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トヨタが手がける「クルマのサブスク」を支えるKINTOテクノロジーズ景山副社長が明かすCIOの「3つの条件」

トヨタグループのサブスクリプションサービス「KINTO」のシステム開発などを担うKINTOテクノロジーズ。景山均氏は「PlayStation.com」の立ち上げや、バンダイや楽天、ニトリなどでEC事業に関わってきました。激しい技術進化が起きる時代にCIOはいかにあるべきかを伺いました。

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多種多様なキャリアの持ち主。その経験をもってKINTOに

──景山さんはさまざまな業界を経験しています。まずは主な経歴を教えてください。

景山:新卒で富士通に入社し、その後にインフォウェブやニフティでWebサービスの開発に関わり、ソニーコンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)では「PlayStaiton.com」の立ち上げに関わりました。

その後、バンダイネットワークス(現:バンダイナムコエンターテインメント)や楽天でEC事業の責任者や開発の責任者を務めました。ニトリで物流管理システムなどにも関わり、2019年にKINTOの母体であるトヨタファイナンシャルサービスに参画し、現在に至ります。

こう振り返ると、確かにさまざまな経験をしてきましたね(笑)。

──KINTOに関わるようになった経緯は何だったのですか。

自分の意思というよりご縁ですね。KINTOだけでなくこれまでの所属した企業を選んだのも、ずっとそれなんです。「これがやりたい」というよりは、友人・知人に声をかけていただいて、その中で「面白そうだな」と思うものを選んでいくスタイルというか(笑)。

──KINTOにはどんな「面白そう」を感じたのですか。

知人の紹介で、小寺(信也・代表取締役社長)に会った時に聞いた将来構想が魅力的だったんですよね。「本当にできるのか?」と思いながらも、「実現したら絶対に楽しい」と。

KINTOは、従来の卸売モデルが中心だったトヨタグループが、初めて本格的なD2C(Direct to Consumer)、言い換えればECモデルに参入するという挑戦なんですね。

PlayStation.com時代も、ゲームメーカーがECで直販をやるというスタイル。KINTOは私にとって構造は同じだったんです。D2Cは今後加速するだろうと感じていた時に世界の自動車メーカーであるトヨタが、D2Cをやるという。こんな面白そうな取り組みに関わる機会はそうないと、参画を決意しました。

「そもそも違う開発思想」を理解促進からスタート

──KINTOテクノロジーズは、どのような役割を担っているのでしょうか。

トヨタがグローバル展開するモビリティブランド「KINTO」の日本国内向けシステム開発を担うと同時に、そのグローバル展開もシステム面からサポートしています。

補足しておきたいのですが、「KINTO」というのは日本だけでなく、グローバル展開しているブランドです。欧州には「KINTO EU」という統括会社があって、その下に、KINTOの名前を冠した現地の企業がある。米国やアジア、最近では南米にも進出しています。

KINTOテクノロジーズは日本はもちろん、依頼があれば世界各国のKINTOサービスの支援も行っているんです。

──「Woven by Toyota」のプロジェクトなど、KINTO以外の開発にも関わっていますね。

KINTOテクノロジーズは、設立当初から「頼まれればトヨタ自動車グループのDXも担う」ことを掲げています。我々の強みであるクラウド技術を基盤に、Woven by Toyotaのプロジェクト支援や、トヨタ自動車のクラウド運用支援や生成AIの活用支援など、まだ一部ではありますが、グループ全体を対象にサポートをしています。 

──KINTOは「トヨタにとって初のEC」とのことですが、初めてだからこその壁があったのではないでしょうか。

そうですね。壁というほどではないですが、やはり自動車メーカーのシステム開発思想と、Webサービスのそれは大きく違いました。その中で、最初に進めたのは「内製強化」です。

従来の基幹システム開発は、要件が明確で長期利用が前提のため、外部委託が合理的でした。しかし、変化が激しく、正解がないコンシューマ向けサービスでは、まずリリースして、顧客の反応を見ながら高速で「カイゼン」を繰り返す必要があります。このスピードに対応するには、外部委託では難しくて内製化が不可欠です。

