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“巨人”ひしめくEVインフラ市場。なぜこのスタートアップは躍進しているのか

電気自動車(EV)向け充電サービスを提供するTerra Charge。急成長した原動力とEV充電サービストップシェアに向けた戦略を、中川耕輔代表取締役副社長に語ってもらいました。

Terra Charge(テラチャージ)は、EV向け充電インフラ市場への参入は2022年4月と後発ながら、2024年10月末の時点で累計設置数1万口を突破し、急拡大を続けています。

巨人とも言える大手インフラ会社が市場で先行しているにも関わらず、急成長を遂げた秘訣は何なのでしょうか。そして、EV向け充電インフラの普及に向けた次なる戦略とは──

2013年にインターンでTerra Motorsに入社してインド事業の拡大に尽力し、現在はTerra Charge の代表取締役副社長を務める若きリーダー、中川耕輔さんに話を伺いました。

中川耕輔 Kosuke Nakagawa
Terra Charge株式会社 代表取締役副社長

1992年生まれ。大阪府出身、中央大学法学部卒。2013年Terra Motors株式会社へインターンとしてジョイン。卒業単位取得後、在学中の2015年にTerra Motors Indiaへ赴任。赴任後は主に東インド地域を担当し、 現地での販売ネットワーク網構築に尽力。2017年には前年比10倍売上達成の原動力となる。2019年10月に本社役員に就任。2022年よりTerra Chargeの国内事業を掌握し、業績拡大を指揮。

インターンで入社し、即事業責任者としてインド赴任

──中川さんは2013年、大学在学中にインターンとしてTerra Motorsに入社し、いきなりインドに赴任されたそうですね。

中川:中央大学法学部に在学していた時に、政治家の選挙活動の手伝いをしていたんです。仕事は楽しかったのですが、手伝いをしているだけでは自分の実力がつかないという焦りも感じていました。次第に「自分が打席に立てる場所に行きたい」という想いが強くなっていったんです。

それでインターン先に選んだのが、2011年に創業したばかりのTerra Motorsでした。面接で「海外で実力をつけたい」と伝えたところ、徳重(徹・Terra Charge代表取締役社長)が「いいよ」と即答してくれて。学生がインターンとして入社してすぐに海外市場を任せてもらえる企業なんて、そうそうないですよね(笑)。その決断の早さと実行力に惹かれ、入社を即決しました。

大学で単位を取り終わってすぐにTerra Motors Indiaに赴任し、東インド領域の販売ネットワーク構築を担当しました。銀行口座に活動資金が振り込まれて、「これで何とかやってみろ」と一任されました。ヒリヒリしましたね(笑)。

──そんな大胆な話があるんですね(笑)。

そうなんですよ。上司はデリーにいて、私は1人でインド東部の都市・コルカタに赴任したのですが、当然ですが、最初はとても苦戦しました。

当時23歳だったのですが、インド人からは「15歳?」と言われるほど若く見られ、決裁者として現地の人との交渉にあたってもなめられて話にならない。ビジネス経験がほとんどない中、インドの商習慣もわからず何度も騙されたし、大損もしました……。まさに暗中模索、孤軍奮闘でした。

──どうやって事業を成長させたのですか。

転機となったのは、現地採用したシュリというインド人との出会いです。彼の父親は現地のコミュニティで影響力があり、自らビジネスを立ち上げている人物でした。

私とシュリの2人で喧々諤々と議論をしていると、彼の父親がよく部屋に顔を出して「お前らのビジネスはどうなっているのか」と尋ねてきて。考えたアイデアを話すと「全然ダメだ」と言うんです。その後、いろんなアドバイスをくれて、時には寝食を共にしながらインドの商習慣や、取引先との関係構築まで徹底的に教えてくれました。インド人親父のOJTですね(笑)。

