株式会社AIST Solutions

「企業ニーズ」と「技術」つなぐ
産学官連携のコーディネート業務をSalesforceで再構築
社会課題の解決を目指す

年間約1,800件に上る企業連携案件の管理をSalesforceに集約。各部門でバラバラだった情報を共有することで業務を効率化。新規事業でベースとなる柔軟性の高いシステム構築を実践。

日本最大級の公的研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の100%出資子会社として、2023年4月に設立された株式会社AIST Solutions(以下、AISol)。同社は産総研の技術資産と研究資源を活用し、市場や産業のニーズに即応すべく「科学技術とマーケティングを掛け合わせソリューションを提案することで、社会課題を解決し、新たな事業価値創出に貢献する」というミッションを掲げています。オープンイノベーションの強化やエコシステムの構築、新規事業の創出を目指す同社が「企業ニーズ」と「技術」をつなぐ基幹システムとして選択したのがSalesforceのプラットフォームでした。
 
 

1. ベストプラクティスに合わせて業務を再定義

「日本では研究機関で開発する技術が『技術のための技術』になりがちで『社会のための技術』に転換しにくい。その根底にあるのが、研究機関と企業との間にあるギャップです。これまで産総研は革新的な技術シーズを事業化につなぐ『橋渡し』の役割に注力し、その成果を事業化する部分は企業に委ねていました。そうしたギャップを解消すると同時に、産総研が擁する技術を市場に対してプロアクティブに社会実装し、社会課題の解決や日本の産業競争力強化に貢献していくことがAISolの役割です」と、AISolで専務取締役を務める関口智嗣氏は設立の背景を説明します。

産総研で開発した最先端技術や研究の価値を最大化すべく、企業などとの共同研究を推進し、研究成果の技術移転を加速させる――。そのためには、マーケティングに特化した連携コーディネートの専門組織が必須であり、その活動を支える基幹システムが不可欠となります。

産総研では、これまでも数多くの産学官連携業務を実施してきました。ただし、その案件は業務を所管する部署ごとに管理されており、バックオフィスの業務は産総研内のイントラネット用にスクラッチで開発した独自システムで処理し、フロントの案件管理は各担当者や領域ごとに独自管理されており、横断的な案件管理という点では非効率な仕組みとなっていました」とAISolの経営戦略本部 経営管理部でエキスパートを務める宮川穏貴氏は説明します。

産学官連携の取り組みが強化され、企業との契約主体がAISolに集約される中で、年間約1,800件以上の連携案件をコーディネートするには、既存の管理体制では限界がありました。こうした状況をゼロから見直すべく、AISolでは共同研究や技術コンサルティングなどの案件管理にSalesforceの導入を決断。導入に先駆けて産総研での案件管理手法と業務フローを再定義し、民間のベストプラクティスに当てはめて必要な部分のみカスタマイズするように、マインドセットしたのです。

「Salesforceの魅力の1つは、グローバルで最も採用されているCRMとしてベストプラクティスであることでした。このベストプラクティスであるクラウドサービスをベースに、新会社における業務フローを再定義することが、AISolの成長と生産性の向上に最適であると判断しました」(関口氏)

SalesforceのパートナーとしてAISolのSalesforce導入を支えたデロイト トーマツコンサルティング の竹野純平氏も次のように振り返ります。

「AISol様はベストプラクティスを導入する重要性を十分に理解されていらっしゃいましたので、要件定義の段階からSalesforceの標準機能を最大限に活かし、まずは業務を見直そうと取り組まれました。その結果、短期間かつ拡張性を確保する形で導入ができたと考えています」

 
 
 
 

2. 検討からわずか3か月で構築、柔軟性を実現したシステムに

当時、新しい法人(後のAISol)の立ち上げに当たって産総研がシステムの検討を開始したのは2022年9月で、導入を決定したのは2023年1月です。2023年4月の会社設立に向け、残された時間は3か月しかありませんでした。そのため短期間で導入・構築できることが必須条件でした。加えて将来のビジネス領域の拡充を見据え、柔軟に拡張できるシステムでなければなりません。

AISolのコーディネート事業本部 連携企画部の宮嶋祐哉氏は「全従業員が利用できるシステムを短期間で構築するために、SaaS(Software as a Service)としての完成度の高さとアジャイルで対応できることが不可欠でした。ローコード・ノーコードで内製化を実現し、改修なども簡単にできる柔軟性も必要です。この条件を十分満たしていたのがSalesforceでした」と語ります。

もう1つ、Salesforce導入の決め手となった要因は、サードパーティー製のアプリケーションやサービスとも連携が容易なことです。AISolでは名刺管理に「Sansan」を導入しており、今後は電子契約などのサービス導入を予定しています。これらのサービスとAPI(Application Programming Interface)で連携し、リード獲得から契約に至るまでの一連の顧客関連業務をシームレスに実行できることも大きなメリットでした。宮嶋氏は「AppExchangeで豊富なサービスが提供され、簡単に連携できることも、事業拡大を見据えてスモールスタートを切る当社にとって重要なポイントでした」と説明します。

 
 
 
 

