創業100年の実績を重んじつつ属人営業の改革を断行
情報を共有し担当者の成長速度2倍を実現
属人的な営業を改革するため、事業承継を契機にSalesforceを導入
組織づくりと積極的な学習、手厚いサポートで利用定着化に成功
営業の全情報の共有により活動を最適化、さらなる企業成長を実現
香川県高松市でオフィス家具・事務機器販売や空間設計などを手がける株式会社多田文房堂は、1世紀の歴史を持つ地域密着型の企業です。順調にビジネスを展開してきた同社ですが、社内的には営業の属人化という課題を抱えていました。
そこで同社は、事業承継を契機としてSalesforceの導入を決断。営業に関する情報を一元管理することで、営業担当者の成長速度2倍、引き継ぎ期間2分の1を実現するなど、大きな成果を挙げました。長年慣れ親しんだ“足で稼ぐ”営業スタイルから脱却し、Salesforceの利用定着化を進めて改革を成し遂げた、同社の取り組みを紹介します。
1. 創業100年“オフィスづくりのプロ”が属人営業からの脱却図るもSFA導入に失敗
株式会社多田文房堂(香川県高松市)は、オフィス家具・事務機器・文房具などの販売・設置からオフィスそのもののデザインまで、快適に働くための空間を総合的にプロデュースする企業です。2020年に完成した新社屋は、実際に社員の働く職場を体感できる「ライブオフィス」として顧客に公開され、心地よく効率的なオフィスを実現するためのヒントやアイデアを与える、同社のビジネスを象徴するような空間となっています。
社名からイメージされるように、同社は1924年(大正13年)、いわゆる“街の文房具店”として創業しました。以来同社は、一貫して地域密着で顧客と向き合いながら、時代の変化やニーズの多様化に合わせ、OA機器・リサイクルオフィス家具の販売や空間設計、SDGsへの取り組みなど、活動の幅を広げてきました。そうした「働く環境の改善」を軸とするビジネスに対する姿勢や、1世紀にわたる歴史の重みは、同社の経営理念である「元気な職場創りで、輝く100年を共に歩む」というひと言に集約されています。
ただ、以前の同社は、着実な成長を続ける一方で、社内的には長い歴史の必然ともいえる課題を抱えていました。昔ながらの“足で稼ぐ”属人的な営業スタイルが当たり前で、営業に関する情報が組織として蓄積・共有されていなかったのです。そのため、営業プロセスの再現性がなく案件を取りこぼす、商談の進捗を踏まえた的確なマネジメントができない、引き継ぎがうまくいかずに人材が定着しない、といった多くの問題が起きていました。2018年に6代目の代表取締役に就任した多田宗弘氏は、当時の状況をこう振り返ります。
「先代までの残してくれたお客様・地域への思いや仕事に対する姿勢など、今後も受け継いでいくべきコアな部分がある一方で、古い体質から脱却して改善していかなければならない部分もある。代表取締役を継いだ当時、そういう2つの思いを抱えながら日々の業務に臨んでいました。
営業担当が替わるたびにお客様の信頼度が下がって疎遠になってしまう状況を打破しようと、国産のSFA(営業支援システム)を導入したこともありました。しかし、入力していた情報は『どのお客様にいつ、なにを売ったか』という、スプレッドシートでも管理できることだけ。メーカーの支援があまりなかったこともあって結局使いこなせず、2年ほどで利用しなくなってしまいました」(多田宗弘氏)
2. 組織づくりと積極的な学習、手厚い支援でSalesforce定着化に成功
そうした悩みを抱えながら迎えた2022年、多田宗弘氏はSalesforceの導入を決断します。実は同社は、先述したSFAの選定の際、Salesforceの導入を費用面の理由で見送っており、これが2度目の検討でした。
「なにしろシステム導入には1度失敗しているので、『利用定着化は必ず支援してほしい』という要望をSalesforceに伝えました。すると営業担当の方が、『お任せください。しっかり伴走しながら“多田文房堂様仕様のシステム”を実現できるのがSalesforceの強みです』と。その言葉が一番の決め手になりました」(多田宗弘氏)
ここで特筆すべきは、同社が単にシステムの導入を進めただけなく、並行してSalesforceの営業プロセス「The Model」の中から自社に合う要素を積極的に採り入れ、Salesforce専任の推進担当者を置くなどの組織づくりにも取り組んだことです。さらに、SalesforceとのWeb会議には全営業担当者が参加し、Salesforceの営業マネジメントの手法を学びました。多田宗弘氏はこう話します。
「Salesforceの方の話で強く印象に残っているのは、『商談の結果や売上はわかっていても、そこへ至ったプロセスがわからなければ、改善や再現はできない』ということです。特に当社のビジネスの場合、全体の約6割を占める既存のお客様を定期的に訪問する必要があり、活動できていないところを可視化してフォローしたり、営業のナレッジを蓄積して引き継いだりすることが大切です。当社の営業担当者には、そのためにこそSalesforceを導入するのだ、というところから理解してもらう必要がありました」(多田宗弘氏)
そうしたSalesforceのサポートは、導入前に期待した通りの手厚さだった、と多田宗弘氏は評価します。特に、未経験ながらSalesforce専任となった推進担当者にとっては大きな助けになったといいます。
「『こういうことをしたい』という話が社内で出てきたとき、まずは当社の内情に詳しいSalesforceの担当営業の方からアドバイスをいただいて、それを踏まえてさらにサポートセンターからも成功のための具体策を教えていただける。そういう2段階で相談できるというのは、以前のSFAのサポート体制にはなかったことでした」(多田宗弘氏)
