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新たな協働のかたち:人間とデジタルエージェントによる労働力

A new collaborative workforce of humans and agents

※本記事は2025年6月5日に米国で公開されたThe New Collaborative Workforce: Humans and Digital Agentsの抄訳です。本記事の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。


「従業員のみなさん、AIエージェントをご紹介します。AIエージェントのみなさん、こちらがあなたたちの新しいパートナーである優秀な人間のチームメンバーです」

これは、いま多くの職場で交わされ始めている新しい会話です。営業支援からマーケティング施策、エンジニアリングプロジェクトに至るまで、あらゆる業務領域で人間の従業員とAIエージェントが協働するケースが増えています。

これは新しい働き方であり、継続的な学びと柔軟な適応力が鍵となります。デジタル労働力の構築・拡張におけるベストプラクティスには、適切な自律型基盤、インフラ、ポリシー、トレーニングの整備が欠かせません。そして、従来の業務役割に対する再考も求められます。

このデジタル労働力の世界には、生産性の向上、時間の節約、応答スピードの改善といった多くの可能性がある一方で、課題も存在します。最大の課題のひとつは、従業員の準備態勢です。人間のチームは、新たな自律型の“同僚”たちとの協働方法を学び、信頼関係を築かなければなりません。

こうした変化には、企業文化の見直しも必要になるかもしれません。Slackが17,000人のデスクワーカーを対象に実施した調査では、ほぼ半数(48%)が「職場の一般的な業務でAIを使用することを上司に伝えることにためらいがある」と感じていることがわかりました。Salesforceの人材育成および開発担当EVPであるロリ・カスティーリョ・マルティネス(Lori Castillo Martinez)は「新しいテクノロジーに触れる機会を設けることが、この意識を変える一歩になります」と話します。例えば、Salesforceでは、従業員同士でAIツールを試すことができる「ラーニングデイ」を定期開催しています。

この変化に適応すべきなのは従業員だけではありません。経営層にも、新しい時代への対応が求められています。Salesforce会長兼CEOのマーク・ベニオフは「これからは、人間の労働力に加えて、デジタル労働力のマネジメントも必要になる」と、今年初めにスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムで語りました。

このビジョンはすでに現実となりつつあります。Salesforceは、自律的に思考し、学習し、行動できるAIエージェントを構築・運用できるデジタル労働力プラットフォーム「Agentforce」を発表しました。対象となるのは、営業、サービス、マーケティング、コマースといった各部門、さらに小売、医療、金融サービスなど多様な業界です。

こうしたデジタル同僚は、顧客対応から社内支援までさまざまな業務で活躍します。その活用例は以下の通りです。

Agentforce セールスディベロップメントは顧客対応において、以下のような活動を担います:

  • リードやコンタクト情報をもとに、見込み顧客にパーソナライズされたアウトリーチメールを送信
  • 返信がない場合には、フォローアップのリマインダーメールを送信
  • 見込み顧客からの質問に自動対応
  • 興味を示した見込み顧客を営業担当者に引き継ぎ、商談の設定をサポート

Agentforce セールスコーチングは、以下のような社内支援を担い営業人材のスキル強化を支援します:

  • 商談の進捗ステージに応じたフィードバックを提供し、受注率の向上をサポート
  • セールストークの内容を分析
  • 顧客役としてロールプレイを実施し、応対スキルを強化
  • 営業担当者の発言とCRMデータを照合し、商談成立の確度を向上

従業員のパートナーとしてのAIエージェント

企業ではいま、従業員向けのユースケースとしてAgentforce(英語)の導入が進んでおり、あらゆる従業員が、自身のタスクに特化したAIエージェントを使用できるようにしています。

すでにSlackのチャネル内にAIエージェントが登場し、チームの一員としての役割を果たしています。これは、AgentforceとSlackの連携によって実現したものです。初期の代表的なユースケースのひとつが、新入社員のオンボーディング支援です。新しいメンバーがより早く、スムーズに業務に馴染めるようになりました。

その一例が、次世代型の旅行プラットフォームのEngine(英語)です。同社では、新入社員向けにITサポートを提供するAIエージェントや、役割に応じた社内ポリシーの問い合わせ対応を担うAIエージェントの導入を計画しています。例えば、従業員が新しいノートパソコンの手配状況を知りたい場合、Slack上で自然言語でAgentforceに尋ねるだけで情報を取得できます。あるいは、新入社員がメールに初回アクセスできないといった課題に直面した際には、Agentforceが即座に段階的に対応手順を提示します。

こうした労働力エージェントは、単なるAIアシスタントではありません。SalesforceのAI 担当EVPであるジェイッシュ・ゴビンダラジャン(Jayesh Govindarajan)は、「これらのAIエージェントは、従業員にとって“パートナー”のような存在です」と話します。その違いは、「ユーザーの業務コンテキストを把握し、役割に応じた応答やアクションを提供できる点、そして与えられた権限やタスクに基づいて動作する点です」と説明しています。