シュリの父からのアドバイスをベースに事業を立て直し、計6年半の駐在期間でまったく何もなかったところから目標を達成。酸いも甘いも存分に経験した濃密な20代でした。

EV充電インフラで急成長できた理由

──その実績をもとに帰国。2022年4月にTerra Chargeの立ち上げに参画した経緯を教えてください。

私の第2ステージの始まりですね(笑)。日本でEV向け充電インフラ事業を立ち上げる構想は聞いていたのですが、私はまだインド事業を続けたい想いがあって、いろいろ理由をつけて参画を先延ばしにしていたんですね。しかし、徳重から「いつまで時間をかけるのか」と怒られ、帰国を決意。そのわずか数週間後には、何がなんだかわからない状態で、Terra Charge立ち上げの記者会見の席にいました。

あまりの急展開で、製品はモックアップの段階。しかし、記者会見後に私たちがアプローチしたいと考えていた大手企業から次々と問い合わせがあったんです。可能性を大きく感じ、「まずは3年間、この仕事に一点集中しよう」と覚悟しました。

──第2ステージのスタートも刺激的だったんですね(笑)。その後、Terra Chargeは絶好調。充電設備の設置数は2023年3月時点で226台だったのが、2024年10月末には1万台を突破。成功の秘訣は何ですか。

まだ成功だとは全く思っていませんが、成長の背景には、「タイミング」があると思います。社内では神の領域と言っているのですが、徳重は「今がその時」と腹を括ったら一気に行く。その時期を見定める力と決断力、実行力は本当にすごい。

EVの普及にともない、充電インフラへのニーズは確実に高まっています。加えて、日本は電力自由化が進んでおり、新規参入の余地がありました。日本で事業を確立させた後に、これから電力自由化が起こる海外にもっていけば、大きく成長できる可能性がある。こうした認識があったからこそ、思い切った投資に踏み切ったんだと思います。

競合には大手がいますが、比較的新しい市場であるため、大企業と同等の規模で投資と知恵、実行力があればスタートアップでも勝機はあると信じていました。

ビジネスの成功にはいろいろな要素がありますが、私はタイミングとやると決めたら徹底的に勝つまでやる、やり切る力が大事だと思っています。

他のサービスでみると、たとえばPayPayはその好例だと思っています。玉石混交でどこもかしこも◯◯Payを手がけていた中、彼らが決済市場で成功したのは、大規模な投資を続け、勝ち切るまで攻め続けたからではないでしょうか。同じように、私たちもEV充電インフラ市場で勝つために大規模な投資と徹底的な実行力が必要だと考えました。

具体的なことを少し話すと、Terra Chargeより先行する競合企業が多くある中で、最初のターゲットを集合住宅に絞ったことは奏功しました。EVの利用率を高めるためには、日本の全世帯の約4割を占める集合住宅をまず攻めようと。そこで実績が着実に積み上げられたことが大きかったです。

──成果が出るまでやりきるというのが、もっとも難しい気がします。

そこはTerra Chargeのカルチャーが大きく影響しています。当社の強みはテクノロジーと実行力です。徳重は「徹底的にやり切る」と常に言い続け、実行し続けてきました。

最終的に我々の目指すところは、単なる充電インフラの提供ではなく、エネルギー産業の革新です。この視座の高さがあるからこそ、中途半端な利益を狙うのではなく、ビッグビジョンの実現、圧倒的な勝ちを狙って勝負をし続けることができるのです。

「V2X」でエネルギー産業の革新を目指す

──今後の戦略をお聞かせください。

これまでの3年間はEV充電設備を「立てる」フェーズで、設置数の拡大を目指してきましたが、今後は「使ってもらう」フェーズに移っていきます。

「立てる」フェーズでは、工事と補助金のオペレーションの量産体制構築に注力しましたが、「使ってもらう」フェーズでは、ユーザビリティの高いアプリケーションの開発が急務。「必要な機能が揃っているアプリ」から、[1] 多くのユーザーが「使いやすい」アプリを開発しなければなりません。そのため、開発人材の採用・育成は、現在の重要課題です。

さらにその先は、これまでの集合住宅向けの展開だけでなく、戸建て市場への展開を構想しています。日本の住宅の6割は戸建てなので、この市場を開拓することも非常に重要です。

