KSF(重要成功要因)とは、KGI(最終目標)を達成するために注力すべき要因です。
さらにKSFは、達成状況を具体的に評価するために、KPI(重要業績評価指標)へと展開されます。KSFを正しく設定できていないと、KGIとKPIがズレてしまい、的外れな戦略や施策につながるおそれがあります。
結果として、KGIが達成できないという悪循環に陥ることもあるため、KSFを正しく設定することが重要です。
本記事では、KSFの概要とKGI・KPIとの関係、具体例、設定方法を解説します。KSFについての理解を深め、KGIの達成につながるマネジメントにつなげましょう。
10分で学ぶシリーズ
〜KPI編〜
PIを設定するときは、次の3つのポイントを押さえることが大切です。

目次
KSFとは|KGIを達成するために欠かせない要因

KSF(Key Success Factor:重要成功要因)とは、KGIを達成するために欠かせない要因です。
たとえば、サブスクリプション型のSaaSを提供する企業が「年間売上1億円」というKGIを掲げた場合、KSFは次のような定性的要素として示されます。
- 顧客のオンボーディングを成功させる
- 継続利用を促す支援体制を確立する
KSFは、KGIから逆算して導き出すだけでなく、社内外の環境や現場の実態・事業領域(ドメイン)などの特性を総合的に踏まえて設計することが重要です。
KSFと同じ意味で、CSF(Critical Success Factor)という言葉を用いる企業もあります。
なお、サステナビリティや社会的責任分野では、KSFを「重要な取り組み課題」として位置づけることもありますが、本記事では「KGIの達成に向けた重要成功要因」としてKSFを解説します。
KSFとKGI・KPIの関係性と違い

マーケティングや事業戦略において、成果を上げるためには「目標(ゴール)」を定めるだけでなく、その目標をどう達成するか、どう評価するかまで一貫して設計することが大切です。このとき活用されるのが「KGI・KSF・KPI」という3つの指標です。KSFとKGI・KPIは切り離せない関係性にあります。
それぞれの役割や関係性を正しく理解し、目的に沿った形で設計・運用することで、戦略と現場の活動をつなぐ指標体系をつくれます。ここでは、3つの関係性と違いについて詳しく見てみましょう。
KSFとKGI・KPIの関係性
KGIから見たとき、KSFは「子」、KPIは「孫」にあたる親子関係にあります。
それぞれの意味と具体例は次のとおりです。
用語 | 意味 | 具体例(SaaS提供企業) |
---|---|---|
KGI(重要目標達成指標) | 最終的な数値目標 | 年間契約更新率を90%以上に維持する |
KSF(重要成功要因) | KGIの達成につながる要因 | ユーザーが導入初期に価値を実感できるよう、オンボーディングを強化する |
KPI(重要業績評価指標) | KSFの達成度合いを測定する指標 | ・初回ログインから7日以内にダッシュボードの作成を完了した割合・オンボーディング完了者の月間利用継続率・オンボーディング期間中のCS対応満足度スコア |
具体例ではKSFを1つだけ挙げていますが、複数のKSFに対してそれぞれKPIを設定するため、図のようなツリー構造に整理できます。
KGI・KSF・KPIの違い
KGI・KSF・KPIは、設定期間や役割・表現が異なります。
KGIは経営戦略や中期経営計画で位置づけられるような大きな目標であり、3~5年程度の長期的目線で立てるケースが一般的です。KSFは事業フェーズや戦略、外部環境の変化にともなって見直されることが多いですが、ときには1ヶ月スパンでの更新もあります。KPIは1ヶ月~四半期ごとに見直されるケースが多く、頻繁に調整・更新が必要です。
また、KGIとKPIは定量的数値で、KSFは定性的内容で表現するといった違いもあります。
細かい違いはありますが、KGI・KSF・KPIは相互に関係し合いながら目標達成に向けて機能します。それぞれの関係性と違いを意識すると、KGIからKPIまで一貫性のある設計が可能になるでしょう。
以下の記事では、KPIに焦点をあてたうえで、KGI・KSFとの違いや設定方法を解説しているので、あわせてご覧ください。
関連コンテンツ:KPIとは?KGIとの違いや設定方法、メリットや具体例を簡単に解説
KSFを設定する理由

