートぐらいしか方法がなかったそうです。

「各システムやチームがバラバラにデータを保有してしまうと、当然、共有の際にタイムラグが発生し、たとえばワクチンの重複接種など、データの非同期による重大なミスを招きかねません。また、職員の数は限られているため、5つ、6つのシステムの面倒を同時に見るのは難しい。さまざまな情報が錯綜し、なにが正解かもわからない中、ワクチン接種を速やかに、ミスなく推進するためには、1つの一貫したシステムがどうしても必要で、是が非でも2021年3月中には使える状態にしなければならない。非常に困難な状況でしたが、Salesforceならそれを実現できる、という結論に達しました」(吉崎氏)

2. アジャイル開発と万全のサポートで新システムの超高速リリースを実現

実は吉崎氏は、コロナ禍以前から、行政のシステムの将来のあり方について考え、独自に情報収集と勉強を続ける中で、Salesforceと出会っていました。2016年にセールスフォース・ジャパンのセミナーに初めて参加し、その後もワークショップなどを通じて知識と交流を深めていたことが、今回のシステム選定に活かされたわけです。

「第一に考えたのは、開発期間が1か月程度しかないため、走りながらでもいいから確実に稼働させるにはどうすればいいか、ということでした。フルスクラッチではまず無理なので、ローコード・ノーコードのメリットを活かしたいけれども、それだけで刻々と変化する要求に対応しきれるだろうか、という懸念がありました。その点において、あらかじめさまざまなパーツが用意され、実績の豊富なSalesforceなら大丈夫だろう、と考えたのです」(吉崎氏)

そうした技術的な要件もさることながら、最終的な選定の決め手になったのは、Salesforceの“お客様ファースト”の設計思想が、今回のシステム導入の目的と合致したことだった、と吉崎氏はいいます。

「Salesforceについて学ぶ中で強く感じていたのは、顧客管理の考え方が、行政におけるシステムの考え方とはずいぶん違うな、ということでした。従来の行政のシステムは、あくまで職員のためのものであって、構図としてはお客様である市民の方に対して一方通行というか、対面の関係にありました。それに対してSalesforceは、お客様を中心に据え、それに関わるさまざまな立場のスタッフをつなげ、すばやく正確に最適なサービスを提供するためのシステムであると位置づけられています。そうした“お客様ファースト”のサービスデザインは、複数の部署が横断的に協力してお客様へのワクチン接種を迅速、適切に進めるという、今回のワクチン接種事務支援システムの趣旨と完全に一致します。それが決め手になりました」(吉崎氏)

2021年2月12日、Service Cloudのライセンスが有効となるやいなや、吉崎氏を含む16名で構成されるワクチン接種推進本部は、すさまじい勢いでシステムの構築と運用体制の整備を進めていきました。そして、Service Cloudの基本機能を活用し、真っ先に必要とされるコールセンターを約3週間後の2021年3月1日に設置。さらに3月18日には、接種会場に実機を持ち込んでの模擬訓練の実施に至りました。前例のない混沌とした状況の中、1か月あまりというきわめて短い期間で、ワクチン接種事務支援システムのほぼすべての機能を利用できる状態にまでこぎつけたのです。

「職員は皆、『市民のために』という強い使命感を持って懸命に取り組んでいました。しかし、皆様のご協力がなければ、こんなハイペースは到底実現できなかっただろうと思います。特に、開発を担当していただいたセールスフォース・ジャパンのパートナー、インフォニック株式会社の方々には本当に感謝しています。本格稼働後も社員の方が接種会場に1週間以上張りつき、実際の運用や動線がどうなっているかなどをしっかり把握した上で、Salesforceに機能を実装してくださいました。そういう万全の支援体制があったからこそ、構築から運用までこれほどスムーズに行えたのだと思っています」(吉崎氏)

 
 
 
 

3. 全国の注目を集めた「舞鶴方式」を裏側で支えたService Cloud

2021年5月17日、舞鶴市は、65歳以上の高齢者を対象として、独自の方式による集団接種を開始しました。高齢者が会場内に一定間隔で配置された机とセットになった椅子に座って待機し、医師や看護師が巡回して順番に接種する、という方法です。同時に、Web・電話予約による混乱を避けるため、市から対象者へ接種意向調査の案内と接種券を発送し、それをもとに市が接種日時を指定、必要な人にはバス等による送迎を手配する、という方法を採用。接種者にとっての安全性・効率性を最重視したこれらのアイデアは、「舞鶴方式」としてメディアで大きく報じられました。それを裏側で支えていたのがService Cloudだったのです。

まず、すべてのベースとなったのが、Service Cloud内の接種者台帳です。接種者の基本的な情報に加え、事前調査で取得した接種意向や移動手段の有無などの情報が格納されています。そして、これらのデータは、各本部機能のデータと連携されています。たとえば、市民からの問い合わせの電話の履歴は、コールセンター支援機能によってすべて記録され、接種者台帳のデータと自動的に紐づけられます。それによって、複数回問い合わせのあった方に対し、毎回異なる職員が対応しても、過去のやり取りを把握しながら的確に回答できるという仕組みです。