──設計思想がそもそも異なる、と。

はい。加えて、品質に対する考え方も異なります。

人命に関わる自動車のソフトウェアは「完璧にしてからリリース」が当然ですが、Webサービスは「まず使ってもらい、問題を迅速に修正する」ほうが適しています。

この考え方を理解してもらうために、経営トップと対話を重ね、内製化の重要性を理解してもらうところから始めました。

──外部への委託と内製化の違いとして、開発効率でみた場合、どの程度上がるのでしょうか。

ケースバイケースですが、リリース後の機能追加であれば半分にできると感じています。

内製チームは自分たちが書いたコードを熟知しているため、修正箇所や影響範囲の特定が早い。要件定義も、事業側の要望に対し「ここだけ決めてくれれば、あとは走りながら設計できるので、1か月で終えましょう」といった提案が可能になり、製造や品質テストの工数も減らせます。

とはいえ、すべてを内製化する必要があるわけでもありません。内部でしか使わないようなツールは、外部ベンダーに委託する選択肢もあるでしょう。

自分たちが使うツールなら「どんなものが欲しいか」が担当者の頭の中に明確にあるので、要件定義もしやすいですよね。バグも、社内向けなら少しは猶予があります。

一方で、お客様に届けるサービスは、リリース後の反応をみて迅速に修正したり、機能を追加したりしないといけない。すると、当然、運用プロセスも変わります。こうした場合はやはり内製化の方が適していると思います。

社内向けシステムの開発は外部のテクノロジーパートナーに任せ、お客様向けは内製という住み分けですね。

毎月600件の応募。なぜそんなに人気なのか

──2019年の設立から現在で社員数が360名規模にまで拡大(2025年4月時点)。ほぼITエンジニアで占められているとお聞きしています。IT人材の獲得競争が激しいのに、これだけの規模をどのように形成したのでしょうか。

ありがたいことに、現在は毎月500~600件ほどの応募をいただいています。ただ、設立当初からそうだったわけではなく、さまざまな試行錯誤の末です。

効果が大きかったのは積極的な情報発信。特にエンジニアによる「テクノロジーブログ」の強化です。 

各部署の技術スタックや組織文化などをエンジニアが積極的に発信しており、応募者の多くが、そのコンテンツに触れ共感してくれていることが多いんです。

私は以前から、「情報発信は会社の重要な活動」という文化づくりを意識しています。これは採用活動はもちろん、会社の知名度向上や理解の促進にとても役立つからです。 

マネージャーは、どうしても「ブログ書く暇があるなら開発を進めてほしい」と考えがちですが、「外部への発信は会社の中長期的未来にとって必要不可欠」というメッセージを繰り返し伝えるようにし、今の文化を作り上げました。

私自身も講演やこうした取材に積極的に活動し、社員にも推奨。社外の方向けの勉強会や技術コミュニティも企画、運営しています。

──育成方法も教えてください。AIなどの先進テクノロジーをどう取り込んでいますか。

正直に言って、体系だった育成プログラムを組む余裕がないんです(苦笑)。

ただ、エンジニア界隈で名が知れているメンバーも複数在籍していて、社内勉強会を開催するなど、キャッチアップする環境は整えています。また、周囲のメンバーが常に新しいことに挑戦しているので、「自分もやらなければ」という良いプレッシャーも生まれており、若手の成長も早いと感じています。

私自身が何か特別なことをしたわけではなく、優秀な社員たちがやりたいことをやりたいようにやれる環境を整えた結果だと思っています。私は、進むべき方向性を示すだけで信じて任せる。優秀なメンバーの邪魔はしないようにしようと(笑)。

