Skip to Content

ポイントだけでは消費者に響かない。ロイヤルティマネジメントを顧客戦略の柱に

資本主義経済の歴史の中で、ほぼすべての企業は優良顧客を囲い込むための戦略に頭を悩ませてきました。“特別感”を提供するやり方はさまざまでしたが、その1つの答えとしてポイントプログラムが定着しました。このブログではロイヤルティ戦略について考えてみたいと思います。

資本主義経済の歴史の中で、ほぼすべての企業は優良顧客を囲い込むための戦略に頭を悩ませてきました。“特別感”を提供するやり方はさまざまでしたが、その1つの答えとしてポイントプログラムが定着しました。このブログではロイヤルティ戦略について考えてみたいと思います。

資本主義経済の歴史の中で、ほぼすべての企業は優良顧客を囲い込むための戦略に頭を悩ませてきました。“特別感”を提供するやり方はさまざまでしたが、その1つの答えとしてポイントプログラムが定着しました。より精度の高い広告のためにポイントブログラムは進化し、共通プログラムが広く普及しましたが、同質化したプログラムが乱立する中で、ブランド独自の特別感を維持することが難しくなっています。新しい顧客会員を繋ぎ止めること、長らく利用している顧客にとって意味を感じないプログラムでは、顧客基盤を陳腐化させてしまいます。

より広い視野で収益性を考えるマーケティング活動が必要に

企業は、「商品やサービスを何度も、多く買ってくれるお客様」を、いわゆる優良顧客であると認識し、大切にもてなすためのやり方を模索してきました。同時に、一見顧客を取り込み、ファン化することも大切なミッションでした。しかしながら、現在、消費者の行動は大きく変化しています。

まず、優良顧客がどのような存在なのか、という命題が変わりました。現在の購買行動のほとんどで、ユーザーが発するクチコミやコンテンツが大きく左右します。ただ買ってくれるだけではなく、SNSへの投稿などで愛着行動を示してくれる顧客は、たとえ購買単価や頻度が低くても、企業にとって重要な存在という位置づけになっています。企業のマーケティングメッセージよりも、ユーザーが発信するコンテンツに信頼が傾斜する中で、推奨者や信奉者を増やすことが、ブランド価値の向上に寄与するためです。

プライバシー保護の機運も高まり、Cookie規制も進んでいます。顧客とデジタル上でも深い関係を築くために、自社で保有できるファーストパーティーデータを取得し、うまく運用する仕組みが不可欠です。パーソナライズされていない広告は、意味をなさないどころか、嫌悪感を生み出してしまいます。消費者が広告を嫌う傾向は、以前より増してきました。「7割の消費者がディスプレイ広告に好意的でない」という結果が出た調査もあります。現在、消費者の過半は、SNSや個人ブログ、動画サイト、比較サイトなどの閲覧などを通じて「公正だと信じられる情報」を取得しています。ステルスマーケティングが露見すると炎上するのは、信頼を裏切られたためととらえるとわかりやすいでしょう。その点で、ロイヤルティプログラムが、顧客を知り、顧客と繋がるための重要な接点になることは間違いありません。

ロイヤルティプログラムを取り巻く環境として、マーケティング担当者は、収益に対する説明責任を求められる点が挙げられます。これまではページビューやクリック数といった施策に直接的な指標がKP Iの中心でしたが、それらのイニシアティブが、顧客行動・すなわち売上につながっているのか、顧客数は増加しているのか、収益に関する結果と結びつけて説明しなければ、経営層は納得しなくなってきています。上級会員向けの特典が顧客維持や購買誘引につながっているのか、お金をかけて獲得した新規会員は1年以内に離脱していないかなど、施策それぞれを収益の観点で多面的に分析する必要があります。

顧客と繋がり続けるためのロイヤルティ戦略

ロイヤルティ戦略で実践することは、ブランドやサービスへのロイヤルティを獲得するために、顧客の背中を押し続けることにあります。しかしながら、多くのロイヤルティプログラムが、ポイントプログラムと同義なのではありません。ポイントの付与や償還は、あくまでロイヤルティプログラム全体の一部であり、ポイントを含めたあらゆる体験の中で、ロイヤルティを獲得するような体験を提供することが重要になります。ロイヤル顧客が企業やサービスに愛着を持つ理由は常に同じではありません。

そこで、以下にロイヤルティプログラムを設計する際に頭に入れておくべき消費者の価値観を8つ示します。 

  • リワード最大化型
    いくつもの方法を駆使することでリワードを最大化できるものを好感
  • ルーティーン重視型
    生活のルーティーンにはまるものを好感
  • 決断逃避型
    他者に勧められるものを好意的に思う
  • 時間節約型
    体験でかかる時間を徹底的に短縮化したい(いかに時間を節約できたか)
  • 節約重視型
    体験にかかる費用を徹底的に節約したい(いかに節約できたか)
  • 品質重視型
    品質と顧客体験が一番良い・優れているものを好感
  • ブランド価値重視型
    ブランド・ステータスが上がることを好感
  • コミュニティ重視型
    価値観の似たユーザーと交流できることを好感

このように、顧客の価値観は1つではありません。しかしながら、多くのロイヤルティプログラムでは、より上位の会員階層の特典として、雪だるま式に特典を上乗せしていく手法が見られます。本来はより豊富な接触機会に応じて顧客を理解することで、きめ細かい対応を効率的に行えるはずが、特典の物量という価値観で相対しているケースがよくみられます。顧客のロイヤルティ行動を認識し、価値観に応じた体験を設計する。ルールとして一律に設定するプログラムと、細かい打ち手を行うためのプロモーションや限定の特典を併用することで、顧客の価値観に寄り添った体験を提供することが可能になります。

