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【レポート】TM Forum DTW23 セッション振り返り

9月19‐21日で開催された「TM Forum DTW23」の3日間を振り返り、HeadlinerやKeynoteセッションで登壇されたグルーバル通信事業者のAI活用や変革への取り組みを紹介する。

Code Red! という強いメッセージでスタートしたDTW23

KeynoteセッションでのTM Forum / CEOのNik Willetts氏の力強いコメントは以前のブログで紹介しましたが、今年のDTW23は”Code Red(緊急警報を鳴らすという意味)”や”Crisis(危機)”という強い言葉でスタートしました。

この流れに続くように、イベント開催期間の3日間で多くのKeynote登壇者が“Urgent(緊急)”という言葉を繰り返しました。DTW23全体を通して、業界内の変革への危機感がこれまで以上に高まっている印象を受けました。今回のブログでは、特に印象に残っているいくつかのセッションに焦点を当てて、DTW23の3日間を振り返っていきたいと思います。

BT:AIの可能性は10億ポンド!

過去セッションを視聴された方はご存知の通りですが、BT Group / Chief Digital and Innovation Officer (CDIO)のHarmeen Mehta氏の初日のHeadlinerでのKeynoteスピーチは率直、辛口、そしてパワフルでした。Mehta氏はステージに上がると同時に、”Let’s talk about how to make the next billion!(次の10億の作り方を話そう!)”と会場に投げかけました。

BTグループでは、生成AIを含むいくつかのAI活用ユースケースの実装を進めており、DataとAIの活用により£0.5Bを創出する予定であることが紹介されました。そして、更に次の£1Bの可能性が見えていると続けられました。いくつかの事例も紹介されましたが、その一つが、イギリスの約4割の光回線を保有するBTグループ傘下のOpenreachでのユースケースでした。光回線の敷設作業において、AIが作業を分析・最適化してエンジニアを支援するSweeperというAIツールを6週間で導入したそうです。Sweeperの活用によって、£20M/年の費用削減を実現したとのことです。他のユースケースとしては、コンタクトセンターでお客様とエージェントのマッチングにAIを活用することで、お客様満足度を最大化・離反を削減し、£7Mの価値を創出したケースが紹介されました。

Mehta氏はスピーチの中で、AIの推進においてスピード感のある思い切った検討が非常に重要だと繰り返されました。“Dare to Dream and then act(大胆な夢を描き行動に移す)“ ”Push the boundaries(限界を押し上げる)“というメッセージを会場に残してスピーチを終えました。

「It’s real!」テクノロジーリーダーが考えるAI活用の方向性

AWS、BT Group、Verizon、Vodafoneのテクノロジーリーダーのパネルディスカッションでは、各社でのAIの取り組みが紹介され、各スピーカーのAIへの考え方や懸念点について議論されました。

冒頭、Verizon / Global Chief Digital and Information OfficerのShankar Arumugavelu氏は、COVIDがデジタルトランスフォーメーションを加速したが、生成AIはAI全体の浸透を急速に進めた、と口火を切り、”It’s real(実際に起こっている)”という表現を何度も使われていました。また、これまでのAIは一部の意思決定者が利用するものだったが、生成AIは社会一人ひとりの能力レベルを変えるだろう、ともコメントされました。

各社のUse Caseや価値が期待出来る領域

先ず、Vodafone / CTOのScott Petty氏からAI活用の具体例が紹介されました。NW情報を一元化して監視業務をMLとAIで自動化したケースでは、120のOSSツールが不要となり、インシデント数が50%減り、MTTR(平均修復時間)も改善したとの事で、用途によっては非常に高い効果が出ている点が共有されました。一方で、リクスや課題がある点にも触れ、FAQの自動生成では精度が低かった例を挙げて、元のデータの正確性が担保出来ないケースでは意図しないアウトプットが生成される問題点を指摘し、データそのものの品質が非常に重要という事を強調されました。Armugavelu氏からは、AI検討における「ガードレール」を設置する重要性が追加されました。

BT Group / CDIOのHarmeen Mehta氏は、AI活用においてはその利用範囲を最大限広げるべきと強調しました。既に価値が見えているAIのユースケースは直ぐに実用化し、その他の未知の領域については、データを様々な角度で実験的にAIに活用しその可能性を模索していくことを推奨されました。

AI活用の障壁は何か?

