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ビジネスリーダーに必要な真のレジリエンスとは?

ビジネスリーダーに必要な真のレジリエンスとは?

近年、危機から立ち直るために必要な最も重要なリーダーシップ特性の1つとしてキーワードになっている「レジリエンス」。チームやクライアント、ステークホルダーが安心して新しい日常に移行できるよう、真のレジリエンスを発揮するためには、まず考え方を変え、2つの戦略に取り組む必要があります。

Leading Through Change – いま、私たちができること。-

この記事は米国で公開された「Stop Taking Adversity So Personally」の翻訳です。著者のJesse Sostrin は、Salesforceの事業開発部門のグローバル責任者であり、リーダーシップのあるべき姿について長年思索を重ねている人物です。『The Manager’s Dilemma』、『Beyond the Job Description』、『Re-Making Communication at Work』など5つの著作があり、マネージメントやリーダーシップ、キャリアの成功に関して、古い考え方に異を唱える次世代の思想家としても知られています。

Jesse Sostrinが担当するこちらのブログシリーズでは、従業員、チーム、組織を「新たな日常」へ導くためのインサイトを定期的にご紹介していきます。

まず、次のようなシナリオをイメージしてみてください。

レスリーは忙しく過ごす経営幹部で、この困難な時期に社員が見せたレジリエンス(回復力)を誇らしく思っています。レスリーは困難な状況を個人の課題と捉え、自身もこれまで以上に長時間働き、あらゆるプロジェクトで成果を出し、変わり続けるニーズにすべて対応しています。ただ、レスリー自身は気づいていませんが、燃え尽き症候群になる寸前まで来ています。レジリエンスと呼んでいたものは間違いで、そう長続きするものではないからです。

このところ、レジリエンスに関する話題がさまざまな記事(英語)や、プレゼン(英語)フォーラム(英語)で盛んに取り上げられています。レジリエンスは、危機からすばやく立ち直るうえでリーダーに欠かせない重要な素養です。多くのリーダーは、レジリエンスのことを仕方なく身につける武装の1つとしか考えていませんが、真のレジリエンスは、それとは大きく異なるものです。

真のレジリエンスとは、脅威から身を守るための防護層ではありません。ポジティブな自信であり、目の前の好ましくない状況を認識した時にそれに適応できる能力のことです。多くのリーダーはレジリエンスを自分で自分の身を守ることと誤解しており、それが思わぬ事態に発展する場合もあります。

部下やクライアント、その他の関係者の仕事を安定させ、新しい日常への移行をサポートするには、本当の意味でのレジリエンスを発揮する必要があります。そのためには、まず考え方を大きく改め、それから2つの戦略に取り組みます。

考え方を根本から変える

「逆境(adversity)」という言葉はもともと、「自分に敵対する(adverse)もの」を指します。このように逆境を自分事の戦いと考える発想は敵意を生み、「自分とそれに対する何か」の対立構造ができあがります。皆さんにも心当たりがあると思います。逆境、つまり仕事やプライベートで持ち上がる大小さまざまな問題は、一瞬にしてプランをぶち壊し、努力を無にし、希望や目標に疑問を抱かせます。

刻々と変わる事態や、先行きの不透明感、激変するビジネスとその複雑さに悩まされているリーダーたちが、逆境に敵対的な姿勢になるのも無理はありません。しかし、やってくる逆境のほとんどは、自分たちに非がないものです。実際のところ、こうした出来事や状況に対し、私たちにできることはごくわずかです。

しかし、それがわかっていても、攻撃を受けていると感じれば戦ってしまうのが人間です。レジリエンスについて語るときに戦いのメタファーがよく用いられるのはそのためです(「逆境を戦い抜く」、「不利な状況で勝利を収める」など)。しかし、ここで1つ問題があります。逆境を自分事の戦いと捉えると、敵意、消耗、不安の悪循環に陥ります。このような考え方では、レジリエンスを正しく発揮できません。

人間の体は現実と想像を区別しないため、認識された逆境はすべて、肉体に対する脅威と同じように、戦う・逃げる・すくむのいずれかの反応を引き起こします(詳しくはこちら(英語))。そして、心拍数の上昇、筋肉の収縮、血圧の上昇、視野の狭まり、脳から胴への血液の流入が起こります。また、脳の前頭前皮質が活動を停止して、理性と反射にもとづく反応ではなく、受け身的で衝動的な反応をするようになります。

当然ながら、さまざまな危機が起きている状況において、これは肉体的、感情的、精神的に好ましい状態とは言えません。そして、慢性的な不安とストレスは、徐々に重大な心の問題や身体的疾患へと発展していきます。

しかし実際のところ、逆境は敵でも味方でもありません。そういう目で見てみれば、ハーバード大学の心理学者Bob Kegan氏が言うところの主観から客観への視点の転換が起こります(詳しくはこちら(英語))。無意識に身につけている敵愾心のレンズを外して見ると、世界はあなたに牙をむいたりしておらず、ただ中立で公正な場所であることがわかります。今直面している困難な状況を、ただの中立的な「もの」として捉え、観察し、ときには歩み寄ってみましょう。敵意を捨てることで、大きな損失をもたらす悪循環から抜け出すのです。

逆境は「あなたの身に降りかかっていること」ではなく、「あなたの周辺で起きていること」であり、あなたに必要なのは、そこから何を学び、どう対応するかを考えることです。ものの見方を変えれば、レジリエンスを高めると同時に、自分の身を守ろうとして逆に身をすり減らす負担を軽減できます。頭を切り替えたら、次は逆境への対応の質と有効性を高める2つの戦略に取り組みます。

自分の力でどうにかできることは何か?そして諦めるべきことは何か?