3. 従来の8割の人員で年間約1,800案件を処理、少なくとも約900時間の時短を実現

Salesforceを導入したAISolは、まずSalesforceを活用し、全社員が1つのシステムで情報を共有できるように案件情報を蓄積しました。その上で、Chatterで案件ごとの連絡をするようにしています。現在はコーディネート事業本部のみですが、関連部門への情報共有や決裁にはChatterを活用しSalesforce上でスピーディに合意形成できるようにしています。「こうした仕組みを構築できなければ、そもそも年間1,800件程度の共同研究・技術コンサルティング案件をこなすことは現実的ではない」と関口氏は語ります。

実際、Salesforceの導入前に一時的にExcelで案件を管理した際には業務が混乱したとAIST Solutions コーディネート事業本部の大嶋裕子氏は振り返ります。

「案件数は300件程度でしたが、それでも50名前後の連携担当者がいるため、同じExcelのファイルにいっぺんにアクセスすると翌日にはファイルが壊れている状況が続きました。それが、Salesforceであれば、安定的に運用できます。過去の類似案件を探す際にも既存システムでは年度ごとにまとめたファイルを1つずつ開けていかなければなりません。Salesforce上で横断的に検索ができることで利便性が格段に高まりました」(大嶋氏)

このほかにも、Salesforce導入による生産性向上を実感しています。産総研時代は、部門ごとに業務管理システムを運用しており、1つの契約を締結するために連携担当者が契約担当者や知財担当者などにメールで個別に手続きの進捗状況などの連絡をしていました。この業務フローが煩雑で連携担当者に相当な負荷がかかっていました。

現在はSalesforceという1つのプラットフォームで情報を共有でき、Chatterで決裁も実行できるため、作業負荷が大幅に軽減したのです。

「例えば案件ごとに、秘密保持契約担当部門や共同研究を管理する契約部門に個別メールを送ると仮定しましょう。あくまで肌感覚ですが、こうした“お伺い&確認”の作業に1案件につき30分は費やしています。Chatterを使えばこの時間は限りなく無くなります。単純計算で1,800件×30分=900時間を削減できるのです」(宮嶋氏)

また、産総研では業務改革の一環として業務の削減や集約化、簡素化等の取り組みを推進しており、全国に分散していた民間企業との契約機能をAIST Solutionsが一手に担っています。その中で、Salesforceの導入をはじめ、業務のスリム化により産総研時代とほぼ同じ数の案件を従来よりも少ない人員で対応できているため、生産性は確実に向上しています。

しかも、システムの導入・運用管理を担当する宮川氏は、産総研では人事や知財管理の部署にいて、システム管理はまったくの未経験でした。しかし、Salesforceであれば初心者でも直感的にシステムを構築できます。「Trailheadといった教育ツールが充実していることやコミュニティでの情報も多く、学習機会が充実している点もありがたかったです」(宮川氏)

現在はユーザーの声を反映させながら、1か月に1回のペースで改修を繰り返して微調整を進めています。宮川氏は「管理者としては使いやすいユーザー・インターフェース(UI)を心がけています。すでにSalesforceなしでは業務管理ができないぐらいにまで浸透しました」と笑います。

 
 
 
 
 
 
 
作業負荷を軽減
 
 

4. 新規事業の展開にもSalesforceを活用

新規事業を展開するAISolでは、今後もさまざまな形でSalesforceを活用していくことを検討しています。その1つが、イベントなどの展開に合わせたマーケティングです。すでにService Cloudを導入している同社では、現状のホームページからの流入のみならずイベントなどでリードを獲得し、ナーチャリングの実践も計画しています。

さらに、職員のナレッジをSalesforceに蓄積し、あらゆる情報を集約して業務の効率化と新規事業の創造に役立てる計画です。宮川氏は「現在、全社員のコミュニケーション基盤としてSlackを活用していますが、もっとSales Cloudと連携させていきたいと思います。朝イチでSalesforceを見れば自分の担当しているプロジェクトの進捗状況を確認でき、さまざまなシステムを行き来することなくすべて業務が完了するような世界を構築したいですね」と、その将来像を語ります。

一方、経営戦略本部 経営管理部 エキスパートの曽谷 卓司氏は、これまでのコーディネータとしての経験と経営管理の視点から以下のように指摘します。

「自分のやるべきタスクをSalesforceにすべて集約し、自分が何をすべきか一目で分かるのが理想です。さらに言えば、経営者がSalesforceで売上状況を確認し、それを基に意思決定できるような『経営全体の進捗管理システム』に昇華させたいですね。それにより経営目線と営業現場の動きが一致し、より洗練された営業活動ができると考えています」(曽谷氏)

 

関口氏も、次のように同社の成長とSalesforceへの期待を語ります。

「今後は生産性を向上させる上で生成AIの活用も必須となってきます。その点でも早くからEinsteinとしてAIに取り組んでいるSalesforceさんには期待をしています。と同時に、さまざまなステークホルダーと共創を通じた新たな事業の立ち上げを進めていきたいとい考えています」(関口氏)

 
 
 
 
※ 本事例は2024年1月時点の情報です
 

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