この問に対しては、Mehta氏から、AI活用の成否において以下の2つの点でテクノロジーリーダーの真価が問われているというコメントがあり、真のテクノロジーリーダーとして自身が障壁になることなくAIを推進していくべきという事が示唆されました。

  1. 生成AIという技術は、人間が理解出来る言葉を使える為、テクノロジーチームの関与有無に関わらず誰もが活用可能
  2. 技術が技術をディスラプトしている状況でもあり、自分への脅威と捉えAI活用に及び腰になっていないだろうか

AI活用の業務効率化による人員削減

Mehta氏から、人に求められるスキルの変化はあるかもしれないがアップスキルの機会でもある、と発言があり、それに続き、Petty氏から、AI活用の主目的をコスト削減とするのは誤りで、「Velocity(速さ)」と「Quality(品質)」の向上に焦点を当てるべきとの意見がありました。

AIと倫理的課題

Petty氏からは、倫理的課題は重要だが、それによって歩みが遅くなることは避けるべきで、先ずは倫理面でのリスクがそれほど高くない領域での活用を推進すべき、とコメントがありました。倫理面の検討を社内の誰がリードすべきかについては、VerizonとVodafoneでは関連多部門が参加するAI協議会を設置しているとの事でした。特にVerizonでは、AI協議会に人事部も参加し、AI時代における人の活用を人事部主導で検討している点に触れられました。

CEO主導のトップダウンアプローチの必要性

AWS / VP Global Telco Business UnitのAdolfo Hernandez氏からの、「CEOがAI戦略検討をリードしている企業は推進スピードが早い」というコメントを受けて、Mehta氏から、トップからのサポートは重要だが全方位での検討が必要で、企業の一人ひとりがAI活用を考えるべき、という意見が出されました。それに関連して、Petty氏から、全員が検討に参加する際の留意点として、民主化されたWebsite開発でのプライバシー問題を教訓にすべきとの意見も出されました。Petty氏は、AI活用のケースでは、GDPRのような規制が必要にならないように先手を打って倫理やプライバシーを守っていく事が重要だと続けました。(GDPR(General Data Protection Regulation):EU 一般データ保護規則)

最後に、向こう1年でAIのどのような進展を期待するか、という問いに、「LLMが直接会話出来るAPIの整備」という具体的な案から、「デジタルの時代からアルゴリズムの時代へのシフト」という大きな展望まで、各テクノロジーリーダーの思いが共有されました。

Nuuday:短期決戦の変革

DTWの開催地デンマークから参加されているNuuday / CEOのJon James氏からは、メインフレームからクラウドネイティブへの一足飛びの変革が紹介されました。昨年中旬からクラウドネイティブへの移行に着手され、DTWの数週間後にはフェーズ1のローンチが予定されているとの事でした。変革前のNuudayでは、40年以上前に導入したメインフレームで業務が運用されており、やりたくても出来ないことが山積みされていたとの事です。その一例として、ブロードバンドサービスをオンライン販売出来ない状況があった事が挙げられました。ファイバー事業の一大ブームが起こっている欧州で、ブロードバンドプランをデジタルチャネルで販売出来ない事は致命的で、強い”Urgency(緊急性)”が原動力となりメインフレームから一気にCloud Nativeに変革することを決断・実行したと話されました。「この変革の成否次第で来年のDTWには呼ばれないかもしれない」などの冗談を交えながら、James氏がこれまでの変革の取り組みの中で得た学びとして、以下が共有されました。

  • 商品・サービスの市場投入サイクルの短期化においては、通信事業者もソフトウェア企業などと同等のスピード感が求められる
  • ”Off the shelf(既製品)”を最大限活用する
  • 変革はレガシーシステムのみではなく、レガシープロセスも同様に見直す必要がある
  • 企業文化と人も同時に変革する必要があり、組織のモチベーションを上げて全社を動かすには、具体的な変化・成功を見える化しなければならない
  • 具体的な変化の見える化は、1年程度で実現すべき
  • IT部門だけではなく、ビジネス部門も”Urgency”を持つことが重要

スピード感を持った短期での変革においては、人と組織が変革に向かって一丸となって動くことが重要な事を繰り返し強調していた点に、James氏の短期決戦における苦労と強い思いが込められていたように感じました。

通信業界に特化したSalesforce Communications Cloud

通信業界においては加速する変化にスピーディに対応することが求められています。Salesforce Communication Cloud はTM Forumに準拠したコンポーネントでBSSのモダナイゼーションを実現します。

Telia:Purpose Drivenと選択と集中

Telia / President & CEOのAllison Kirkby氏から、過去3年強に渡る変革からの学びが共有されました。現在通信業界は岐路にあり、各事業者が”New Bet(新たな投資)”をする領域を決めなければならないが、その際に通信事業者のコアアセットである通信の価値を最大化する事を忘れるべきではない、というメッセージでスピーチが始まりました。

変革にあたり、Teliaではまずその存在意義である”Purpose(目的)”を、”We reinvent better connected living(よりつながる暮らしを再創造する)”と設定したそうです。当時大型M&Aの直後で投資可能な資金が限られていた事、そして、最短で成長基調に戻す必要があった事などから、市場ニーズと”Purpose”に合わせて保有アセットを抜本的に見直し、デジタル化を迅速に進め、成長に向けての長期的視点を持ちながらも先ずは短期的施策にフォーカスしたとの事です。例えば、5Gの展開では4Gサイトを有効活用する形で、サイトタイプも種類を最小限に抑え標準化することで、コストとスピードの最適化を実施したとのことです。顧客接点はデジタルを有効活用し、効率化と顧客体験向上の両面でアプローチされたそうです。市場についても選択と集中を図り、一部市場では撤退の判断もされたとのことです。変革のアウトプットとして、2021年末には成長基調に戻し、IoTやセキュリティ事業などは20%台後半の伸びを実現しているそうです。

