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プロダクトに「第二の人生」を。土屋鞄が挑むリユースビジネス

2021年4月に現在の「CRAFTCRAFTS」の前身となるプロジェクトを立ち上げ、同年10月から「リユースビジネス」を開始した土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)。 この取り組みは、メーカーが二次流通を手掛けている事例として、大きな注目を集めています。なぜ、土屋鞄はリユースビジネスに参入することにしたのでしょうか。そしてその実現にあたって、どのようなハードルを乗り越えて来たのでしょうか。CRAFTCRAFTSのキーパーソンに話をお聞きしました。

2021年4月に現在の「CRAFTCRAFTS」の前身となるプロジェクトを立ち上げ、同年10月から「リユースビジネス」を開始した土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)。

この取り組みは、メーカーが二次流通を手掛けている事例として、大きな注目を集めています。なぜ、土屋鞄はリユースビジネスに参入することにしたのでしょうか。そしてその実現にあたって、どのようなハードルを乗り越えて来たのでしょうか。CRAFTCRAFTSのキーパーソンに話をお聞きしました。

修理課で追求したアフターサービスの「あるべき姿」

1965年、子どもたちの6年間の成長を支えるランドセルづくりからビジネスをスタートした土屋鞄。ここで培った技術を活かし、2000年からは大人向けプロダクトも手掛けるようになりました。

そのモットーは「時を超えて愛される価値をつくる」。

創業時から現在までこの想いを貫きながら、製造から販売、修理まで、愛される製品が生まれる「循環」を作り出しています。

その土屋鞄で「リユースビジネス」着想のきっかけになったのは2016年10月だったと、「CRAFTCRAFTS」を立ち上げたコミュニケーション本部CRAFTCRAFTS部部長の笹田知裕氏は振り返ります。

株式会社土屋鞄製造所
コミュニケーション本部CRAFTCRAFTS部 部長 笹田知裕 氏

「この頃、私は修理経験がないにも関わらず、修理課のマネージャーに任命されました。そこで仕事をするうちに『修理課が行うべき業務は単なる修理ではなく、アフターサポート全般なのではないか』と感じるようになったのです」

笹田氏はこの考えと想いから「土屋鞄製造所のアフターサポートのあるべき姿とは何か」へと、さらに思考を深掘りしたと言います。

そして、「お客様が製品を手放すところまでお付き合いすることが、本当のアフターサービスではないか」という考えに至りました。

「土屋鞄の多くのお客様は、長く使い続けてきたランドセルや鞄に強い愛着を持たれています。しかし、そのランドセルや鞄を手放さざるを得ないことも少なくありません。その際に、お客様の想いとともに手放された鞄を受け取り、必要な修理を施したうえで、ご愛用者次の人に繋ぐことはできないだろうか。このような考えから、リユース事業の着想が生まれたのです」

約1400点を引き取り、約500点を次の人へ

2018年までに構想をまとめ、同年9月にリユースのアイディアを社長に提案。社長からは「面白い」と言われ、「事業化に向けた手応えを感じた」と笹田氏は振り返ります。

その後、修理課の本業をこなしながら、リユース事業の計画立案に着手。そこでまず行われたのは、アフターサービスでカバーすべき領域の明確化と、ブランドごとにどこまでカバーできているかの現状分析でした。

アフターサービスの領域は、大きく3つの柱があります。壊れた製品をお客様から受け取り直してお返しする『修理』。小学校を卒業したお子さまのランドセルを小さくして、思い出として残すといった『リメイク』。そしてお客様から引き取った製品を直して次の方に手渡す『リユース』です。

土屋鞄のプロダクトは、ランドセルなどの『子供向け』と、鞄や皮小物などの『大人向け』の製品があります。このうち、修理はすでに両プロダクト群で実施し、リメイクは子供向けで行っていました。これらに対してリユースは、どちらのブランドでも未着手状態。そこで3つの柱のうち、まだやっていない領域を埋めていこうと考えました」

そのために笹田氏が2022年4月に立ち上げたのが、アフターサポート全般をカバーする事業部である「CRAFTCRAFTS」でした。その名前に込めた想いについて、次のように説明します。

