多くのBtoB企業が従来の営業手法に限界を感じ、新たなアプローチを模索する中、SNS活用、特にビジネスに特化した「LinkedIn」に注目が集まっています。しかし、その活用方法の成功パターンは多くはなく、模索段階にある企業も多いのではないでしょうか。
『BtoBセールスを加速する LinkedIn Sales Navigator 活用術』の著者で株式会社Emooove代表取締役の藤澤諒一氏に、日本におけるソーシャルセリングの今と、リード獲得や顧客との関係構築につなげるための「LinkedIn」活用術を伺いました。
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新たな営業手法としてソーシャルセリングに着眼
──多くの企業が新たな営業手法を取り入れたいと考えています。藤澤さんはBtoB営業の現状をどのようにご覧になっていますか。
従来のテレアポや訪問営業はまだ多くの企業で行われていますが、効率で課題があります。
特にエンタープライズ企業をテレアポで開拓しようとする場合、受付でブロックされてしまうことが多く、私自身の感覚ではその突破率は10%以下。つまり、約90%の時間や労力が最初の接点を持つ前に失われている可能性があるわけです。
仮に突破できたとしても、最初にお会いできるのは担当者レベルの方がほとんど。そこから決裁者へつないでいただいたり、稟議を上げてもらったりするには、高度な営業スキルと長い時間が必要です。
それにも関わらず、多くの営業担当者はこの非効率を「当たり前」として受け入れ、「他に選択肢がない」と思考停止に陥っているのが実情です。

株式会社Emooove 代表取締役
神戸大学在学中に月間100万PVを誇る就活メディアを立ち上げ。大学卒業後は、新規事業開発やイノベーション創出を支援する株式会社Relicに入社。スタートアップから大企業まで企業規模を問わず、SaaSプロダクトのCPF〜PMF支援などを実施。その後、株式会社Emooove(https://emooove.co.jp/)を設立。これまで100社以上のBtoB企業の営業とマーケティングを支援。
──藤澤さんは多くの企業の営業を支援していますが、どんな相談が寄せられていますか。
「新規営業に課題がない」という企業はほぼ存在しません。よくある課題は「過去にテレアポなど一般的な営業施策をやったけれど成果が出なかった」「複数の施策がある中でどれが最適かわからない」「最適な手法は分かっていてもリソースとノウハウがない」といったケースです。
当社にいただく相談で多いのは「大企業を狙っていきたい」「決裁者やキーパーソンをピンポイントで攻略していきたい」というご要望です。
──こうした背景を受けて、注目されているのがSNSを活用したソーシャルセリングなんですね。
そうですね。ソーシャルセリングが注目されているのは、まさに従来の営業やマーケティングが抱えていた非効率を解消できる可能性を秘めているからです。
たとえば、キーパーソンにダイレクトにアプローチできる点やSNSが持つ拡散力をうまく活用すれば、レバレッジ効果が期待できます。これまで1人の営業担当者が1の成果しか出せなかったところを、10にも100にもできる可能性があるのです。
また、SNSは多くの人がスマートフォンで利用しているため閲覧頻度が高く、メッセージなどの開封率も高い。こうした特性も営業効率の向上につながると考えられます。
──ただ、SNSを営業に活用するとなるとハードルを感じる企業も多いのでは。
確かに、SNSが有効そうだと感じていても、自社のビジネスにどう生かせばいいのか、具体的な活用方法の解像度が低い企業が多いでしょう。やるべきことはシンプルであるにも関わらず、それを知らないだけで損をしてしまっている企業が少なくありません。