KSFは、KGIを達成するための道筋を明確化するために設定します。KSFがなければ、KGIの達成につながらない行動を引き起こすリスクがあります。
たとえば「売上30%増」というKGIに対して、「1日100件コールする」という施策を設定した場合を考えてみましょう。施策としては明確ですが、ターゲットがズレていたり提案の質が低ければ、コール件数を増やしても成約にはつながりません。
こうした失敗を防ぐためにも、KGI達成に必要な条件(KSF)をさまざまなデータから論理的に掘り下げ、KPIに落とし込むことが大切です。
「受注単価の向上」というKSFが挙がれば、「平均受注単価を〇円以上にする」「アップセル・クロスセルの提案率を〇%に上げる」といったKPIを導けます。
KSFを介することで、KGIとKPIの連動性・一貫性が高まり、具体的な施策に落とし込みやすくなります。行動が目標の達成に直結するとわかれば、担当者が目的意識をもって取り組めるため、プロジェクトの進行がスムーズになるでしょう。
KSFの具体例【業界別】

ここでは、3つの業界におけるKSFの具体例を解説します。
- IT業界のKSF例
- 製造業界のKSF例
- 小売業界のKSF例
KSFを設定する際の着眼点は、ドメインや販売する商品・サービスの特性に応じて異なります。具体例を参考に、自社に合ったKSFを設定するヒントを得ましょう。
IT業界のKSF例
近年、市場規模が拡大しているクラウドサービスは、「継続して利用されること」が売上につながります。
そのため、以下のように導入・定着・拡大のフェーズごとにKSFを設定すると、KGIからKPIまでの一貫性や連動性を高められます。
フェーズ | KGI | KSF | KPI |
---|---|---|---|
導入 | 年間売上1億円の達成 | オンボーディングの成功 | ・契約から導入完了までの期間が平均10営業日以内・初月の稼働率が80%以上 |
定着 | 継続利用の促進 | ・月間アクティブユーザー率が70%以上・3ヶ月後の継続率が90%以上 | |
拡大 | 利用範囲の拡大 | ・利用機能数の平均が全機能中60%以上・アップセル率/月15%以上 |
提供するサービスの形態に応じて、利用後の顧客行動も加味して検討すると、自社に合ったKSFを設定できるでしょう。
製造業界のKSF例
製造業の生産部門では、高品質な商品を安く、短納期で納品することが売上につながります。
そのため、以下のようにQ(品質)・C(コスト)・D(納期)の観点を押さえつつ、KSFを検討することが大切です。
項目 | KGI | KSF | KPI |
---|---|---|---|
品質 | 年間売上1億円の達成 | 不良品の削減 | ・不良率1.0%未満・月間顧客クレーム件数1件以下 |
コスト | 原価低減 | ・製品あたり原価前年比▲5%・作業あたり生産性10%向上 | |
納期 | 工程リードタイムの短縮 | ・平均リードタイム15%短縮・納期遵守率98%以上 |
KSFは、KGIの達成を阻むボトルネックに応じて変わります。部門ごとの特性や課題を踏まえて、適切なKSFを見極めましょう。
小売業界のKSF例
小売業では店舗や販売員を通じたリアルな接点が多く、接客や店舗の雰囲気、利便性などが売上に影響を与えます。
以下は、実店舗におけるKSFの設定例です。
項目 | KGI | KSF | KPI |
---|---|---|---|
商品管理 | 年間売上1億円の達成 | 売れ筋商品の適正在庫維持 | ・在庫回転率が月3.0回以上・欠品率が1%未満 |
接客 | 従業員教育による接客品質の標準化 | ・CSアンケートにおける接客満足度が平均4.5点以上・接客評価テストで60点未満のスタッフゼロ | |
店舗設計 | 回遊性・快適性を考慮した売り場レイアウト | ・平均滞在時間15分以上・特定エリアで売上構成比+10% |
ECが主体の場合は、対面接客や店舗体験がない分、商品情報のわかりやすさや配送体制の整備などがKSFになります。
このように、小売業では実店舗とECそれぞれの特徴に応じたKSFの設定が必要です。
フレームワークを使ったKSFの設定方法

