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IDスキル、アウトスキリング、CAO、CLOの登場…。リスキリングの第一人者が語る「人と企業の将来像」

数年前から注目されるようになった「リスキリング」。とはいえ、リスキリングの第一人者は「単なる『学び直し』と勘違いされている」と警鐘を鳴らします。リスキリングの真実に迫ります。

Key Takeaways

This summary was created with AI and reviewed by an editor.

日本のリスキリング研究の第一人者で、実践者としても知られる後藤宗明さん。AI が人間の 仕事を代替する「技術的失業」が現実味を帯びる中、我々はいかにしてキャリアを築き、未来を生き抜くべきか。

後藤さんが提唱する「リスキリング」は、単なる学び直しではありません。個人のキャリアや企業の組織、そして社会のあり方そのものを変革する壮大なパラダイムシフトへのビジョンです。後藤さんのキャリアから、AI 時代を生き抜くための具体的な戦略、そして日本の未来への提言まで語ってもらいました。

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多様な経験の末に辿りついたリスキリング

──日本のリスキリング研究の第一人者として活躍していますが、このテーマに取り組むに至った経緯を教えてください。

私のキャリアを周囲の友人や知人に話すと、「何の脈絡もない、めちゃくちゃなキャリア」と笑われるんですよ(笑)。

振り返ると、新卒で入行したのは富士銀行(現・みずほ銀行)で、銀行の合併を機に退職。30代は人事のタレントディベロップメント、研修講師として人材育成の世界に身を投じました。30代後半から40代にかけては、社会起業家支援の NPOに活動の場を移しました。そして40代は、全くの未経験からデジタルテクノロジーの世界に。

この「人事」「社会課題解決」「デジタル」という、一見するとバラバラな3つの点が、私の中ではリスキリングにつながっているんです(笑)。

決定的な転機は2014年、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が2013年に発表した論文「雇用の未来」との出会いでした。AIやロボットによって、人間の仕事の約半分が自動化される可能性があるという内容に衝撃を受けて。

これから人が直面する課題は「雇用がなくなっていく未来」だと感じました。それをどうやったら防げるのか、その答えを得るため、2014年から2016年の間に海外のテクノロジー展示会に足しげく通い、世界の有識者に「AIの進化は、本当に人間の仕事を奪うのか? だとしたら我々はどうすればいいのか」と探し続けたんです。

やがてリスキリングに可能性があると確信。当時はまだ辞書にも載っていなかった考え方でしたが、私が日本でこの領域を啓蒙していくことを決めたんです。

AI時代の生存戦略、「学際的スキル(ID スキル)」とは

──AIが人の仕事を代替していく中、個人はどのようなスキルを身につけるべきなのでしょうか。後藤さんが提唱している「学際的スキル(Interdisciplinary SkillsID スキル)」について、教えてください。

これまでのように、1つの専門分野を深く掘り下げるだけでは価値を生み出すことは難しくなるでしょう。なぜなら、「正解を出す。最適化する」といったタスクは、AIが得意な領域で、人を凌駕するからです。

では、人間に残された役割とは何か。それは「問いを立てる」こと、そして「未解決の課題に新たな解決策を提示する」ことです。

そのために不可欠になるのが、IDスキルです。これは、異なる分野の知識やスキルを掛け合わせ、新しい価値を創造していくことを指します。

自分が持つスキルに、どのようなスキルを掛け合わせると新しい価値が生み出せるのか。こうした考え方をもとにキャリアをデザインしていくことが、特にホワイトカラーに求められると考えています。

またIDには「アイデンティティ」という意味も込めていて、異なるスキルの組み合わせは、その人の経験や興味によって無限に広がり、IDスキルを追求することは自分だけのユニークな価値を確立することにもつながるでしょう。

これまで日本企業で働く人たちは、決まった答えがあることを前提に、いかにその正解に最短距離で早く到達するかという仕事をしてきました。しかし、そうした業務はこれからAIが行います。今後は、これまで一部の人しかやってこなかった「問いそのものを立てる」という能力がホワイトカラー全員に求められる日が来ると確信しています。

──個人はどのようなキャリア戦略を取るべきでしょうか。

「AIに仕事を奪われたくない」と恐れて何もしないことこそが、最大のリスクです。さまざまな仕事が着々と自動化されていく中で、抵抗は無意味です。だからこそ、私は逆説的に「自分の仕事を、勇気を持って自動化しよう」と提唱しています。

