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【専門家解説】「サプライチェーンマネジメント(SRM)」最新事情。事例でみる慌てない柔軟な調達組織の作り方(前編)

サプライヤーと最適なサプライチェーンを構築するのは何が必要なのか。製造業を熟知する専門家、インダストリーアドバイザーの岩永龍法が2回に渡って解説します。第1回は、ある産業機器メーカーの「英断」を紐解きます。

つながる調達 DXハンドブック

SRMの活用で現場のスプレッドシート管理から脱却、戦略部門へと進化
ソーシング業務が直面する課題を深く掘り下げ、あらためてSRMの重要性をご説明。

【序章】激しい変化の波に晒される製造企業

地政学リスクによる航路寸断、予期せぬ部材の供給難、知らされることのない仕様変更、そして原材料費の高騰……。

今の製造業の調達部門は、常に有事の禍中にいます。この変化の波の中、多くの製造企業は頻発する課題と向き合い、その解決に取り組んでいます。

ただ、同じ市場環境でも、波に飲み込まれてしまう企業と、その波をうまく捉えて競争力を高めている企業に二分します。その差はどこにあるのでしょうか。

それは、“外に開かれた部門”がどれだけ企業価値の向上に貢献できているかだと、筆者は考えます。調達部門は営業部門と並んで「取引先との関係性から市場変化をいち早く捉えることができる」外に開かれた部門であり、「サプライヤーとのつながりの強さ」は経営価値に直結します。

本記事では、ある産業機器メーカーの事例をもとに、Salesforce SRM(Supplier Relationship Management)を活用し、「危機に強い調達チーム」を作り上げた変革の軌跡を解説します。


【課題】コロナ禍後の部品不足が「調達のあり方」を変えた

某産業機器メーカーにおける変革の契機は、約2年前に発生した深刻な「電子部品の入手難」でした。当時の現場は、納期調整や代替品の選定に追われ、電話とメールの嵐の中で疲弊し、生産ラインでは多くの遅延が発生していました。

そこで同社は、全社をあげた抜本的な生産改革に着手します。その中で、調達部門は「日々の納期と品質を守る実務部隊」と、原価企画・内製化判断や海外開拓を含む「中長期視点の戦略企画部隊」の2部門制へと移行を決定し、変革をリードすることにしました。

しかし、組織図を変えるだけで現場の混乱は収まるわけもありません。この混乱を乗り切るために、属人化した業務の整流化、ブラックボックスとなっていた業務に関わる情報を開放し、サプライヤーとリアルタイムに連携するための「デジタル基盤」を構築するという結論に至ります。

【転機】社内大激論を乗り越えた「生産日程の公開」という決断

デジタル基盤の導入にあたり、同社が踏み切った最も大胆な決断は、サプライヤー向けポータルでの「生産日程情報の公開」でした。「何の製品をどのくらい生産するか」という情報は、まさに製造企業の根幹となる能力そのものを表しており、その公開は経営を揺るがしかねません。

「これだけの情報を社外に出して良いのか?」「漏えいの危険はないのか?」というセキュリティや機密保持の観点から、社内で議論は白熱しました。

葛藤の末、彼らが選んだ答えは「信頼」でした。サプライヤーに対し、各工程で「いつ・何個の部品が必要か」を可視化することで、サプライヤー側も計画的な生産が可能になります。これによって自社だけでなく、サプライチェーン全体としての効率を上げることが可能になります。また、この透明性がサプライヤーとの「共創関係」を深め、非常時の協力体制を築く土台となっていくのです。

【成果】3桁の欠品数が「ほぼゼロ」へ。驚異の予兆管理

この決断に基づいて、同社はSalesforce SRMを導入。サプライヤーに対して情報を共有し、コミュニケーションを整流化した結果、効果は劇的な数字として現れます。

かつて月間3桁件発生していた納期遅れ(欠品)は、97%削減。さらに、見積もり依頼や図面共有に関する問い合わせ対応工数は「ゼロ化」を実現しました。

これは、単純な業務の効率化ではありません。納期回答が滞っている案件をユーザーがすぐに確認でき、問題が起きる前に対応するという「予兆管理」も可能にしました。「何か起きてから慌てて電話する」業務は消滅し、データに基づいて先手を打つ、「攻めの調達」へと進化したのです。

【技術】なぜERPではなくSalesforceだったのか

この変革を支えた技術的なポイントは、システムの「柔軟性(Agility)」にあります。

同社はワークフロー機能を持つ複数の製品を比較した中で、Salesforceを選定しました。その理由は、標準機能の適合率の高さに加え、独自の図面共有ロジックや複雑な承認フローを、ローコードで素早く実装できる点でした。

変化の激しい製造業において、重厚長大なERPの改修を待つ時間はありません。プロトタイピング方式で「できた機能からすぐ使う」というスピード感こそが、不確実な時代におけるDX成功のカギと言えるでしょう。

また同社が、CRMもSalesforceを利用していることも大きなアドバンテージです。例えば、お客様の機器利用状況はすぐにCRMに反映され、そこで起きた不具合は、該当するサプライヤーに不具合情報として連携される仕組みになっています。

これにより、市場で起きた問題をリアルタイムで把握し、対応するという迅速かつ強靭なサプライチェーンを築くことができているのです。

【まとめ】「お願いする調達」から「選ばれるバイヤー」へ

同社の事例が示唆するのは、SRM導入の本質が「自社の業務工数削減だけではない」ことです。サプライヤーにとっても使いやすいポータルを提供し、ムダな問い合わせを減らすことは、サプライヤーの従業員体験(Employee Experience=EX)を向上させます。

また、お客様の情報や生産計画情報を(勇気を持って)共有することで、サプライチェーン全体のスループット向上に直結します。結果として、「このメーカーとは取引がしやすい」「いざという時は優先して協力しよう」という信頼が生まれ、関係性が向上していくことになります。

ピンチの時こそ、チーム(サプライヤーを含む拡張された組織)はもっと強くなれる。

Salesforce SRMは、調達をコストセンターから、企業競争力を支える「戦略的な資産」へと昇華させるための最強の武器なのです。

後編では、強靭なサプライチェーンを構築するために効果を発揮するセールスフォースのAIエージェント「Agentforce Supply Chain(旧 Regrello)」の具体的効果を紹介しています。併せてお読みください。記事はこちら

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