クラウドサービスであるSalesforceを活用し、
効率化と迅速化を実現する
WEB調査システムを新たに構築
表計算ソフトの調査票をメールに添付して
配布/回収するこれまでの調査方法を刷新。
現場の負担軽減と調査集計の迅速化を実現。
1. 調査票をメールに添付して配布/回収、集計作業はひたすら“コピペ”
GIGAスクール構想によるデジタル化や新型コロナウイルス感染症拡大などの影響で、教育現場を取り巻く環境は大きく変化しました。そのような状況においては各学校の現状を効率的かつ迅速に調査し、政策の見直しや改善に役立てることが求められています。現在、文部科学省では学校教育行政に必要な基本的事項をはじめ、児童・生徒の学習活動などを把握する目的で、年間約250回の各種業務調査を実施している状況です。
しかし、これまでの調査方法について、文部科学省 総合教育政策局 主任教育企画調整官・教育DX推進室長を務める桐生 崇氏は「これまでの調査方法はExcel形式の調査票をメールに添付して配布/回収するといった、“効率的かつ迅速”とはほど遠いものでした」と振り返ります。
たとえば公立学校に対する調査の場合は、都道府県教育委員会と市区町村教育委員会を経由して学校に調査票が送られ、学校の担当者が回答したあとは、教育委員会等が回答結果を取りまとめ、最終的に文部科学省に提出するといったやり方でした。当然、こうした“バケツリレー形式”では、1つの調査が完了するまでに膨大な時間と作業負担がかかります。桐生氏はこれまでの課題を以下のように指摘します。
「47都道府県には約1700の市町村があり、そこに約3万5000の小学校・中学校・高校があり、常に何らかの調査を実施しています。調査の取りまとめは手作業ですから、どうしても抜け・漏れが発生してしまいます。その際、たとえば県の教育委員会が間違いを発見した場合には、どこで間違えたかを遡って確認しなければなりません。1つの間違いを修正するたびに、もう一度バケツリレーをやり直すような状況でした」(同氏)。
政策の方向性を早い段階で見定めるためには、調査の途中結果を知ることも重要です。しかし、これまでの調査方法では文部科学省の調査担当者が調査途中の内容を確認できませんでした。また、桐生氏は「学校現場や教育委員会からも『調査結果を自動集約したい』『もっと短いスパンで(調査結果を)知りたい』というニーズがありました。そうした課題を解決するためにも、迅速に調査ができるシステム環境が求められていたのです」と語ります。
2. SaaS導入で現場の負担軽減と調査集計の迅速化を実現
文部科学省ではこれらの課題を解決しようと以前から検討していましたが、自治体によっては校内のインターネット環境に差があり、全国で水準をそろえて調査を行うにはExcel調査票をメールベースでやりとりする方法が最適でした。2021年にGIGAスクール構想が前倒しで実施され、教育現場にWiFiを含むインターネット環境が整備されたことにより、Web上で簡単にアンケートが実施できるSaaS(Software as a Service/Salesforce Surveys)の導入を進めたのです。それが、「文部科学省WEB調査システム(通称、EduSurvey)」でした。
SaaS活用のメリットは、各自治体の教育委員会が行っていた調査結果の集約・統合作業を削減できることです。文部科学省 総合教育政策局 教育DX推進室を担当する澁木 久哉氏は、SaaS導入の狙いについて以下のように説明します。
「最大の目的は、現場の負担軽減と調査集計の迅速化です。以前の調査フローでは、現場はExcelのセルに記入された回答をコピー&ペーストし、何回も確認する作業がありました。しかし、EduSurveyでは各学校はWEB上で調査票に回答し、回答結果はEduSurveyに直接保存される(クラウド上に保存される)ため、各教育委員会等が回答を統合する作業は必要ありません。また、データ(調査内容)のやりとりは文部科学省と各教育委員会等、学校で共有できます。ですから、調査途中でも『現状は何%の回答率なのか』『回答にはどのような傾向があるのか』といったことが確認できるのです」。
SaaSであれば場所や時間、デバイスの種類にとらわれず作業できます。桐生氏は「いつでも、どこでも、どんなデバイスからでもアクセスできるメリットは大きいです」と話します。
一方、澁木氏はシステムを構築・提供する側としてもSaaSはメリットがあると語ります。