「LinkedIn」はキーパーソンに届くSNS
──さまざまなSNSがある中、BtoB営業においてなぜ「LinkedIn」が注目されているのですか。
「LinkedIn」には他のSNSにはない強みがいくつかあります。
まず、ユーザー層が近年急速に伸びていること。「LinkedIn」のユーザーはほぼビジネスパーソンで、決裁権を持つ管理職以上の割合が高いと言われています。また、匿名ではなく所属や経歴が明らかになる性質上、他のSNSと比較してユーザーの質がトップクラスに高い。
最近は日本国内でのユーザー数が急速に増加しており、その背景には大手企業の利用が加速している点が挙げられます。富士通が全社で導入を進めていたり、キリンが採用活動でスカウトを使い始めたりといった事例が出てきています。
こうした業界のリーディングカンパニーが使い始めると、その周辺の大手企業や、そこをターゲットとする中堅・中小企業、ベンチャー企業も追随する形で利用が広がっていく傾向があります。
「Facebook」もビジネスパーソンの利用が多いSNSですが、比較的クローズドな環境で、特に年配の層では既知の知人としか交流しないという方も少なくありません。そのため、まったく新しい相手を開拓するという点では相性が悪いケースもあります。
「X」はオープンな環境で見知らぬ人ともつながりやすい反面、匿名性が高いために炎上リスクなどがともない、ビジネス利用には慎重さが求められます。
その点、「LinkedIn」は「Facebook」と「X」のいいところ取りができるプラットフォームです。オープンな環境なのでこれまで接点のなかった企業や個人を新たに開拓できますし、完全実名制でビジネス用途に特化しているため、信頼性の高いコミュニケーションが可能です。

──海外と比較すると、日本での「LinkedIn」の利用率はまだ低いように感じます。
アメリカでは「LinkedIn」はビジネスに必須のツールと認識されており、名刺交換の代わりに「LinkedIn」のアカウントを交換するのが日常的。もはや「LinkedInアカウントを持っていないとビジネスパーソンとして認められない」というほどの感覚さえあります。
日本ではまだ「Facebook」がビジネスSNSの主流ですが、「LinkedIn」のユーザー数は確実に増加しており、ここ数年はとくに伸びています。大手企業の利用拡大に加えて大学でも普及が進んでいて、ユーザー層が広がってきました。
特にグローバル展開を目指す企業にとっては、海外のキーパーソンにアプローチするうえで有効な手段となります。実際、グローバル展開を志向する企業は、海外でのマーケティングや営業を検討するタイミングで自然と「LinkedIn」にたどり着くケースが多いと感じています。
──一方で、営業を受ける側にとって「LinkedIn」を利用するメリットは何でしょうか。
営業を受ける側も自身の採用活動や情報収集、あるいは別の誰かに営業を行うために「LinkedIn」を活用しています。特に自分に関連性の高いパーソナライズされた情報や提案がDMで届けば、それは有益な情報収集につながります。
私自身、過去に人事組織の課題を抱えていた際、LinkedInでその課題を的確に指摘して解決策を提示するDMを受け取り、すぐに商談に至った経験があります。このように受け手にとって有益な情報であれば、潜在的な課題の発見や解決のきっかけになり得るのです。もちろん、不要であれば無視すればいいだけです。
営業効果を高める「LinkedIn」活用術
──「LinkedIn」を活用して営業成績を上げるためには、何から取り組めばいいのでしょうか。
自身のアカウントからの投稿やDMの送付など、「LinkedIn」の基本的な機能を活用することから始めるだけでも、十分に営業活動の助けになります。