もちろん、Salesforceの利用がすぐに現場に定着したわけではありません。当初は使い慣れないシステムへの抵抗感や、入力の手間が増えることに対する不満も社内にあったそうです。そこで同社は、利用の定着化を進めるべく、まずはすべての情報ではなく活動履歴だけを入力する、というルールを設定。それができたら次に商談、さらにMFP(複合機)の利用状況というように、入力するデータを段階的に増やしていきました。
また、Salesforceの利用促進に関しては、推進担当者の貢献と、現場が効果を実感し始めたことが大きかった、と営業企画部の多田奈津子氏は話します。
「推進担当者が営業の活動状況を集計し、朝礼で各営業担当者の昨日の訪問件数を報告するなどしたことで、現場の士気が徐々に高まっていきました。また、データを蓄積し始めて1年ぐらい経ったころから、『失注率が高い』『活動が少ない』といった各人の傾向が見えてきて、営業担当者自身が改善に活かせるようになったことも、現場での活用が進む要因になったと思います」(多田奈津子氏)
3. 営業の全情報に加えて顧客の機器情報やオフィス状況を把握し活動を最適化
今や同社では、顧客情報や活動、案件、商談、競合など、営業に関するあらゆる情報をSalesforceで管理しています。たとえば商談の中には、金額や納期などの基本情報はもとより、受注・失注の詳細な経緯や理由も記載されています。成績のいい営業担当者の活動内容にどんな傾向があるか、どんなケースで失注することが多いかなどを分析して結果を共有し、改善や再現につなげるためです。
また、ケースの機能を利用し、トラブル・クレームの内容やその後の対応、結果をデータとして蓄積。なんらかの問題が発生した際、類似の事例を検索し、的確な解決法を効率的に見い出せるようにしています。
さらに、同社のビジネスならではの利用法として、カスタムオブジェクトで顧客のMFPの情報を管理するようになりました。同社の手がけた機器だけでなく、他社の導入した機器の利用状況も管理することで、各機器のリース満了の時期を把握し、最適なタイミングでリプレイスを提案できるようにしたわけです。
「以前のSFAでは蓄積できていなかったMFPの情報を管理し始めたことで、リプレイスの案件が毎月発生するようになりました。加えて、それに類似する新機能として、お客様のオフィスの状態に関する細かな情報も管理するようになっています。当社は文房具を扱う会社なので、極端にいえばお客様の机の引き出しの中まで拝見することができます。『ペーパーレス化ができているか』『どこでも働ける環境ができているか』など5つの項目を営業担当者が日常的にチェックし、営業活動のターゲットを絞る際の情報として役立てています」(多田宗弘氏)
多田奈津子氏は、Salesforceの導入によって、営業担当者の意識や行動も大きく変わった、と話します。
「ビジネスの性質上、車で街を走っていると、オフィスや病院、工場、学校など、あらゆるところでお客様になり得る方を見かけます。にもかかわらずこれまでは、帰社してPCを確認しないと、当社の誰がどこへ行っているのかがわかりませんでした。今は、全営業担当者が出先でモバイルを使って確認し、『まだ誰もアプローチしていないからうかがってみよう』と即座に行動に移せるようになりました」(多田奈津子氏)
4. 営業担当者の成長速度2倍、Salesforceが企業成長の大きな要因に
Salesforceは、新人教育や引き継ぎの迅速化にも寄与している、と多田奈津子氏は喜びます。
「従来は、新人でも入社翌日から当てずっぽうにお客様を訪問して、『うちにはもう多田文房堂さんの方が来てくれているよ』といわれてしまうような、まさに“足で稼ぐ”営業スタイルでした。今は“司令塔”である推進担当者から『このお客様は未訪問なので行ってみてね』といわれた通りに回るだけで、自然に経験を積みながら目標の活動数を達成することができます。体感で営業担当者の成長速度は従来の2倍、引き継ぎの期間は2分の1以下になりました」(多田奈津子氏)
一方、多田宗弘氏は、Salesforceの効果についてこう話します。
「これまでは、業務やお客様の状況はそれぞれの担当者しか把握していませんでしたが、今はSalesforceを見れば、担当者以外にも手に取るようにわかります。それによって業務全体の工数が削減され、有給を取ったり、子どもの発熱で急遽欠勤したりといったことが明らかにしやすくなりました。上司にはなかなか聞きづらいことでも、Salesforceに蓄積されたナレッジを自分で調べて解決可能になったことなどを含めて、社員の定着化につながる効果だと思います。そのように、情報共有による一番の成果は、業務の属人化やブラックボックス化から脱却して業務が効率化され、働きやすい職場づくりにつながったことだと考えています」
2022年のSalesforce導入後、案件数と売上を大きく伸ばしている同社。コロナ禍によって停滞していた経済の復調を背景として、長年の懸案だった情報共有の問題を解消し、営業改革を実現しつつあることが、成長の大きな要因になっているのは確かでしょう。多田宗弘氏は最後に、導入後の歩みを振り返りつつ、今後の展望についてこう語りました。
「Salesforceは、情報を蓄積することで、お客様に的確な提案ができるようになるツールです。長年慣れ親しんだ営業スタイルを変え、情報の入力を促すのに最初は苦労しましたが、がんばって使い続けることで、DXへ向けた第一歩を踏み出すことができました。
2023年に新たに導入したCRM Analyticsを利用し、Salesforceと販売管理システムのデータを連携させて売上実績と顧客活動の相関を分析するなど、今後も営業・マーケティングにおける活用の幅をさらに広げていきたいと考えています」(多田宗弘氏)