Kirkby氏はスピーチの最後で、Teliaの変革の成功要因をいくつか共有されました。目的を明確にし、自社の現状を偽り無く正しく評価し、弱みについては軌道修正・撤退・パートナー連携の3択で検討する事が重要だと語られました。また、成長をスケールさせて継続させるためには、企業文化の変革も必要な点に触れ、「何をするのか」だけではなく「どのようにそれを実行するのか」も変える必要があると強調されました。

「先の読めない中で一つだけはっきりわかっている事は、全ては変わり続け、変化のスピードは加速していくという事だ」という緊急性を伝えるコメントが大変印象に残っています。

尚、Kirkby氏は2024年1月からBT社のCEOに就任することが発表されております。BTでは初の女性CEOとなる予定です。

DTW23全体を振り返って:Key Takeaways

DTW23の3日間のセッションは総じてスピーカーの熱量も高く、今年のテーマの”Ignite”が体現されていたように思います。3日間を通し合計300人以上のスピーカーが登壇し、先進的な取り組みや変革からの学びが共有されました。特に、CxOレベルのスピーカーが登壇するメインのHeadlinersセッションは、満席の会場の中、プレゼンテーションやパネルディスカッションの内容も深く、2時間程のセッションが大変短く感じられました。本ブログではいくつかの印象に残ったセッションを抜粋して紹介しましたが、最後に、視聴したセッション全体を通して複数のスピーカーが共通して発信してたメッセージを以下にまとめます。

  • 通信事業者が成長を取り戻す為には、顧客が求める形(私が必要なもの、どこでも、いつでも、簡単に)でのサービス提供を実現し、IT企業同等のスピード感で継続的に進化する必要がある
  • その為の変革においては、システム・プロセス・組織と文化、全てにおいてレガシーからの脱却が急務である
  • 成功の鍵としては、抜本的な選択と集中、デジタルの最大活用、全社における”Urgency”のマインド醸成と変革実行スピード、そして短期での成果共有が重要である
  • 自社が強みを出せない領域ではパートナー連携を積極的に活用すべきで、その為にもオープンで標準化されたアーキテクチャーが重要である
  • AI活用については、生成AIを含めてリスクの小さい領域から直ぐに実用化すべきである(登壇された多くのグローバル通信事業者から実用化の事例が紹介されていました)
  • 初期のAI活用ユースケースとしては生産性向上・コスト削減が多いが、価値創出に焦点を当てたユースケースを重点的に検討すべきである
  • 生成AIの浸透により、AIが一部の人が使うものから、社内外全ての人が使うものにシフトしていくことが予想され、流れに乗り遅れないようにスピード感のある取り組みが重要である
  • AIのアウトプットの品質はそのベースとなるデータが決める為、自社が保有・アクセス出来るデータの量と品質を担保する必要がある
  • AI活用のリスクと課題については、全社横断で必要な対策を講じ、AI活用の阻害要因にならないように留意すべきである

AI + データ + CRM でエンドツーエンドでつなげるお客様体験

変化を続ける通信業界において、リアルタイムにパーソナライズしたお客様体験が益々重要になっています。AI + データ + CRM でお客様をより深く理解しエンドツーエンドで一環したお客様体験を提供しましょう。

パートナー連携については、DTW23の主要テーマでもあったことから、その重要性を強調するセッションが多くありました。前回のブログで紹介しましたCatalystプロジェクトの数が急増している背景にも、各通信事業者が戦略的にエコシステムの拡大を加速させている動きがあるように思います。

上記以外の所感としては、人や文化の変革が重要な点に触れるセッションが多かったと感じました。また、ダイバーシティを推奨するTM Forumではありますが、今年はCxOレベルが登壇するHeadlinersセッションで女性スピーカーが4割以上だった事は特筆したいと思います。

以上、3回に渡りDTW23についてお届けさせて頂きました。次回のDTW24は時期が前倒しされ、2024年6月18-20日で開催予定とのことです。また来年もDTWからのトピックをお伝えできればと思います。

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Noriko Someya インダストリーズトランスフォーメーション事業本部 シニアマネージャー

米国・日本のICT業界で20年以上の経験を持ち、通信・製造業界のビジネス変革プロジェクトに多数従事。システム開発からコンサルティング、そして経営企画・新事業開発まで幅広い経験を持つ。現在は、通信・メディア領域における企業のデジタル変革を多角的な視点で支援。米国ボルチモア大学・情報システム管理学部・修士課程修了。

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