まず大事なのは、自身のプロフィールを充実させること。DMを送った際、受け取った相手は送信者のプロフィールを確認し、信頼できる人物か、有益な情報を提供してくれそうかを判断します。
職務経歴やスキルはもちろん、どのような価値を提供できるのかを明確に記載し、「この人に会ってみたい」と思わせるような魅力的なプロフィールにしておくことが、すべてのアプローチの前提となります。
その後、ターゲットとなる人につながり申請を送ります。その際、相手のプロフィールや企業の公開情報、最近の活動などを踏まえたパーソナライズされたメッセージを送ると、開封率や返信率を高めることができます。
本格的に「LinkedIn」で営業成果を上げたい方は、有料オプション機能「Sales Navigator」の活用がおすすめです。
「Sales Navigator」の主な機能は、高度なリード検索、リスト管理、メッセージ管理などです。これらを活用することで、ターゲットとなる企業や担当者を詳細な条件で検索・リスト化し、効率的にアプローチを進められます。
たとえば、リード検索では業種、役職、地域、会社規模といった基本的な属性に加え、「過去30日以内に『LinkedIn』に投稿した人」「過去90日以内に転職した人」「共通のつながりを持つ人」など、エンゲージメントの高い人や、あるいはアプローチしやすいタイミングのリードを特定できます。アカウント検索も同様に詳細な条件で企業を絞り込むことが可能です。
無料版にも検索機能はありますが、「Sales Navigator」は利用できるフィルターの数が格段に多く、検索結果の精度も向上します。これにより、質の高いターゲットリストをより効率的に作成できます。また、無料版では1か月あたりのプロフィール閲覧数に上限がありますが、「Sales Navigator」を使うと制限が解除されるため、本格的なリサーチ活動が行えます。
「Sales Navigator」を駆使してターゲットのキーパーソンを特定し、その方の公開情報やSNSでの発言などを踏まえてパーソナライズされた丁寧なメッセージを送ることで、アポイント獲得率は10%近くに達することもあります。これは他のアウトバウンド施策と比較しても高い数値であり、結果としてアポイント獲得単価の削減や商談の質の向上に貢献します。

──「Sales Navigator」を使った具体的な営業プロセスを教えてください。
成果を出すためのプロセスは、大きく「初期設計」「実行アプローチ」「運用改善」の3ステップです。
「初期設計」では、自身のプロフィールを作成したうえで、「Sales Navigator」の高度な検索フィルターを用いて質の高いターゲットリストを作成します。さらに、「Sales Navigator」で得た相手の活動や関心ごとなどの詳細な情報に基づき、連絡理由や提供価値を具体的に盛り込んだ深くパーソナライズされたメッセージを作成します。
「実行アプローチ」ではターゲットとなる相手に実際につながり申請やメッセージ送信を行います。つながり申請時には承認率向上のため一言添え、承認されたらDMで関係性を深めます。
そして、もっとも重要なのが「運用改善」です。つながり承認率、メッセージへの返信率、アポイント獲得率などの主要KPIを定期的に確認・分析し、ボトルネックとなっている点を特定します。
プロフィールやターゲットリスト、メッセージ文面、アプローチのタイミングなど改善点は多岐にわたるため、PDCAサイクルを回し続けることで成果を高めていくことができます。

──短期的な成果を求める場合と中長期的な顧客との関係構築を目指す場合では、運用の仕方も変わってきますか。
短期的な成果を求めるか中長期的な関係構築を目指すかで、送るメッセージの内容から変わってきます。いきなり商談を打診するのではなく、まず有益な情報提供で関係構築を優先することも重要です。
たとえば、お役立ち資料のダウンロードを促したり、「LinkedIn」のイベント機能でウェビナーを告知・集客し、興味を持った人を商談につなげたりといった段階的なアプローチが有効です。
多くの人は即アポイントを求めがちですが、資料請求やセミナー参加など、あえてハードルの低いステップを挟むことで、最終的なアポイント獲得の歩留まりが向上する場合もあります。小さな承認を積み重ね、信頼と商談機会へつなげることが大切です。
──実際に「LinkedIn」で成果を上げた事例を教えてください。
あるWebマーケティング会社のケースでは、月間広告予算500万〜3000万円の大口顧客開拓が重要なテーマでした。従来は多額の広告費をかけたインバウンド施策や、1件10万〜30万円もするマッチングサービスに頼っていましたが、ターゲット企業への効果的なアプローチやコスト効率に課題を抱えていました。
そこで「Sales Navigator」でターゲット企業のキーパーソンを効率的に見つけ出し、個別カスタマイズした丁寧なメッセージを送った結果、アポイント率が従来比で10%近く向上。アポイント単価の大幅削減と営業効率の向上を実現できました。
──「LinkedIn」を活用した営業で効果が出やすい領域はありますか。
システム開発やマーケティング支援、コンサルティングといった無形かつ高単価の商材です。これらはアウトバウンドの難易度が高く、テレアポでの開拓が困難であり、「LinkedIn」の価値が際立ちます。
SaaS系企業も相性が良いです。LTVの観点で月額収益を確保できるビジネスモデルやID課金での展開を考えている企業にとって、エンタープライズ顧客の獲得は重要な戦略。その際に、「LinkedIn」での精密なターゲティングは非常に有効と言えます。

