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小売業向けイベント「リテールテック JAPAN 2025」を現地取材。トレンド、米国との差など独自解説

2025年3月4日-7日、東京ビッグサイトで開催された小売業向けイベント「リテールテックJAPAN 2025」が開催されました。Salesforceでこの業界のインダストリーアドバイザーを務める小川哲が現地取材。最新テクノロジーを活用した未来の店舗、顧客体験、業務効率化など今年のイベントの注目点を独自の視点で解説します。

リテールテックJAPANとは

「リテールテックJAPAN」 は、ECやオムニチャネルなど小売業界の最新デジタルソリューションの動向がわかる展示会で、今年は約220社が出展し8万人の来場者を集めました。本記事では、筆者が注目した企業ブースの展示ソリューションをピックアップし、その内容を解説します。

AI×リテールの未来
NRF・リテールテックから読み解く最新潮流

AIの進化とデジタル活用が、小売業の競争環境を大きく変えています。セミナーを通じて、AI活用の最新動向を把握し、自社のDX戦略を考えるヒントをお届けします。

注目の展示ソリューションをピックアップ

Pick up 1 イオン株式会社

イオングループでは、「insiX」「stoNavi」「レジゴー」など9つのソリューションを展示。特に新規性が強く興味深かった3つの展示を紹介します。

①insiX

insiXはイオンの買物アプリ「iAEON」から得られた顧客データを用いて、デジタルマーケティングを行うソリューションです。

顧客の購買情報/属性情報/行動データ/クーポンの利用状況に応じて、お客様一人ひとりに合わせた商品やクーポンのご案内を、クーポン/アプリ内PUSH/メールで配信できます。

将来的には、AIを用いたお客様DNAの分析、LINE/SMS/Webサイト/デジタルサイネージを含めた1to1マーケティングの強化、生成AIを活用したマーケティング施策の立案などの機能拡張を予定しているようです。

生成AIでマーケティングの何が変わる?

生成AIがマーケティングにもたらすメリット、セキュリティ懸念やスキル不足の理由、効果的な生成AI活用方法について解説します。


②DIC QueryVision

DIC QueryVisionは、イオンの「イオンデータイノベーションセンター」という組織で開発したソリューション。イオングループで保有する顧客や商品のデータを分析・可視化する際に、複雑なSQLを記載することなく、自然言語で質問することで簡単にデータを抽出できるソリューションです。

「千葉で売れている牛乳のベスト3は?」「A店の顧客の年齢層は?」などの質問に対して、自動でデータを抽出してくれます。

AI を活用したデータ分析でビジネス価値を創出

AI を活用したデータ分析で価値を創出する新たな方法についてご紹介します。

③stoNavi

stoNaviは、自店舗・他店舗での単品レベルの販売状況・在庫状況を可視化するソリューション。店舗の理論在庫を単品単位で把握し、過去の販売個数と比較して在庫数量が下回っている商品には欠品警告を出すことで、データに基づく機動的な店舗運営を実現します。

店舗生産性向上のための最新ソリューション

SalesforceのService Cloud、Tableau、Slackを活用した店舗管理ソリューションをデモンストレーションでご紹介します。

Pick up 2 株式会社unerry

unerryは「ショッパーみえーる」などの位置情報ソリューションを提供している企業です。最新ソリューションとして、訪日中の外国人旅行客(インバウンド)の人流をリアルタイムに捉える 「Beacon Bank for インバウンド」を展示していました。

このサービスでは、インバウンドが来日時にWi-Fiを使うためにインストールする、「Japan Wi-Fi auto-connect」のアプリ内にunerryのビーコンを組み込んでいます。

そのため、国籍別の主要な訪問ルートやエリア別の滞在日数、駅・店舗など施設単位での来訪者に関する人流や、来訪者の興味・関心の分析などが可能です。「Japan Wi-Fi auto-connect」のアプリ上で、特定のエリアや特定の国籍の人向けに、広告をプッシュ配信することも可能です。

インバウンドの売上を拡大したい百貨店や家電量販店、ドラッグストアなどの小売業にフィットすると感じました。

「リテールメディア」の成功法則

昨今、小売業の新たな収益源として、注目度が急速に高まっているリテールメディア。
そのメリットと国内外の取り組みと市場動向、参入評価ポイント、想定課題、実現に向けたシステムイメージをわかりやすくご紹介します。

