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シリーズ営業改革 Vol.2 脱コモディティ化に必要な「チャレンジャー・セールス・モデル」

シリーズ営業改革 Vol.2 脱コモディティ化に必要な「チャレンジャー・セールス・モデル」

2018年4月25日に開催された東洋経済主催のセミナー。ここでは営業改革をテーマに、さまざまな角度から講演が行われました。このセミナーの内容を4回連載のダイジェストで紹介していきます。2回目である今回は「チャレンジャー・セールス」について解説いたします。

2018年4月25日に開催された東洋経済主催のセミナー。ここでは営業改革をテーマに、さまざまな角度から講演が行われました。このセミナーの内容を4回連載のダイジェストで紹介していきます。2回目である今回は、脱コモディティ化に伴うソリューションの複雑化で重要度が高まる、「チャレンジャー・セールス・モデル」について解説いたします。

なお、この講演はマシュー・ディクソン(著)、ブレント・アダムソン(著)、三木俊哉 (翻訳)の「チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」」と「The Challenger Customer: Selling to the Hidden Influencer Who Can Multiply Your Results」を基にしたものです。これからの営業を考えるうえで大変参考になる本ですので、ぜひ手に取ってみてください。

脱コモディティ化のための商材の複雑化で、営業達成率の格差が拡大

市場が成熟したことで、現在では多くの商品がコモディティ化してしまいました。海外企業による市場参入や、インターネットで情報武装した顧客からの値引き要求も、この流れを加速する要因になっています。このまま薄利多売の商売を続けていけば、販売負荷が高いのに利益が上がらない。このように考えて「脱コモディティ化」を目指す企業も少なくありません。

「モノ」売りから「コト」売りへとシフトし、ビジネスモデルをサービス化していこうという製造業における取り組みも、その1つだといえます。また農業では単に農産物を出荷するだけではなく、それらを加工して付加価値を高める、農業を観光コンテンツ化する、といった六次産業化も進みつつあります。他の業種・業態でも、このような脱コモディティ化を目指す動きは広がっています。しかしこれに伴い、販売する商品は「ソリューション化」し、複雑化するようになっています。

「複雑化するソリューションを賢く購入するため、購入企業側では購買に関わる意思決定者が増える傾向にあります」と説明するのは、セールスフォース・ドットコムの田崎純一郎。購買責任者や事業責任者だけではなく、情報システム責任者やマーケティング責任者、製品設計責任者、サポート責任者など、購入ソリューションに関係するさまざまな立場の人々が、購入意思決定に参加するようになっているといいます。そして「このような購買に関わる関係者は、大きく7つのタイプに分けることができます。『敏腕家』『教師』『懐疑論者』『案内人』『友人』『出世主義者』『邪魔者』です」。

「これらのうち『敏腕家』『教師』『懐疑論者』は牽引者となる可能性が高く、この3タイプにアプローチすることが効果的であることがわかっています。しかしいずれにしてもコンセンサスを得なければならない人の数が増えることで、意思決定プロセスが複雑化していることは間違いありません」。

その一方でソリューションの複雑化が、営業達成率の格差を生むという現象も見られると田崎は指摘します。比較的単純なプロダクト営業では、平均的な営業のパフォーマンスを100%とすると、ハイパフォーマーが100~159%の間に集中することがわかっています。これに対してソリューション営業では、ハイパフォーマーの分布が100~289%へと拡散するというのです。

「いま述べた2つの知見は、マシュー・ディクソン氏&ブレント・アダムソン氏が執筆し、『SPIN営業術』で知られるニール・ラッカム氏が序文を書いている、『チャレンジャー・セールス・モデル』という書籍に記載されています。複雑なソリューションを販売している企業の方は、ぜひこのモデルを検討すべきです」。

ソリューション販売で成功しやすいのは「チャレンジャー」タイプ

それではチャレンジャー・セールス・モデルとは、どのようなものなのでしょうか。田崎は再びこの書籍を引用し、営業には5つのタイプがあると説明します。

第1は「リレーションシップ・ビルダー」。これは「関係構築」タイプであり、顧客の組織内に強力な賛同者を作ることで、商談を成功に導きます。第2は「リアクティブ・プロブレムソルバー」であり、「受動的な問題解決」を行うタイプ。細部に気を配り、すべての問題を解決する傾向があるため、内外のステークホルダーから信頼されます。第3は「ハードワーカー」であり「勤勉」タイプ。自発的で簡単には諦めず、常にもうひと頑張りし、フィードバックと能力開発にも高い関心を示します。第4は「ローンウルフ」であり「一匹狼」タイプ。自分自身の直感に従う自信家で、管理しにくいという問題があります。そして第5が「チャレンジャー」という「論客」タイプであり、顧客のビジネスを理解しながら常に異なる見方をし、議論好きで顧客に強引に働きかけます。