「CRAFTとは『手技という意味ですが、最初のCRAFTは製品を世に出すときの手わざ、2つ目のCRAFTはそれをもう一度加工して再び世に送り出すときの手わざを表しています。最初は修理課を『アフターサポート部』にしたのですが、その後『CRAFTCRAFTS』へと名称を変更しました」。

CRAFTCRAFTS部における修理の様子

ここでまず実現を目指したのが、大人向け製品のリユースです。2021年10月には「使われなくなった鞄」の第1回の引き取りキャンペーンを実施。当初の目標100点に対して、580点もの引き取り品を集めることになります。

これらの製品は職人の手でクリーニングや修理、補色などを行い手直しされた後、ポップアップストアで販売。その後も複数回の引き取り・販売を実施しており、現在までに約1400点を引き取り、そのうちすでに約500点を販売済みだと言います。

ポップアップストアでの販売風景

アンケートでわかった「リユースへの期待」

このように着実に成功を収めている土屋鞄のCRAFTCRAFTSですが、その実現までにはいくつかのハードルを乗り越える必要がありました。その中でも最大のハードルは「社内からの反対意見でした」と振り返るのは、CRAFTCRAFTSの業務フロー構築に参画した、情報システム部部長の伊藤成吾氏です。

株式会社土屋鞄製造所
管理本部情報システム部 部長、SCM本部生産管理部 部長、
SCM本部 SCMデジタル推進統括部 部長 伊藤成吾 氏

「『土屋鞄が中古品を売る必要があるのか』『中古品販売はブランド毀損につながるのではないか』といった意見が、社内から数多く出てきました。その中でも、リユースビジネスはお客様からの共感を得ることができるのか。これが最大の懸念事項でした」

笹田氏はその懸念を払拭するため、既存顧客に対するアンケート調査を実施。30問以上もあるアンケートをメールマガジンで配布し、1週間で約5000の回答を得ました。

その内容について「選択型ではなくフリー回答をメインとし、質問の文面も土屋鞄のブランドイメージを傷つけないよう、かなり慎重に作成しました」と言うのは、CRAFTCRAFTS部 企画課の藤本香奈美氏。

約5000もの回答が集まったことは、当初予想もしていなかったと振り返ります。「その中には、リユース事業に対する期待や、次の愛用者に手渡してもらえることへの熱い想いが、長文で綴られたものも少なくありませんでした。ここで、リユースへのニーズや共感は間違いなく存在すると確信しました」

株式会社土屋鞄製造所
コミュニケーション本部CRAFTCRAFTS部企画課 藤本香奈美 氏

アンケート結果が、社内の反対派を説得する大きな材料になりました。笹田氏は「もちろん今でも納得していない方はいらっしゃると思いますが」と前置きしながらも、このときからCRAFTCRAFTSの事業化に向けた動きを大きく加速することになったと言います。

中小事業者 困ったときのDX事典

本事典では、「営業」「広報・マーケティング」「サポート」「人事/総務/IT」の4カテゴリーにおける、企業の悩みの原因・症状・解決策を解説し、Salesforceを活用した解決策はもちろん、AppExchange(Salesforceと連携可能なビジネスアプリケーション)を活用した解決方法をご紹介します。

「個品管理」をSalesforceで実現

事業化に向けたハードルとして次に注目したいのが、サービス設計(業務フロー)をどのように実装していくか、でした。

新品を販売する場合には、製品マスターに個々の製品を登録し、その在庫数や販売数を数値で管理する「単品管理」が行われます。それらの在庫品や販売品は、個体が異なっていても「同一の製品」とみなされるからです。これに対してリユース品の販売では、1つ1つの個体を「異なる存在」として管理しなければなりません。つまり「単品管理」ではなく「個品管理」が必要なのです。