また、集団接種においては、複数の会場を長期間運用する過程で、スケジュールの変更等が頻繁に行われます。そこで舞鶴市では、各会場について時間帯ごと設定したコマの管理や予約の組み換えなどをシステム上で簡単に行える、集団接種計画支援機能を実装しました。さらに、その機能から輸送支援の必要な人を抽出し、輸送の計画を立てる接種者輸送計画支援機能も加えました。

もう1つ、接種会場での業務効率を飛躍的に高めたのが、接種会場支援機能です。吉崎氏はこう説明します。

「当初、会場では、予診票に印字された接種券番号を国から配布された端末で読み込み、接種の記録を『VRS』に登録することを想定していました。ところが、端末の読み取り用カメラのかざし方が難しく、どうしても処理に時間がかかって接種記録の登録が遅れてしまうことがわかりました。そこで、接種会場支援機能を実装し、会場で受付や予診票の再発行、接種記録の入力等を行えるようにしました。これを使えば、『VRS』端末の機能を使わずに接種会場で入力したデータをService Cloudから『VRS』へ一括してインポートするだけなので、その日のうちにタイムラグゼロで反映させることができます。この機能は、『VRS』へのデータ入力の遅れが全国的に問題となる中、大きなアドバンテージとなりました。

また、ダッシュボード機能を使って会場ごとの接種の進行状況やワクチン残量を把握・予測し、受付の人員を増強するなどの施策をタイムリーに行えたことも、Service Cloudならではのメリットとして実感したところです」(吉崎氏)

 
 
 
 

4. 約6万5000人の接種を迅速に完了! 行政が実感する民間とITの活用の重要性

舞鶴市は、そうしたSalesforceを駆使した取り組みによって、65歳以上の高齢者への接種を2021年7月末までに完了。約6万5000人の全ワクチン接種希望者への接種を2021年10月末に2回目まで打ち終えることができました。わずか1か月あまりで新システムを稼働させ、スピード感を持って計画を推進できたことが、Salesforceのなによりの成果だ、と吉崎氏は喜びます。

「重篤な副反応や重複接種といった大きなトラブルもなく、市民の方には安心して接種していただけたのではないでしょうか。『ありがとう』という感謝のお声を現場スタッフにかけていただくのを見ると、本当に嬉しかったですね。私が理想として思い描き、今回Salesforceで構築した“お客様ファースト”のシステムは、結果的に職員にとっても使いやすいものになったと感じています」(吉崎氏)

DXの推進に悩む自治体が多い中、舞鶴市がこうした成果を上げるに至った背景には、吉崎氏だけでなく、産業創造・雇用促進課 企業誘致担当課長の後厚史氏の取り組みがありました。後氏はかねてより、IT人材の育成や地元の雇用拡大という観点でセールスフォース・ジャパンと意見を交換し、それらを促進する仕組み作りについて検討を重ねていたのです。

「若者の8割が大学進学等で都市部へ出たあと、地元には仕事の選択肢が少ないのでなかなか戻ってこないというのは、舞鶴市だけでなく地方都市共通の課題です。そこで、IT人材を育成・雇用するとともに、ITの力で地域活性化を図ることを目的として、2021年5月28日、セールスフォース・ジャパンとインフォニック、近畿職業能力開発大学京都校、舞鶴市の4者で連携協定を締結しました。連携協定のパートナーであるインフォニックが舞鶴支社を開設してくれたことで、舞鶴市で、Salesforceの世界最先端のシステム開発に携われる仕事が生まれ、地元採用も実現しています。
そもそも今回のワクチン接種事務支援システムの導入も、連携協定に至るやり取りの中で、Salesforceならこの問題を解決できるのでは、という話が出たことが発端でした。その意味でも本当にいいご縁をいただいたと思っていますし、やはりITや民間の力を活用しながら問題解決や地域活性化に取り組んでいくことが、今後の自治体にとって重要なのだ、と改めて実感しています」(後氏)

その言葉を受けて吉崎氏は、最後をこう締めくくりました。

「舞鶴市のワクチン接種事務支援システムは、他の自治体の方にとっては“謎のシステム”だったようで、『なぜSalesforceなの?』と何度も聞かれました。ワクチン接種は全国同時に進めなければならなかったので、残念ながら横展開はできませんでしたが、今回のように突発的に、待ったなしの対応を迫られる事態はまた必ず起きると思います。自治体はそれに備えて、決して民間専用ではない『顧客管理』『営業支援』といった考え方や仕組みを取り入れ、DXの推進に取り組む必要があるのではないでしょうか」(吉崎氏)

 
 
 
※ 本事例は2022年2月時点の情報です
 

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