セールスフォースは「ビジネスは社会を変える最良のプラットフォームである」という信念のもと、ビジネスの力で社会や環境にポジティブなインパクトを与え、全てのステークホルダーに還元する取り組みを創業当初から継続してきました。
本記事は、ビジネスの拡大と社会的インパクトの創出を両立するために活動するセールスフォースの環境と社会貢献の専門チーム「ソーシャルインパクトチーム(旧ESGインパクトチーム)」がその具体的な内容をシリーズで紹介します(全4回)。
私たちは、持続可能な社会の実現に向けて、大きく「社会貢献」と「環境サステナビリティ」の2つの領域で、世界各地で社会的に意義のあるインパクトの創出に取り組んでいます。
第3回の今回は、AI時代にテクノロジーの開発・利用とサステナビリティの両立を目指すうえでの技術的なアプローチを紹介します。
ビジネスは社会を変えるための最良のプラットフォームである
Salesforceは、自らの価値が価値を創出すると信じており、ビジネスの力を最大限活用することで、株主、お客様、従業員、パートナー、地球環境、そして私たちが働くコミュニティを含む、あらゆるステークホルダーにとってより良い世界をもたらすことができると考えます。



AIの発展で環境負荷はどのくらい増えたのか
近年、生成AIをはじめとするAI技術は急速に進化し、私たちの生活やビジネスに大きな恩恵をもたらしています。AIは生産性向上やイノベーションの加速に貢献する一方で、その運用に伴う多大なエネルギー消費や環境負荷への懸念が高まっています。
気候変動がもたらす深刻な社会や地球への影響が顕在化する今、持続可能なAIの開発と利用は避けて通れない喫緊の課題です。
AIの環境負荷は主に、モデルの「訓練」と「推論」にかかる膨大なエネルギー消費に由来します。特に大規模言語モデルは、パラメータ数や訓練データの増加により、開発と運用に大量の計算資源を必要とします。
近年では、Transformerアーキテクチャの計算要件が2年ごとに750倍にも膨れ上がり、ハードウェアの向上だけでは追いつかない状況です。
この計算需要の増大は、データセンターの電力消費にも大きな影響を及ぼしています。多くのデータセンターが依然として化石燃料由来の電力に依存するため、炭素排出量の増加につながっています。例えば、米国ではAIの需要により2030年までに46GW(ノルウェーの電力システム相当)の天然ガス設備が追加されるという予測もあります。
また、個人レベルでのAI利用でも環境負荷は無視できません。画像生成1回がスマホの50%充電分に相当するエネルギーを消費するほか、「ChatGPT」の一般的な会話やタスクでも約500mlの水が使われるといった推計もあり、AIモデルのタスクやサイズによっても炭素排出量は大きく異なります。
「持続可能なAI」を目指したセールスフォースのアプローチ
AIの環境負荷を低減するためには、技術革新とさまざまな工夫が必要です。セールスフォースは、AIの環境負荷を管理・測定し、気候変動対策を加速するために、以下の取り組みを中心とした包括的なアプローチを推進しています。
AIモデルの最適化と小型化
セールスフォースは、AIモデルが必ずしも「大きいほど良い」とは限らないと考えています。モデルのサイズとエネルギー効率は反比例するため、タスクに合った効率的なモデルの開発が重要です。セールスフォースでは、モデル圧縮技術の活用や、「CodeGen 2.5」や、「XGen Mobile」といった高性能かつ小型のモデルの開発を進めています。
こうした最適化により、コスト効率や制御性が向上し、ユーザー体験も改善されます。「SFR-RAG」はその代表例で、RAG用途に特化し、信頼性・正確性・忠実な文脈生成を重視した90億パラメータのモデルであり、高精度かつ効率的に動作し、より大規模な既存の汎用モデルに比べて高い性能を発揮しています。
効率的なハードウェアの活用と開発
AIワークロードに不可欠なGPUの性能効率は、年々着実に向上しています。たとえば、主要なハードウェアメーカーであるNVIDIAのGPUも、継続的な技術革新を通じて、その性能と効率を大きく改善しており、AIの環境負荷低減に貢献しています。
セールスフォースでは、GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)など、より効率的なハードウェアの活用も進めています。TPU v4はTPU v3と比べて2.7倍効率的であり、セールスフォースのテストでは2.8倍の効率向上が確認されています。さらに、新しいTPU v5pは前世代と比べて最大2倍のパフォーマンスを発揮すると見込まれています。
低炭素なデータセンターインフラの選択
データセンターの電力供給元の炭素強度(排出量/kWh)は、地域によって大きく異なります。そのため、AIモデルの訓練や実行において、低炭素な地域のデータセンターを選択することは、排出量削減に非常に効果的です。
セールスフォースでは、グローバル平均より68.8%低い炭素強度のデータセンターでモデルを訓練しており、平均的なデータセンターを使用した場合と比べて、約105トンのCO2e排出を回避しています。