KSFを設定するときは、フレームワークを用いながら次の4ステップで進めます。
- 環境分析を行なう
- KGIを設定する
- KGIの構成要素を分解する
- KSFを洗い出す
それぞれ簡単に手順を紹介するので、大まかな流れをつかむための参考にしてみてください。
1.環境分析を行なう
KSFを設定するには、まずKGIの明確化が必要です。今回はKGIをゼロから構築するパターンを想定して、KGIを設定するために社内外の環境を分析するフェーズから解説します。
KGIが決まっている場合でも、自社の課題を明確化したうえでKSFを洗い出すために環境分析から進めることがあります。環境分析の手法を覚えておくと役立つはずです。
環境分析は、外部環境分析と内部環境分析の2つに大別されます。
外部環境分析を行なう
外部環境分析は、自社を取り巻く外部環境を把握・評価するための分析手法です。
市場における自社の立ち位置や影響を受けやすい外的要因を整理し、戦略立案の基礎とするために活用されます。
代表的なフレームワークは次のとおりです。
外部環境分析の フレームワーク | 概要 |
---|---|
PEST分析 | 政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4視点からマクロ環境を分析する |
ファイブフォース分析 | 業界内の競争構造を「5つの脅威」から分析し、収益性への影響を評価する |
一般的に、両方の分析結果を組み合わせて外部環境を把握します。
内部環境分析を行なう
内部環境分析は、自社の経営資源を棚卸しし、顧客に提供できる価値を複数の観点から分析する手法です。
事業戦略やマーケティング戦略で活用できる自社の強みや勝ち筋を見出すために実施されるほか、自社の課題を特定できます。
代表的なフレームワークは、VRIO(ブリオ)分析です。
内部環境分析のフレームワーク | 概要 |
---|---|
VRIO分析 | 経済的価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)の観点から、自社資源の競争優位性を評価する |
外部環境分析と内部環境分析の結果は、次のステップで活用します。
2.KGIを設定する
まずは、以下のような手法で内外環境統合分析を実施し、自社の立ち位置や戦略の方向性を明確にします。
内外統合分析のフレームワーク | 概要 |
---|---|
3C分析 | 顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3視点から分析する |
SWOT分析 | 強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4要素からプラスとマイナスの要因を分析する |
クロスSWOT分析 | SWOT分析の結果を掛け合わせ、戦略や重点施策を導き出す |
分析結果を踏まえて、戦略の方向性を定め、実現すべき成果としてKGIの水準や指標を論理的に導き出します。
3.KGIの構成要素を分解する
KGIが何によって成立しているかを洗い出すことで、達成に必要な要因(KSF)を特定できます。
以下は、SaaSを販売するIT企業で「年間売上10億円を達成する」というKGIを分解した例です。
- 有料契約数:2万件/年
- 平均契約単価:5万円/年
- 利用開始2年目以降の継続率:95%以上
構成要素を明らかにすることで、次に設定すべきKSFの方向性が見えてきます。
4.KSFを洗い出す
分解したKGIの構成要素ごとに、「これを外すとKGIが達成できない」という成功要因(KSF)を洗い出します。
たとえば「有料契約数2万件/年」という要素に対しては、「導入前でも価値が伝わる体験設計」や「初期ユーザーの不安を解消するサポート体制の構築」といった、SaaS提供者ならではの価値をKSFとして設定します。
また、「既存顧客の継続率向上」を図るためには、「利用継続を後押しする定期的なフォローアップ」や「業務に溶け込むようなUXの提供」などがあるでしょう。
このとき、顧客にとっての価値を念頭に置き、自社だからこそ提供できる方法を考えることが大切です。洗い出したKSFはすべてを設定する必要はなく、優先順位や実態に応じて取捨選別します。
このようにKSFを洗い出すと、企業が取るべき具体的な行動が明確になり、KGIからKPIまでを一貫して設計できます。
成果につながるKSFの条件