「案件の複雑性が低い場合には、関係構築タイプや受動的な問題解決タイプ、勤勉タイプでもハイパフォーマーになれますが、案件が複雑になると成功しにくくなります。そこで存在感が大きくなるのがチャレンジャーです。『チャレンジャー・セールス・モデル』によれば、複雑な案件でのハイパフォーマーのうち、54%がチャレンジャーです。なおローンウルフは、案件の複雑性にかかわらず、ハイパフォーマーの25%を占めています」。

それではチャレンジャーは、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。大きく3つあります。差別化のための「指導」、共感を得るための「適応」、そして営業プロセスの「支配」です。

製品やサービスが複雑化したことで、顧客はどのような観点で製品を選ぶべきなのか、わかりにくくなっています。そこでまず行うのが「指導」です。ここでは顧客に独自の視点を提供し、差別化ポイントを教え、顧客を導きます。これを実践するには、双方向コミュニケーションのスキルに優れている必要があります。

次は、顧客組織内の関係者の合意を取るための「適応」です。ここでは正しい人に正しいメッセージを伝え、共感を得ていきます。

そして最後に商談の主導権を「支配」し、クロージングに持ち込みます。必要であれば、顧客に多少に無理強いをすることも厭いません。これによって、自社に不利な案件の適切な見切りや、商談の進め方がわからない顧客を、着実に誘導していきます。

チャレンジャーの育成では継続的なコーチングと営業イノベーションが重要

このように見ていくと、従来の営業で成功しやすいと考えられてきた関係構築タイプとは、大きく異なることがわかります。関係構築タイプは顧客とのやり取りの中で緊張感を和らげ、友好的・肯定的な雰囲気を作ることで、顧客の協力を促します。これに対してチャレンジャーは、顧客とのやり取りのなかで建設的な緊張関係を築き、顧客を安全地帯から押し出す役割を果たしているのです。

それではこのようなチャレンジャーを育成するには、営業マネージャーはどのような取り組みを進めていけばいいのでしょうか。「販売マネージャーの成功要因としては、マネジメントの基本となる誠実さや信頼性、聞く力の他、部下のお手本となる販売活動、部下に対するコーチング、資源配分やイノベーションを適切に行うための責任感があります」と田崎。その中でも特に、継続的なコーチングと営業イノベーションが重要になると指摘します。

「継続的なコーチングとは、営業マネージャーと直属の部下との間の、仕事上の継続的かつ動的なやり取りです。これによってその部下に固有の行動を診断し、修正、強化することができます。また営業研修におけるトレーニングとは異なり、個々の営業担当者にカスタマイズされ、スキルや知識の獲得だけではなく、それをいかに使うかを重んじる点も大きな特徴です。コーチングの質によって、営業の相対的パフォーマンスは大きく変化するのです」。

その違いを示すのが次のグラフです。「とても効果が低い」コーチングを受けた営業に比べ、「とても効果が高い」コーチングを受けた営業では、平均的パフォーマーの業績は19%向上するのです。なおローパフォーマーとハイパフォーマーでは業績向上が小さめになりますが、優れたコーチングはハイパフォーマーの定着率を高める効果があるといいます。

また営業イノベーションでは、営業マネージャーが主役になり、チームセリングをスピード感を持って進めていくことが必要になると指摘。さらに、前回紹介したSales Enablementも、重要な役割を担うことになると語ります。

複雑な案件におけるハイパフォーマーの比率を見れば、脱コモディティ化を達成する上で、チャレンジャーの育成が必須であることは間違いありません。営業人材の開発でもこの点を強く意識しておくことで、成果の上がる営業変革を実現しやすくなるでしょう。

今回ダイジェストでご紹介したチャレンジャー・セールス・モデルについて、より詳しく知りたい方はぜひ書籍で読んでみてください。 企業が成長をしていくために欠かせない営業力。企業が継続的に成長を続けるための営業マネジメントには何が必要なのか。成長の“カベ”を突破するための「7つの力」を、eBookで解説!

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