これからの働き手は、4タイプに分かれると私は考えています。「AIを作る人」「AIを使う人」「AIに使われる人」、そして「AIと関わらずに生きていく人」です。

どの道を選ぶかは個人の覚悟次第ですが、私は多くの人に「AIを使う人」を目指してほしい。そのためには、自らの仕事を分析し、戦略的に自動化を進め、その先に見える新たな価値創造の領域に踏み出していく勇気が必要なのです。

リスキリング3.0とスキルベース組織への道

──IDスキルを身に付けるために、企業は従業員をどのように支援していけばよいのでしょうか。

多くの日本企業では、リスキリングを単なる「個人の学び直し」と捉え、「研修プログラムを提供すれば終わり」という認識にとどまっていますが、それは大きな間違いです。

真のリスキリングとは、個人の努力だけに依存するものではなく、企業が経営戦略として組織的に推進して意味を成します。

私はリスキリングの進化を3つのフェーズで定義しています。まず「リスキリング1.0」は、2010年代前半の「Udemy」などオンライン学習プラットフォームなどを活用した学び。

「リスキリング2.0」は、2010年代後半からの「SkyHive」などAIツールを用いて個人のスキルを可視化し、最適な学習コンテンツを推薦するスキルテックの時代。これもまだ個人のスキルアップに限定されていました。

そして今、欧米の先進企業は「リスキリング 3.0」に移行し始めています。これは、採用・育成・報酬といった人事のあらゆる機能と雇用システムを、スキルを基軸に再設計する「スキルベース組織 Skill-based Organization」への変革です。

従業員一人ひとりのスキルをデータとして可視化・一元管理することで、事業戦略の実現に必要なスキルを持つ人材を、組織の垣根を越えて迅速に配置することが可能になります。

例えば、人事部で採用マーケティングを行いたいとなった際、人事にアドテクの経験があるメンバーがいない、外部からも待遇が合わず採用できないとなった時、スキルで社内の情報を検索。すると、マーケティング部門にアドテクの経験値が高いメンバーがいることが即座にわかり、その人が人事での採用マーケティング業務に20%のリソースで正式に稼働するというようなことができます。

現在海外で頻繁に言われているのが「ジョブの垣根が融解している」

これまでのジョブで定義された「マーケティング部門のAさん」という定義から、Aさんは自身が持つスキルの集合体として社内で認知され、色々な仕事で活躍できるようになります。そうすると報酬面でも「Skill-based Pay」という形で、ジョブではなくその人のスキルの対価として適切な金額が支払われます。

その人間のスキルを磨くところの原動力としてビルトインされているのがリスキリング3.0で、欧米の企業の多くはその段階まで到達しています。

──日本でそうした施策を実践している先進的な事例があれば教えてください。

NTTドコモです。同社が開発した⼈事AIレコメンド基盤「Job-Voyage」という社内システムは、まさにスキルベース組織の思想を具現化したものです。

AIエージェントが、従業員が持つスキルと、社内で将来的に必要とされるスキルとのギャップを分析し、最適なキャリアパスとしての役職をレコメンドします。従業員は、その未来の役職に合わせた学習プログラムによってリスキリングを行います。

これは、従業員の自律的なキャリア形成を支援すると同時に、組織全体としての人材最適化を図る「リスキリング3.0」を、日本でいち早く実践するとても画期的な試みです。

世界では、こうしたスキルベース組織に移行している企業が増えていて、スキルの可視化が明確に進んでいくと、将来的には「ここはヒューマノイドロボットで」「ここはAIで」というように、人間とAIとの分業も容易になってくる。そうした企業の自動化の推進もスムーズになっていくでしょう。

タレントマーケットプレイスとスキルベース組織の未来

──それに関連して、企業内の人事で「タレントマーケットプレイス」という概念も提唱されていますね。

海外で急速に注目を集めている考え方です。従来の日本企業では、部門間の壁が高く優秀な人材が特定の部署に「ブラックボックス化」してしまい、その能力を組織全体で活用できないという問題がありました。タレントマーケットプレイスは、この問題を解決するためのアプローチです。