「個人対個人」の時代に求められる営業スキルとは
──「LinkedIn」営業には、どのようなスキルを持った人材が向いているのでしょうか。
もっとも重要なのはライティング力です。さらに分解すると、マーケティング的な思考、つまり相手の心を動かし、魅力的に感じさせる文章を書く力です。基本的な日本語力やビジネスモデル理解、仮説思考力も重要でしょう。
企業の公開情報や担当者のプロフィールから、その人が抱える課題やミッションを推測し、「こんなことに困っているだろうな」と仮説を立てられる人は質の高いメッセージを作成でき、結果としてアポイント獲得率も高まります。同じターゲットに同じ内容を伝える場合でも、書き方によってアポイント率は変わるため、ここが営業担当者の腕の見せ所です。
──今後、「LinkedIn」を活用した営業は日本で広がっていくと思いますか。
普及していくでしょう。理由は、合理的で効率性が高く、ダイレクトアプローチができてアポイント率も高いという営業活動における理想的な要素を備えているからです。
ビジネスを拡大していくためには大企業との取引が重要ですが、エンタープライズ開拓の文脈で「LinkedIn」の有効性に気づく企業は今後ますます増えていくでしょう。日本では「Facebook」のユーザー数が伸び悩んでおり、その受け皿として「LinkedIn」がさらに拡大していく可能性も感じています。
また、企業対企業ではなく、「個人」としてメッセージを送れるため、その人のバックグラウンドや個性を出しやすく、差別化が難しい商材やサービスでも有効に機能します。
──「LinkedIn」の活用は、営業担当者個人のキャリアや市場価値にどのような影響を与えるのでしょうか。
SNSを活用した営業スキルや実績は、今後ますます市場で求められるようになります。「LinkedIn」での営業経験や実績はキャリア形成において有利に働くでしょう。「LinkedIn」は「キャリアSNS」としての側面も持ち、経歴やスキルを詳細に記載すれば、企業からのスカウトやより良い転職機会につながることもあります。
特に、「LinkedIn」で影響力を持つことは個人の市場価値を大きく高めます。私の知人にも「LinkedIn」でトップクラスの影響力を持つ人がいますが、実際に多くの仕事を得ています。質の高いビジネスパーソンへの情報発信で多くの反応を得ることは注目の証であり、影響力があればDMでのアポイント獲得率向上などさまざまな効果が期待できます。
一方、注意点もあります。「LinkedIn」のアカウントは個人に紐づくため、転職後も社名変更でつながりや実績を引き継げる反面、企業側から見れば、そこで培われた人脈やデータが「個人所有」か「会社所有」か、というアカウント帰属の問題が生じます。営業担当者が個人アカウントを利用する場合、企業は事前にルールを明確にしておく必要があるでしょう。
とはいえ、優秀な営業担当者が「LinkedIn」で多くの良質なつながりを持つことは、採用する企業にとっても大きなメリットとなるはずです。
──最後に、「LinkedIn」の活用を検討している企業にアドバイスをお願いします。
「LinkedIn」を活用したソーシャルセリングは、もはや「やったほうが良い」という段階ではなく、「やらなければもったいない」時代に入ったと強く感じています。
しかし、今はまだ本格的に取り組んでいる企業は少なく、ブルーオーシャン状態。今のうちから活用してアカウントを育て、ノウハウを蓄積していくことが重要です。
従来の営業手法に固執するのではなく、まずは小さな一歩からでも「LinkedIn」活用の可能性を探ってみてください。そして将来的には、SFA/CRMとのデータ連携も視野に入れることで、営業活動全体のDXを効率化を実現できるはずです。
執筆:村上佳代、野垣映二(ベリーマン)、撮影:幡手龍二、編集:木村剛士
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