ゴビンダラジャンは「AIエージェントに指示を与えれば、後は任せることができます」と語ります。Agentforceは、従業員のデジタル業務環境から文脈を読み取り、タスクを分解し、必要に応じて本人の許可や確認を得ながら、自律的にアクションを遂行します。

人間とAIエージェントが連携して働くこの協働モデルには、適切な監督が求められます。ハイブリッド型の労働力体制では、マネージャーがチームワークやパフォーマンスの評価指標を見直す必要があるかもしれません。AIエージェントが効果的に活用されているか、従業員とAIエージェントの対話から何を学べるか、その相乗効果を最大化するためには、柔軟な調整が不可欠です。

人間とAIエージェントの共生関係

人間とAIエージェントが共に働く新しい協働のかたちは、実際にはどのように展開されるのでしょうか。以下に、その一例をご紹介します。

消費財企業のマーケティングマネージャーであるケイトは、一日をAIエージェントとの会話から始めます。AIエージェントは、夜間に実施されたキャンペーンのパフォーマンスを分析し、トレンドを可視化し、改善提案をドラフトしてケイトに共有します。ケイトはコーヒーを飲み終える前には、すでに重要なインサイトを手にしているのです。一日を通じて、AIエージェントは定型的なタスクをシームレスにこなします。例えば、会議のスケジューリング、書類の要約、顧客データの分析、必要に応じたアクションの自動実行など、定型的な業務をスムーズにこなしていきます。ケイトは、戦略立案や顧客との関係構築により多くの時間を割くことができます。

この新たなハイブリッドな職場では、AIエージェントと人間の関係は単なる自動化ではなく、相互補完的なパートナーシップです。AIの計算能力と、人間にしかない感情的知性、判断力、創造性が融合することで、新しい働き方が生まれます。AIエージェントは、Slackや人との対話から得た文脈を学習し、それに基づいて自らの行動を導き出します。

この新たなハイブリッドな職場では、AIエージェントと人間の関係は単なる自動化ではなく、相互補完的なパートナーシップです。AIの計算能力と、人間にしかない感情的知性、判断力、創造性が融合することで、新しい働き方が生まれます

このように24時間365日稼働するような生産性が、企業内の従業員とAIエージェントのパートナーシップ数に比例して拡大すれば、デジタル労働力が企業にもたらす価値の大きさは計り知れません。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者は、人間とAIエージェントの協働がチームワーク、生産性、業務パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを検証しました。その結果、人間とAIエージェントを組み合わせたペアでは、人間のみのペアよりも生産性が60%向上することがわかりました。さらに注目すべきは、MITデジタル経済イニシアチブ(英語)の報告によると、特定の「性格特性」を持つAIエージェントと人間を組み合わせた場合、ワークフローや成果がさらに向上したという点です。

ただし、こうした取り組みは、可視化し測定できなければ管理できません。戦略には、進捗や価値、ROI(投資対効果)を評価するためのKPIが必要です。KPIには、従業員の満足度や燃え尽き症候群の軽減といった観点から、従業員体験の質的評価も含まれます。その他、デジタル労働力のダッシュボードには、顧客満足度スコア、完了したタスクの定量評価、AIエージェントが担った業務によるコスト削減効果などの指標が含まれます。

テクノロジーではなく、「価値」から始める

この新しい働き方と協働スタイルを組織として成功させるためには、マネージャーが入念に事前準備を行う必要があります。最初のステップは、自社が抱える具体的なビジネス課題の特定です。例えば、在庫不足、リード創出の停滞、問い合わせ対応の遅さといった課題がある場合、AIと人間の協働が解決の糸口にならないか検討することが重要です。この際に重要なのは、人間とAIがそれぞれの強みを補完的に活かす設計です。AIエージェントが、定型業務やデータ処理、常時対応が必要な業務を担い、人間は判断力、創造力、関係性構築といった人間ならではの業務に集中できるようにします。

他のAI変革と同様に、すべてはデータから始まります。LLM(大規模言語モデル)を活用するAIエージェントには、信頼できるエンタープライズデータが不可欠です。そこには顧客情報、テレメトリデータ、メール、音声、PDFなど、多様なソースのデータが含まれます。SalesforceのData Cloudは、数百におよぶデータソースと連携できるAPIやコネクター、統合機能を通じて、その基盤となるデータ接続を実現します。さらに、Agentforceの中枢として機能するAtlas推論エンジンは、人間の意図を理解し、適切なアクションに導くAIの頭脳として機能しています。

従業員とAIエージェントは、適切なアクセス制御のもとで同じデータにアクセス、更新することが可能です。それにより、精度と一貫性を保った協働が可能になります。AgentforceはSlack、TableauCustomer 360など、従業員が日常的に利用するあらゆるプラットフォーム上で稼働するため、時間や場所をを問わずに業務を遂行できます。

