東レエンジニアリング株式会社

部門や会社の垣根を超え情報流通を実現。業務改革とサプライチェーン改革のDXに挑む

「Salesforce Platform」X「Sales Cloud」の相乗効果が実現する、
業務プロセス全般の情報共有と、知見・ノウハウの属人化解決。
サプライチェーン全般の連携強化の「一石三鳥」とは

プラント建設やファクトリーオートメーション、半導体製造装置の製造からソフトウェアビジネスまで多様なB2B事業を展開する東レエンジニアリング。知識創造型企業を目指し、新事業開拓、生産性、稼働率向上に必須の情報集約、連携をSales CloudとSalesforce Platformを組み合わせることで促進。加えてデータを社員それぞれが自発的に利用する企業文化醸成まで実現。実現の背景には、「各部門の文化尊重」の差異をシステムで吸収する導入手法にありました。

 
 

1. 情報の流れ、扱い方を改革することで企業の生み出す価値を変える挑戦

医薬・ファインケミカル・先端素材などのプラント建設や、ファクトリーオートメーションのシステム構築、さらには半導体やフラットパネルディスプレイの製造装置製作など、エンジニアリングおよびモノ作りの分野で広範な事業を展開する東レエンジニアリング株式会社。同社は明確なビジョンとリーダーシップのもと、デジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的に取り組んでいます。同社の目指す方向性について代表取締役社長 岩出 卓氏は次のように説明します。

「弊社はファブレスメーカー(生産設備を自社で持たないメーカー)です。主に営業や企画立案、設計などを担い、製品の製造は部品ベンダーや組み立てメーカーにご協力いただいています。当社の社員に求められるのは、市場の状況に応じてポートフォリオの組み替えを行っていく過程でのリソース配分、調整などの判断や、将来への布石として新事業に取り組むことなど、知識労働が中心であり、知識創造型志向こそが企業価値の源泉につながると考えています。したがって、いかに市場の状況や事業の進め方などを的確に把握できるかという点も競争力につながってきます。このような判断のための「情報の流れ」を把握することが、生産性や稼働率に直結します。

工場に 人工知能(AI) を無目的に入れても生産性は向上しません。「東レエンジニアリング」の付加価値を生み出すポイントに情報を活かしていくことが重要なのです。つまり情報の流れ、扱い方を改革していくところにデジタルやツールを活用していくところは、企業活動においてDXの効果が出やすいと考えています。また、限りある人的リソースを、いかに適切かつ柔軟に市場環境や自社の事情に応じて各事業領域へと配置できるか判断することが会社として重要な戦略の一つです」

市場をめぐる環境の変化を素早く察知して適切な手を考え、その「一手」を営業や企画、購買、設計など具体的なアクションに落とし込む過程にかかわる一連の知識労働の効率を高めるためには、データの活用が欠かせません。そのため同社では2020年から2022年の中期経営計画として、「基幹システムの刷新によるデータ活用の推進」を掲げました。

それまでの東レエンジニアリング社内は営業や技術、サポートといった部門ごとに個別最適される形でシステムが構築・運用されていたため、部門間の垣根を超えた情報の共有があまりできておらず、情報の管理についても「どれが最新か分からないスプレッドシートファイルが複数ある」「ナレッジが共有されていない」などの状況でした。さらに製造企業やサプライヤー、物流など社外との情報連携にも社内同様、課題が存在していました。

そこでまずは社内の情報集約から着手を始めることにしました。企画から営業、購買、サポートに至る一連の業務プロセスに横串を刺し、あらゆる部門の担当者間で情報を共有できる新たな情報プラットフォームを目指します。

同社 情報システム部門 DX推進室長 本田 顕真氏によれば、各部門内でも情報共有に関する課題は認識されていたといいます。

「製品や業務のナレッジが特定のベテラン社員に偏在しており、若手になかなか引き継がれないという問題や、どれが正なのか分からないデータだけでなく、そもそも貴重なデータが個人レベルで管理されているため、社員間で共有されないという課題もありました。こうした“属人化” “データの一貫性が曖昧であること” などの問題を解決するためにも、情報の管理の在り方を根本的に見直す必要があったのです」

しかし、情報共有、そしてその活用はあらゆる企業で重要と認識されながらもなかなか推進が進まないという例も残念ながら少なくありません。なぜなら、情報が生み出す価値は、情報共有・活用のためのシステムを導入すれば生み出されるのではなく、情報集約の仕組み、活用の仕組み、そして共有の仕組みを社員が使いこなして初めて生まれるものだからです。つまり、導入には「使ってもらえるように」する施策に同時に取り組む必要があるのです。また、同社のように「知識創造型」の人材を必要とする組織では、単純に IT に詳しい人材であれば良いというわけではありません。

では、同社はこうした「困難な点」をどのように解決したのでしょうか。

 
 
