Key Takeaways
AIエージェントを「使う」から「協働」する時代へ
法令解釈の調べものにAIが三段論法で根拠を示す——これは公共機関におけるAIエージェント活用の一例です。国家公務員の人材確保が危機的な今こそ、AIエージェントと「協働」する行政運営への再設計が求められています。その具体的な考え方を無料ガイドで解説します。
日本の公共機関を取り巻くデジタル環境と、そこに向けてSalesforceが支援できることをシリーズで解説する連載「Salesforce in Public Sector」。
今回はデジタル庁主催の「法令×デジタルハッカソン」に参加した内容とそこで得た気づき、開発した法令解釈に必要な情報を横断的に調査し回答作成を支援する「LawAgent」の内容を紹介します。
*LawAgentは、「法令×デジタルハッカソン」におけるアイデア検証を目的に開発したプロトタイプであり、Salesforceまたはデジタル庁が提供するサービスではありません。また、デジタル庁が公認したものでもありません。デジタル庁および審査員は、その性能や品質などを保証するものではありません。
本記事は参加チームによる検討内容を紹介するものであり、デジタル庁の見解を示すものではありません。また、本プロトタイプは法的助言を提供するものではなく、生成された回答案は担当職員による確認・判断を前提としています。
「法制事務効率化賞」を受賞して得た収穫
2025年度の「法令×デジタルハッカソン」のテーマは、「法令APIを活用した法制事務の効率化・利活用提案」でした。
このハッカソンは、公共分野における課題理解を深める機会として活動をスタート。エンジニアや法律の専門家、自治体職員など、多様なバックグラウンドを持つ参加者が集まります。
今回、SalesforceからはPublic Sectorチームのメンバーを中心に参加しました。結成したチーム名は「デジタルOhana」。SEや営業、デモ担当者など異なる役割を持つメンバー5人とオブザーバー2人で組成しました。普段は異なる業務に携わるメンバーが集まり、1つのテーマについて議論しながらアイデアを形にしていくことは、ハッカソンならではの経験でした。
チームが最初に取り組んだのは、「何を作るか」ではなく、「誰のどのような課題を解決したいのか」を整理することでした。ヒアリングや情報収集を進める中で着目したのが、自治体や省庁における法令解釈に関する問い合わせ対応です。
普段、自治体や省庁の担当者は、問い合わせを受けるたびに複数の情報源を確認しながら回答を作成しています。具体的には
- 関連する法令条文を検索する。
- 法令条文の解釈をまとめたメモを参照して解釈を確認する。
- 過去の類似事例や回答内容を探す。
こうした作業は、正しく一貫性のある回答を作成するために欠かせません。一方で、必要な情報が複数の場所に分散していることが多く、調査や確認に多くの時間を要します。
また、必要な情報の探し方が担当者の知識や経験に左右されやすく、経験の浅い若手職員にとって大きな負担になることがあります。そこでチームでは、回答の正確性と一貫性を確保しながら、調査や回答作成の負担を軽減する方法を検討しました。
2025年11月からチーム内で準備を開始し、同年12月の公式キックオフ。2026年1月の作品提出後、予選審査を経てファイナリストに選出されました。その後、3月10日の最終審査でプレゼンテーションを実施し、「法制事務効率化賞」を受賞しました。
結果ももちろん嬉しいものでしたが、それ以上に異なる専門性を持つメンバーが協力しながら課題に向き合い、ユーザーインタビューなど現場の職員の方々のリアルな声を聞き、公共分野での業務や課題に対する理解を深められたことが大きな収穫でした。
このような素敵な機会を設けていただいた主催者ならびに審査員や関係者のみなさまに心から感謝を申し上げます。

法令解釈支援エージェント「LawAgent」のアーキテクチャとは
では、今回開発したLawAgentとはどのようなものか。ここからは、その仕組みと目指した価値を紹介します。
LawAgentでは、Salesforceの製品「Heroku」と「Slack」を組み合わせたアーキテクチャを採用しました。HerokuはLawAgentのバックエンドとして以下の2つの機能を備えています。
①Slack Botサーバー
AIエージェントの制御を担うコンポーネント。Slackから受け取った質問内容を解釈し、どの情報を参照するか、どの順番で検索するかを判断します。
②APIサーバー
法令関連情報の検索を担うコンポーネント。法令条文や法令解釈メモ、過去回答データを検索し、AIエージェントに結果を返します。Slackは、LawAgentのフロントエンドとして機能。ユーザーは、Slackを操作するだけで、すべての業務を完了できます。
LawAgentの利用は、Slack上でメンションして質問するところから始まります。質問を受けると、「LangGraph」を活用したLawAgentが内容を解釈し、必要に応じて利用者との対話を通じて情報を補足・整理します。
そのうえで、複数の情報源を横断的に調査し、法令上の要件や事実関係、結論を整理する三段論法に沿って、根拠を明確にした回答案を作成します。回答案はSlackの「canvas」に出力され、職員が内容を確認し、必要に応じて修正します。