AIエージェントの設計は最重要事項です。AIエージェントを設計する際は、AIエージェントと人間の役割や、業務フローを支えるために必要なデータソースなど、さまざまな要素を考慮する必要があります。ゴビンダラジャンは、これを「ユーザーコンテキスト認識」と呼び、「現実世界でAIエージェントを機能させるには、適切なアクセス制御、ユーザーのコンテキスト理解、そしてそのペルソナに適した一連のアクションが備わっている必要があります」と述べています。

ポリシー、原則、ガードレール

設計やデータ利用に関するガバナンスは、信頼性を基盤としたAIフレームワークの一部です。このフレームワークはプライバシーや倫理に積極的に対応するために設計されており、AIエージェントの行動が組織のポリシーや価値観が組織の方針や価値観に一貫して準拠するよう、バイアスの制御や監査機能も備えています。

AgentforceのTrust Layerは、AIエージェントの行動範囲を定めるポリシーや原則を内包した仕組みです。そこには、バイアス検知や有害性チェック、セキュリティ・プライバシー・安全性の各種コントロール、監査ログ、さらには必要に応じて人間による介入を促すナッジ機能などが組み込まれています。さらに、Trust LayerはLLMへのゲートウェイとしても機能し、AIエージェントの不適切な行動や誤情報(ハルシネーション)をフィルタリングします。

またマネージャーには、従業員とAIエージェントの協働がどの程度効果を上げているかを可視化することが求められています。そこで活躍するのがAgentforce Interaction Explorerです。この機能は、AIエージェントのパフォーマンス、コンテキスト、応答品質、セッション履歴などを詳細にレポートし、分析することができます。「これにより、従業員とAIエージェントの間に価値が生まれているかどうかがわかります。これは非常に強力な仕組みです」とゴビンダラジャンは語ります。

Agentforce Interaction Explorerは、顧客あるいは従業員からのリクエスト、AIエージェントの応答にいたるまでの推論プロセス、さらにAIエージェントのパフォーマンス改善のためのAIによる推奨までを可視化します。いわば、自律型システムの監督ダッシュボードのような存在で、対話の改善と精度向上を支援します。

適応と継続的な学習

自律型のインフラ整備は準備の半分にすぎません。もう半分は、従業員とマネージャーがこの新しい働き方に向けて適切な教育とトレーニングを受けることです。「これは新たに習得すべきスキルです」と、ゴビンダラジャンは述べています。

その中には、スキルアセスメントや移行戦略の策定が含まれる可能性もあります。AIエージェントは人間の知見を拡張する存在であるため、一部の業務や職務定義は見直しが求められるかもしれません。その基本方針は、人間が持つ独自の強みと、自律型AIが持つ能力を生かすことです。例えば、カスタマーサービス担当者は、解決の難易度が高いエスカレーションされた問い合わせに集中するようになったり、金融アドバイザーは、市場の変動時に経験に基づいた洞察を提供する役割にシフトするかもしれません。

明確なポリシーとガバナンスによって、人間による監督が適切に介入し、自律型ワークフローを正しく導き、適正なガードレールを設けることが可能になります。時間の経過とともに従業員はAIエージェントとの協働に慣れ、より自信を持って活用できるようになり、AIエージェントもまた人間との対話から学習を重ねていきます。こうしてデジタル労働力は組織に根付き、継続的に改善が進んでいくのです。

導入初期においては、AIエージェントとのやり取りに戸惑いを覚える従業員もいるかもしれません。そのような時こそ、初心者のマインドセットが効果的です。まずは小さく始めて、学んで、試行錯誤し、次第にできることを増やしていくのです。Salesforceでは、こうした学びを支援する新たなコミュニティ「Agentblazer Community」を立ち上げました。Agentblazerは、自律型AIの理解を深め、技術的な知見や専門家リソースへのアクセスを提供し、仲間同士のネットワーキングを通じた相互学習を促します。

こうした新しいチーム構築と人材育成のスタイルを推進するうえで、マネージャーの役割は非常に重要です。「これは、優れたマネージャーがすでに実践していることです」とゴビンダラジャンは言います。「従業員とオープンに対話し、お互いに学び合う環境を育むことが鍵です」

このマネージャーのマインドセットは、人間からAIエージェントにも拡張されていきます。人間からAIが学び、AIから人間が学ぶという双方向の成長を支えるのです。 

詳細情報:

  • ROIを生み出すために、テクノロジーリーダーがどのように自律型AIを活用しているかは、こちら(英語)。
  • Salesforceの単一のアーキテクチャ上に統合されたプラットフォームが、信頼性の高い自律型AIをどのように実現しているかは、こちら
  • AIエージェントと人間による新しい働き方の事例は、こちら(英語)。

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