 
 

2. 全体最適の上の個別最適 - 現場の抵抗感を減らすための取り組み

DXに取り組み始めた当初、同社では情報の共有・管理の課題を解決するための仕組みとして、3D CADやPDM(製品データ管理)、PLM(製品ライフサイクル管理)といった技術情報を共有するための各種システムの導入を検討しました。しかし全社レベルで一気通貫の情報共有の仕組みを実現することこそが重要であるという認識に至り、技術部門だけでなく営業部門や購買部門もともに利用できる共通プラットフォームが必要であるという結論になりました。基幹システム刷新の核となるシステムとして、SFA(営業支援システム)を加えて導入することにしました。

いくつかの主だったSFA製品を比較検討した結果、最終的に同社が採用を決めたのがSalesforceの営業関連活動の部署に対しては「Sales Cloud」、関連部門用に「Salesforce Platform」の組み合わせでした。Salesforceを選んだ理由として、本田氏は真っ先に「直感的なユーザーインタフェース(UI)」を挙げます。

「複数の製品を比較しましたが、他の製品と比べ、SalesforceはUIの使いやすさが圧倒的に優れていました。『ここをこう操作すれば、こう動くだろう』と直感的に操作できるため、社内の利用者にすんなり受け入れてもらえるのではないかと考えました。また他のSFA製品は営業領域に特化したものが多かったのですが、Salesforceはさまざまな業務に対応できる汎用性を備えていた点も弊社のニーズに合致していました」

加えて、岩出氏は「Salesforce社の導入支援やサポート体制がとても充実していた」ことが評価につながったとのこと。「手厚いサポート体制がスムーズな導入・定着につなげられるのではないかと考えました」と、ベンダーのサポート体制にも大きな期待を寄せていました。しかし、ツール自体の使いやすさや、サポート体制の手厚さだけでは、大規模な組織はなかなか動いてくれません。営業部署中心にシステムのフォーカスを当てるとありがちなのが最初に全体最適を求めること。いきなり各部署同じことをしようとすると、部署間のコンフリクトが起きたり、勝手な項目を作りはじめたり、利用しようとしなくなったりしてしまうといいます。

そこで「社員が自主的に使おうと思ってくれること」を促進するために打った施策は、なんと「各部署好きに項目を作ってよい」ということでした。しかしその裏では各データの共通化を情報システム部門で実施する、つまりデータベース側で各部門の「違い」をうまく吸収しつつ、集約することを進めました。目的はもちろん「現場の抵抗感を減らすこと」。そして、何より各部門が持つ文化を尊重するということでした。結果として、全体最適の上に個別最適をすることで、「社員の気持ち」にも寄り添うことで、導入をスムーズにすることができました。

このようにSalesforce利用を決定・導入した同社でしたが、わずか3か月後には早くも5部門で本番運用開始に至りました。これだけ短期間での導入を可能にした要因はどこにあるのか。本田氏は以下のように話します。

「プログラミング作業が不要なノーコード/ローコードの開発ツールを活用することで、極めて短期間のうちにアプリケーションを実装できました。迅速に社内のニーズに応えられることで、その後に続く業務プロセスもスピードアップします。結果、市場に対する打ち手をすぐに打つことができます。一方、ノーコード/ローコードだけでは実現できない要件もありましたが、Apexによる機能拡張、プログラミングも可能です。このように、複数の開発アプローチがカバーされていることで、柔軟な対応を行うことが可能な点も、Salesforceを選んだ大きな理由の1つでした」

さらに同社は、いきなりアプリケーションを本番の環境にリリースすることはせず、本番環境のコピーを作成することで安全な仮想環境で事前に動かし、評価をすることができる Salesforce Sandbox を活用しているといいます。現場から依頼が来たら、即Sandboxを作ってプロトタイプを一週間以内に提供して評価を始めてもらい、それでOKならば本番に展開するというアジャイルな対応の流れを作りました。

結果として営業部門と技術部門の間で、お客様一社一社に対し、同じレコードを見て情報を共有することになり、情報連携の不備がなくなっただけでなく、並行して社外との情報集約にも取り組み、モノを作り始める時に電話や週一回更新されるスプレッドシート上でリストを出し、在庫調整などを行っていた組み立てベンダー、サプライヤー、ベンダーにも Salesforce Platform を使ってもらうことで、ジャスト・イン・タイム方式(JIT方式)のように必要な時に必要な時だけ生産ができるよう効率化が進んだといいます。

 
 
 
 
依頼を受けたら即Sandbox作成。アプリのプロトタイプは1週間以内に提供可能に
 
 

3. 社長自らがリアルタイムで打ち手を判断。コロナ禍でも増益を達成

同社 専務理事 開発部門長 浅田 浩義氏は、コロナ禍以前に Salesforce を導入できたことで、顔を付き合わせた会議などができなくなった中でどうやって生産性を上げていくのかという課題にも対応できたといいます。

