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最高健康責任者という新しい役割の重要性とその任務について、世界的に著名な医師にお話を伺いました。

がん研究の世界的権威であるDavid Agus博士は、4月末にTwitterへの投稿稿(英語)で、英オックスフォード大学が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ新しいワクチンの臨床試験を開始するというニュース(英語)に期待感を表明しました。有効性が証明されれば、企業のオフィス業務の再開が近づくかもしれません。オフィスの再開に向けて、企業や従業員は何を考えていけばよいでしょうか?今日から3回に分けて、Agus博士の価値あるインサイトをご紹介します。

この記事では、企業の新たな役職である最高健康責任者の重要性と、果たすべき任務について取り上げています。Agus博士のお話を抜粋し、ごく一部に編集を加えてまとめました。     

 

「最高健康責任者」か「最高医療責任者」か

今求められている新たな役割の肩書きは、「最高健康責任者(Chief Health Officer)」とするのがよいと思います。「医療」だと、医学的な問題を扱うように感じられるためです。「健康」とは、従業員の状態であり、病気がない状態です。企業各社には、従業員の生産性や健康について日々考える制度を整えてほしいと思います。また、顧客への対応においては、健康についてのメッセージを一人ひとりにどう伝えるかが重要になってきます。健康重視の考え方に変えていく必要があります。新時代の始まりです。

現在、大企業の多くは最高環境責任者を置いています。最高環境責任者は、建物全体に目を向け、LEED認証の取得や、古紙や廃棄物の適切な処理に責任を持つ重要な役割です。最高健康責任者に関しても同じことが言えます。建物内でのウイルス拡散や滞留を防ぐ換気対策がとられているか?窓は開けられるか?天気がいい日に太陽の下で食事できる場所はあるか?自然に触れてから安全な環境に戻ることはできるか?こうした健康や衛生のあらゆる側面をじっくり考える立場の人が必要だと思います。 

これは経営幹部の一角とすべきポストです。医学的なバックグラウンドは必須ではありません。むしろ、健康について幅広く考える資質が必要で、その方が重要です。

 

従業員のシフト勤務

ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するための効果的な方法を探る必要があります。たとえば、シフト勤務制も一案です。午前と午後の2シフト制や、より細かく分けた3シフト制にすれば、オフィスにいる従業員の数を大きく減らせます。加えて、時差出勤も必要です。40階建てのビルのエレベーターに、全員が朝8時に殺到するようでは意味がありません。ディズニーランドのファストパスのように、時間をずらしながら来るのが理想です。

リモートワーク(在宅勤務)でも生産性を落とさずに問題なく業務を進められる従業員については、引き続き数か月は在宅の継続がよいでしょう。

満員のエレベーターは過去の遺物になるでしょう。
[写真: Flickr/Georgie Pauwels]

 

新たな監視

症状がある人を把握すると同時に、監視(サーベイランス)を行う必要があります。従業員を4つの象限に分けて、それぞれに対して週1回の検査を行います。これにより、自覚症状のない感染者を把握できます。このウイルスが厄介なのは、無症状の感染事例が膨大な数に上ることです。体調がごく普通でも、知らないうちにウイルスを拡散している恐れがあります。

 

マスクの着用

職場にいる間や通勤時には、全従業員がマスクを着用する必要があります。周囲の人たちを守るために、必ずマスクを着用しましょう。このウイルスは主に飛沫で拡散します。飛沫の拡散を食い止めることが、ウイルスの拡散防止になります。

 

デスクの上の小物を片付ける

職場の作業環境にも見直しが必要です。当面の間は、デスクの上にあるこまごまとした小物や家族の写真を撤去し、必要なものだけを置くようにします。オフィス内の膨大な数の写真立てや小物がなくなれば、毎日の清掃の手間を省くことができます。

 

職場での食事について

従業員は食事に出かけたくないと考えるでしょう。食事は自席でとり、全員が一斉に食堂に集中する状況は避けたいと考えるはずです。そのため、食事のとり方について有効な方法を考える必要があります。

 

従業員間の仕切りについて

このウイルスは飛沫感染することがわかっているため、まずは飛沫対策が重要です。従業員の間には仕切りを設置しましょう。お互いいの距離は6フィート(約180cm)以上離れていることが望ましいと考えます。作業場所だけでなく、会議スペースについても同様です。ある程度の人数が参加する会議で、ソーシャルディスタンスの確保が難しい場合は、ビデオ会議にしましょう。

 

通勤について

1日の始まりから終わりまで、従業員の移動のあらゆるシーンに細かく目を向ける必要があります。たとえば、従業員が公共交通機関を利用できない場合が考えられます。彼らの通勤手段をどう確保するか?その安全をどう保証するか?さまざまなシーンを検討し、企業として対策する必要があります[編集部注:公共交通機関での通勤が企業の経営幹部にとって厄介な問題となっていることは、Wall Street Journalの記事(英語)でも取り上げられています。]

オフィスが再開したらマスクと手洗いが必須に。 [写真: Flickr/Jernej Furman]

 

コミュニケーションについて

何事においても、うまくいく部分といかない部分があります。お互いの行動から学んだり、話し合ったりすることが大切です。また、他社の優れた取り組みに目を向けて、自らの行動を率直に改善する姿勢も必要です。

同時に、職場の環境で不安に思う点を従業員がいつでも経営陣に直接言える仕組みがあるといいでしょう。誰にとっても初めての経験ですから、フィードバックループを取り入れることが必要なのです。ここまで達成すれば安全、と言える基準はありません。皆で力を合わせて基準を確立していくことが大切です。意見を伝える仕組みと、データ的なフィードバックを取り入れたうえで、情報をリアルタイムに収集して行動に反映していけば、よりレベルの高い取り組みができるでしょう。

 

ビデオ通話について

従業員の心身の健康にも目を向ける必要があります。人間の脳は、Zoom通話よりも直接の対話に適した作りになっています。相手の表情が示すヒントや体の動きを読み取って、適切に反応していきます。しかし、すべてがバーチャル化した現在の環境では、脳はZoomの映像からそのヒントを探し、相手の発言や考えを解釈しようとします。脳にとってはかなりの負担です。最大100人がずらりと並ぶ画面ともなれば、負担はさらに大きくなります。そのため、ビデオ通話のストレスを和らげ、脳をリラックスさせる方法を探る必要があります。[編集部注:Zoom疲れに対処する方法については、Psychology Todayのこちらの記事(英語)に情報があります。]

職場での業務を再開するにあたっては、エレベーターや食堂の新たな利用ルール、従業員の心身への配慮、オフィスの衛生管理など、健康面で考えるべきことが数多くあります。新しい情報が毎日のように出てきて、わからないことも多い状況ですが、新たな職場環境へとスムーズに移行し、従業員が再び安心して働けるようにするうえで、最高健康責任者の役割はきわめて重要と言えそうです。

 

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