このような仕組みを構築するうえで重要な役割を果たしたのが、2020年夏に導入したSalesforceだったと、伊藤氏は話します。

「私は2019年に入社したのですが、この頃に基幹システムの入れ替えプロジェクトが走っており、当初は別の製品が入る予定でした。しかし、私自身はその製品にしっくりこなかったため、白紙に戻して改めて検討を進めることにしました。ここでさまざまな角度から複数の製品を比較検討した結果、Salesforceの導入を決定。まずはSales Cloud』を導入し、顧客管理や受注管理、商品マスター管理を実現することにしました」。

それではリユース事業の業務フローは、どのようになっているのでしょうか。それを示したのが下の図です。

「回収」から「倉庫への納品」まで、実に数多くの業務があることがわかります。このうち「査定(修理・再販可能かどうかの判断)」から「あんこの作成・詰め」までは修理受付担当のスタッフの手仕事になりますが、その前後はSalesforceでシステム化されています。

なお、お客様から製品を引き取る際には、値付け査定・現金での支払いを行うのではなく、定価の20%に相当する割引クーポンを発行しています。これも前述のアンケート結果から、お客様の共感が得られる方法として採用されたものだと言います。

「この仕組みを作るタイミングでは、すでにSalesforceが次期基幹システムになっていましたが、カスタマイズ性が高いため、個品管理や値札、定書の作成・発行も比較的スムーズに実現できました」と言うのは、管理本部情報システム部デジタル戦略課 課長の田畑洋介氏。

田畑氏は2022年から土屋鞄でのシステム構築に携わっています。「私自身はすでに7年ほどSalesforceでの開発を行っていますが、ネット上のウェビナーなどを見ながら、自然と開発方法が身に付きました」

株式会社土屋鞄製造所
管理本部情報システム部デジタル戦略課 課長 田畑洋介 氏

「すでに土屋鞄を含むグループ全体でSalesforceを展開することになっており、社内に技術者がいるため現場のニーズにも対応しやすくなっています」(伊藤氏)。

これまでにも様々な機能拡張・変更への要望を受け、短時間で対応してきたと語ります。「今回実現した回収から販売までの個品管理の仕組みは、二次流通を手掛けたいと考えている他の企業にとっても、参考になるかもしれません」

規模は小さいものの黒字事業に

事業の収益性も、見逃すことができない重要なテーマです。お客様から共感されるビジネスでも、赤字が続けば継続できないからです。CRAFTCRAFTSの立ち上げでは、これも強く意識したと笹田氏。事業規模はまだ小さいものの、これまで赤字にならずに運営してきたと言います。

このように、いくつものハードルを乗り超えて実現したCRAFTCRAFTSですが、立ち上げた笹田氏にとっては「特別なことをしている意識はない」と言います。

「結果的にメーカーが二次流通に参入した形になりましたが、私どもにとってリユースは修理の延長であり、お客様の想いにお応えするためのアフターサービスの一環です。また近年はSDGsへの取り組みとして循環型ビジネスが語られるようになりましたが、着想時にには、その意識も特にはありませんでした」。

重要なことは、お客様の想いに応えること。そのスタンスから生まれたCRAFTCRAFTSは、確実にお客様の気持ちをつかんでいるようです。製品の引取時には「ありがとう」と伝えていただけることが多く、手紙が添えられていることも少なくないと藤本氏。引き取られた製品がどのように売られているのか、販売店まで見に来るお客様もいると語ります。

きちんとした製品を提供し、背後にあるストーリーを正しく伝えることができれば、お客様の共感を得ながら利益を出せるビジネスが実現できると実感しています。これからもより多くのお客様の想いにお応えできるよう、CRAFTCRAFTSがカバーするアフターサービスの領域を拡大していきたいと考えています」(笹田氏)

撮影:早川写真事務所 早川友紀、編集:木村剛士

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Tsuyoshi Kimura シニアエディター

宝島社にてパソコン雑誌の編集者を経て、IT専門紙「週刊BCN」を発行するBCNの記者、編集長を務めた後、NewsPicksに移籍。企業のスポンサードコンテンツを主に制作するBrand DesignでHead of Creativeを務め、2023年9月から現職。Salesforceが発信するコンテンツの企画・制作を担う。

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