具体的には、社内の人材をいわば「商品」のように捉え、各部門が必要とするスキルや経験を持つ人材を、まるで市場で商品を購入するように配置転換できる仕組みです。

AIが各従業員のスキルや経験、適性を分析し、新しいプロジェクトや部門のニーズとマッチング。従業員は自分の能力を最大限に発揮できる場所で働くことができ、企業は人材の最適配置を実現できるのです。

ドコモの「Job-Voyage」も、まさにこのタレントマーケットプレイスの思想で設計されています。部門を超えて従業員同士がスキルを通じて交流し合える仕組みを作ることで、イノベーションが生まれる土壌を整備しているのです。

企業の立場から見ると、優秀な人材を外部に流出させるくらいなら、社内で配置転換をしたほうが良いという結論に必然的に行き着きます。これまでは、部門間の壁があるために、優秀な人材が「この会社では自分の能力を活かせない」と感じて転職してしまうケースが多々ありました。しかし、社内にタレントマーケットプレイスがあれば、その人材に適した部署や役割を見つけて、社内で活躍の場を提供できるのです。

新たな役職の誕生と自動化を前提としたキャリア戦略

──後藤さんは海外調査を積極的に行っていますが、AIエージェントの普及によるそうした自動化の進展に関する世界の変化をどう捉えていますか。

今、アメリカで興味深い現象が起きています。「チーフ・オートメーション・オフィサー(CAO)」という新たな自動化を専門に推進するCxO職が続々と誕生しているんです。

この役職のミッションは明確で、チェンジマネジメントとROIの適正化です。つまり「どれだけヘッドカウントを減らしながら、組織を変革して生産性を上げられるか」ということです。

さらにこのCAOの下で働く「オートメーション・エンジニア」という職種も急速に拡大しています。英語版Indeed で検索すると、この求人が大量に出てきますが、驚くべきことに年収は3000万円から4000万円と高額です。1人のオートメーション・エンジニアが数十人分の人件費を削減できれば、その投資対効果がとても大きいので、高収入もうなづけます。

──自動化のトップがCAOである一方で、映画製作でCGと実写の組み合わせを考えるように、AIやロボットと人間の組み合わせを考えていくのは、どういったポジションになるとお考えですか。

元々、CAOはCIOとCDOの業務から分離・独立して誕生しています。オートメーションという専門領域を切り出し、より戦略的かつ集中的に取り組むためで す。また職業や組織の形態を変えて、ヘッドカウントの生産性を上げていくことには、既存のチェンジマネジメントのメソッドで対応が可能です。

一方で、人材育成の側面では「チーフ・ラーニング・オフィサー(CLO)」という役職も一般的に広がってきています。これはリスキリングのトップとも言える存在です。

米国の先進的な企業では、リスキリングを含めたチェンジマネジメントはCEO直轄のCLOが、デジタルスキルを持つCDOと人事のトップのCHROの中間で推進します。

今後のトレンドとして、CLOとCAOによる新しい形態が、企業変革と雇用の変質を生み出していくのだと予測しています。

アウトスキリング、労働移動という新たな選択肢

──日本の企業そして社会全体がこの変革の時代を乗り越えていくために、日本企業には何が必要だとお考えですか。

日本企業が抱える最大の問題は、経営層の危機感の欠如です。業績が安定している大企業ほど、現状維持バイアスが強く働き、リスキリングの必要性を感じていません。しかし、AI による破壊的イノベーションの波は、もはや対岸の火事ではない。株主からのプレッシャー、そして安価な AI サービスとの競争にいつまで耐えられるでしょうか。

幸いなことに、昨年頃から変化の兆しが見え始めていて、人事部の方々から「経営層にリスキリングの重要性を説いてほしい」と依頼されるケースが増えてきています。

──日本企業では終身雇用制度があり、簡単にレイオフができません。そうした現状を踏まえると、どのような対策が現実的でしょうか

アメリカ企業のように簡単にレイオフができない中では、私は「アウトスキリング」という手法が現実的な解決策になると考えています。これは、社外への転職を前提としたリスキリング支援のことで、単なるリストラではなく、従業員の次のキャリアを支援する企業の社会的責任でもあります。

具体的には、半年から 1年間程度、業務の中でリスキリングの機会を提供し、従業員が新しい分野で活躍できるスキルを身につけてから、円満に転職していただくという仕組みです。