AIモデルの透明性と標準化の推進
AIモデルのエネルギー消費量や環境負荷に関する透明性の欠如は、大きな課題です。2023年の調査では、主要な基盤モデルの約80%が環境関連データを開示していません。こうしたデータの「見える化」は、効率的なモデルの開発と利用を促すうえで不可欠です。
セールスフォースは、AI企業のHugging Faceやカーネギーメロン大学と連携し、AIモデルのエネルギー効率を標準的に測定・比較できる「AI Energy Score」を発表しました。
このツールでは、166モデルを掲載した公開リーダーボード、開発者によるモデルの提出・評価を受けられるベンチマークポータル、エネルギー使用量を1ー5つ星で示すラベル評価などを提供しています。
セールスフォースは、この新たな枠組みのもと、自社モデルのエネルギー効率データを初めて開示し、業界全体での持続可能なAI開発を促進するため、環境負荷の開示義務化や効率基準の導入など、政策提言にも積極的に取り組んでいます。
今後は、「EU AI Act(EU AI法)」などでも汎用AIモデルにおけるエネルギー消費量や計算資源の開示義務が進められており、さらに透明性の重要性が高まると見られます。
Salesforce、テクノロジーおよび学術界のリーダーと協力し、AIモデルの効率を測定するAI Energy Scoreを発表

AIをサステナビリティ推進の力として活用する「AI for Impact」
AIは、環境負荷の増加を引き起こす一因である一方で、強力な分析・予測・自動化の能力を活かすことで、気候変動対策を含むさまざまな環境・社会課題の解決を後押しする可能性を秘めています。
セールスフォースでは、持続可能なAIの開発・利用に向けた技術的な取り組みに加え、AIを「良い影響をもたらす力(AI for Impact)」として最大限に活用することにも注力しています。
例えば、「Salesforce Ventures Impact Fund」を通じた気候テック企業への投資や、「Salesforce Accelerator – Agents for Impact」 による非営利団体への支援(資金・技術・プロボノ)が挙げられます。
実際に、「PANO」による山火事の早期検知、「WeaveGrid」による電力網最適化、「Good360」による災害時の支援物資配送の最適化など、すでにさまざまな現場で成果を出し始めています。
AIは未来を形作る力強いツールであり、その環境負荷に真摯に向き合いながらも、持続可能な社会の実現に向けた重要な原動力として進化させていくことが、私たちの責任です。
企業や開発者、政策立案者、利用者、そして社会全体がAIの環境影響に目を向け、より良い未来をともに築こうとする意識と行動が欠かせません。セールスフォースはこれからも、持続可能なAIの開発と活用に向け、ステークホルダーのみなさんと協力しながら歩みを進めてまいります。
Salesforce、非営利団体の社会的インパクトを拡大するAgentforce Accelerator を発表

本記事では、「ビジネスは社会を変える最良のプラットフォームである」という信念のもと、AI時代におけるテクノロジーの発展とサステナビリティの両立を目指す上での技術的アプローチと、インパクト創出の実例をご紹介しました。
次回(第4回)では、セールスフォースの気候変動アクションの注力領域の一つであるネイチャーポジティブ戦略に基づいた取り組みを紹介します。
*この記事は、米セールスフォースのAI Sustainability担当者のブログなどを元に作成しています。下記が参考文献です。