KGIの達成につながるKSFは、次の3点を満たしています。
- KGIとの整合性や因果関係が明確であること
- KPIに落とし込めること
- 自社の実態や現実に即していること
上記を意識しながらKSFを設定すると、KGIと一貫性・連動性の高いKPI設計につながるはずです。
KGIとの整合性や因果関係が明確であること
KSFは、「KGIを達成するために欠かせない要因」になっているかどうかが重要です。
たとえば「サービスの魅力を高める」といった表現は、魅力の定義が曖昧で、KGIの達成につながる要因としては抽象的です。
一方「契約率の向上につながるUI/UX体験の最適化」という表現であれば魅力が具体化されており、KGIの達成につながる論理的な仮説になります。
KSFを洗い出したあとは、KGIとの整合性や因果関係が不明瞭になっていないかどうか、抽象度を確認しましょう。
KPIに落とし込めること
KSFは、KPIに自然と落とし込めるレベルで具体的に定義することが重要です。
たとえば「ブランドとしての世界観を伝える」というKSFでは、人によって世界観や伝え方の解釈が変わります。各解釈に対してKPIを設定することは可能ですが、最終的な方向性をすり合わせなければなりません。
KSFの段階である程度具体化しておくと、解釈のズレを調整する手間が省けます。
先ほどの例も「ターゲット層の共感を得られるトーンとビジュアルにする」とすれば、調査による共感度スコアやブランド想起率など、具体的なKPIに落とし込みやすくなります。
KSFの解釈が多岐にわたるときは、抽象度が高い言葉を定義づけて具体性をもたせてみましょう。
自社の実態や現実に即していること
KSFは、自社の資源や組織、スキルに見合った現実的な内容でなければなりません。
たとえば「海外富裕層の誘致に注力する」というKSFは、多言語対応が整っていなければ実現不可能です。逆に、多言語対応の体制があれば、自社の強みを活かしたKSFとして設定できます。
こうした自社の内部リソースだけではなく、法規制や人口動向といった外部環境の制約も考慮する必要があります。
環境分析の結果をもとに、自社の実態に即したKSFを設定できれば、現場の実行確度も高まるでしょう。
KSFの設定を助けるAI搭載型ツール『Tableau』

KSFを設定する際は、社内外の環境分析をはじめとするデータ活用を行ないます。そのため、日頃から収集しているデータの分析結果をいつでも閲覧できる仕組みがあると便利です。
『Tableau』は、各種Salesforce製品や既存のデータプラットフォームと連携し、蓄積されたデータをダッシュボードで可視化できるBIツールです。AIによる傾向分析や予測機能も備えており、KSFの設定や見直しを効率化できます。
KSFだけでなく、KPIマネジメントやデータドリブンな企業活動にも活用することが可能です。
まずは無料トライアルで、『Tableau』の操作性を体感してみてください。
以下の記事では『Tableau』を使ったデータ分析の事例を解説しているので、あわせてご覧ください。
関連コンテンツ:プロから学ぶ「Tableau(タブロー)」のデータ分析法。日本トップクラスはこう使っている
適切なKSFを設定してKGIを達成しよう

KSFは、企業の最終目標であるKGIに、ブレずにたどり着くための道筋を明らかにするために必要な要因です。KGIの構成要素を分解したうえでKSFを設定することで、一貫性のあるKPIを設定できます。
KGI・KSF・KPIまでを適切に設計できれば、KGIを達成するために必要な行動が具体化され、現場が動きやすくなるでしょう。日頃からKPIを追うと、施策や行動のズレを迅速に把握できるようになり、軌道修正が迅速化されます。
このようにKGIを主眼に置いたPDCAサイクルを回すためには、リアルタイムでKPIの管理ができる仕組みが必要です。
なお、以下の記事ではKSFから構築するKPIの設計ポイントを10分間の動画で解説しています。KSFの次はKPIについて理解を深め、KGIの達成に近づきましょう。
10分で学ぶシリーズ
〜KPI編〜
PIを設定するときは、次の3つのポイントを押さえることが大切です。