戸建て向けには、より包括的なエネルギーマネジメントの仕組みを構築することを目指しています。EVは単なる移動手段ではなく、蓄電設備にもなります。一般的に自動車は購入後、約92%の時間は駐車された状態にありますが、この止まっている時間を電力の需給調整に活用することで、再生可能エネルギーの普及を加速させることができると考えています。つまり、電力の需給調整を行うV2X(Vehicle to X)の実用化です。

たとえば、家庭に太陽光発電を設置してEVを購入したうえで、当社の充電器とサービスを導入していただく。すると、その家庭自体が発電所となります。太陽光で発電した電力をEVに蓄電し、必要なときに使用するだけでなく、余剰電力を売電することで収益化も可能になります。我々はこの電力の流通を担う新しい形のエネルギー事業者になりたいと考えています。

そして、最終的に目指しているのが、再生可能エネルギーの普及にともなう需給バランスの変化に対応できる社会インフラの構築です。

──その後は海外市場での展開を目指すことに?

そうですね。特にインドのような電力インフラの整備が進んでいない新興国では大きな可能性があります。

将来的に電力網が整備され、電力自由化のタイミングに合わせてTerra Chargeがインド市場に参入し、日本で構築したエネルギーマネジメントシステムを展開していく。そうすることで、インドの電力需給シェアの一部を獲得し、マネタイズできる可能性があると考えています。同様の戦略をインドネシアなど東南アジア諸国にも展開していく構想です。

リーダーの「志の高さ」が組織を動かす

──組織を率いる立場として、リーダーシップで大切にしていることを教えてください。

私がもっとも大切にしているのは、志を高く保ち続けることです。

かつて孫正義氏が高校生に向けて「志を高く」というメッセージを送っている様子を見て、その意味を深く考えました。高い志を掲げることは誰でもできますが、その志に向かって本気で取り組み続けることは想像以上に大変です。

インドでゼロから販路拡大に取り組んだ経験や、この3年間でTerra Chargeを成長させた経験を経た今であれば、「志を高く」という言葉の本質を掴むことができたように感じます。

たとえば、私はインド事業が従業員150人規模になった時点で「やり遂げた」と満足していました。しかし、徳重から「目線が低すぎる」と指摘され、ハッとさせられたことがあります。

社員は経営陣の姿を見て行動を決めます。だからこそ、経営陣が高い志を持ち続けることが重要です。私が中途半端な言動をしたら、社員は「この程度でいいだろう」と熱量の上限を低く設定してしまう。そのことに気づかされたのです。

当社の場合、代表の徳重の存在が私たちの道標となっています。彼のビジネスに対する視座の高さは圧倒的です。競合が大手と提携した際も、「彼らは諦めたが、我々は本質的な戦いから逃げない」と、より高い目標に向かって突き進む判断をしました。このブレない信念こそが、組織全体の成長エンジンになっているのです。

──組織が急成長する中でモチベーションが高い人材を集めるために、工夫していることはありますか。

事業の立ち上げ当初は熱量の高い人材が集まりますが、拡大に合わせて人材を一気に採用すると、どうしても熱量は下がりやすくなります。

そこで私たちは、「自らを追い込んでチャレンジしたい人材」を求めていることを明確に打ち出すようにしました。ワークライフバランスを大切にする風潮の中でも、あえて高い目標に向かって突き進みたい人材は確実に存在します。そういった人材にとって魅力的な環境をつくることを意識しています。

加えて、当社のカルチャーを浸透させていくことも重要だと考えています。私たち経営陣に求められているのは、「なぜこの事業をするのか」という本質的な意義を発信し続けることです。

単なる充電インフラの提供ではなく、日本のエネルギー産業に変革をもたらすというビジョンから決してブレないこと。そして、このビジョンに共感し、本気で取り組む人材を増やしていくことで組織の一体感が生まれ、高い目標に突き進む原動力が生まれていると思います。

執筆:村上佳代、野垣映二(ベリーマン株式会社)
撮影:遥南 碧
取材・編集:木村剛士

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