行政が利用するシステムは個別事案での活用が多いことなどから、これまではスクラッチ開発が一般的でした。しかし、スクラッチ開発には膨大な時間と費用がかかります。その点SaaSは導入決定から実際に利用するまでの時間が短く、導入の手間も最小限で済みます。澁木氏は「今回導入したSaaSは、文部科学省が必要としていた基本的な機能をおおよそ備えていました。そのため、カスタマイズも最小限で済み、時間もコストも削減できました」と語ります。
EduSurveyの構築にあたり、こだわったカスタマイズは詳細な権限が設定できる機能の追加です。たとえば公立学校は各教育委員会、私立学校は都道府県知事部局(私学担当等)が管轄しており、見られる範囲を別々に設定しなければなりません。さらに文部科学省内でも各課で実施している調査は異なるため、調査ごとに参照権限を設定する必要があります。また、調査の中には機微な情報を扱うこともあり閲覧の制限をするといった観点からも、権限設定は重要でした。
澁木氏は、「クラウド上でアンケートが実施できるSaaSは数多くありますが、特定項目の管理者権限が詳細に設定できるという点で、EduSurveyのベースとなっているSaaSは他と一線を画していました」と説明します。なお、CSVファイルで出力する際にも、特定のセグメントごとに実行できる仕様を実装しているとのことです。
3. EduSurvey運用後、調査担当者の約6割が業務負担軽減を実感
EduSurveyが稼働したのは2022年4月です。現時点で効果を定量化できる段階ではありませんが、各教育委員会からは「取りまとめ作業が楽になった」という声も挙がっているといいます。
EduSurveyを用いて調査を行った文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教育課程総括係の橋本 美穂氏は、「教育委員会の担当者からは、学校から上がってきたデータをまとめて確認するという作業ができるようになり、その分の時間が短縮されたと伺いました」と現場の声を紹介します。
同じく教育課程総括係の伊藤 春香氏も、「EduSurveyでは学校が回答した瞬間に回答内容を確認できたり、コードに紐付いて回答が上書きされたりします。これまでと作業の流れは変えていませんが、現場とそれを確認する側の作業は大幅に減りました」と説明します。
EduSurvey導入前はたとえば学校から「回答を間違えた」という問い合わせがあった場合、Excelのファイル名を変更し、回答を再提出してもらっていました。しかし、これでは複数のファイルが作成されてしまい、どのファイルが最新版か分からなくなることがありました。その点、EduSurveyではクラウド上で簡単に修正が行えるため、こうした問題がなくなりました。
さらにEduSurveyはUI(User Interface)もわかりやすく、マニュアルがなくても直感的に操作できる点も、現場の作業効率向上に役立っているといいます。
「学校にはICT端末の操作に不慣れな先生もいらっしゃいます。そうした方に操作を説明する際にも、EduSurveyはUI(User Interface)がわかりやすいため、サポートする側のストレスも低減されているはずです」(橋本氏)。
EduSurveyの運用は始まったばかりですが、着実に浸透しはじめています。文科省では、各都道府県・市区町村・教育委員会等を対象にEduSurvey稼働後に利用調査を行いました(有効回答175件)。その結果、約6割がEduSurvey導入後に業務負担が軽減したと回答しています。その理由には「Web回答により、集計の手間が省ける」「間違いが少なくなり、対応する時間も短時間で済むようになった」といった意見が多く寄せられています。ちなみに、この調査自体もEduSurveyを活用したものでした。
文科省では、将来的にはEduSurveyで収集した調査結果を回答属性ごとに分析したり、過去データと比較分析をしたりして、さらに現場の把握と国の施策の見直しに役立てていく計画だといいます。
澁木氏は、「EduSurveyをさらに活用して文部科学省内で認知度を上げ、EduSurveyによる対象調査件数を増やしていくとともに、EduSurveyを“調査プラットフォーム”として定着させたいと考えます」と、その将来像を展望しました。
「文部科学省WEB調査システム」構築で利用されたSalesforceソリューション
- Salesforce Surveys
- Sales Cloud
- Experience Cloud
- Tableau
- Premier Success Plan