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ハノーバーメッセ2022:日独経済フォーラムから見えてきた両国の脱炭素への向き合い方

ハノーバーメッセ2022:少数精鋭の日本企業、”らしさ”が詰まった4日間

「HANNOVER MESSE 2022」初日の5月30日、日独経済フォーラムが開催されました。今年は15回目。イベントの際に日独の関係者が一堂に介する場として定着しています。なお今回はハイブリッド開催ということもあり、日本在住の登壇者はオンラインで参加しました。産業部門のトランスフォーメーションがテーマの軸ですが、気候変動の問題や、ロシアのウクライナ侵攻による資源・エネルギー調達の課題など、山積みの課題に向けた両国のアプローチについて意見交換が行われました。

「HANNOVER MESSE 2022」初日の5月30日、日独経済フォーラムが開催されました。今年は15回目。イベントの際に日独の関係者が一堂に介する場として定着しています。なお今回はハイブリッド開催ということもあり、日本在住の登壇者はオンラインで参加しました。産業部門のトランスフォーメーションがテーマの軸ですが、気候変動の問題や、ロシアのウクライナ侵攻による資源・エネルギー調達の課題など、山積みの課題に向けた両国のアプローチについて意見交換が行われました。

最新のトピックに、サプライチェーン・デューデリジェンス法があります。この規制は、ドイツ企業が調達品の製造工程における人権や環境について、自社製品と同等の扱いとすることを義務化するものです。SDGs(持続可能な開発目標)の観点からすばらしい取り組みだと評価する声と、実効性に疑問が残ることに懐疑的な声があり、大きな修正が加えられるという観測もありましたが、ほぼ原案のまま2023年1月に施行されることが決定しています。当初は従業員3000人以上の企業が対象で、翌24年1月より従業員1000人以上の企業にも適用され、遵守義務に反した場合、最大80万ユーロの罰金が科されます。 

サプライチェーンをより鮮明に可視化することが求められることになりますから、それを実現するデジタルソリューションの必要性も高まります。その一例として、ドイツでは、自動車業界でCatena-X(カテナ-X)と呼ばれるアライアンスが立ち上がっています。これは、業界全体でデータ交換標準を規定する取り組みですが、その目的のひとつに持続可能なCO2排出量削減を目指すというものがあります。現時点では自動車メーカーや部品メーカー、IT企業などが参画していますが、産業界全体へとその枠組みを広げることも検討しているようです。中小企業も少ないIT投資で参画しやすくなるような標準策定を目指しているようで、今後この枠組みが広がっていくのか、それとも何か別のものが生まれてくるのか、世界中のすべての企業が取り組むべき課題解決のためのものですから、注目したい分野です。

日本からは、クライメート・トランジション・ファイナンスの基本方針を策定したことが報告されました。2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、素材産業からスタート。自動車業界でも近々指針を策定する方向で、最低でもCO2排出量の8割をカバーしたいとのことです。また、GX(グリーントランスフォーメーション)リーグが準備期間に入っています。現在、日本のCO2排出量の約3割を占める440社が賛同を表明し、2023年4月より本格稼働させる計画です。

4社の日本企業のプレゼンテーションも行われました。以下に、印象的だった発表を振り返ります。

三菱電機

環境負荷をニュートラルにするインフラ作りという印象に残るテーマでした。ヒートポンプを使って、データセンターの排熱を家庭用暖房に使うなどというアイデアと、それを実現する技術を紹介してくれました。ドイツのインダストリー4.0に対して、日本はソサイエティ5.0。社会全体で安全なデータ交換を実現するために、インダストリー4.0とソサイエティ5.0が共に目指す部分で日独が連携を深めることができるのではないでしょうか。

日立製作所

COP-26の民間パートナーになり、脱炭素領域にはかなり積極的に取り組んでいるようです。脱炭素において、「どこから手をつければいいのかわからない」という声はよく聞かれます。その“ややこしさ”や“難しいという印象”を少しでも減らしたいというお話が印象に残りました。Scope 3を含めたサプライチェーンの可視化において実証実験を進めていて、今後1年以内に何らかの結果を得られる見込みのようです。

オムロン

「オムロンの哲学は、金儲けではなく社会貢献」というフレーズが、Salesforceのメッセージと似ていて、親しみを覚えました。メーカーからソリューション提供企業へと脱皮し、自社だけで提供できない技術はパートナーと組んで実装しています。今回はダッソー・システムズと協力して開発したCO2排出量をリアルタイムに可視化するシステムをデモ。現在オランダと草津で試験導入中とのことで、まだPoC段階ではありますが、興味深い取り組みでした。

東芝&シーメンス

信頼性の高いデータ交換についての発表で、最新のテクノロジーについてシェアしてくれました。発表で印象に残ったのは、技術も大切だけれど、最終的に最も重要なのは文化を変えることだ、という提言です。確かに、同じ会社の事業部間でもデータ共有したくないものがあると聞くこともあります。より分厚い企業の壁を破ってデータ交換をするわけですから、大きな企業文化、社会文化の変革が必要になってくるかもしれません。

脱天然ガスの本命は水素?

日本とドイツは、ロシア産の天然ガスへの依存度が高い国です。ロシア産資源の調達に人道的見地から問題が発生している現在、エネルギー資源の転換は大きな課題になっています。今回のフォーラムでは、「ガス・ニュートラル」という言葉が出てくるほどで、代替資源は大きなテーマです。 

両国が本命に挙げるのは水素です。水素は、利用段階でCO2を発生させず、熱エネルギーを通して運動エネルギーに変換したり、電気を取り出したりすることができます。航空、船舶、大型トラックなどではまだ利用が難しいようですが、産業界では広く利用が期待されています。 

日本側からは、「欧州では電気で水素を作って使うという方向だが、日本では再生可能エネルギーに限界がある。水素を海外から調達し、天然ガスや石炭火力を置き換えて電気を作るというプランで検討している」というお話もありました。ただし、問題になるのはコストで、5分の1の価格にならなければ天然ガスを置き換えることは難しいという見解です。 

日本では、2030年に再生可能エネルギー利用率を40%に引き上げるという目標があります。現在は、風力に力を入れていて、海に浮かせる浮体式の風力発電の実証実験に取り組んでいます。水素のほかには、アンモニア火力を検討しているという報告もあり、ゼロエミッション発電に向けた取り組みは加速しているようです。 

さて、現状はさまざまな可能性を探っている段階のようですが、それでも環境問題は大きなテーマ。立ち止まっているわけにはいきません。国としての取り組みは、規制と補助金の両面でバランスを取りながら進めていくようです。日本初のカーボンクレジット取引市場は来年から稼働する予定で、脱炭素に向けたトランジション・ファイナンスの仕組みも整いつつあります。 

一方、ドイツではContracts for Difference(CfDs)計画を発表し、鉄鋼、セメント、石灰、アンモニア業界の企業が低炭素技術に移行するために必要な資金を補助しています。企業の個別プロジェクトを国が審査して補助金を出す仕組みになっていることが、両国の大きな違いと言えそうです。

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