# Role あなたは中央省庁の法令担当官です。行政機関や国民からの法令照会に対し、論理的で正確、かつ丁寧な公用文(回答書)を作成してください。
# Task 提供された【リサーチ資料】に基づき、【質問内容】に対する回答を、指定された【構成案】と【トーン&マナー】に従って作成してください。
# 構成案
1. **前提条件と適用範囲の整理**: – 根拠法令の定義(例:「法令」に条例が含まれるか等)を明確にし、回答の前提を述べる。
2. **①(主要論点1)の解説**: – 条文の文言、趣旨、法令解釈メモ等の解釈を引用し、一般的・抽象的な考え方を述べる。
3. **②(主要論点2)の解説**: – 別の角度からの論点や、具体的な判断基準(判例・学説上の概念など)を述べる。
4. **個別事案への当てはめと結び**: – 質問者の想定事案に対し、上記の解釈をどう適用すべきか示唆する。 – 「〜と解されます」「〜ご検討いただきますようお願いいたします」等の表現で結ぶ。
# トーン&マナー
– **公用文規程を遵守**: 丁寧語(です・ます調)を用いつつ、厳謹で客観的な表現とする。
– **過去回答との一貫性を遵守**: 類似の過去回答がある場合は、それらの内容と絶対に矛盾しないように回答する。
– **解釈の論理**: 「〜と解されている」「〜と解される」「〜と考えられます」といった表現を使い分け、断定を避けつつも論理的な指針を示す。
– **専門用語の活用**: 「支配領域」「了知し得る状態」など、法解釈上重要な概念を的確に用いる。
– **法令解釈メモ等の引用**: リサーチ資料に「法令解釈メモ」や「判例」がある場合、必ずページ数や名称を明記して論拠とする。
– Lawsy 法令解釈レポートと、法令解釈メモの検索結果、そして過去の類似質問・回答の内容を踏まえて、詳細な回答を生成する。
– リサーチ資料は、過去回答との一貫性が最重要で、法令解釈メモの解釈、そして Lawsy レポートの順で優先度を重くする。
– 質問文が法的な問題を解決し、法的な文書(答案、申請書、相談回答など)を作成する必要がある場合かつ法律の三段論法が使える場合は、構成案をベースにその構成で回答する。
– わかりやすく、構造化された回答にしてください – 絶対に生成された回答本文以外は出力しない。
– 生成する回答は、Markdown形式で出力する。
– 絶対に生成するMarkdownのHeadingは、2つ (##) または3つ (###) のみにする。
– 生成するMarkdownのリストで、番号付きリスト(1. 2. 3.)を使う場合、その中に箇条書きリスト(-)はネストしては絶対にならない。
– 生成するMarkdownのリストで、箇条書きリスト(-)を使う場合、その中に番号付きリスト(1. 2. 3.)はネストしては絶対にならない。
# 質問内容 ${query}
# リサーチ資料
## 過去に法令担当官が回答した関連する質問とその回答
${qaContext || ‘過去の関連案件は見つかりませんでした。’}
## 法令解釈メモの検索結果
${LegalMemoContext || ‘法令解釈メモの検索結果はありませんでした。’}
## Lawsy 法令解釈レポートの結果 ${lawsyContext}
技術面では、法令リサーチツール「Lawsy」と、検証用に作成した「法令条文の解釈をまとめたメモ」、「職員が過去に法令に関する問い合わせを受けて作成した回答」を組み合わせ、法令やWeb上の関連情報を含む複数の情報源を横断的に参照できる構成にしました。
LawAgentによって調査や回答案の作成を支援することで、職員が政策立案などの本来業務に、より多くの時間を使える環境づくりを目指しました。また、将来的に過去の問い合わせや回答を継続的に活用できれば、個人に蓄積されがちな「組織の知恵」を、共有可能なナレッジとして生かしやすくなります。
こうした仕組みは、若手職員の負担軽減だけでなく、回答品質の一貫性や組織内の知識継承にもつながると考えています。審査員からも、若手職員の負担軽減に加え、制度変更を検討する際に、過去の知識をすぐに参照できることには大きな意味があるとのコメントをいただきました。

LawAgentでは、回答案の出力先としてcanvasを採用しました。
canvasはSlackの機能のひとつで、チームが Slack内で情報を作成・整理・共有するためのスペースです。テキストやファイルから、リッチメディアやリンクの展開まで、canvasには幅広いコンテンツを含めることができます。
回答の出力先をSlackの中で完結できるため、業務の導線を複雑にすることなく、質問から回答の確認までをスムーズにできることがcanvasを利用する大きなメリットです。
また回答をチャットに返すだけでなく、canvas上に構造化して出力することで、担当者や関係者が根拠や論点を確認しながら、レビューや修正を行いやすくしています。
このように、Slackを活用することでLawAgentへの問い合わせから回答案の確認、関係者との相談、修正、ナレッジの共有までの一連の流れを、普段使い慣れた環境で進められます。
Slackは、単なる問い合わせの入り口ではありません。人とAIエージェントが協働し、回答案を確認・改善し、その過程で得られた知見を組織に蓄積していくための場です。
今回のプロトタイプ開発を通じて、AIエージェントによる回答作成だけでなく、Slackを通じたレビューやナレッジ活用を含めた、新しい業務支援の可能性を検証できました。
LawAgentのようなSlack上のAIエージェント、どう作る?