これは、従来のアウトプレイスメント(再就職支援)の進化版とも言えるもので、単に転職先を紹介するだけでなく、転職に必要なスキルを事前に習得させる点が画期的です。

日本企業の経営者に私がいつも問いかけているのは、「どこまでこの状況に耐えられますか?」ということです。AIを活用した格安サービスとの競争が激化する中で、いつまで現在の人件費水準を維持できるのか。株主からのプレッシャーが高まった時に、どのような選択をするのか。どこかで必ずギブアップの瞬間が来るはずです。

そうした状況を見据えて、私は日本企業にも戦略的なアウトスキリングの導入を提案しています。特に、ホワイトカラーの方々が、デジタルスキルを身につけてデスクレスワーク(現場仕事)分野に移行するという「労働移動」は、十分に可能だと考えています。

例えば、建設業、農業、医療、介護といった分野では、深刻な人手不足が続いています。一方で、東京などの都市部では、自動化によってホワイトカラーの仕事が余剰になっていく。

この構造的なミスマッチを解決するために、ホワイトカラーの方々がデジタルスキルを身につけて、これらの現場業務の生産性向上に貢献するという道筋が描けるのではないでしょうか。

さらに、東京と地方の格差という問題もあります。デジタルスキルを持った人材が地元に戻ることで、地方のエッセンシャルワークやデスクレスワークの分野でイノベーションを起こすことも可能です。これは理想論かもしれませんが、雇用を失わない労働移動を実現するための一つの方向性として、自治体や企業と議論を重ねています。

もちろん、こうした労働移動が理想的に進むとは限りません。日本の縦割り行政や、個人の意思といった要因もあります。しかし、何らかの準備をしなければ、ある日突然「もう耐えられない」となって、大量の雇用が一気に失われるリスクがあります。そうなる前に、戦略的なアウトスキリングによって、ソフトランディングを図ることが、企業にとっても社会にとっても重要なのです。

──その一方で、改めてビジネスパーソンがこのAI時代に歩むべき道を最後に教えてください。

これからは単純に「事務処理が得意です」「データ入力が早いです」といったスキルには、もはや価値がありません。そうした業務は、すべてAIが人間よりも正確かつ高速に処理できるからです。では、人間にしかできない価値とは何か。それは、「タレント」としての個性や魅力を発揮することだと私は考えています。

象徴的な成功例モデルとして、YouTuberが挙げられます。彼らは従来の職業の枠組みを超えて、自分自身をコンテンツとして発信し、独自の価値を創造しています。これこそが、「タレント化」の先駆的な事例です。技術的なスキルだけでなく、その人の個性、視点、経験、そして人間としての魅力そのものが、価値の源泉となっているのです。

私自身も、この戦略を実践しています。リスキリングの専門家として、単に知識を提供するだけでなく、自分の経験や失敗談、そして時にはユーモアを交えながら、聞き手に印象を残すような講演を心がけています。

先日も、130言語に対応した AI プラットフォーム「HeyGen」を使って、日本語で話した内容を瞬時に多言語に翻訳するデモンストレーションを行いました。これは、単なる情報提供ではなく、「後藤宗明」という個人のブランドを通じた価値提供なのです。

──タレントとして認知され活動する人は一部に限られそうな印象もあります。

そうなると、選択肢は限られます。先ほどお話しした4タイプ、「AIを作る人」「AI を使う人」「AIに使われる人」「AIと関わらない人」のうち、最後の選択肢も現実的には存在します。

ベーシックインカムのような社会保障制度に頼りながら、テクノロジーとは距離を置いて生活するという道です。これは決して恥ずべきことではなく、社会全体の生産性が向上すれば、そうした制度を支える余力も生まれるでしょう。

しかし、私としてはできるだけ多くの方に「AIを使う人」を目指していただきたい。そのためには、まず自分の仕事を分析し、どの部分を自動化できるかを考え、その過程で新たなスキルを身につけていく。そして、その経験や知見を外部に発信し、自分自身をタレント化していく。

これは簡単な道のりではありませんが、「技術的失業」という現実を前に、私たちには覚悟を決めて行動する以外の選択肢はないのです。

企画・執筆:池上雄太
撮影:遥南 碧
編集:木村剛士

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