【専門家解説】従来型MRは通用しない?次世代MRの新標準を考察



テクノロジーの進化や規制、ニーズの変化によって製薬業界におけるMRの役割が揺れています。現場と進むべき道をSalesforce Japanのインダストリー・アドバイザーである早田和哲が考察しました。
問われるMRの役割
日本の製薬業界では、MR(Medical Representative)の役割をめぐる議論がかつてないほど活発になっています。
医師面会の規制強化やタッチポイントの断片化(*1)、AIなどのデジタルテクノロジーの浸透(*2)で、MRは従来の訪問中心モデルで成果を出しにくくなりました。
従来型MRモデルは限界を迎えています。病院の訪問ルールや透明性ガイドライン(*3)の浸透でアポイントは難化。また、医師(HCP)は学会や論文、専門ポータルから自力で情報を容易に得られるようになっているため、MRの「運ぶだけの情報」の価値は低減しています。(*1)(*3)
プレシジョンメディスンや希少疾患の拡大により、医師(HCP)が求めるのはカタログ的な説明ではなく、臨床現場で有用な科学的エビデンスです。
MRの実績評価も問われています。訪問件数や配布資料数といった定量指標では、高度化・多様化する医療への貢献を図ることができません。
エンゲージメントの質や意思決定の支援、患者アウトカムといった角度から評価を見直す必要があるでしょう。特に、オンコロジーや希少疾患では治療選択が複雑で、科学的対話を前提とした関係性が求められています。(*2)(*4)
【デモ解説】
「Agentforce(エージェントフォース)」でMRやSRの営業スタイルはこう変わる



次世代のMR像として注目の2職種
こうした潮流の中、欧米ではMRとMSL(Medical Science Liaison)の中間に位置するHybrid Rep(営業+科学)やScientific Rep(科学重視型営業)が広がり、MRの次世代の姿として注目されています。(*5)
Hybrid Repは、コマーシャルの推進力を維持しながら臨床データの解釈や実臨床での使い方まで踏み込んで対話する役割です。対面とデジタル(e-Detailing、ウェビナー、リモート面談)をシームレスに組み合わせ、HCPごとに最適化された接点設計を提案します。(*2)(*5)。
一方、Scientific Repは組織上はコマーシャル所属でありながら、科学的エンゲージメントが主務(*5)。KPIは処方量よりも科学的対話の質、KOLとの信頼、臨床意思決定の支援度になります。
ガイドラインや透明性の要請(*1)(*3)、定型情報を代替するAIなどのデジタルテクノロジーの普及、そしてROIの観点(*4)から、全員をMSL化することが現実的でない企業にとって、これらの役割を配置することは実装しやすい1つの解となるでしょう。
AIが進化させる次世代のMR / SR活動
このビジョン動画では、AIが支援する新しいMR / SRの働き方をご紹介します。AIを活用した次世代のMR / SR活動を、ぜひご覧ください。

MRが目指すハイブリッド化とは
日本のMRが現実的に進化する道筋は、ハイブリッド化にあります。
HCPが本当に知りたいのは、「この患者に明日からどう活かせるか」という具体MRはエビデンスの読み解きやペイシェントジャーニーのボトルネック把握、治療導入・継続時の実務課題の解消まで伴走する価値共創パートナーへと変わっていくでしょう。
高い専門領域ではMSLの比率を高めつつ、プライマリや大型品ではHybrid Repや/Scientific Repを前面に据えることで、面のカバレッジと点の深耕を両立できます。
評価指標も訪問数やプロモーション資材の配布数から、面談の質や次のアクション化率、臨床意思決定支援、患者アウトカムの代理指標へと重心が移るでしょう。(*2)(*4)
この転換を強力に後押しするのがデジタルテクノロジーとAI。FAQ応答や資材のレコメンド、面談後のフォロー、同意の取得や記録といった定型業務は自動化され、MRは科学的準備とHCPとの対話に時間を回せるようになります。(*6)(*7)
コンテンツのパーソナライズやeDetailingの最適化、面談後の追加資料送付やウェビナー招待まで、一気通貫で実行できるようにする仕組みも整いつつあります(*2)(*8)。
CRMとデータを活用すれば、HCPの過去発話や関心、処方傾向を統合し、「次のベストアクション」と必要資料が瞬時に提示され、訪問準備の質と速度は大きく向上します。(*2)(*6)(*9)
面談のログや医学的問い合わせはAIが要約して論点を抽出し、高度な科学的質問が立った瞬間にMSLへのハンドオフを促進します(*4)。さらに患者支援プログラムの利用状況やアドヒアランス、給付金確認の進捗をダッシュボードで可視化できれば、患者アウトカム改善に向けた提案の具体性も増します(*6)(*10)
結局のところ、選ぶべきは現状維持か、それとも未来のリーダーを目指すか――。全員をMSL化は理想的に見えても、採用や育成、コストの現実が壁になります。
一方でHybrid RepとScientific Repは、営業の面を残しながら科学の深さを前面化できる現実解であり、AIとデータが定型作業を代替することで、人が担うべき価値ある対話を増やす土台が整います。
「MR不要論」への最適解はMRを捨てることではなく、MRを進化させること。すなわち、患者への価値共創パートナーとしての「MR=Hybrid Rep/Scientific Rep化」こそが、患者中心の時代にふさわしい新標準です。
<参考文献>
*1:EFPIA Code of Practice(PDF)
*2:Salesforce(HCP Engagement ユースケース)
*3:日本製薬工業協会 製薬協コード・オブ・プラクティス(PDF)
*4:McKinsey(Generative AI in pharma)
*5:McKinsey(Medtech sales is hybrid)
*6:Salesforce Japan(Life Sciences Cloud 製品ページ)
*7:Salesforce(HCP Engagement デモ)
*8:IQVIA×Salesforce(協業に関するプレスリリース)
*9:IQVIA(Dynamic Targeting)
*10:Salesforce(患者サービス・Agentforce)
AIエージェントで進化する製薬業界の未来
製薬業界では、訪問規制の強化や組織体制の見直しが進む中、MRはより高い生産性が求められています。Agentforce、Data Cloudを用いた新しいライフサイエンスの未来を、ぜひ動画でご覧ください。