Pick up 3 Lazuli株式会社

Lazuliは、PDP(プロダクト・データ・プラットフォーム)のSaaSソリューションを提供している日本企業です。これまで各企業が人力で個別に不足情報を収集していましたが、JANコードをキーに自動で商品情報をWeb上から収集し、商品マスタの不足を補います。

整備した商品マスタは、CDPと掛け合わせることで、深い顧客理解にも活用できます。例えば、上記画像のように顧客の購入履歴と商品特性を紐づけることで、顧客の価値観や嗜好までも理解できます。

もう一歩進んだ活用として、商品開発にも活用できるでしょう。例えば、CDPから顧客の価値観や嗜好を分析し、「安全・安心好き」「大容量好き」「簡便化志向」などの顧客セグメントが一定数いると分かったとします。その上で、もし上記ニーズに合致する特性を持つ商品を提供できていない場合は、新商品の開発に活かせるのではないでしょうか。

小売業における「1st Party Data」の重要性と活用の最新トレンド

1st Party Dataの重要性、活用の基盤であるCDPの概要、導入時の課題の乗り越え方、導入事例をご紹介します。

Pick up 4 Mirakl株式会社

Miraklでは、マーケットプレイス向けソリューションを展示していました。昨今、小売業のECサイト上で自社で直接取り扱っていない商品を掲載するマーケットプレイスが増加しています。小売業側には商品ポートフォリオの補完、出品者(セラー)側には自社商品の販売チャネルの拡大というメリットがあるからです。

Miraklのソリューションでは、Salesforceの「Commerce Cloud」のようなECフロントにセラーが自社商品を出品するための管理機能を提供しています。ニトリ、アイリスプラザ、Best Buyなどで利用されています。

アメリカでは、Walmartを筆頭にマーケットプレイスをリテールメディアの広告チャネルとして活用することが広く浸透しています。日本の小売業でもマーケットプレイスがますます拡大していくと見ています。

3版:Eコマース最新事情

AI、生産性、新たな優先事項とソリューション。全世界2,700名のEコマースリーダー、15億人以上の一般消費者や企業の購買データの分析から導かれたトレンドが明らかに。

NRFの出展ブースとの違い

筆者は、2025年1月に米ニューヨークで開催された世界最大級の小売業向けイベントNRF2025」にも訪れていましたが、「NRF2025の展示ブースでは、『AI』がメインテーマとして掲げられ、セッションの約4割でAIに言及し、出展ブースでも多くの企業が実用フェーズのAIソリューションを展示していました。

大手SaaSベンダーは、AIエージェントを活用した店舗の業務効率化やECパーソナライゼーションの事例を展示。スタートアップフロアでも、多言語対応の対話式AIアバターや画像生成によるデジタルモデルのソリューションが目立ちました。全体として「実用フェーズ」としてのAIを活用した効率化が強調されました。

一方、リテールテックJAPANでもAIを掲げたブースは当然あったものの、会場で時々見かける程度。AIを差別化のキーワードとして掲げていたブースは少なく、従来の訴求内容の延長線上で各社が戦っていた印象です。AIは、あくまで「可能性を探る」段階という印象でした。

日本企業への示唆

日本市場では少子高齢化が進んでおり、国内市場の縮小と人手不足の両面で大きな課題となっています。特に人手不足は深刻で、店舗スタッフだけでなく、本部の従業員の生産性向上も急務。イオン、Lazuliが展示していた本部社員の業務効率化を支援するようなAI活用にも取り組むべきではないでしょうか。

AI以外にも、インバウンド向けの広告配信やマーケットプレイスなど、従来の小売業の枠を超えた新しいテーマの展示が見られました。少子高齢化が進む日本で、限られたパイを競合と奪い合うだけでは売上拡大の余地は限られています。リテールテックJAPANで展示されていたソリューションは、新たな収益源を生む新規事業のヒントになる。そう感じた今年の内容でした。

生成AIで実現する小売業の未来

生成AI活用の最新動向と実践に向けたシナリオとは

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