グローバル標準のEコマースサイト基盤として、2017年からセールスフォースの「Commerce Cloud」を導入してきた資生堂。今回、同社ではヘッドレスアーキテクチャとなる「コンポーザブルストアフロント」を導入しました。いち早く最新アーキテクチャの導入に踏み切ったその狙いをキーパーソンの2人に伺いました。
Eコマース最新事情
AI、生産性、新たな優先事項とソリューション。全世界2,700名のEコマースリーダー、15億人以上の一般消費者や企業の購買データの分析から導かれたトレンドが明らかに。
顧客体験の向上とAI活用を睨んだアーキテクチャの刷新
──まずは、資生堂のEコマース活用状況をお聞かせください。
今村:当社は現在、「Commerce Cloud」を活用し6つのECサイトを運用しています。2017年に導入した当初は、IPSAブランドで国内最大の売上を達成するなど、大きな成果を上げてきました。しかし、この6年の間にEコマースの技術は大きく進化しました。現行アーキテクチャでは、サイト更新のスピードや、これからのAIに適応できないと判断し、刷新を決断しました。

資生堂インタラクティブビューティー株式会社
IT本部 デジタルマーケティンググループグループマネージャー
(肩書は取材当時のもの)
河合:ビジネスアナリストとしては、ECサイトのビジネスレビューを数多く実施して、顧客が商品の認知から購入に至るパターンを定量的に評価しています。
パターンは多種多様で、関心の高い顧客がキーワード検索から商品ページに直接来訪するパターンや、ランディングページを経由して関心が高まった顧客が商品ページで購入するパターンなどさまざま。この評価をもとにPDCAサイクルを回して、開発チームがECサイトを改修していきますので、データドリブンに優先度を作ることは非常に重要です。
今村:以前は、1つのサイトのみを更新できず、複数のECサイトすべてを同時にデプロイする必要がありました。この制約により、2週間に1回とか、1か月に1回といった遅いサイクルでの開発しか行えませんでした。「今、このブランドのキャンペーンを実施したい」と思っても、それができないのです。
──そこで、検討したのがヘッドレスアーキテクチャである「コンポーザブルストアフロント」だった。
今村:簡単に言えば、コンポーザブルストアフロントでは1サイトごとにデプロイすることが可能になります。ECサイトのフロントエンド(表示部分)とバックエンド(データ処理部分)を切り離した開発も可能です。
サイト開発を柔軟に行い、PDCAサイクルを高速化できるわけです。
ちょうどIPSAブランドサイトのリニューアルプロジェクトが持ち上がっていましたので、コンポーザブルストアフロントの採用、つまりヘッドレスアーキテクチャへの切り替えを決めたのです。

資生堂インタラクティブビューティー株式会社
IT本部 デジタルマーケティンググループビジネスアナリスト・マネージャー
(肩書は取材当時のもの)
SPA機能でモバイルサイトの高速表示を実現
──利用者のユーザビリティはどのように改善しましたか。
今村:当社のECサイトをスマートフォンなどモバイル環境で見る人が97%に達する化粧品ブランドもありますので、モバイル向けサイトの使用感を改善することは非常に重要でした。
コンポーザブルストアフロントはSPA(シングルページアプリケーション)機能を備えており、最初のアクセス時にある程度のWebページ遷移を含めたデータをキャッシングして、サイト利用者が画面送りの操作をした際にはキャッシュしたデータをもとに高速表示できるようになっています。
こうした仕組みによって利用者は、従来のWebサイトよりはネイティブアプリに近い、滑らかな画面操作を感じられます。数値的には、利用者の体感表示速度を従来の4倍に高められると評価しています。
もっとも動作が滑らかなのはもちろんネイティブアプリですが、ECで使うにはオーバースペックだと判断しています。従来は、たとえば顧客が店舗の近くに来た時に、位置情報を検知してお得情報をプッシュ通知するには、アプリが必要でした。
しかし、コンポーザブルストアフロントの導入で、ECサイトの機能としてプッシュ通知できるようにもなりました。さらに、サイトに新機能を加えたり、デザインを変えたりする際の工数、コストも削減できますので、モバイルサイトを展開するには大変有難いですね。
ヘッドレス対応は、段階的切り替えで堅実に実践
──コンポーザブルストアフロントへの導入のステップを教えてください。
今村:2024年11月には、ECサイトのトップページから商品一覧ページ、商品個々の詳細説明ページ、決済ページまで、コンポーザブルストアフロントへの切り替えが終わりました。
残るは顧客の購買履歴などを表示するマイページで、2025年に対応予定です。現在、すでにページロードの速度は向上していますが、マイページの切り替えが完了すれば、利用者の体感速度は劇的に向上すると思います。
河合:現在はマイページの要件定義を進めているところで、たとえば店舗で顧客が聞いたお肌の診断結果や購買履歴などを記録して、その情報を基にお勧め商品のレコメンドやポイント進呈日などを表示する仕組みを検討しています。
このような、実店舗(オフライン)とECサイト(オンライン)の連携を重視した、「Commerce Cloud」のヘッドレス対応によって、要件の反映も早くできると期待しています。
今村:マイページの開発が最後なのは、社内で実践したいことが詰まっているからです。実店舗の顧客データを活用するには、百貨店ブースなど他社の持ち物であるデータも必要になりますが、これは許諾を得ることが難しいケースもあります。
こうした障壁を仕組みや制度面を整えながらいかに乗り越え、リッチなデータをECサイトと連携して、実店舗に利益を循環させるか。今回のECサイト強化を機に、他社店舗を含めた体制強化の検討が進んでいます。

実店舗感覚のECをAIで
──AI活用がアーキテクチャ切り替えの理由の1つだったということですが、どのような活用を考えていますか。
今村:そうですね。コンポーザブルストアフロントを導入した狙いには、「Commerce Cloud」にAIを追加することもありました。
現在の一般的なECサイトでは顧客が商品ページから決済ページに遷移する形で買い物を行いますが、「ChatGPT」などを使って会話形式で買い物が進むECサイトがホットになってきています。将来的には、実店舗で店員と話しているような感覚で、「ちょっと違うんだよね」と言えば他の最適な商品を提案してくれて、最後は購入商品をカートに入れてくれるようなAIと連動したECをイメージしています。
河合:ビジネスレビューでは、顧客を属性単位で整理して、もっとも成約率の高いセグメンテーション(属性の組み合わせ)や時期の分析を行ったうえでアクションを決定していく必要があります。
この分析作業をAIが手助けしてくれれば、社員は最適なセグメンテーションを行った場合のアクションの分析など、次のステップに素早く移れるようになります。こうした業務効率化にもAIを活用していきたいですね。
──最後に今後の展望をお聞かせください。
今村:ヘッドレスへの切り替えにより、顧客体験の向上とAI活用という2つの目的を達成できると期待しています。2025年の完全移行により、コンバージョン率を30%向上させることを目標としています。AIの活用はもちろんですし、さらにパーソナライズされた洗練された顧客体験を実現するうえでもMA(マーケティングオートメーション)を実践し、「Marketing Cloud」との連携強化も進めていきたいと考えています。
「Commerce Cloud」コマースAI でできること
ビジネスの可能性を引き出し、販売店や開発者がより大きな成果を出せるよう支援します。信頼できるデータとAIを活用した実践的なガイダンスとAgentforceをもとに、確実に目標を達成できます。