「リモートワークの全面導入に合わせ、それまで一部の社員にのみ付与していたSalesforceのIDを全社員に付与しました。その結果、リモートワーク下でも社員同士の情報共有が滞ることなく、コロナの影響で減収を余儀なくされる中でも増益を達成できました。また海外の関係会社にもSalesforceを展開したおかげで、海外出張ができなかった時期も商談をスムーズに進めることができました」

その後も社内のあらゆる部門で独自にSalesforceのダッシュボードやアプリケーションの構築を進め、現在では100以上の仕組みがSalesforce上で稼働しています。

また岩出氏によれば、岩出氏自らダッシュボードを率先して見て打ち手を考えるなど、業務現場だけでなく経営陣も積極的にSalesforceを活用しているといいます。

「それまで経営会議ではExcelで作ったグラフなどを用いて報告していたのですが、今では経営陣全員が会議で同じSalesforceのダッシュボードを見ることでスピーディに経営情報を共有しています。気になる案件の状況を知りたい時も、これまでは担当者に直接報告しに来てもらっていましたが、Salesforce上ですぐに状況を確認できるようになるので、わざわざ報告の時間を取ってもらう必要もなくなる。またよりスピーディに経営判断を下せています」

ちりも積もれば山になる

さらには、同社が以前から取り組んでいた生産システム上に存在するあらゆるロスをゼロにするTPM活動「ちりつも作戦」も、Salesforceを活用することでより活性化しました。

これまでは各サークルの改善活動の進ちょく状況や実績を紙に印刷し、活動板に貼り出して情報を共有していましたが、これをSalesforce上の「デジタル活動板」に移行したことでよりタイムリーに状況を可視化できるだけでなく、安全につながり、工場など他の部門でも有効な安全対策の共有や気付きを得ることもできるなど、情報共有と活用を同時に実現できるようになりました。さらにはコロナ禍で出社が困難になった時期でも、デジタル活動板を介して情報を互いに共有することでTPM活動を継続できたといいます。その効果は 2 億円にも上るといいます。

また、アイデア賞を設け、新規性の高いものや持続性などの視点で選び、賞を出すことでグループの活動を促進しているといいます。常にアイデアや、ロスを減らすことに意識を向けてもらうため、同じトピックでもとにかく登録してもらい、数の多いグループも表彰しているとのことです。

 
 
 
 

4. 数%の人が変われば事業規模が変わる。7〜8割が変わると現場も変わる

経営企画室主導でSalesforceを導入した同社でしたが、その使い勝手の良さがさまざまな業務現場で評判となり、すぐさま利用が広がりました。導入当初こそSalesforceのサポートチームがフォローし、ダッシュボードの作り方などを学ぶ社内勉強会を開催するなどの流れを作りましたが、やがて社内の有志が自主的にSalesforce関連のコミュニティを立ち上げ、自然発生的に利用が広がり、情報の集約、連携が進んでいったのです。

同社では現在、Salesforceプラットフォームについて、さらなる有効活用の道を探っています。たとえば、Salesforce以外のシステムやExcelシートなどで管理されているデータも含めてより高度なデータ分析を実現すべく、BIツールであるTableauの本格導入を検討しています。既に一部の部門ではTableauを使った稼働率シミュレーションや生産調整の仕組みを実現しており、現在他の部門への展開を進めています。

また、外部顧客向けのECサイトをSalesforce上で提供する「Salesforce B2B Commerce」の環境構築も進めており、グループ内部だけでなく社外の顧客やパートナー企業との連携におけるさらなるDXの推進を目指しています。

今後は生成AIとSalesforceを連携させ、自然言語を用いてさらに容易にダッシュボードやアプリケーションを作成する道を探るなど、よりSalesforceを広い用途で活用していきたいとしています。

「現在弊社では、サプライチェーンのさらなる最適化を目指して『サプライウェブ』に取り組んでいます。これを実現する上でやはりデジタルの仕組みが欠かせませんので、今後はサプライヤーにもSalesforceを展開してサプライチェーン全体のDXを目指していきたいと考えています。そのためにもぜひSalesforceには、今後とも強力なご支援をお願いできればと思います」(岩出氏)

Salesforce を利用者の観点で導入から進めていったことで、結果的に変わりづらい「企業文化」レベルでのデータ集約・活用を実現し、生産性向上だけでなく、知識創造型の組織への変革につなげた東レエンジニアリング。その背景には、企業の目指す強固なビジョンがあり、率先してデータに基づく経営判断をした岩出社長をはじめとしたリーダーシップ陣、そして社員や部署の気持ち文化を尊重した取り組みがあったのです。

 
 
※ 本事例は2023年7月時点の情報です
 

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