逆境をデータのように扱う

情報が力になるのは、その可能性を正しく認識し、その価値を客観的に活用したときだけです。逆境についても同じことが言えます。望まれない破壊的状況をプラスの改革に転換できるのは、逆境を客観的に捉え、そこから学び、賢明な対応ができたときだけです。

身の回りの逆境から有効な情報を集めるには、客観的な視点で次のような問いかけをします。今起きている事態についての具体的事実は?この逆境は何を示しているか?この逆境からどんな学びやインサイトが得られるか?客観視できているかどうかを確認するにはどうすればいいか?自分の力でどうにかできることは何か?そして諦めるべきことは何か?

質問はそれほど多くありませんが、こうして頭の中を整理すれば、逆境の捉え方を間違えたり、逆境を自分事の戦いと思い込んだりすることはなくなります。逆境のなかにある情報をうまく観察できるようになると、予測や対応の質も向上します。

逆境をデータのように扱うには、レジリエンスのあるリーダーを勇敢なヒーローに重ねてしまう古い考え方を捨て去る必要があります。漫画に出てくるような、強く、完全無欠で、(しばしば非現実的な期待を持たせる)自信満々のリーダー像は正しくありません。真にレジリエンスのあるリーダーは、謙虚な姿勢を持ち、好奇心旺盛で、常に初心を忘れません。

データ収集の段階を省く、成果をざっくり把握するなど、逆境への対応を急いで場当たり的な反応をしてしまうと、誤ったレジリエンスにつながり、長期的にはリーダーとしての成長の妨げになります。危機をうまく乗り越えた気分にはなりますが、今後似たような事態が起きたときに、また同じ問題に苦しむことになります。重要なのは、どれだけ早く立ち直れるかではなく、どれだけ正確に立ち直りの道筋を作れるかです。どれだけ多くの労力や忍耐を捧げたかよりも、どれだけ的確で意味のある対応ができたかの方が大切です。

完全無欠を目指すのではなく、タフさよりも弱さに向き合う真のレジリエンスを目指しましょう。今の自分と立ち位置をありのままに受け入れ、そのうえで、前に進むための道を探します。

必要がないときはレジリエンスを発揮しない

もっと強力なレジリエンスが必要だと求められているリーダーも多いかと思いますが、別の種類のリーダーシップが適しているときにまで毎回レジリエンスを発揮する必要はありません。いつでもそうしていたら、レジリエンスの「貯え」を少しずつ取り崩し、次に本当の逆境が来たときにはもう何も残っていない事態になりかねません。

たとえば、私は最近、ある女性役員が自分のストレスと緊張についてこう話しているのを聞きました。「気にせずにはいられません。いつも仕事のことを考えています。熱くなるタイプで、仕事のことを考えると気持ちが高ぶります。私は一つひとつのプロジェクトや取り組みをスーパーボウルのような大勝負と捉えているのです。ただ自分でも、こういうやり方ではいつか燃え尽きるし、このペースをチームに求め続けることはできないとわかっています。私たちにはもっと強いレジリエンスが必要です」。

私は彼女に対し、それまで耐えてきた重圧を認めつつ、丁重でありながらはっきりと誤解を指摘しました。「もっと強いレジリエンスが必要」という考え方は、根底にある問題を見えなくしています。本当の問題は、優先順位が整理できていないことと、うわべのパフォーマンスです。

このリーダーはありがちな罠にはまっていました。すべての目標と優先事項に全力投球しているのに、どれも大して重要ではなかったのです。このやり方のせいで、彼女もチームも確実に消耗していました。しかし、根本的な原因を放置したまま問題へのレジリエンスを強化しても無駄になるだけです。決断力を持って優先順位を見極め、先を見越してトレードオフを入念に計算し、どこに時間とエネルギーを投資するかを決める必要があります。

レジリエンスを正しく使うには?

これを見極めるには、まず自分の仕事を再点検し、レジリエンスを使っている部分を洗い出します。そして、その問題に本当にレジリエンスが必要なのか、他の方法で解決できないかを自問します。

レジリエンスに対する過度な期待をやめれば、問題の根本原因に適切に向き合い、本当に必要なときのために真のレジリエンスを残しておくことができます。

逆境は何かを奪い、占拠するものです。仕事やプライベートの逆境は、あなたから時間、周囲への思いやり、リソース、楽しみ、自信、活力などを奪っています。それに対して、レジリエンスはさまざまなことを受け入れる能力です。レジリエンスを強化すれば、ストレスや不安を軽減し、複雑な問題を解決し、的確な意思決定を行い、多大な献身と思いやりの気持ちで周囲の人々を導くことができます。

ここで説明した発想の切り替えと、2つの戦略は、逆境を前向きに受け入れることにつながります。そうすれば、また逆境に遭って難しい局面に陥っても、レジリエンスを適切に発揮することができます。

新型コロナウイルスの危機がもたらす部下の心理的負担を緩和をするためにリーダーができることについて、こちらでご紹介しています。ぜひご覧ください。

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