具体的な先進ロイヤルティプログラムの例

すでに、価値観の多様性に着目した事例が出てきています。あるZ世代向けの生理用品を取り扱う企業では、Z世代のペルソナや彼らの日常に寄り添ったコミュニティをロイヤルティプログラムの中で形成しています。たとえば、新しい友人を紹介することで相互に10ドル分のバウチャーを獲得できたり、TiktokやInstagramを通じて商品の紹介を行うことでコーヒークーポンを獲得したり、自社製品のクチコミを投稿すると、次に商品を購入した顧客向けに、匿名でクチコミの内容を印刷して梱包することで、コミュニティとしての一体感を醸成する。現代においては、ブランドの支持は企業側の強力な発信ではなく、ユーザーが生成せるコンテンツに強い影響力があります。プログラムを通じたコミュニティ形成が、ネットワーク効果を生み出し、フレンドリーなブランドとして人気を集めています。

会員特典を選択式にする企業も出てきました。ランクが上がるにつれて多くの特典を提供するのではなく、一定のランクになると顧客が必要とする1つを選べるようにするのです。さらに、専用コンシェルジュを置いて、選択した特典をスムーズに利用できるようサポートします。たとえば入手困難なチケットの手配や、人気レストランの予約などで特別感を演出します。これらの施策は、百貨店の上位顧客など、ロイヤルティプログラムに慣れすぎてしまった層にも好評なようで、日本でも航空会社などが選択式特典を導入するケースを目にするようになってきました。

あるレザーメーカーは、動機付けのためにプログラムを運用しています。革製品ですから、頻繁に買うものではなく、顧客は一度買って気に入ってくれると長く使い続けてくれます。そのため顧客をつなぎ止めておくのが難しく、常にブランドのことを思い出してもらえるような施策が望まれていました。そこで、このメーカーは、顧客のあらゆる行動にポイントを付与するようにしました。「付与されたから行動する」という仮説に基づいた施策でしたが、成果を挙げました。バッグ、財布、ベルト、靴と、同社はさまざまなアイテムを取り扱っています。ギフト需要もあります。クロスセルやアップセルは十分に可能で、ポイントを付与し続けることによる収益性は、広告によるものより高いことが、この施策により明らかになりました。

ポイントを値引きの道具として使わないようにした事例もあります。カナダのアジア雑貨店は、ポイントと交換できる商品を毎月入れ替えています。顧客は日常的にポイント残高を確認し、交換できる商品が魅力的であれば、それに達するまでポイントを貯めようとしてくれます。交換できる商品を常にフレッシュに保つことで、顧客の日常に入り込むことができ、コミュニケーションの機会を増やすことに成功しました。

ここで見てきたように、ポイントは無意味ではありません。ポイントに全く価値を感じない層は少数です。ただ、ポイントは、ロイヤルティプログラムの一部として、本当に顧客に価値を感じてもらい、特別感を演出し、さらに行動を促すものとして運用することが大切です。ロイヤルティプログラムは、顧客に意味のある行動を促すためにあり、ポイントプログラムはその手段の1つなのです。そして、ロイヤルティプログラムは、最新の顧客行動を精緻に、かつ俯瞰的に分析し、持続的に進化させていかなければ時代に取り残されてしまいます。

ロイヤルティを全社的な取り組みへと昇華させる

近年、NPS(Net Promoter Score)によってCSAT(顧客満足度)を補完し、ロイヤルティをより正確にとらえる手法が広く取り入れられています。NPSは、「親しい友人や家族にすすめたいか」という質問から得られるスコアで、収益性との相関がCSATより高いと言われています。これらの指標を、さらに会員ランク別に行動と組み合わせて可視化・分析することで、より多面的な情報を得ることができます。これにより、ロイヤルティプログラムを収益性やビジネス目標と歩調を合わせて進化させることができます。

そのために、デジタルの活用がカギになります。私たちは、Customer 360の重要なパーツとして、Salesforce Loyalty Managementというソリューションを提供しています。このソリューションは、あらゆる業種・業界で、B2B顧客にもB2C顧客にも適用でき、ロイヤルティプログラムを柔軟に変更しながら狙いどおりに運用し続けることをサポートします。

顧客体験の一貫性が重視される現在、ロイヤルティプログラムは、全社的に取り組まなければならない課題です。デジタルでも、店頭でも、SNSでも、会員のランク別に特別感を均質に演出することが、顧客の期待を超える第一歩になります。Salesforce Loyalty Managementは、そのノウハウをベストプラクティスとして組み込んでいます。自社の顧客について深く知り、彼らの行動を促すロイヤルティプログラム設計について思いを巡らせる際には、お役に立てる情報や多くの先進事例を提供することができますので、ぜひお声がけください。

関連ブログ

Hisanari Kunimoto インダストリーズトランスフォーメーション事業本部 イノベーション シニアマネージャ

セールスフォース・ジャパンにて、小売・消費財業界及びイノベーション推進を担当。 前職では、新規事業推進やオペレーションコンサルティングなどに従事し、主にB2C業界向けのDXに対する提言や、共創プロジェクトの推進をリード

Hisanari の他の記事
Astro

ビジネスに役立つコンテンツを定期的にお届けします