LawAgentはSlackをフロントエンドとし、質問への回答案をcanvasに出力する仕組みでした。Slackの中にあなた専用のAIエージェントを持つ「新生Slackbot」が、調べる・まとめる・動かすという一連の業務をどう変えるのか、動画でご紹介します。
「使う」から「協働」へ。AIエージェントによる行政運営の未来
人事行政諮問会議が2025年3月に公表した最終提言によれば、近年の公務員志望者は減少傾向にあります。また、同時に若手職員の離職も近年顕著に増加しており、国家公務員の人材確保は危機的な状況であると述べられています。

公務の担い手が減少していく現状において、将来にわたって公務の能率的な運営および良質な行政サービスの持続的提供を実現していくためにも、AIエージェントを「使う」のではなく、「協働」する形で行政運営を再設計していくことが重要であると、Salesforceは考えます。
今回、「法令×デジタルハッカソン」においてSalesforceが活用したSlackはAIエージェントとの「協働」を実現するソリューションのひとつです。
Slackは単なるチャットツールではありません。行政機関の中に存在するあらゆるツールやアプリケーションの情報、マニュアル、ガイドライン、通達や法令を収集・理解し、あなたと並んで仕事をこなすAIエージェントとの協働の場(System of Engagement)、いわば「デジタル職員」といえる存在です。
最後に、追加を予定しているSlackの新機能10個を紹介します。いずれの機能もSlackがあなたの隣りで「デジタル職員」として力強く活躍してくれることを期待させるものばかりです。
- Slackbot MCP クライアントであらゆるアプリを操作 : Model Context Protocol(MCP)を使用して、Slackbot がサードパーティ製アプリでアクションを実行できるようになります。
- イベントトリガーによる自動化 : Slack や連携アプリで特定のイベントが発生した際に、Slackbot のアクションを自動的に実行します。
- ドキュメント、シート、スライドの生成 : Slackbot から直接、ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションを生成できるようになります。
- 音声コマンド : タイプ入力ではなく、音声入力を使ってSlackbotとやり取りできるようになります。
- 高度なリサーチ : Slackbotが複数のソースからの情報を統合することで、トピックについて段階的かつ包括的なリサーチを実行できるようになります。
- ネイティブチャート : Slackbot が チャートやグラフなどのデータの視覚化を Slack 上で直接生成して表示できるようになります。
- メモリ : Slackbotが会話全体で長期的に背景情報と環境設定を記憶できるようになります。
- ミーティングインテリジェンス : ミーティングから、AI によるインサイト、要約、アクション項目を生成できるようになります。
- 画像生成 : 会話内で Slackbot がテキストプロンプトから画像を直接作成できるようになります。
- マルチエージェントオーケストレーション : Slackbotが複数の AI エージェントを調整し、連携して複雑なタスクを完了できるようになります。
こうした機能は、例えば、こんなシーンで効果を発揮します。
例1:住民からの問い合わせ対応の効率化
住民から「〇〇の手続きはどうすればいいですか?」という問い合わせが来た際、Slackbotに依頼すれば、過去の回答事例やマニュアルを参照して即座に返信用の下書きを生成。内容を確認して送信するだけです。(メモリ機能と高度なリサーチ機能の組み合わせ)
例2:議会答弁資料の準備
「先月の〇〇事業に関する議論をまとめて」とSlackbotに依頼すると、関連チャンネルの会話、添付資料、記録された進捗状況を横断的に検索・整理し、答弁用の要約資料を数分でcanvasに出力します。(マルチエージェントオーケストレーションとドキュメント生成機能の組み合わせ)
これ以外にもさまざまなアップデートが予定されています。詳細はSlackブログ「仕事がどんどん「完了」する、Slack の新機能」をご覧ください。
先進的な生成AI機能も含め、Slackは政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(通称:ISMAP)の認定を取得済みです。政府が求めるセキュリティ要求を満たしており、公共機関のみなさまに安心してご利用いただける環境が整っています。
また、デジタル庁が整備している「デジタルマーケットプレイス(通称:DMP)」のカタログサイトにも掲載されており、公共機関の皆様はDMP経由でライセンスを調達いただくことが可能です。
Slackを活用した持続可能な行政運営の実現にご関心のある公共機関のみなさま、ぜひSalesforceまでご相談ください。
AIエージェントとの「協働」、あなたの職場でも始めませんか
Slackは単なる問い合わせの入り口ではなく、人とAIエージェントが協働し、知見を組織に蓄積していく場です。「Agentforce in Slack」がもたらす革新的なチームコラボレーションを動画でご確認ください。
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