非効率でも使ってみる。「AIファースト」という持論

──生成AIが注目されていますが、景山さんはどのように捉えていますか。

生成AIは「内製」で取り組むべき領域だと考えています。理由は2つ。

1つは、進化のスピードが桁違いに速いこと。外部委託でPoC(Proof of Concept)を回している間に、技術が陳腐化しかねません。常に最新技術を取り込み、試行錯誤するにはやはり自社のエンジニアが学ぶ、実践するべきです。

2つ目は、要件定義が非常に難しいこと。何ができるか、どう活用すれば価値が出るかは実際にやってみないとわからない。「こういうものを作ってください」と明確なRFP(提案依頼書)を書くこと自体が困難なのです。

──具体的にどのようなAI活用を進めているか、教えてください。

Webサービスへの生成AI活用や、販売店向けのAI研修やAIプロダクトの試作、インフラ運用チームによるAI活用検討など、多岐にわたって活用しています。エンジニアも、コーディングツールへの組み込みなどを積極的に試して評価をしていますよ。

──現場レベルでの自発的な活用も進んでいるのですね。

はい。実際に成功例もでてきています。例えば、ある人事担当者は生成AIを使って、数時間かかっていた候補者情報の集約・転記作業の自動化に成功しました。

また、メール担当者がHTMLメールの確認作業を効率化するため、生成AIを使いローカル環境でプレビューできる仕組みを構築。エンジニアの手を介さず確認できるようになっています。こうした現場発のAI活用をどんどん生み出し、グループ全体に広げていくつもりです。

──AIを浸透させるうえで、意識していることはありますか。

「AIファースト」を全社テーマとして掲げ、「AIを使わなくても出来ることでも、あえてAIを使ってみる」ことを推奨しています。

AIを使うことで非効率になるケースもありますが、「やってみて失敗する」という経験が重要なんです。「これはダメそうだ」と頭で考えるのと、実際にやってみて「どこがどうダメなのか」を肌で理解するのとでは、ノウハウの蓄積レベルが全く違う。

まずは自分たちで徹底的に使い倒してみること。これが知識やスキルを最も効果的に高める方法だと実感しています。

CIOに求められる「3つの条件」

──最後に教えてください。理想のCIOが持つべき資質やスキルは何でしょうか。

3つあります。1つは、「技術に対する尽きないモチベーション」です。「技術は現場任せ」では優秀なエンジニアはついてきません。いくつになっても最新技術を追い求め、理解しようと努める姿勢、分からなければ若手に教えを乞う謙虚さも必要です。

2つ目は、「次を読んで先手を打つ力」です。組織づくりには時間がかかります。だからこそ、ビジネス要求の変化から、組織として次にどんな準備、技術習得、人材獲得・育成が必要かを予測し、先手を打っていく能力が求められます。

そして3つ目、最も重要だと考えているのが「経営層にとって『最高の通訳者』であること」です。

CEOやCFOといった経営陣に技術の説明をする際、専門用語がひとつでもあってはいけません。その瞬間にシャッターが降りて、こちらの話が届かなくなってしまうからです。

「わかりやすく説明しないほうが、動きやすくていい」と考える人もいますが、「わからないけど好きにしていい」は「どうでもいい」と思われていることと同義です。そのような状態では、いつまでもエンジニア部門、CIOの地位は上がりません。

──「通訳者」として、技術だけでなくビジネスへの理解も必要になるわけですね。

その通りです。ビジネス課題を深く理解し、ITがどう貢献できるか、なぜこの投資が必要なのかを、彼らの言葉でロジカルに説明できなければなりません。経営陣から真に信頼され、「右腕がCFOなら、左腕はCIOだ」と言われる存在になること。それが目指すべき姿だと考えています。

──日本のCIOを取り巻く環境は変化していると感じますか。

変わりつつあります。かつて日本のIT部門はITベンダーへの発注が主で、CIOは「発注担当者」と見られがちでした。しかし今は、IT、特にソフトウェアが競争力の源泉となり、コストセンターから価値創造の投資領域へと変化しています。 

こうした背景から、自社で技術力を持ち変化に対応できる「内製化」の流れは今後も加速し、CIOの役割もますます重要になっていくと感じています。

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